ここはとある大きな病院。ドナは、長い髪を下ろしてキャップを目深に被り、ぶかぶかパーカーとキュロットパンツという年相応のギャルっぽい服装で、廊下に設置してある備え付けの椅子に腰を掛けていた。目の前の部屋の自動扉が開くと、そこから医師が現れる。ドナは立ち上がり、その医者へと近づいていった。「くれぐれも頼むよ。」そう言って医師は、20cm×30cmほどの四角い箱のようなカバンを二つ、ドナに手渡してくる。「はいよ。――…にしても、本当にこれで大丈夫なのか?」ドナは箱を受け取るとそれを、上から、左右から、下から、まじまじと見つめた。「今は色々と技術が進化していてね。特殊な構造によって、長時間の保冷機能や、少しの揺れにも耐えられるような衝撃吸収機能が備えられてるんだよ。」そう言ってから医師は、眉間に皺を寄せ、冷や汗をかきながら、ドナの耳元に顔を近づけ小声で伝える。「とはいえ、大切な要人の臓器だ。さっきも言ったように、くれぐれも―――くれぐれも!!丁重に扱ってくれよ…!!」そんな医師の必死なお願いに対して、ドナは「はいはい、わかってるって。」と軽いノリで承諾する。
ドナが立ち去った後に、医師の元へ看護師が近寄る。「…本当に大丈夫でしょうか…。」「…信じるしかないだろう…。」医師はドナ達について、日頃荒っぽいことばかりしている組織だと聞いた。不安は拭えないが、ここは任せるしかなかった。
――――今回の依頼者は、大病を患い、臓器移植が必要となってしまった国の要人だ。ようやく見つかったドナーは、この病院から動かすことができない状況にあったため、臓器の運搬をする必要が生じた。だが、政治家という職業柄、人から恨まれるような発言ばかりする彼の臓器は"敵"に狙われる可能性があった。医師に運搬を任せては何かあるかもしれない。しかし、身内は当人の警護で手一杯だったため、『信頼できる別の組織に依頼したい』ということで、ダレル達の組織に白羽の矢が立ったというわけだ。「おそらく敵も穏便に済ませたいだろうから、荒っぽいことはしてこない筈だ。」敵というのも、同業の人間と予測がついていた。邪魔者の依頼者を、陰ながら始末したいのだろう。
――――「よ。」地下駐車場にて、車内で待機していた人物に声をかけるドナ。運転席でスーツを着たブレットは窓を開ける。「んじゃ、これな。」そう言ってドナはカバンの一つを手渡した。「あぁ。」ブレットはそれを受け取ると、助手席に乗せた。「私は裏側の出入口から出るから、そっちは頼むぜ。」「あぁ。気を付けろよ。」「そっちもな。」敵が見張っているかもしれない、という想定で二手に撹乱する作戦だ。ドナは徒歩や電車、ブレットは車で移動する予定だ。ブレットと別れると、さっそく病院を出るドナ。臓器が入ったカバンも、普通のカバンのようにカモフラージュされているため、傍から見ればただの普通の一般女性に見える。「(追うとしたらブレットの方だろうから、こっちはのんびり行かせてもらうぜ。)」まさかこんな何の変哲もない一般女性が臓器を運んでいるだなんて、相手方は思うまいと、余裕綽々で歩いていく。――――が。「…ん?」気配を感じて振り返る。さっと顔を隠す不審な男が二人。病院を出て、たった数分というところだが、既に尾行されているようだった。「(おいおいおい)」気づかないフリをして再び歩き出す。…人通りの多い道だ。敵も『穏便に済ませたい』ようだから、まさかすぐには襲っては来まい。「(しかし、どうすっかなー…。)」このまま一定の距離を保ちつつ、大人しく付いてきてくれればいいが…。「(まだ出発したばかりだぞ?)」目的地の病院まではまだまだ距離がある。こんなところで仕掛けられては、スタミナが持つか不安だ。と思っていた矢先だった。「!」進行方向の先から更に追加で、怪しい男2人組が歩いてくるのが見えた。「(うっわ、マジかよ…!いきなり仕掛けてくるじゃねぇか…!)」あるとしても、もっと人通りの少ないところで仕掛けるかと思っていた。相手もなりふり構っていられないということか。