ギルが仕事に出ようと、奥の事務所からバーの方に向かって、眠たげに歩いてきた。「朝から悪いな。」バーカウンターに座るダレルが、新聞から顔を上げながら声をかける。ギルは何も言わずに手を緩く振って、そのまま店の出入り口の方へ。その時、カランカランと鈴を鳴らしながら、ニールがバーに入ってきた。「お、ギル!いってらっしゃい!」「おう。」「ダレル―、なんか宅配が届いたぜー。」そう呼ぶニールの手には、小さな小包が。奥に座るダレルが訝し気に「宅配…?」とつぶやく。ニールとすれ違おうとしたその瞬間、ギルの脳裏にかつての会話が思い出される。仕事柄、取引は信頼できる業者としか行っていなかった。荷物はいつも顔なじみの専用業者が、事務所の裏手から届けに来る。だから、一般の宅配を利用して荷物が届くはずが―――…。その時、ダレルとギルは同時に嫌な予感が過った。ギルは咄嗟にニールが持つ小包を奪い取り、誰もいない空席目掛けて投げた。と同時に、すぐさまニールの腕を引っ張り、ボックス席の中へと飛び込む。ダレルもカウンターを飛び越え、奥へと隠れた。次の瞬間、巨大な爆発音が響き、店の壁の一部と、窓が吹っ飛んだ。バー全体に振動が伝わり、地響きが鳴る。バーカウンターにあったワインのボトルが次々に落ちては割れた。照明はガシャガシャと音を立てて揺れ、天井からはぱらぱらと埃が降ってくる。やがて爆発による煙が充満し、静寂が訪れた。ギルはむくりと起き上がると、ニールの様子を伺った。「…ご、ごめん…俺…っ…!」青い顔でガタガタと震えるニールの背中を優しくさすると、声をかけるギル。「怪我は。」ニールは、ギルの問いかけにフルフルと首を横に振る。「そうか。――…お前のせいじゃねぇ。」ギルの言葉に、思わず泣き出してしまうニール。「ギル!ニール!無事か!!」ダレルが駆け寄ってくる。「あぁ。なんともねぇ。」ほっとしたように胸を撫でおろすダレル。「…ギル、助かった。ありがとう。」それに対して、また手を緩く振るギル。「ダレル…っ!!」そしてニールはダレルに抱き着くと、わんわんと泣き出した。「すまなかったな。怖かっただろう。もう大丈夫だ。」ダレルは抱き締めながら、その頭を撫でてやる。すると、事務所の奥からドタドタと慌ただしい足音が複数、聞こえてきた。「おいおい、なんだなんだ!?」騒ぎを聞きつけたドナ達が駆け込んできたのだ。「うおっ!?なんじゃこりゃ!!」そして崩壊したバーの一角を見て、衝撃を受ける。「うわー…また派手にやったなー…。」「!」「どうした、ドナ?」「いや…。」ドナが瓦礫の外を気にかけていた時だ。「ニールは大丈夫なのか…?」というルイザの心配そうな声が耳に入った。そこでニールのことに初めて気づくと、ドナ達は不安げに息を飲む。だが、ダレルから「びっくりしただけだ。問題ない。ギルが間一髪で助けてくれた。」という言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろす面々。「流石だな、ギル!」エルバートに小突かれると、ギルはやれやれと言った風に頭をかいた。「しかしなんだってこんな…。」誰がこんなことを、と訝しんでいた時だ。「…おそらく、例の猟奇殺人犯の仕業だろう。」ダレルの推察に、その場にいたメンバー全員に衝撃が走った。「…俺らが仕事を受けたのがバレたってか?」「…喧嘩を売られた、ってことか…。」「しかしどうやってここの場所を…。」困惑するメンバーの脳内に、数日前の話が思い出される。
