セイド達の星に、敵のそれよりも更に巨大な宇宙船がやってきた。その主砲からレーザー砲が放たれたかと思えば、次の瞬間、攻撃が直撃した敵の宇宙船が爆発した。その光景を青ざめた顔で見る仲間達。だがそれとは対照的に、セイドと父は目を見開き、ただじっとその様子を見つめていた。そのレーザー攻撃だけで、巨大宇宙船に乗る彼らが、自分達や襲撃してきた敵よりもはるかに進んだ文明を持っていることがうかがえた。連続での攻撃は出せないのか、その後宇宙船がレーザーを射出することはなかったが、代わりに船体から数隻の小型船を発出させ、各地に散らす。やがて小型船が地上に降り立つと、そこから戦闘員らしき人間達が次々と現れた。彼らは手にした武器や兵器、ロボットを用いて、敵の集団を瞬く間に制圧していった。――――彼らがセイド達にとって第二、第三の敵となる可能性があるため、本来なら臨戦態勢を取るべき状況ではあったが、セイド達はその場から動くことが出来なかった。心身共に疲れ切った状態で、目の前で圧倒的な力を見せつけられてしまっては、抵抗する気力が湧く筈もなかった。やがて小型船から降りてきた人間達が、セイド達に近づいてくる。そして彼らは開口一番に告げるのだった。「我々は、あなた方を助けに来ました!」
――――彼らは自らが所属する組織を『宇宙統括本部』だと名乗った。仰々しい名前だなとセイド達は思ったが、彼らが言うには、ゆくゆくは銀河を脱出し、果ては宇宙への進出を目標にしているため、そう名付けたのだという。そして幹部だという初老の男は言った。「我々は、ルールのないこの宇宙で、正しい導きをしたいのだ。弱きものを助け、防衛する。」彼らの活動指針は、『人類と自然の保護』であるそうだ。「銀河―――そして、宇宙人類皆で手を取り合い、共生したいのだよ。皆で協力すれば、より素晴らしい文明を作り上げることが出来る。」彼らもまだ、銀河内を調査している途中なのだという。その範囲はまだ3割にも満たない。そんな目標を掲げながら、未開エリアの調査のために宇宙航行をしていた最中、セイド達の星で起きた騒動に遭遇し、助太刀してくれたというのだ。
――――「…ありがとう。助かりました。」セイドの父が代表して、彼らに感謝の言葉を送った。その傍らにはセイドもいる。父の言葉に対し、幹部の男と取り巻く人々は、人の好さそうな穏やかな笑みを浮かべていた。そして、幹部の男が称賛するように呟く。「しかし、文明と人数にあれだけの差がありながら、よくも3年も持ったものだ。」父がセイドに目配せする。「我々は戦闘民族の血が濃いもので、頭脳についてなかなかどうして足りない部分がありました。ですが、うちの娘が非常に優秀でしてね。親として情けないながらも、あらゆる分野で手を貸してもらいました。この子の頭脳と力を借りたことで、ここまで来られたようなものです。この子ほど文武両道出来る者はなかなかいない。」父の言葉に興味を惹かれたように「ほう」と呟く男。「君は余程優秀と見える。」「いえ。自分に出来ることをしたまでです。」謙虚に返すセイドに対し、男は目を細めるのだった。
――――その後も、宇宙統括本部はセイド達の星に滞在し、復興の手助けや技術提供をしてくれた。代わりにセイド達も、資源や人力、土地を提供した。その中で男始め統括本部の人間達は、セイドに対して惜しみなく、技術や情報、知識を与えた。するとセイドは、驚くべき速度でそれを吸収していくのだった。
