2月初め


「ねぇー。」私が呼ぶと、どこからともなく女が姿を現した。「…おい。頻繁に呼び出すのやめろ。」文句を垂れながらも、私の向かいの席に座る。ここはカフェ。本当にどこから現れてるんだか。「あんたって本当にどこでもいるのね。」「…」「ところであんたさ、勉強できんの?」「は?」
――――「すっ…すごい…!」私の手元には、全問正解の解答用紙。「普通だろ。」本当に当然であるかのようにそう言うもんだから、ますますムカつく。「普通じゃないよ!!これ、発展の問題だよ!?何でちょっと見ただけでそんなすらすら答えられんのよ…!!…ところでさ、全教科できたりすんの?」「そりゃな。」「!!ね!お願い!!私に勉強教えて!!2週間とちょっと後くらいにテストなの!!今回ぜんっぜんわかんないとことかあって…。友達には迷惑かけたくない…し?」そう私がいった途端、呆れたような目つきでそいつは私を見てきた。「…何よ、その目は。」「いや…お前馬鹿なのか?」「いやだからそう言ってんじゃん。馬鹿だから頼んでんじゃん。」「そういうことじゃなく・…不審者だと疑ってる相手にそういうこと頼むか、普通。」「そう言われても…あんたみたいな変なタイプの奴って、初めて見るからよくわかんないし。」「なるほど、馬鹿なんだな。」「今なんて言った!?」そう言ったら周りから一斉に睨まれた。気づいたら、奴はいなくなっていた。あの馬鹿畜生め…。
――――「ねーぇ。」「…」「なんか怒ってる?」「…別に。」今日は学校と家の途中にあるファーストフードで勉強。学校帰りにまた助けられて、そのままこいつの体を引きずってここまで来た。ポテトを口に入れながら彼女を見る。「そういやさ、あんた名前なんて言うの?まだ聞いてなかった。いっつもさ、なんて呼べばいいかわかんないのよね。」「…ない。」「まだ?ない?我が輩は猫である?」「夏目漱石じゃない。」こいつ、意外にもジョークの通じる奴だ。「…ないんだよ、名前。」「…マジで言ってる?」「大マジだ」…本当に何者なの、こいつ。名前がないとか、今までどうやって生きて来たんだか。まあ、嘘ついてる可能性も無きにしもあらず、だけど。それかお得意の、『言えない』なのか。「じゃあ私がつけていい?」「なんでそうなる…?」「だから呼びづらいんだってば。なんかない?」「…いいから、勉強やれよ。」「ん?教えてくれる気になった?」「あと2週間なんだろ。」ぐ…。他人にそう言われると危機感が芽生える。むすっと不貞腐れながらも私は鞄から問題集と筆記用具、教科書ノート…と、テスト勉強一式を取り出した。立ち去らないところを見ると、もしかしたら勉強見てくれる気になったのか?…やっぱりこいつ、案外良い奴?「そういうのは自力でやるから身に付くもんだ。」やっぱ訂正。結局こいつ、私が終わるまでただそこにいるだけだった。「変な名前にしてやろ!」「やめろ。」
――――「そういえばさぁ、なんであんたそんな服着てんの?」「…」馬鹿にするような眼差し。私あんたにそんな目でみられる覚えないんですけど。「…お前、あの一件から急に態度変わったよな。あれだけ気味悪がってたのに。」私はぱちくりと目を動かすと、机に突っ伏していた体を起こし、腕を組んだ。「私気づいちゃったのよねー。自分の方が優勢だってことに。だってさ、こんなどこをどう見たって不審な人物、警察に突き出せばすぐにでも逮捕できそうだし。」「…」どうやら本人も自覚はしているらしい。ならなんで。「なんでそこまでして私のこと助けるの?」「…言っただろう。だから、」「じゃあその服なによ!コスプレ!?言っておくけど、相当キモイからね!!一緒にいるのも結構恥ずかしいんだから!!」「知るか。」「じゃあせめて上脱いで。」「この2月の寒い時期にか?」「じゃあ別の着なさいよ!!!」キモイと言われたことに若干のダメージを受けたのか、その後はガン無視を決め込まれた。カフェだからあんまりうるさくもできないから、私も勉強に集中した。「…コーヒーいる?」「いらん。」こいつが飲み食いしてるとこ、見たことない。差し出したカップを戻し、自分の口につけた。