――――「猟奇殺人犯を捕まえてくれ、だぁ…?」「はぁ!?んなのポリ公の仕事だろうがッ!!怠慢にもほどがあんだろ!!」最近巷を騒がせている猟奇殺人犯を捕まえてほしいと、市から依頼があった。主に爆弾を使用し、テロまがいな事件を起こしたり、女を狙った残虐な殺しをしているようだ。発見された被害女性は、どれもその殺され方に統一感が無い。被害件数はこの半年で13件にも上る。警察も今回ばかりは必死に捜査をしているが、大体の人物像は描いているものの、居場所の特定には至らず、犯人逮捕に手を焼いているようだ。「最近なんでもかんでも頼みすぎじゃねぇの、市警さんはよ!!」「そもそもなんでそんなに見つからないかね。」「情報屋使ってもダメってことか?」「寧ろ情報屋と共謀してるんじゃねぇの?」皆口々に予想する。「…まぁ、たかだか一人の犯人を捕まえるだけなら出来なくもねぇだろうが…。」「俺は反対だな。」皆が静まり返り、発言したブレットの顔を見る。「…俺は危険だと思う。少なくとも、ドナとルイザは外すべきだ。」「はぁ!?」今度はブレットに対し抗議をするドナ。「おいブレット!なんだよ!私らじゃ力不足だってか!?」「そうじゃない。」そう言うブレットは至って真剣だった。「…言っただろう、"危険だ"と。」「…!」そのブレットの言葉にぐっと言葉を詰まらせると、何も言い返せなくなるドナ。それだけ今回の犯人がヤバそうな奴であること、ブレットは、ドナ達を心配してそう言っているのだということが伝わった。皆の視線がダレルに集まる。「…早めに対処をしないと、被害が増える一方だ。依頼自体は、…俺は受けたいと思ってる。」その言葉に、男性陣は肯定の表情を浮かべる。「だが今回については、ドナとルイザは外す。」「はぁ…!?」「すまんが、わかってくれ。」「…!」ダレルの言葉に、ルイザは察する。ブレットとダレルがそういった判断を下したということは、余程の相手なのだろう。再び抗議しようとするドナの肩を掴み、ルイザは促すようにドナの目を見つめた。「…!」そのルイザの目と、仲間達の表情を見て、ドナもそれ以上は何も言わず、口を噤んだ。
――――「…とか言ってた傍からこれかよ…。」「…確かに、やべぇ奴だな…。」時は戻り現在。作戦室に男性陣が集まって会議をしていた。一先ず、任務が終わるまでトリシアとニールは暫くマイラの家に匿ってもらうことにした。「実は、今回の依頼に際して、居場所を推理してみたんだが…。」そう言ってばさりと地図を広げる。犯人は事件の合間にクイズや謎解きなどを入れるのが好きなようだった。だが、その謎解きはお粗末なもので。単純で尚且つ大雑把なものだった。それが尚更市警などを混乱させた。直近であった事件でも、男は痕跡を残していた。「どこまでもふざけた野郎だ…!」被害者が女性ばかり、という点でエルバートの怒りは沸点を超えそうだ。「想定される地点は―――…6箇所だ。」地図にマル印がついている。「頭文字に、"E"がつく場所だ。」「…本当にこんなのでぶち当たんのかよ?」「…わからない。」「…ちなみに市警は?」「…協力も要請したんだが、今回は俺達に任せる、と…。」はぁ~~とため息をつく面々。「…そしたら人数が足りない。」ロイドが意見をすると、「私らも行くぜ。」扉の付近からドナとルイザが現れた。「おい…お前、」「人手が足りないんだろ?」「心配するな。」そう言っていつものように作戦に入り込む。皆ダレルを見る。「…お前達は駄目だ。」「…おい、」そんなダレルを睨みつけるドナ。「いつまでもガキ扱いしてんじゃねぇ。それと、私らだって一員だ。」ルイザも同様の目をしていた。これは言っても聞かない奴だ、と皆諦めるのだった。
――――一人、男がスキップしながら町を歩く。「誰ガ、来るか、ナ♪誰が、来ルか、ナ♪」男は浮かれた気分で、都会の喧騒の中に消えていった。