ある時、幹部の男はセイドと二人、建物の屋上から地平線の向こうを眺めながら話していた。男はセイドの一歩前に出て、背中を見せながら語る。「弱きものを助けるには、力も技術も必要だ。そのためには研究を続け、文明のレベルを上げていかなければならない。」セイドは彼らに助けられた日のことを思い出した。高出力レーザーや粒子ビームを利用した武器、そして防御に医療技術。復興の速度も、自分達だけで行うよりもずっと早かった。男はセイドに振り返る。「君達には、その手伝いをしてほしいんだ。…君達の、腕を見込んでのお願いだ。」セイドは真剣な顔で、黙ったまま男を見つめる。「当然、宇宙には君達を襲ったような"脅威"が数多く存在する。先日教えたように、君達が知らないような宇宙生物も沢山いる。そんな中で我々の目標である『人類の保護』―――そして資源確保を達成するためには、君達のように、頭脳だけでなく戦いの力も兼ね備えた人員が必要なのだよ。」そして男はセイドに手を伸ばした。「…正式に、我々の組織に加入してくれないか。セイド。」その手を見て、セイドはゆっくりと目を閉じた。統括本部には大きな、返しきれない恩があった。そして自分が本部に加入し、より高度な知識や技術を身に着けることで、父始め、仲間や同じ血を引く人類達のためになるのであれば。更には、自分がそうしてもらったように、他の人類達の助けになるのであれば。―――そう思ったセイドは、その手を取ることを決めた。「えぇ。私で良ければ。」
それから本部は、セイドの他にも優秀な人材を集めるため画策していた。戦時中の噂を収集したり、セイド達の人類に対してテストや診断を行うことで成績の良い者を選出し、本部加入のスカウトを進めた。その際、セイドや父は本部に対する注意事項として、『"解錠"は、出来る者と出来ない者がいる』という話をした。二人によると、"解錠"の技術は、長い年月の間に特定の血筋から失われてしまったか、あるいは、そもそも当時から限られた人間にしか備わっていなかった可能性がある、とのことだった。その点も考慮した上で本部は選考を行った。ヤオロア、ムエラ、ノーディスについては、セイドが本人達の意思を確認した上で本部に提案したところ、3人共すんなりと加入に至った。3人もセイドほどでは無いものの、知能が高く、本部の期待に沿う人材であることは間違い無かった。そうして4人、日々、勉強や戦闘の訓練などを行っていた頃だった。更に追加で4人が、セイド達の部隊へと配属された。それが、ユェル、メルド、ホウリィ、ニセコ達だった。優秀なのは勿論、年頃もセイド達と近いということも選出された理由の一つだ。4人とも、セイド達が住んでいた星とは別の惑星に住んでいた。「私とこのニセコ…って子の星は、他の二つの惑星から距離があるし…。あっちは資源も人も大していないから、敵も狙ってこなかったのかもしれないわ。」「だから…話を聞いて皆さん凄いなって思いましたよ。…正直、私がなんでここにいるのか疑問に思うくらいっすね…。」ホウリィとニセコの星は敵に襲われることなく平和を保っていた。先にセイド達の星を制圧してしまえば、後はどうとでもなると思われていたようだ。二人は本部の知能テストや身体診断をクリアし、スカウトされた。そのため戦闘経験は全く無いという。二人とも、自分達だけ戦いと無縁の生活をしていたこともあり、3年にも渡って戦い続けたセイド達に対して、罪悪感や尊敬の念を感じている様子だった。だがセイド達はそんなことなど気にしなかった。「二人は知り合いか?」「ううん。全然。今日が初めましてよね。」「正反対の地域に住んでたみたいで。…あ。今後ともよろしくお願いします。」「よろしくね。」ホウリィとニセコが改めて挨拶をしている中、「そっちの二人は?」と、ノーディスがユェルとメルドに問いかけた。二人はセイド達ともホウリィ達とも違う、第三の惑星に住んでいた。「私達は同郷よ。子供の頃から一緒にいるわ。ね。」「あぁ。」ユェルとメルドが住んでいた星も敵に襲撃されて、酷い有様だという。だが二人は――――「…事前に話を聞いているが、君達は"解錠"が使えるのか…?」興味津々といった様子のセイドが問う。初めに聞いた時は驚きを隠せなかった。