【6話】宇宙人の襲撃


「また改良させてもらいました!」「ご苦労だったな、ケォン。」技術班であるケォンから武器―――ゾイロを受け取ると、触れて、見て、確認をするセイド。「皆さんに協力してもらいながら作りましたし、テストも何度も実施したので、動作や耐久性に問題は無いと思います。」「…いつもすまないな。ありがとう、ケォン。」セイドの優しい笑みに胸を撃ち抜かれるケォン。「そっ…そんな!!!これくらい大したことないですよ!!!ふ…へへ、セイドさんにそう言ってもらえるなら、私いくらでも頑張ります…!!」くねくねと照れながら言うケォンだったが、ふと思い出したように表情を引き締めた。「それから、例の件についてですが…。進捗は順調です。十分間に合いますよ。」「!…そうか…。」セイドは笑みを消すと、視線を床に落とす。「…ワナゼナが嗅ぎつけている。」「そこも織り込み済みです。」「流石だ。」「…やるんですか?『リセット計画』―――…。」ケォンの問いかけに、セイドは真剣な表情でその目を見つめる。「……ケォンのおかげで、私達はここまで来られた。」「!」「…こんなことに巻き込んでしまって―――…すまない。」申し訳なさそうに伏せられたセイドの顔を見て、ケォンは決意の篭った目で告げた。「…誤解を招く言い方をしたのなら、すみません。私はやりますよ。」「!」その言葉に、セイドは思わずケォンを見る。「私は――――…私達は、セイドさんだからついて来たんです。」「!」「それに私は、セイドさんのためだったらなんでもやります!!」その時、セイドの脳裏に過去の出来事が過る。
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「『特殊防衛部隊』を編成するにあたって、現在こちらでも人員集めをしているところだ。もし君に要望があれば、誰か選出してもらってもいい。」とある男が、そうセイドに告げた。セイドはその指令を受けた後、ある場所を目指して無機質な廊下を歩いていた。そしてその道中、過去の出来事を思い出していた。
――――『宇宙統括本部』に加入してからというもの、セイドは勉強のために、本部に所属するあらゆる研究員と技術者達と話をしていた。人によって見解や手法、考察内容が多岐にわたるため、その話を聞くのが面白く、質問や会話、議論を重ねながら、知識を次第に深めていった。そしてその日も、技術班管轄の、とある一部屋へと入室した。その中で、まだ下っ端であると思われる若い女性を見つけた。「ケォン、まだか!?」「は…はいッ!!もうすぐ出来ます!!」何やら機材の作製をしていたその女性は、言われるままに指示を受けていた。セイドは、そんな彼女に話かけた。――――「君はもっと改良の余地があると?」「えぇ。この装置の●●含有率は▲%です。もっと割合を上げれば、耐久度も上がるのかなと…。それと、■■法を使えば、もっと効率的な計算が可能になると思うんです、そうすれば小型化だって…!」「…」話をしてみると、ケォンにはあらゆる知識と柔軟性があった。この組織で様々な人間と話をしたが、彼女は正直言って、他の人員よりも優秀だった。だがこの"組織"の中では、その才能が燻っているように感じた。能力重視であるこの組織でも、そう言った取りこぼしがあるのかとセイドは思った。「(所詮人間が作り上げた組織――――…そこには感情や思惑が入り込む。)」それからというもの、二人で話をしては、様々な開発や技術刷新について語り合ったのだった。
――――そんな過去を思い出しながら、セイドはとある部屋を訪れた。「あ、セイドさん!」昼飯休憩中だったケォンが、セイドを見つけるなり嬉しそうに手を振る。――――「えっ…えっ!?私を『特殊部隊』に…!?」「私の下につけば、君はもっと自由に設計が出来る。…君は、こんなところで燻っているべき人間じゃない。ただ命令されるがままに作るだけじゃない、考えて、設計して、作り上げて―――…独自に技術を磨き上げることが出来る。君なら、更に先へと進むことが出来るだろう。」セイドの言葉に、瞳を揺らすケォン。そんなケォンに、セイドは優しく微笑みかける。「そして何より、私には君が必要だ。」「……!!」その時のケォンの嬉しそうな表情を、セイドは今もなお忘れることが出来ない。