――――地下鉄に配置されたドナは、駅のホームを歩いていた。ホームでは、数人の人が列車の到着を待っている。他のメンバーは、ショッピングモールだったり、役所だったり、公園だったり、その配置場所は様々だ。「(よりによって、ここには来ねえだろうが…。)」そう思っていたのも束の間、爆発音とともに、地響きが鳴った。「――!!」思わず肩を竦める。振り返ると、悲鳴を上げながら、ぞくぞくと人が外に向かって逃げていくのが見えた。やがて人の波が消えると、そこには―――「…!!」男が一人、佇んでいた。「(おいおい、マジかよ…!!)」まさかの当たりを引くとは。…だが。「(たかだか猟奇殺人犯だ。)」テロ犯や傭兵、殺し屋達とはわけが違う。それに、相手はたった一人だ。ドナはカバンから隠し持っていた銃を取り出す。男も、懐から銃を取り出した。どちらからともなく動き出し、走りながら銃を乱射する。ドナは線路へ降りると、柱の裏に隠れて銃弾を凌いだ。「――…!」それなりに距離があった筈だが、弾は若干ドナの体を掠っていた。なかなか侮れない命中率だ。「クソ…」柱を背に振り返るが、男の姿はない。すると、「!!」死角から迫ってきていたことに気づいた。「(いつの間に――…ッ!!)」咄嗟に横に避け、銃弾をかわすドナ。柱を挟みながら、銃を撃ちこむ。と、「!!」短刀が飛び込んできた。「あっ…ぶねぇ!!!」ギリギリで攻撃を避けるドナ。「…なかなかやるじゃねえか…ッ!」動きが速い。「おレが、捕まえらレれるか、ナ…?」奇妙な喋り方で迫る男。そこに若干のうすら寒さを感じつつも、男と対峙していく。―――男とやり合う中で、何か違和感を覚えるドナ。「(動きが、読めない…―――)」ゆらりゆらりとドナの攻撃を避ける男は、今までに出会ってきた奴らとは違った。これまで多くの人間と相対してきたドナ。どの相手も、ある程度パターンにはめ込むことが出来たが、この男は違った。思考回路が全く読めない。次にどういう攻撃を繰り出してくるのか、何を考え、何を企んでいるのか。まして、自分の速さについてこれる男がいること自体にも驚愕する。攻撃を試すが、そのどれもこれもが当たらない。その上、「…ッ!!」思わぬタイミングと、思わぬ方向から短刀を突き出してくる。避けたものの、頬を少し掠った。心臓が嫌な音を立て始める。「(…なんだ、こいつ…、)」こんなこと初めてだった。これまで積み上げてきた自信と経験があったからこその困惑だった。
―――…勝てるのか?頭の中に過ったその言葉から、これまでの被害者の状況が思い出された。そして一瞬で、これまで見かけた死体の顔がフラッシュバックする。目の前の男が得体の知れない何かのように錯覚した瞬間、ぞわりと鳥肌が立った。次の瞬間、「――!!」いつの間にか距離詰めてきた男は、ドナの目をつぶしに来た。間一髪で避ける。が、「…!!」ドナに恐怖を植え付けるには、それで十分だった。ドナは男から距離を置くと、片手を膝に乗せ、もう片方の手で胸を抑えてシャツを握りこむ。―――心臓の鼓動がうるさい。呼吸が乱れている。吐き気もしてきた。「(おい、嘘だろ。)」まさかビビってんじゃねぇだろうな。その事実に自分でショックを受ける。「まタ、あそ、ぼう、ネ。」はっと顔を上げた瞬間、男はその場から立ち去っていた。逃げられたことに気づく。「(クソッ…!!)」あまりの情けなさに泣きそうになった。
背中の硬い感触に目が覚めた。「ッ!!」気づくと、髪は下ろされ、薄着で冷たい台の上に寝かされていた。頭上では鎖で両手をひとまとめに拘束されており、足は少し広げられてそれぞれが鎖につながれている。「なッ…!!」がしゃがしゃと抜け出そうとするが、びくともしない。「気づイた、か、ネ?」すると、暗がりからメスを持った例の男が現れる。「お…ッまえ…!!」なんだ、何が、どうしてこうなってる。混乱する頭の中で、目の前で光るメスしか頭に入らない。息が、苦しい。なんだ、それで、どうするつもりだ。「可愛く、シてあげよ、ウ。」そう言ってメスを構えたまま近づいてくる男。ニュースの速報が思い出される。被害者の、状況。ぞくりと背筋が粟立ち、ガシャガシャと音を立てながら暴れる。「おい…ッ!!クソッ!!やめろ、―――やめろッッ!!!!」次の瞬間、下腹部に激痛が走る。「あ“ぁッ―――!!!」生ぬるい感触と、体の震えに、頭の中でガンガンと警鐘が鳴る。「はぁ…ッ、ぁ”…ッ、この…ッ」痛みに耐えるように手足を縮こませながら前方の男を見やると、男は再びメスを構えた。「―――…やめろッッ!!!!」