自分達の故郷以外で、"解錠"についての知識が伝わっていた地域があるとは思わなかった。「かいじょう?」ニセコとホウリィが顔を見合わせ、きょとんとする。セイドの問いに対し、ユェルはなんてことない、とばかりに答えた。「えぇ。古い先祖からの教えが書かれた本があってね。もしもの時にはこれを読みなさい、って言われてたの。」「解錠方法や、番号の確認についても書かれていたのか。」「そうよ。」「そうか…。」興味深げに考え込むセイドをそのままに、ノーディスがユェル達に追加の質問をする。「そういえば、たった二人で敵を制圧したとか聞いたけど。」「えぇッ!?マジっすか!?」「そんな大げさなものじゃないわ。ホウリィ達の星と同じように、私達の星もそれほど人や資源が多くないの。だから、セイド―――あなた達の星に比べて、こちらの星に派遣された人数が大幅に少なかったみたいなのよ。それに、敵の文明レベルもそれほどじゃなかったわ。多分、いくつかある組織の中でも、弱小の部類だったのね。」補足するようにメルドが口を開いた。「それに、お前らが抵抗してくれたおかげで、こっちに割く人員が少なかったのもあるかもしれねぇな。…おかげで、被害が大きくならずに済んだ。」「…」その言葉に、セイド達の顔が翳る。確かに、戦っても戦っても先が見えない状況が続いていた。敵は全戦力を以て、こちらに挑んできていたというわけだ。「踏ん張った甲斐はあったってことだな。」「!」ヤオロアの言葉に、セイドが顔を上げる。見ると、ムエラ、ノーディスもそれに同調する表情をしていた。三人は、セイドが敗戦の理由の一つを「自分の力の至らなさ」にあると考えていることに気づいていた。だが、メルド達の言葉で無意味な頑張りではなかったのだと気づかされた。セイドは3人の想いを察してふっと笑うと、「…そうだな。」と呟くのだった。
それから数年かけて、セイド達は己の知能と技術を磨いた。そしてある時8人は、組織の幹部の男からあることを言い渡される。「君達の実力を見込んで、特殊任務についてもらいたい。そのために部隊も大きく編制する。セイド、君がその長だ。」「特殊任務…?」セイドからの問いかけに、男は告げた。「その名も、―――――『特殊防衛部隊』だ。」
それから本部とセイドは、組織内で部隊編成に伴う人員集めを行った。この数年でセイドが関わりの深かった人物、またはセイドが連れて行きたいと申し出た人物を選出した。
『特殊防衛部隊』 は別名『先遣調査隊』と呼ばれた。この部隊に任せられた"特殊任務"および目的は、本部の各部隊から先行して未開エリアや星の調査を実施し、人類および資源の有無を確認し、必要に応じて人類保護の対応を実施する、というものだった。知能と戦闘力があるセイド達だからこそ、実施できる任務だった。8人とも、故郷の星に暫く戻れなくなるものの、そこも了承の上、活動を行うことを承諾した。
そして出立の日。皆、家族や友人、仲間達と別れの挨拶をする。セイドも仲間達と挨拶を終えた後、父と二人きりとなった。「…父さん。」「わかってる。」そう言って父は、ポケットから小型の端末を取り出した。それは、セイドが持つそれと酷似したものだった。セイドがそれを目視したことを確認すると、父はすぐにポケットの中へと戻した。セイドの視線が、父の顔に移る。父を見るセイドの瞳が、少し寂しそうに揺れた。「…そんな顔するな。…大丈夫だ。」「…」「…くれぐれも、気を付けろよ。」「…あぁ。」そうして父は、セイドを抱きしめた。セイドも父の背中に手を伸ばして、抱き締め返した。
セイド達はその後、真面目に任務をこなしていった。殆どの星は、人が足を踏み入れることが叶わない場所や、得られる資源が無いような場所が多かったが、皆初めて見る宇宙の星々に目を輝かせていた。特殊な環境の星が多かったこともあり、新たな知見を得ながら、更に勉強を重ねていくのだった。