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そしてその後、ケォンはセイドに語った。「統括本部内でやりたいことを十分にできず、やきもきしていた自分を引き入れてくれたセイドに、恩を感じている」と。そして、「自分を必要としてくれたセイドに感謝している」とも。そんなケォンの言動を思い出したセイドは、再びその口元をほころばせた。「…ありがとう、ケォン。」ケォンも、それを見て微笑んだ。「お前のためにも、…皆のためにも、計画は必ず成功させる。」「はいっ!!」「頼むぞ、ケォン。」「勿論です!!」
そんなやり取りをしていた時だ。突然、セイドの通信端末が鳴った。地球人とやり取りする時専用の端末だ。「どうしました?」相手は、例の外交官のようだった。『セイドさん!今どちらにいらっしゃいますか!?』「基地ですが…。」『よ、良かった!実は東京の新宿区に、何やら不審な女性が現れまして…。何事かを叫んでいるのですが、我々地球人の言語ではないようで、何を言っているかわからないんです…!!」「…」ケォンと目を見合わせるセイド。ケォンははっとしたような表情を浮かべる。それを見て、セイドは外交官に質問を投げかける。「…その女性の特徴は?」『はい!えー…と、高身長で、カーキ色のフード付きロングコートを着ていまして、長い茶髪と…あと何やら顔に、稲妻のような…奇妙な入れ墨が入っているようですね。』「!」それを聞いた途端、口角を上げるセイド。そして外交官に告げた。「わかりました。私が現地に向かいます。正確な座標を教えてください。」

高身長の茶髪の女が、大きな道路の中心を闊歩していく。その女の両頬には奇妙な入れ墨が入っていた。人々はその女を、不審者を見る目で遠巻きに見つめている。道路上では複数の車が止まっているが、中に人はおらず、その場に乗り捨てられたことがうかがえた。辺りを見回し、先ほどから一向に状況の変化が無いことに気づいた女は、何事かを叫んだ。だが、その言葉はその場にいる誰にも理解ができなかった。それに対し、更に苛立ちを見せる女。そこに、一人のスーツの女が現れた。「―――…久しぶりだな、ヌアラ。3年ぶりくらいか?」スーツの女―――セイドの姿を捉えると、入れ墨の女―――ヌアラは、ようやく来たか、といった風に笑みを浮かべて振り返る。だが、かけられた言葉を思い出すと、怪訝な顔に変化させた。「あぁ?なんだ"サンネンブリ"って!」「…あぁ、すまない。しばらくぶり、って意味だ。」「…おいおい、会わねぇ間に随分とこの星に染まっちまったみたいだな。」その言葉に、セイドは目を細めてヌアラを見つめる。「…全く、相変わらず懲りない奴だな。」「はっ!お前に勝つまでは何度だって挑んでやるってんだよ!!」ヌアラの勝気な態度に笑みを深くするセイド。「なら、何度でも打ちのめすまでだな。」その顔はどこか楽しそうだった。
二人の会話は異星語だったため、周囲の人間達はその内容が理解できなかった。だが、二人の間に漂う雰囲気と語気の強さから、"仲の良い友達などではない"ことは見て取れた。二人は強気に微笑んだまま向き合っている。――――やがて、ヌアラの周辺にあったあらゆる物――――車やゴミ箱、植木や街灯などが宙に浮き、持ち上がっていく。それを見た瞬間、人々は『まずい』と思ったのか、慌てて逃げ出していった。この1年半もの間に、宇宙人や宇宙生物の襲来を経験したことから、この場にいるのは"危険"だと判断したためだった。様子を見ていた警察官達も『皆さん逃げてください!!』と叫び、誘導を始めた。対してセイドは、それが見慣れた光景だとでも言うように、余裕の表情を崩さぬままその場から動かない。すると、ヌアラの周りで宙に浮いていた物たちが弾かれるように、次々とセイドに向かって飛んでいった。差し迫る複数の物に対し、やはりセイドは楽しそうに、その動きを見極めて次々に避けていった。避けた先で、障害物に紛れて近づいていたヌアラが、セイドのすぐ目前まで迫っていた。セイドは振り抜かれた拳をかわす。そしてお返しとばかりに蹴りを放つが、今度はヌアラにそれを避けられた。そうして、地球人には不可能な動きとパワーと俊敏さで、セイドとヌアラは互いに攻撃を繰り出していく。攻撃し、避けられ、の攻防を繰り返していたところだ。ヌアラが仕掛けたのだろう、赤いポストがセイドの死角から飛んでくる。セイドはそれを目視せずに避けてみせた。「!」だが、避けて飛んだ先にもまた仕掛けがされていた。遥か上空から、車がセイドめがけて高速で落下してきた。地面に激突した瞬間、土煙が立ち上り、その中にセイドの姿も消えた。「ッし!!」そうヌアラが油断した時だった。今度はヌアラの死角で、セイドが上空から飛んできていた。「はッ!!?」