――――「ねえ、決めた。」「…今度は何だ。」またしてもファーストフード店。なんとこの女、私に勉強を教えてくださってる。数学の問題が何分かけても理解できずイライラし始めた私を見かねて、アドバイスをくれたのが始まりだ。それからというもの、上手なやり方とか、こう覚えた方がいいとか、課題を出したりしてくれるようになった。相変わらずの態度だけど。「あんたの名前。『大和』!!――どう?」勉強の合間に熟考した名前をドヤ顔で発表したが、名づけられた本人は何とも言えない苦い顔をしていた。「…センスを疑うな。」「えぇ!?なんでよ。かっこいいじゃん!」「…ちなみに由来は?」「私の友達が、あんたの服が日本軍の軍服に似てる、っていうからさ。それで、日本の別名とかで言葉探してなんかないかなーって。あ!そうそう!それで気づいたんだけど、私の名前も、日本を表す言葉の一つなんだって。まぁ、それはどうでもいいんだけど。」「…」「あ。何?そんなに嫌?」「…いや…別に。それで呼びたいならかまわない。」「あれっ?なんでまた急に。」「それで断って、『じゃああんた、今日から「まほろば」ね』とか言われてもそっちのが困るしな。」「私そこまでセンス悪くないから!!」「いいから。…続きやれ。」「はいはい。――よろしく、大和先生!」「…いい加減黙ってやれ。」この数日、テスト勉強に付き合ってもらってわかったことがある。こいつ、なかなかノリが良い奴だ。
――――「どう?勉強、はかどってる?」学校の昼休み、陽葉が私に聞いてきた。「あんたが私達に頼らないなんて珍しいじゃん。」そう。彼女の言うように、いつもなら二人に協力してもらうところだったけど…。「まあねー、今回は、まあ?楽勝かな?みたいな?」「えっ、余裕じゃん。どうしたの?本当」「ふっふっふ…今回の私には、秘密兵器があるから。」「「?」」
「そういえば…例の人、どうなったの?」「もうね、無害よ無害!最近は割と普通にしゃべってる。」私の発言に、陽葉と清香は顔を見合わせて微笑む。「そうなんだ…取りあえずよかったね。」「そうね。結構良い奴よ。」「頭に包帯巻いて登校してきたときは肝が冷えたけど、…あの人が助けてくれたおかげであの程度で済んだって聞いて、ほんとほっとしたわ。」「あの人になら安心してみーちゃんを任せられるね!」「ちょっと…その言い方はなんか引っかかる…。」「でも事実でしょ?」「まぁ…信頼は、…できるけど…。」
――――「…やるじゃないか。家でもちゃんとやってるみたいだな。」「当然!学年末テストって言ったら、学年最後のテスト…これまで酷かった成績を一気に取り返すチャンスなんだから…!」「今までどれだけ酷かったんだ。」今日はなんと私の部屋でのテスト勉強。提案は勿論私。だけど、まさかの大和からの拒否。『不審者家に上げるとか本物の馬鹿だろお前』あんたにだけは言われたくない!そもそも、家がばれてることだってもうわかってる。それで、あんまり乗り気じゃなかった大和を引っ張って無理やり家に上げた。うちのお母さんは天然だから、大和になんの疑問も抱かれずにすんだし。部屋に入って、渋々腰を下ろした大和を見て、いつも通りに勉強を開始した。