――――セイド達が故郷の星を出てから、1年後。セイド達は宇宙でも貴重な、人類の住む星に辿り着いた。そこには原始的な人類が生息しており、豊富な資源と多種多様な生物が住む中、少ない人数で狩猟をしながら暮らす様が観測できた。下手に踏み込まない方が良いとの判断で、遠隔から調査を進めていた時のことだ。セイド達のもとに、監理官――――ワナゼナが現れた。セイド達が調査結果を報告していた時のことだ。ワナゼナはセイド達に言い放った。「ご苦労だったな。お前ら、ここはもういいぞ。後は本部が預かる。」「預かる…って、これ以上何をする必要がある。調査はもう終わるところだ。」ムエラが思わず意見する。「あ?お前らのおかげで、この星には大きな脅威が無いこと、私らでも降り立てる環境だってことがわかった。寧ろこれからだろうが。」それに対し、ユェルが反論する「何を言ってるの?この星には文明が無いの。ここに住む人類達も、何かに脅かされてるわけじゃない。私達が無闇に踏み入れるべきじゃないわ。放っておくべきよ。」そんなユェルの言葉とムエラ達の表情を見て、察するワナゼナ。「…おいおい、知らねえのかよ。」「何が…?」「…」セイドだけは険しい表情でまっすぐとワナゼナを見つめていた。ワナゼナは、はっ、と笑うと、近くのデスクに腰を掛けた。「良い機会だから教えてやるよ。」
――――統括本部はセイド達に、組織の目的は『宇宙人類と自然の保護』であること、『弱きものを助け、防衛する』ことであると言った。ワナゼナに言わせてみれば、「奴らはそんなご大層なことなんか考えちゃいない」とのことだ。「まぁ、重要なのは『銀河から宇宙に進出する』――――ってところだな。っつーか、そこが真意だ。」ワナゼナによると、統括本部の真の目的は、『銀河を出て、宇宙に進出するために文明レベルを上げること』であり、そのためには手段を選ばないということだ。「セイド。お前も十分わかってるだろ。文明を上げるってことは、それだけ人も、資源も、必要になる。」「…」「例えば本部のあの高出力レーザーだ。あれを一発撃つのに、どれだけのエネルギーが必要になると思う?そして、そのエネルギーを得るための資源と、それを準備する人間も。奴らはただ、自分たちの本願を達成するための、資源とマンパワーが欲しいだけに過ぎない。だからあんな上っ面の良いことを並べて、お前らみたいな奴らを騙して、仲間に引き入れ、従えてる。」「…!」その言葉で、セイド以外の皆も察する。「そうだ。つまり――――…お前らの故郷も良いように利用されたってことだ。」「……ッ…」「元々お前らの恒星系に来たのだって、あの辺り一帯のエリア調査がしたかったからだ。お前らの星に拠点を構えて、研究と資材集めをすれば効率が良かった。だから、お前らが賊に襲われてるのは奴らにとっては"都合が良かった"んだよ。」レーザーを放つだけの価値があの星にはあったというわけだ。「…奴らは、本部がけしかけたわけじゃないのか。」ようやくセイドが言葉を放つと、ワナゼナが視線をセイドに移した。「さあな。少なくとも私は知らねぇ。――――…まぁもしかしたら、幹部の誰かが仕掛けた可能性も無くはないのかもしれねぇがな。」「…」その言葉で皆の眉間に皺が寄った。「あの星も―――…お前らがその価値を知らなかった貴重な資源が数多くある。一帯の調査が終わり次第、いずれはそれにも手を出すんだろうよ。…だがまぁ、奴らも下手に争いたくはないだろうから、まだ先の話になるだろうが。」そしてワナゼナはテーブルから腰を上げ、立ち上がった。「あぁそうだ。故郷に戻ろうなんて考えるんじゃねぇぞ。」「!」図星だとでも言わんばかりに皆目を見開く。「この船には位置情報システムが搭載されてるだろ。本部には――――…っつーか、私か。それでお前らの居場所は筒抜けだ。」セイド達は一度星を出てしまったが最後、故郷に帰ることは許されなかった。故郷の星や人々は、言わば人質だ。本部に楯突こうものなら、本部の思惑に反することをしようものなら、人質がどうなるかもわからない。助けに行くことも出来ない。「お前らは、もう二度と故郷には帰れないんだよ。」