――――数秒後、ヌアラを組み伏せるセイドの姿があった。「また私の勝ちだな。」勝ち誇った顔でセイドがヌアラを見下ろす。「クソッ…!!この野郎〜〜〜!!!」「自分の策に溺れるとはまだまだだな。…まぁ、前よりは力の使い方がわかってきたようだが。」「偉そうに……ッ!!」「お前は視線でバレバレなんだ。何度も言ってるだろ。」「!!おッ…お前の動体視力だの、適応力がイカレてんだよ!!!」何やら異星語で言い合いをしている二人を遠巻きに見つめる警察官達。周囲に散乱した物達を眺めながら、あまりの惨状に呆れていた。ふと、転がる街灯やポスト、植木に目を向ける。よく見ると、その根元はねじ切られていた。
――――「くっそ~~~!!」後手に縛られ、後から到着したノーディスとメルドに連行されるヌアラ。「おいこら、蹴んなッ!!」メルドに蹴られて吠えるヌアラを、少し離れた場所から見送るセイド。その隣には外交官が立っていた。「か、彼女は一体…?」彼の問いにセイドが答える。「言わば"賊"ですね。あなた方にとっては、"海賊"とか"山賊"と同じだと言った方がわかりやすいでしょう。」「ぞ、賊!?…ということは、悪党ですか!?ん?そもそも彼女は一人で…?」その言葉に、セイドの顔から笑みが消える。「…昔、我々がここから数百光年ほど離れた星を訪れたとき、彼女の所属していた"賊"が資源や食料を求めて、その星の住人たちを襲撃していましてね。それを私達が制圧したんですが…。賊の他のメンバーは捕えて統括本部に引き渡したものの、彼女だけは逃がしてしまったんです。それからというもの、ああして私達の元へ訪れては喧嘩を売ってくる始末です。」「なんて迷惑な…。」「逆恨みですよ。」「今やストーカーよね。」「なんか悪口言ってるってことだけはわかるからな、お前ら!!」「良いからさっさと入れ。」メルドに小型宇宙船へ押し込められるヌアラを見ながら、外交官が問う。「でも、ようやく捕まえられた、ってことですね…?」「…だと良いんですが。」「え?」「彼女の力を見たでしょう。」「!え、えぇ。」「彼女の力は少し特殊でしてね。あの力で何度も逃げられている。」「な、なるほど…!」そこでまた好奇心が刺激された外交官。「…ちなみに、地球以外の宇宙人の方は皆さん、ああいった"能力"をお持ちなのですか…?」地球人類だけが非力だとすれば、他の能力を持つ宇宙人たちに襲われたとき、いよいよ勝ち目はないのでは…と、不安になった。「いえ。我々が特殊なだけです。大多数はあなた方と同じで、能力のようなものは持っていません。うちの船員のほとんども、特殊能力を持っていませんよ。」「そ、そうですか…。」ほっとしたのも束の間。「まぁ、代わりに文明を上げて、武器や兵器を作って…それで軍事力を底上げするんですがね。」「えっ」その言葉で血の気が引く外交官。そんな彼を見て、口元を緩めるセイド。「だけど…我々も元は農耕や酪農を営む"非"戦闘民族でした。それが、先祖の書物をきっかけにこの"力"を思い出した。――――…もしかすると、あなた方にも何か、自分たちの知らない秘めた力があるかもしれませんね。」「え…?」ぽかんと呆ける外交官を見てはっとすると、喋り過ぎたと言わんばかりに顔を反らすセイド。「すみません、話が逸れました。ともかく、これ以上地球の皆さんにご迷惑おかけするわけにはいきませんからね。彼女のことはなんとかします。」「な、何卒よろしくお願いします…!」微笑むと、セイドもヌアラ達と同じ小型船に乗船していった。

いつもの憩いスペースに、ヌアラといつものメンバー8人がそろっていた。ヌアラは拘束等はされておらず、気楽にソファでくつろいでいる。そんなヌアラに、ノーディスが呆れたように告げた。「懲りないわね~~ほんと。」そう言われ、セイドを指差すヌアラ。「こいつに勝ちたいってのはマジだからな。」対してセイドは優雅に紅茶を飲んでいる。「でも悪いけど、全然相手じゃなかったわよね。」「最初本気出してなかっただろ。」「まぁな。」「セイド、"解錠"も使ってなかったものね。」「クッソ〜〜〜〜!!!」「1億年は早い。出直してこい。」「自分だってまだまだ勝てないんすから、ヌアラにも無理ですって!」「お前らなぁッ!!」「ちなみにお前、地球人達になんて叫んでたんだよ。」「あぁ?『セイドを呼べ』って言ってた。」「誰にも通じてないぞ。」