「あれっ、もうこんな時間?」気づけば、日はとっぷり暮れていた。「それだけ集中してたってことだろ。」「あー…どうする?もう遅いし、今日泊まってく?」自分でも何言ってんだとは思った。ついいつもの友達とのノリで言ってしまった。流石にそれは危ないか?撤回しようとしたところで「いい」と、大和の方が先に口を開いた。「警戒してる相手を家に泊めるなんて、危機管理がなさすぎる。」そう言うと、さっさと帰って行ってしまった。テーブルの上の飲み物は、やはり一口もつけられていなかった。

「――あの、」家の窓枠から、一人の少女が乗り出して問う。外にいる女は、目だけそちらに向け、無言を貫いた。「…姉を、誑かさないでくれますか。」夜だからか、その声はやたらと小さい。「…知ってますよ。最近やたらと姉に付き纏ってるって。夜もそうやって、ずっと姉のこと見張ってますよね。」「…」「食事も睡眠もとってる様子がない。あなた何なんですか?非科学的だし、オタクだからこんな思考回路してるって思われたくないけど、あなたが不幸に見舞われてるんじゃないの?それを姉に押し付けようとしてるんじゃないんですか?」「その理屈なら、なんで私があいつを助けるんだ。」「…」「…お前、たまに姉の後を付けて来てただろう。」「…」「そんなに心配なら、自分で姉を守ってみたらどうだ。そんなところで閉じこもってないで。」「…」「…偉そうなことを言う前に、自分の問題を先に片づけるんだな。」

――――休日の今日も、私は自室で勉強をしていた。例によって、特別講師付きで。今日のノルマを早く達成し、ぐーっと伸びをしたところで、時計が3時をまわったのを確認した。「ねぇ、大和。ちょっと、息抜きしない?」
―――私の家の近くには、少し大きな川が流れている。それに沿って土手の上で、歩みを進める。夕日が鮮やかに、辺りを照らしている。この辺は都心に近い割には存外静かで、散歩にはもってこいの場所だ。とにかく景色が良い。雰囲気ついでだ、と、少し後ろを歩いていた大和の横に並んで、質問をぶつけてみた。「大和って、仕事は何してんの?」「家は?」「いつ寝てんの?」「いつも何食べてんの?」「いい加減その恰好やめたら?」結果、全部黙秘権を行使された。「…なんだ、うっかりしゃべるとでも思ったのか。」「いーや、別に。ただ、あんたに興味湧いてきたから…大和のこと、ちょっと知りたいかなって思っただけ。それに、あんた最近変わってきたじゃない?そろそろ話してくれるかなー…って。」「…いいところだな。」「無視か!!!」「…」立ち止まって。じっと顔を見られた。その顔は、真面目な話をする時の顔だ。ここ数日で、こいつの数少ない表情の機微がわかってきた。「…私の中で、お前は最初と印象が変わった。」「へぇ?どんなふうに?」「最初は煩くて、わがままで、文句ばっかり言う、いけ好かない奴だと思ってた。」「ちょっ、私のどこを見てそう思ったのよ。え。それ私の第一印象…?なんか傷つく…。」「…でも、お前と話していて、それが…いや、違うとも言い切れないが…・それだけじゃないことに気づいた。」「すっごい聞き捨てならないこと言ってる。」「私も、お前に興味が湧いた。」「…あのねぇ。散々ストーカーしといて、今更そういうこと言うの?」呆れ顔でため息を一つ。「…言っただろう。複雑なんだ、こっちも。」そう言う大和は、今までよりずっと人間臭くて。そんなこと言うなんて、やっぱりちょっと雰囲気にのまれてるんじゃないか、と思った。誘ってみて正解だったようだ。「…あ、そうだ。」私は思い出したように、持っていたカバンをごそごそと探ると、可愛いラッピングを施した箱を彼女に手渡した。「…これは?」「バレンタインのチョコ。昨日、友達と一緒に作ったの。…食べられないことはないんでしょ?」見透かしたように笑ってやると、いくらか思案した後、大和は思いもよらず、その場でラッピングを解き、チョコを一つ、口の中に入れた。