――――ワナゼナがいなくなった会議室に、8人全員が俯きながら残っていた。重苦しい雰囲気の中、ムエラが口を開いた。「…お前が恐れていた事態になったな。」そして皆の視線がセイドに移る。「…あぁ。」セイドや父達は、本部の人間達を完全に信用してはいなかった。その温和な顔の裏に何かあるかもしれないと思い、本部に渡す情報についても一部制限をかけていた。そしてセイドは、仲間達7人にだけは、本部に対するその疑惑について見解を伝えていた。今回、この『特殊防衛部隊』を編成し、宇宙に出て調査が始まると決まった際も、「もしこの星で何かあったとしても、もう二度と帰ってこれない可能性がある。それでもついてきてくれるか?」といった意思の確認もしていた。皆、それを了承した上でついて来たのだ。「今のところ、奴らは本性を現してはいないようだがな。」そう言ってセイドは、懐から小型の端末を取り出した。端末はシンプルな作りで、ボタンとランプがついており、設定次第では音も鳴らせるようになっている。「それ…親父さんと繋がってるんだったか。」メルドの言葉にセイドが頷く。「あぁ。本部が開発した特殊粒子技術を応用したビーコンを送る装置だ。ケォンが暗号化通信機能を付けたものを密かに作ってくれた。送れるのはこのオンオフの単純な信号だけだが、特定のルールに従えば文章も送れる。」「…今のところは、皆無事なんだな?」「そのようだ。今朝もやり取りしたが、平和そのものだと。」「…取り敢えず、無事ならそれだけでも安心だけど…。」一先ずほっと一息つく皆。セイドは小型端末を睨み付けながら険しい顔で呟いた。「…杞憂だったら良いと思っていたんだが…。そうもいかなかったみたいだな。」そして再び沈黙が落ちる。何も無ければそれで良かったのだ。彼らが言うように、本当に宇宙人類のため、故郷のためになるのならば。だが、現実はそうでは無かったということだ。少しして、ヤオロアが口を開いた。「…だが、ワナゼナも言ってたように、余程のことが無ければ下手に手出しはしないだろ。奴らも、私達の人類の強さは理解している筈だしな。そういう意味じゃあ、故郷については暫くは大丈夫だろ。」「そ、そうっすよね!」「ただ、本部側の文明レベルが上がって行けば、それだけ故郷の皆の抵抗が難しくなる可能性があるわ。」「あの星も、…どうなっちゃうのかしら…。」それは窓の外にある、まだ何物にも手を加えられていない星を指していた。ホウリィとユェルの言葉に、皆深刻な顔になる。放っておけば被害は増える一方だ。自分達の故郷だけではない、これから訪れる星の人類も、もしかしたら食い荒らされ、人々は良いように使役されて、蹂躙されてしまうかもしれない。彼らからすれば、自分達の存在こそが"脅威"となってしまう可能性だってある。だからといって、たった8人。知識も力もまだ未熟なこのメンバーだけでは、あの巨大な組織に対して勝ち目などなかった。「これからどうするのよ。」「…今は、一先ず従うしかないだろう。」ノーディスとムエラの会話に異議を唱える者はいなかった。そして自然と、皆の視線はセイドに集まった。この部隊の長、セイドの意見を仰ぐ。長い時を過ごしたヤオロア、ムエラ、ノーディスの3人はもちろんのこと、ユェル、メルド、ニセコ、ホウリィの4人も、共に過ごした数年で、セイドの人柄やその能力については理解していた。セイドは腕を組み、俯きがちにしていた視線を上げた。「私に考えがある。」