――――「――…ッッ!!!」がばりと体を起こした。体中からぶわっと汗が噴きだし、その呼吸は荒く、乱れていた。心臓もどくどくと早鐘を打つ。呼吸が苦しい。呼吸の仕方がわからなくなり、ヒューヒューぜーぜーと吐きそうになりながら頑張って吸って吐いてを繰り返し、なんとか落ち着かせる。そして服をめくり、自分の腹部を確認した。当然だが、無傷だった。「(――…夢……)」悪夢を見るなんて。情けなくて、アホらしくて、歯を噛み締める。「クソッ…!!」壁に拳を打ち付けて、八つ当たりをした。―――恐怖を感じるなんて、初めて人を殺した時以来だ。いつの間にか麻痺していたその感情が、久々に呼び起される。「(しかもあんな男になんて…―――!!)」「ドナ…、大丈夫…!?」音を聞きつけて、トリシアが扉を開けて駆け込んできた。だが、それに対してドナは、「…大丈夫だ。」トリシア相手だというのに、取り繕う余裕もなく、淡々と返事を返した。
――――「おい…顔色悪いぞ。」いつものように、バーのボックス席で朝食を食べていると、目の前のルイザに心配された。「…なんでもねぇよ。」暗い顔でもそもそと飯にありつくドナに、ルイザは違和感を覚えた。
――――その後ルイザは、ダレルと応接室で話をしていた。「…ドナの様子が変だ。」「…奴と実際に対峙したのはあいつだけだからな。大した怪我は無かった筈だが…何かあったか…。」「昨日聞いた時、『動きが読めない奴だ』とは言ってた。あと、『何を考えてるのかわからない』とも。」「ふむ…。」「…単なる、逃げられたショックだけじゃなさそうだ。」1対1であのドナが捕らえられなかった相手だ。相当の手練れかもしれない。流石、何人も殺しても警察に捕まらないわけだ。「…ドナの動向に注意してくれ。」「わかった。」「ダレル!!!」そこにエルバートが飛び込んできた。「犯人の野郎から、届け物だ。」ダレルとルイザは目を見開いた。
――――『政治家ノ、娘を、拉致シ、た。』「―――!!」ジョンとロイドが検証し、爆発物ではないと確認が取れたため、開封をしたところ、中にはビデオテープが入っていた。ビデオをデッキに入れて再生すると、そこでは例の男がカメラに向かってしゃべっていた。『君たチが、仲良くしテる、あの子、ダ。』「…!!」その瞬間、全員に激震が走った。「仲良くしている」「政治家の娘」なんて、一人しか思い当たらない。「エマ…!!」ルイザは絶望の表情を浮かべていた。エマは数か月前、ドナ達が護衛から守り抜いた少女だった。トリシアとニールが狙われるものだと思っていたため、予想外の方向から仕掛けられ、見事に足元を掬われたことに気づいた。『彼女、ハ、無事ダ、ヨ。―――これカら指定する、廃墟、ニ、今日の夜中、来て、ネ。君達だケ、デ。』本当に無事なのか、そんなことすらもこのテープからじゃわからない。不安が渦巻く中、ドナがテーブルに思い切り両手をつく。そして震えるように手を握り締めた。何の関係もない、無力な少女をダシにしたことに対し、激高していた。「ふざけやがって…ッ!!」最初の小包爆弾といい、やり口が卑劣だ。「…行くしかねぇだろ。」そう言ってエルバートはダレルを見る。「…だが、危険だぞ。」どう考えても罠だ。何があるかわからない。勿論エマのことは心配だ。だが、ダレルとしても、部下達の身の危険を晒すことに対し、すぐにはOKとは言えなかった。「…取りあえず、一旦冷静になって考えよう。」時刻は10:00を刺していた。