「なんだ、やっぱり食べられるんじゃん」「…旨い。」「!」似つかわしくないストレートな感想に、不覚にも嬉しいと思った。しかもその後、ぱくぱくとチョコを食っていく。…やっぱりこいつ、なんか変わった?「…良かった。なんで今まで、食べなかったの?」「…」また考えるようにしながら、何かを諦めたように一息ついて、こちらを見た。「食べられないことはないんだ。…食べる必要がないだけで。」少しずつだが、彼女は私に、自分のことを打ち明けてくれている。馬鹿みたい。ただそれだけなのに、何故だか少し、喜んでる自分がいる。その日は、私達にとって特別な日になった気がした。
――――ある部屋の前でうろうろする。ノックしようと腕を上げるも、そのまま戸を叩く勇気はなくて。部屋の前に、大和に上げたのと同じ、ラッピングした箱を置くと、そのまま自分の部屋に引き上げた。このままじゃ駄目なのはわかってるけど、私から何を言えばいいか、ずっとわからないでいた。

それから数日、私は怒涛の追い上げを見せた。折角ここまで頑張ったんだから、ここでだらけてたまるかと。そして―――
「お陰でいい点尽くしだったよ!ほら!」ピラっと見せた紙には、全教科の点数と、順位が載せられていた。「これは…良いのか?」「私からしたらいい方なの!二桁台の順位なんて初めてだったんだから。びっくりしたよ!人間やればなんとかできるもんなのね…!!」その私の発言を聞いて、釈然としなかった大和の表情も少し和らいだ。そんな様子を見て笑った私は、鞄に紙切れをしまって、一息ついた。2月の終わりといっても、まだまだ寒い。外だから尚更だ。こんなことなら、こんな公園のボロっちいベンチなんかじゃなくて、あったかいカフェの綺麗な椅子に座るんだった。「本当に助かった。ありがとね。…それで、お礼したいんだけど…、何かない?」「礼?」「命は上げられないけどね。」半分本気で、半分冗談のにやけ顔でそう言ったら、大和の眉間に皺が寄った。「お前、私を死神やら悪魔と勘違いしてないか?」「少なくとも、人間ではないと思ってるよ。」これは本気だった。それを示すかのように私は顔ごと、隣に座る彼女に向けた。それを感じ取ったのか、大和は私の目を見ながら何かを考えるような顔をしていた。しばらくして目を逸らすと、顔をまっすぐと前方に向けた。「そうだな…。」多分、日頃の大和の動きや、ショッピングモールの火災の時の様子、バレンタインの時の発言からして、大和が”そう”だというのは本当のことなんだろう。それが私にバレていることを、彼女は許容している。その話は、もうこの時点では、”それだけ”のことなんだ。既に話題はお礼の話に移ってる。私も彼女に倣って顔を前に向けた。私達の見る方向には、公園で遊ぶ近所の子供たちや家族連れがいる。大和の視界にも、彼らがいるのだろう。彼女が切り出すまで、ぼうっとそれを眺めていると、ふいに大和がこちらを向いた。「お前が思う、この国…を、一番魅力的に感じられる場所に連れて行ってほしい。」
――――「…スカイツリー…。」「ん?」「…なあ私、『日本を一番魅力的に感じられる場所』って言ったよな?」「?うん。」「…」「すごいじゃん!この日本人の職人の技術!!634Mもあるんだってね!?」「いや知ってるが。」「一度来てみたかったんだよねー!!」「お前が来たかっただけじゃ。」「それにほら、日本を見渡せるし!!天気の良い時は、富士山も見えるのよ!?」「…あぁ…。」「ほら!あんなに小さい!!人とか、ほら!!あの豆粒みたいなのも、全部車なんだ~!ちっさっ!」「…」「…あはは、私達、あんなちっぽけなんだよね。」「!」「でも皆、必死に生きてるんだよね。」「…」「…私さ、この2週間、あんたと一緒にいて、なんとなくわかったことがある」「…なんだ。」