「(―――…どうする。)」歩いていく内に、どんどんと距離が縮まる。流石にこのかばんを守りながら4人まとめての相手は厳しい。すると、耳にはめ込んでいたイヤホンから男の声が聞こえてきた。『左の路地裏に入れ。』その瞬間、ドナは咄嗟に走り出し、指示通りに路地裏へと入る。「!!」追手たちは驚き、その後を追う。『そこの角を右だ。』細い道を入っていく。走りながら、周囲の障害物を蹴散らしていく。その後も迷うことなく、指示通りにぐんぐんと進んでいく。『おい!どういう状況だ?』すると、今度は女性の声が響く。―――ルイザの声だ。本当であれば、進行方向先の定点ポイントでルイザにカバンを手渡して、リレー方式で運搬していく予定だった。「尾かれてたんだよ!!」『は?もう?…お前やらかしたのか?』「はぁっ!?私のせいじゃねぇ!!」『やっぱその髪目立つからなー…。』「うぐっ…!」それに関しては何も言えなかった。黙って髪を結いあげ、キャップの中へと隠した。『ドナ、後ろはどうだ?』男の声の主―――ジョンが確認をしてくる。ジョンは組織のホームでダレルと共に待機しており、メンバーたちのGPS情報をもとにマップを確認し、監視カメラをハッキングしながら、逃走ルートの計算などをしていた。後ろを振り返ると、男達はいなかった。どうやら巻けたようだ。「いない。お陰で助かったぜ、ジョン。」『礼を言うのはまだ早いぞ。』それもそうだ、と歩く速度を速める。「くっそ~~~~!楽な仕事だと思ったんだけどなぁ!」『楽な仕事なんてねぇってことだな。』『そりゃ尤もだ。』ははは、なんて談笑するジョンとルイザに苛立つドナ。「お前らお気楽にやりやがって…!こっちは―――」『作戦変更だ。』ふいにダレルの声が入る。『ルイザ、お前はB地点へ向かってくれ。』『わかった。』『ドナ、電車は乗れるか?』「あと少しだ。いけると思う。問題は着いてからだな。」『わかった。―――ブレット、そっちの方はどうだ?』『…どうやらこちらも尾けられているようだ。黒塗りの車が1台、背後にいる。』「おいおい…何人体制でやってんだよ…。」『殺る気満々だな。』曲がり角で敵が潜んでいないか確認しつつ、隠れて警戒しながら進んでいく。「(駅前も人が多いし…紛れていけば…。)」壁に背を向けながら、駅前を確認する。ぱっと見、敵はいなさそうだった。足早に歩みを進める。「!!」そこに、先ほどの男達がやってくるのが見えた。「(やべっ…!!)」咄嗟に走り出すドナ。慌ててポケットのICカードを取り出し、改札に当てる。「(今の時代はこういうのが助かるぜ…!)」だが男達も同様に、ICカードですんなりと入場する。「(マジでこんだけ人がいるのにお構いなしかよ…!!)」ホームへと続く階段も急いで駆け降りる。「(時間は―――10分!!ルートが変わっちまったが、予定通りだ!!)」閉まりそうな扉に向かって慌てて飛び込む。振り返ると、男達はへとへとになりながら階段を下りて来る最中だった。電車はドナだけを乗せて走り出す。そんな男達に、舌を出しながら小ばかにしたように手を振った。「(ざまあみろ!)」扉に背中を預けると、息を整えるため深呼吸をする。周囲を見ると、電車の中はそこそこ混み合っていた。「(―――げっ!!)」その中から、怪しげな男達がこちらに近づいてくるのが見えた。「(おいおいおい、こっちでも待機してたのかよ…!!)」つーか情報筒抜けすぎじゃね!?確か、受け渡し時間を詐称して、本当の日時は一部の人間しか知りえないよう手配していた筈だ。男達が近づいてくる。電車内は密室だ。すぐに行動に移してくることはないだろう。―――とはいえ、先ほどの奴らのこともある。そしてここは電車内。他の乗客がいるこの状況を、利用しない手はなかった。「きゃーーーーッ!!!」悲鳴を上げるドナ。「!?」たじろぐ男達。「あの人達、ストーカーですっ!!!!ずっと着いてきてるっ!!」ぶりっ子しながら男二人を大声で指さすと、周囲の乗客がざわざわと騒ぎ出した。「ちっ…、違っ…!」