――――「くそ…ッ!私のせいだ…!」あの時、男を逃がしてしまったという自責の念にかられ、両手で顔を覆いながら苦悶の表情を浮かべるドナ。ルイザとエルバートがそれをなだめようとする。「…仕方ねぇよ。奴だって相当の手練れだ。警察やらあらゆる組織が歯が立たなかった奴だぞ。」「御託はいいんだよ!!結果エマを巻き込んで―――…皆を…!!」危険に晒す羽目になった、と続けようにも言葉が出ずに頭をかきむしる。「まだ決まったわけじゃねぇだろ!奴の今回の目的は俺らかもしれない。なら、エマに手を出すなんてことも、」「無事かどうかもわかんねぇだろ!!もしかしたら、エマももう―――」その瞬間、パァンと渇いた音が響いた。グレッグが歩いてきて、ドナの頬を叩いたのだ。背後にいたギルやロイド、ブレット達も思わず見る。「落ち着け。」殴られた頬を赤くして呆けるドナに、グレッグが静かな声で告げる。「お前昨日から変だぞ。奴にビビってんじゃねぇだろうな。」「グレッグ…!」たまらずエルバートがグレッグの肩を掴む。この場にいる皆、察しているようだった。肩に乗せられたグレッグの手を払いのけるグレッグ。「ビビッてんなら邪魔だ、お前は降りろ。足手纏いだ。」「…!!」「考えたって仕方のねぇこと考えんじゃねぇ。無駄だ。今までもそうやって来たんだろうが。何を今更わーわー喚いてやがる。」「…っ…」頭からすーっと血の気が引くような感覚。…そうだ。あれこれ悩んで不安になったところで、現状が変わるわけでもない。いつもそうしてきたのに、珍しく取り乱してしまった。「…悪い。」ドナが冷静になったことを確認すると、グレッグはスタスタと事務所の方へと歩いて行った。それに続くようにギルも歩き出す。そんな二人に誰も何も言えず、沈黙が下りた。―――武器庫で準備をするグレッグの元へ、ギルが訪れる。そしてグレッグと同様に、銃を手にメンテナンスをし始めると、ぽつりと呟くように言った。「…今回は俺も中に入る。」「…」「外から見てたって仕方がねぇからな。」そう言ってカチャン、と弾倉をはめ込む。「…やれるのか?」グレッグに問われ、銃を構えるギル。「…腕が鈍ってなけりゃな。」「…まぁ、そうだな。」組織設立当初は人手が少なかったせいか、ギルもよく現場に出ていた。「頼むぜ。」「あぁ。」「俺も行こう。」そう言って入って来たのはダレルだった。「…あんたはやめた方がいいんじゃねぇか。」思わず牽制するグレッグとギル。「俺だって鍛錬は欠かさずしている。それに、」銃を手にして手慣れた動きで弾倉を取り出す。「たまには現場に出ないとな。」
――――「…俺だけ留守番か。」「お前は非戦闘員だろ。」仲間を見送ろうと表に出るジョン。仲間達が危険な目に遭おうとしているにも拘らず、何も出来ないでいるのがもどかしい。「なんかあったら頼むぜ。」「あぁ。」「ドナ、お前も留守番でもいいんだぞ。」グレッグに挑発されるが、「行くに決まってんだろ。」と淡々と返すドナ。先ほどよりも落ち着いたようだが、そこにいつもの覇気は無かった。ルイザに声をかけるダレル。「…頼むぞ、ルイザ。」ドナのことを言っているのは明らかだった。本当は当初の予定通り、作戦から降ろしたいところだったが、ドナが参加すると言ってきかなかった。自分の責任を感じていたためだろう。勿論、ドナが参加するなら私も、と言い出したのはルイザ。それぞれ男性メンバーと組ませたいところだったが、ドナとルイザの相性の良さを知っていたこと、ルイザ本人が「ドナと行かせてほしい」と申し出たことから、後方援助の条件付きで許可したのだ。「危険だと判断したら、すぐに二人でその場から逃げろ。わかったな。」「わかってる。」2台の車でそれぞれ4人ずつ乗せて、走り出した。