「えっ…、映画、見に行きたいんだけど……良かったら、一緒に行かないか?」目を反らしながら、デスクワーク中のダレルへ、映画のチケットを2枚差し出すルイザ。「べっ…別に、お前と行きたいわけじゃないけど……」「…行こう。」そう言って、ルイザが持つチケットを一つ手に取るダレル。「!!」表情には出さないが、見る人には一目でわかるくらいに、喜びで溢れるルイザ。胸の中でガッツポーズをする。「じゃ、じゃあ今度の日曜日に。」「あぁ。楽しみにしてる。」そう言って微笑むダレルに、どきりと胸が高鳴るルイザだった。
――――デート当日。待ち合わせ場所の噴水前で、ハーフアップヘアで、スウェットにタイトスカート、ブーツと、おしゃれな恰好をしたルイザが待っていた。緊張した面持ちで、そわそわと髪をいじる。「(デート…ダレルとデート…!)」その事実に思わず顔がにやけてしまう。内心ドキドキしていたが、楽しみの方が勝った。「似合っているな。」「うわっ!!」すると突然、背後から声をかけられた。声と、声のする位置から、ダレルであることは明らかだったので、振り返っていつもの照れ隠しの文句の一つでも言おうとしたが―――「(しっ…私服…!!)」普段見慣れたスーツではない、私服のダレルに目を奪われ、本日一度目のときめきを覚えるルイザ。一拍遅れて、抗議の声を上げる。「きゅ、急に背後から話かけんなっ!!」「すまんすまん。」はは、と笑う様は、仕事では見ることのできない、気の抜けた優しいもので、それが更にルイザを嬉しくさせた。「それじゃあ行くか。」「…あぁ。」
――――ルイザが選んだのは、警察官達がテロリストと戦う実写映画だった。ドナからは「デートで選ぶ映画じゃねぇだろ!!」と言われたが、単純にルイザ自身が好きだったのと、ダレルもこういった映画の方が好きそうだと考えてのチョイスだった。アクションシーンに差し掛かり、同じポイントでテンションが上がった時は喜んだ。ダレルが、「なるほど…こういう作戦があるのか…。」と映画で得た知識を仕事に活かそうとする様を見た時は、「(勉強熱心なダレル…好きだ…。)」と、本日二度目のときめきを感じるのだった。―――「面白かったな。」「評判通りだったな!」内容としては期待以上。二人であのシーンが良かっただの、あのアクションが凄かっただの、映画の良かったシーンを振り返り、盛り上がりながら街中を歩く。そんな中で、「ひったくりよッ!!!」という背後から声が聞こえ、咄嗟に振り返る二人。歩道の奥から、ギャングと思わしき男が女性もののハンドバックを手に、こちらの方へ向かって走ってきていた。ルイザはそれを止めようと前に出るが―――「!」そんなルイザを自分の背後に寄せ、自ら前に出るダレル。そして―――…。「!!」ダレルは素早い動きでひったくり犯を捉えると、あっという間に組み伏せた。それを見たルイザは…「〜〜〜〜!!!♡♡」キュンキュンと、両手で口を覆いながら本日最大級のときめきを感じていた。周囲の拍手の音に囲まれながら、女性に対し優しい笑みを浮かべて、取り返したハンドバックを渡すダレル。その後すぐにルイザの元へ戻り、「行こう。」と促すのだった。
――――再び歩き出す二人。ちらりと横目にダレルを見ながら、ルイザは思う。「(―――私は知ってる。いつも仕事では、依頼者との交渉だとか、デスクワーク、メンバーへの指示出しばかりのダレルだけど…。いつか自分が現場に出る時のことも考えて、毎夜欠かさずトレーニングをやってるってこと…。)」そんなことを考えていると、ダレルが話しかけてきた。「ついでだし、食事でもどうだ?」ダレルの提案に、こくこくと高速で首を振るルイザ。「まだ時間があるな…。」腕時計を見ながら呟く。「じゃ、じゃあ…。」と、ショッピングに付き合ってほしい、と提案するルイザ。―――店に着くと、二人並んで服を眺める。「そういう服とかも、普段ドナと買いに行ってるのか?」