おろおろとする男達の肩に、一人の屈強そうな男性が手を乗せる。「お兄さん達さぁ、駄目だろう。そんなことしちゃあ。」そして周りの男性が集まり出す。「俺もなんか怪しいと思ってたんだ。その子のところに一直線に歩いて行ってたからよ。」「おいおい、痴漢かぁ?」乗客達は男達を拘束し始める。「だ…大丈夫かい?」優しそうな男性がドナに声をかける。「こ…怖かった…皆さん、ありがとうございます…っ!」そうして男性に近づき、身を預けるように寄りかかる。「!!!」男性は照れたように手を彷徨わせる。「その人達、次の駅で降ろしてくださいっ…!」男達は乗客の男性たちに連れられ、次の駅で降ろされた。それを見届けながら、「(ハッ、ちょろいぜ。)」内心ほくそ笑むドナだった。その後ドナは、到着予定の駅の一つ手前で降りる。病院近くの駅では、待機されている可能性が高かったためだ。とはいえ、先を越されている可能性もある。周囲を警戒しながら進んでいく。
―――一方、ブレットの方は。「…」敵を捲きたいが、こちらが囮だということも悟られてはならない。となると。ギアを変え、ブレットはスピードを上げた。「!」尾行の車に乗る男は驚き、慌ててそれについていくようにアクセルを噴かした。他の車両の間を縫うように走る2台。突如曲がり角でドリフトし、左へ曲がるブレット。敵の車もそれに続く。「――!!」その目の前には、トラックが迫っていた。はみ出してきたブレットの車をよけようとしたトラックが、進行方向を誘導されたのだ。「…ッ!!」間一髪でそれを避ける敵の車。だが、ジグザクと他の車を避けている内、次第に減速していく。ブレットはというと、来た道を逆戻りして通り過ぎていった。「…!」追手が他の車に気を取られている内に、急旋回して方向を変えていたのだ。敵の車が慌てて後を追おうとするが―――車の方向を変えた時には、ブレットの車を見失っていた。――――「…しまった。やってしまった…。」ハンドルを握りながら、絶賛大反省中のブレット。昔の癖で、つい血が滾ってしまった。若い頃、カーレースに明け暮れていた時のことを思い出し、ついつい荒っぽい運転をしてしまった。敵の運転技術と運が良かっただけで、危うく一般市民を巻き添えにするところだった。元警察官だというのに、こんなことではいけない。「反省しなきゃならんな…。」次からは気を付けようと胸に刻むと、そのまま車を走らせた。
――――再び裏道を走っているドナ。息は上がり、額には汗が滲んでいる。「(~~~クソッ…!!)」駅を出てから暫くは平和に歩いていたが、またしても敵が現れた。ドナのGPSを追いながらジョンが指示を出し、仲間に手助けさせようとする。だが。『おい、また違うルート行ったのか!?』ルイザからの無線に、ダレルとジョンが呟く。「…まるでこちらの動きが読まれているかのようだな…。」「あぁ。手配しようにも、その先々に待機してるな。」なかなかドナに近づくことができない。相手もしつこく、ドナを追ってくる。
「(そろそろスタミナがやべーな…。)」走るスタミナよりも―――…と、ドナは足を止める。人通りは無いが、少し広い通りに出ていた。振り返り、男達に向き直る。そして。「!」もう一つ―――臓器が入っているカバンとは別の、もとより持参していた方のカバンから、銃を取り出した。「…ッ!!」咄嗟に物陰に身を隠す男達。そこに構わず銃弾を撃ちこむ。「…おいおいおい、どうしたぁ?出て来いよ、オラ!」肩に銃を乗せて、男達を挑発する。「流石に"これ"は準備してなかったかぁ?」そう言って男達の方へ歩いていこうとした時だった。「!」男達は物陰から現れると、ドナに向けて銃を構えた。「うぉわっ!!」今度はドナが咄嗟に建物の裏側へ隠れる。直後、男達の方からも銃弾が放たれた。「クッソ!持ってんじゃねぇかっ!!」壁を背後にその銃声を聞く。「(これじゃ埒が明かねぇか…。)」男達は、壁の向こうに隠れるドナの方へと駆け寄っていく。が、「!」そこにドナの姿はなかった。慌てて追いかけるように、その路地の奥へと走り出す。