「大和は、何かに迷ってるよね。」段々と大和の感情の機微というのがわかってきた気がしていた。大和は、常に何かに――悩んでいるというよりは、迷っている。この国に関係すること?そうも思ってたけど、こんな奴にまさかそんな大層な理由があるとも思えなかったから、そこまでは言わなかった。私の発言に、窓の外を見ていた大和の目が細められた。「お前は…この国の人間は、幸せだと思うか?」その問いに、私は拍子抜けした。唐突な質問に、じゃない。その内容に、だ。勿論、私からの指摘に大和が応えたこと、私に意見を求めたこと、それらに驚愕したのも事実だけど。「今後生きていて…幸せになれると思うか?」「さぁ…。そんなの、人それぞれとしかいいようがないと思うけど。」私は至極当然のことを言った。それに大げさに驚いてみせる大和。「そう聞くタイミングにもよるだろうし…。そりゃ、誰にだって、幸せな時と、不幸な時はあると思うよ。でもそれって、その人の環境とかのせいもあるけど…結局は本人の感じ方次第なんじゃないの?」口出しせず、黙って私の意見を聞く大和。…なんだか、今度は私が、彼女に何かを教えてあげる番のような気がした。「その子にとってそれが不幸なら、不幸なんだろうし、幸せだと思うなら幸せなんだと思う。人によって基準は違うし。だからさ、日本人って括りで聞かれちゃうとそれはよくわかんないっていうか…未来のことなら尚更で。『今現在、誰々は幸せか』、っていうならまだわかるけど…っていうか、なんで?」「…」何を言えばいいんだろう。この答えに正解とかはないと思うけど。まぁ取り敢えず、私の考えを伝えてみるか。「例えばさ、アレ。あそこに、一緒に手繋いでる家族がいるでしょ?」私が指す先には、小さな女の子を挟んで手を繋ぐ、三人家族が。三人とも、笑顔だ。「あれは、あんたから見たら幸せじゃないように見えるの?」「…」「…生きてればさ、そりゃ辛いこともあるよ。でも、そればっかりでもないじゃない。まして、人の人生って幸か不幸か…それだけでもないと思うのよね。…生涯終えて死のうって時にさ、自分の人生振り返って、幸だろうが不幸だろうが、中身の詰まった実りのある人生だったと思えるなら、なんでもいいんじゃないかとも思うのよ。まあ、あくまで私は、だけど。たった一度だけの自分の人生だしさ、生きられるだけ生きて。これから良いこともあるかもしれない、なんて思いながら。やらない後悔より、やる後悔のがいいって言葉もあるし。それで良いことあったら、そこでやっと、『生きててよかったー』って思えて、万々歳だし。やりたい放題好き放題生きたもん勝ちだと思うけど。…って、ごめん。なんか話ずれてる?」「…お前、結構いろいろ考えてるんだな。正直、驚いた。」散々私の話聞いて、まず言うことがそれかよ。ずれた答え真剣にずらずら答えて…なんか恥ずかしくなってきた。「そりゃ…。人間だし。…私だけじゃないよ。どの人も皆、結構いろいろ考えてるもんでしょ。こういうこととか…。」「…」それから、大和はそれ以上のことを聞いてこなかった。そのあとは、普通に観光を楽しんだ。
―――「…今日は、悪かったな。高かっただろう。」「そんな。成績あがったんだからこのくらい。お母さんもお小遣いちょっと出してくれたしね。」「…ありがとう。」「…なんか、変な感じ。さっきからやけに素直じゃない?」悪かったな、とか、ありがとう、とか、以前の大和だったら考えられなかった。「私だって礼くらい言う。」「はいはい。」「…じゃあ。」「うん。」素っ気ないけど、大和が初めて別れの言葉を言った。今回の外出で、彼女の中の何かも変わったのかもしれない。それが私にとって良いことなのかどうか、今はまだわからなかった。