「まぁな。」ドナと二人で、いつの間にかすっかりおしゃれに目覚めてしまった。たまに二人で可愛い服を探し求めて買い物に出る。来た当初―――否、それよりも前だったら考えられないことだった。「…本当に良かったよ。」安堵したように微笑み、そう溢すダレルのその意図とは。―――ドナとルイザが仲良くなって、という意味か。ドナとルイザがこの組織に来てくれて、なのか。はたまた、血なまぐさい生活の中でも、"普通の女性"として満喫できる時間があることを言っているのか。―――ダレルのことだ、恐らくは全てなのだろう。なんとなく恥ずかしくなって、ただの独り言だと勝手に判断して流した。その後も雑貨や本屋なども眺めた後だ。可愛いな、とネックレスを眺めていたところ、「買ってやろうか?」とダレルに聞かれる。「!!!」その発言の意図を汲み取ろうとダレルの目をじろじろと見るが、そこにどう考えても下心は無かった。『そ、そんなん気軽に言うもんじゃないっ!』と、突発的に言いそうになったが、この男のことだ、『そうだよな…いつか彼氏が出来た時に買ってもらいたいものだよな…。すまん、忘れてくれ。』と言い出すのは明白だったので、何とか飲み込み…―――「…ほ、欲しい…。」と正直に言ってみた。折角プレゼントをしてくれるというのだ、このチャンスを逃す手は無かった。ダレルが買ってくれたネックレスなんて、欲しいに決まってる!!!「(よく言った、私…!!)」自分で自分を褒めてやりたい気持ちになるルイザ。意外にも素直な返答に、一瞬驚くダレルだったが、すぐに微笑みに変わると「わかった。」と言い、店員を呼んだ。
――――「すまない…。女性はどういうところが良いのかよくわからなくてな…。」高級そうなおしゃれなレストランに入店した二人。ルイザの胸には、先ほど買ってもらったネックレスが。「この前仕事で依頼者と会って、ここが良いと思ってな。」「(女性に慣れてない感じ…最高!)」そこで再び心の中でガッツポーズをするルイザ。料理を注文して、待っていた時のこと。ダレルがふと、話し出す。「…今日の誘い、俺のために申し出てくれたんだろ?」「!」思わず目を反らすルイザ。だが、構わず続けるダレル。「…いつも、俺がデスクワークで忙しい時や、トレーニングをしてる時に差し入れをしてくれたり…仕事で煮詰まっている時や、思い悩んでいる時にも声をかけてくれるだろう。…お前のそういう気遣いが、俺は嬉しいんだ。」あまりに見抜かれすぎていて恥ずかしい。ルイザは、顔がゆでだこのように真っ赤になっている気がした。「…べ、別に…!」と、いつものようにつっけんどんに返そうとしたが、ダレルの優しい笑みで、それが意味のないことだと気づいた。そして諦めて、本音で語る。「…私達には、休日『休め、休め』って言う割に…お前は休んでないから…。」「!」恥ずかしがりながらも、正直にそう告げる目の前の女の子に、愛しい人を見るような目で微笑むダレル。「…ありがとうな、ルイザ。」その後の食事も、二人で感想を良いながら美味しくいただくのだった。
「で?どうだったんだよ、デートは。」ルイザの部屋でベッドに寝ころび、雑誌を読みつつ問うドナ。「…良かった。最高だった。」椅子に座りながら、にやけた顔で胸元のネックレスを手に掴み、眺めるルイザ。「で?ヤったのか?」「ヤっ―――……!!!…ってない…。」がっくしと項垂れるルイザ。「んだよ、ダレルの野郎意地ねえなぁ。」ドナの言葉に、手元のネックレスを見ながら少し思案するルイザ。そして、思い直すように首を振った。「…いや。ダレルはあれでいいんだ。」その言葉にルイザを見るドナ。「そういうところが好きなんだ。」そう微笑むルイザは、とにかく幸せそうで。一緒に過ごした時間と、そのネックレスだけで十分だったのだと伝わった。「…ま、お前が満足してるならいいけどよ。」その様子に、思わず笑みがこぼれるドナだった。