―――と、「…!」ゴミ箱の裏にしゃがんで隠れていたドナが、前を走る男の足を引っかける。一人が転ぶと、もう一人は立ち上がったドナに蹴りを入れられて倒れた。最初に転んだ男が、咄嗟にドナに向けて銃を撃つが、ドナはそれを、手にしていた臓器の入っているカバンで防いだ。「やべッ!!!」無意識にやってしまった行動に思わず言葉が出るドナ。やるとしたら最終手段と決めていたのに、と思いつつ、すぐさま男の手に向け銃弾を発砲した。見事にそれは命中し、男の手から銃が離れる。すると今度は、背後で銃を構えようとするもう一人の男に振り返り―――臓器が入っているカバンを投げつけながら、同時に、男に向けて発砲した。かばんは男の頭を直撃し、ドナの放った銃弾は男の腿を抉った。「やべ…ッ!」本日二度目の『やべぇ』。銃を取り上げた後、痛みに耐える男の脇でカバンを拾い上げる。―――カバンは防弾仕様だったためか、外側が若干凹む程度で済み、内側までは届いていないようだった。先ほどの医師の言葉を思い出す。『特殊な構造をしていて、激しい動きとか衝撃に強いから、中身は大丈夫な筈だ。とはいえ、くれぐれも(略)』「うわ〜〜…これちゃんと使えんのか…?」少し青ざめたドナが、もう一度箱の周囲をよく確認をする。銃弾が届いていないとはいえ、先ほどからかなりの衝撃を受けている。中身が無事だとは思えなかった。…ともかく、届けないことには何も始まらない。不安を抱えながらも、再び歩き出そうとした時だった。「――!」またしても追加で男二人が現れる。「~~~しつけぇ~~~ッ!!しつこい男は嫌われるぜ!?」冷や汗をかきながら笑うドナ。さてどうしよう、といったところだった。『時間稼ぎよくやった。』「!!」耳元から声が聞こえる。その直後、「!?」頭上から男達の方へ何かが降って来たかと思えば、たちまち煙が立ち込める。そして、男達をけん制するように、頭上から銃弾の雨が降ってきた。『世話が焼けるなぁ。』「ギル!ロイド…!」ドナのいる路地傍のビルの屋上に、ギルとロイドが到着していた。「お前ら遅ぇーんだよ!」そう言いつつもほっとした様子を見せるドナ。ドナが敵に仕掛けた道の周辺には、数台の監視カメラが設置されていた。仲間が来るまでの時間稼ぎにはうってつけの場所だったというわけだ。『うるせぇ。いいからさっさと行け。』「わかってるよ!!」再び走り出すドナ。その場は二人に任せ、路地を出ていく。工場地帯を暫く走っていると、先ほどとはまた別の男達が、背後からやってくるのが見えた。「どんだけいんだよ!?」そう呟くドナの先には、コンクリートで固められた川が。一直線に川の方へ走っていくドナに、男達は不審がる。その先に橋はない。川沿いまでたどり着くと、ドナは急停止し、カバンを手に突如振りかぶった。「――!!」そして、川の向こうへ向けてそれをぶん投げる。「…!?」そしてそのカバンが届く先には――――…「ルイザ!!」ルイザが待機しており、そのカバンを受け取った。「~~~~ってぇ…!!」落下の衝撃で若干手にダメージを負うものの、すぐさまその場を走り出すルイザ。その様子を見届けた後、ドナは振り返ると、ルイザに向けて発砲しようとする男達に、2丁の銃を構えて銃弾を浴びせた。「頼むぜ、ルイザ。」息を切らしながらルイザのいた方へ振り返るが、後姿は既に見えなくなっていた。
――――「(おいおい、マジでしつこいな…。)」ルイザが走っていると、またしても追手が。「!」しかもまた、前方からもやってくる。「――…」ルイザにはドナほどの器用さはない。ルイザは諦めたように立ち止まる。男達も、ルイザが観念したことを悟ったのか、歩き出して近づいてくる。―――その時だった。「!」突然、フルフェイスの二人組が乗る緑色のスーパースポーツバイクが、猛スピードで近づいてきた。「!!」男達はそれを咄嗟に避ける。バイクは男達を素通りし、ルイザの元へ。そして―――ルイザの持つカバンを強奪し、その場を走り去った。男達は一瞬呆気に取られたが、慌ててそのバイクへ銃弾を撃ち込む。が、時すでに遅し。バイクは彼方へと走り去っていた。男達が気づいたときには、ルイザも既に姿を消していた。