「わかるわけねぇだろ、地球人?だかの言語なんか!!お前らの習得ペースが早すぎんだよッ!!!」「そういえばどう?地球の空気は。」「苦労したんだぜ~~、体慣らすの!!」そう言ってヌアラは次の瞬間、表情を落ち着けると感慨深げに目を細めた。「――…でも、なかなか悪くはねぇな。」ヌアラのその言葉に、皆が微笑む。だがヌアラは何かを思い出すと、真剣な表情に変わった。「ところでよ、うようよいやがるな、この辺り。」その発言に特に驚くことはないセイド達。どうやら知っていたようだ。「地球に宇宙生物送り込んできてるのもそいつらの仕業でしょ?」「あぁ。様子見だろうな。」そしてヌアラが見解を述べる。「奴らも地球資源やら地球人やら狙って、今か今かってチャンス狙ってやがるんだろうぜ。…でも、お前らの得体が知れないのと、何企んでんだかわからねーもんだから、手出しができないってわけだ。良い抑止になってるな。」「…」その言葉に、皆の表情も引き締まった。
――――その後、ヌアラとセイドは別室で二人きりになった。「一芝居打ってもらって悪かったな。」「まぁ芝居っちゃ芝居か。俺にかかりゃあんなもんだ。」「だがあそこまで破壊する必要は無かった。」「ぐっ…、演出だよ、演出!」「地球人から被害請求されたらお前に働いてもらうからな。」「は!?この…ッ…ただでさえお前の人使いが荒いってのに…!!」「信頼の裏返しだと思ってほしいな。お前ならやってくれると信じてるからだ。」「あーあー何とでも言えよ!」そして話題は切り変わる。「例の件、上手くいったようだな。」「当たり前だろ。もうわかってるとは思うが、お望み通りの結果だ。…全く、どんだけ時間かけたと思ってんだよ。」「…あぁ、本当だな。…ありがとう。感謝してる。…私達には出来ないことだからな。」「!」「お前も、無事で良かった。」呆けるヌアラに対し、セイドは優しい笑みを浮かべた。「……おう。」ヌアラは少し照れたような様子を見せた後、ふと思い出したように告げた。「そうだ。ところで、お前が欲しがってた物も取ってきてやったぜ。」「流石だな。悪かった。随分とかかっただろう。」「――――…で。これだけやってやった俺に、勿論褒美はくれるんだろうな?」ヌアラの挑発的な笑みに、セイドも同じく挑発的な笑みで返す。「何がお望みだ?」「そりゃ勿論――――」そう言いかけたところで、はっと笑って肩を竦めた。「…いや、もっとでけぇ褒美が貰えるんだ。今は我慢しておいてやるよ。」ヌアラのその言葉に、セイドの表情も和らげだ。「それは助かるな。」そして二人の視線が交差する。そこには、互いに強い意志が込められていた。「約束は守れよ。」「当然だ。」

数日後、セイドの元へワナゼナが訪れた。その背後には部下らしき男もいる。「…」「んなあからさまに嫌そうな顔すんなよ。心配すんな。今日はこの後すぐに戻る。」そう言って壁に片手をつくと、ワナゼナはセイドを壁際に追い詰めた。「セイド、お前何考えてんだ?」セイドはいつもの怪しげな表情を崩さずに、ワナゼナの目をまっすぐと見ながら答える。「…なんのことでしょう。」ワナゼナは逃がさないとばかりに、もう片方の手をセイドの腰へ伸ばした。「裏でこそこそ何やってやがる?…どうせ、この辺りで発生してる例の爆発とやらも、お前が関わってるんだろ?」「…なんのことやら。」「お前の管轄下にある船―――…移動履歴が消されているが、それも関係ないってか?それから研究資料。…細工がしてあるな。」「…」そこで初めてセイドの笑みが消える。監理官を睨み付けるように見た。「これを解読して、本部に報告したらどうなるだろうな?」「…」セイドの反応に満足したような顔をすると、ワナゼナはようやく離れた。「…あぁそうだ。そっちももう聞いてるかもしれねぇが、本部が到着するまでおよそ1か月を切った。」「!」「その時まで精々足掻け。」そう言って手を振ると、さっさと立ち去ってしまった。その後ろ姿を見ながら、セイドは目を細める。「セイド。」そんなセイドに、背後から何者かが声をかける。振り返ると、色黒の女性が2人、廊下に佇んでセイドの方を向いていた。それを見て口角を上げるセイド。
その後3人は会議室に入ると、平面図を広げながら話をしていた。「出来そうか?」「まぁ行けるだろ。」その言葉に、セイドは怪しげな笑みで依頼をする。「…頼んだぞ。」


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