ルイザが追手に注意しながら歩いていると、そこに1台の車が止まる。「乗れ。」運転席にはギルがおり、その奥、助手席にはロイドが乗っていた。ルイザが後部座席に乗り込むと、そこにはぐったりと疲弊したドナが座っていた。「お疲れさん、ドナ。」「お前もな…。」「しかしなんだってこんなことに…。」「だから初めから、二手で車で行った方が良いんじゃないかって言ったんだ。」二人の会話にロイドが淡々と意見する。「だってまさかこんなすぐばれるとは思わなかっただろ。」ルイザの言葉に、ギルとロイドが畳み掛ける。「お前もそろそろ顔割れてきてんじゃねぇか、ドナ。」「目立つことばっかりやってるから。」ギルとロイドの毒舌合わせ技がドナを抉る。「うっ…うるせぇな…!」最早怒る気力もない様子。「まぁ寧ろ、7年やっててようやくかってところもあるだろうが…。」苦笑いを浮かべるルイザ。「…にしても、ナイスタイミングだったな、エルバートとグレッグは。」
――――ルイザの荷物を引っ手繰ったのはエルバートとグレッグだった。元々二人はブレット側の加勢をするつもりで待機をしていた。だが、敵側がドナを重点的に仕掛けているということが判明し、ドナ側の加勢へと廻って来たのであった。「――…なんかこれ、ボコボコなんだが。」後部座席に座るエルバートが、ルイザから引き継いだカバンを見ながら呟く。「…任務失敗だったら、ドナに弁償してもらうか。」運転するグレッグがぼそりと呟いた。
――――病院に辿り着き、エルバートが指定の医師にカバンを手渡す。それを受け取った医師はカバンの状態を見て顔を引き攣らせていたが、それを手に、急ぎ手術室へと向かった。暫くして、メンバーが勢ぞろいした。グレッグとギルが喫煙所に向かう中、ドナは手術室の前の廊下に残り、必死にお祈りをしていた。ドナの珍しい様子に、ルイザが思わず話しかける。「…お前そんなにお人好しだったか?」「運搬途中、いろいろあったから大丈夫かなと思ってよ…。頑張った分の報酬チャラじゃ割に合わねえ!!!」「そうだよな、お前はそういうやつだったな。」呆れたようにルイザは、冷めた目でドナを眺める。「銃弾撃ち込まれてたから、普通ならもう駄目だろ。」と笑うエルバート。「死んだらドナのせいだな。」とロイド。「お前ら…ッ!!私がどんだけ頑張ったと思ってんだよ!!この中で一番頑張ってたろうが!!つーかお前らの応援が遅いから…!!」「すみません、院内ではお静かに願います…!」看護師さんに注意され、慌てて口を噤むドナ。その様子を見てほくそ笑むエルバートとロイド。そんな風に騒いでいた時だった。自動ドアが開き、中から医師が出てくる。皆に緊張が走る。「せ、先生…どうでしたか…?」「はい…。」神妙な面持ちの医師に、皆ゴクリとツバを飲みこむ。その様はまるで、家族が手術を受けて心配している親戚一同のよう。「手術は―――」勿体ぶる医師に益々緊張が走る。――――「無事、成功しました!」爽やかな笑顔で言う医師の言葉に、ぱああと明るくなる面々。手術は無事成功!これで報酬が手に入る!と、皆でたたえ合いながら喜んだ。遅れて到着したブレットは、仲間達の様子を見て困惑していた。「なんなんだ…?」報告を受けたダレルとジョンは、ホームでほっと一息つくのであった。
――――後日、要人が沢山の護衛を引き連れて、自らダレル達のホームへ足を運び、お礼を言いに訪れた。「君達は命の恩人だ!」その様子は、とても大病を患っていた人間とは思えない。「(めちゃめちゃ元気じゃねえか…。)」「(よくもあの臓器で…。)」「(強ぇ〜〜流石この地位まで上り詰めただけあるな…。)」男の生命力に若干引き気味のメンバーだった。
「あははっ、やっぱ面白いなぁ。」糸目でロングヘアの女性がベッドの上で寝ころびながら、パソコン上に写る写真を眺めていた。そこには、ドナやルイザ、ダレル達面々が写っていた。そんな女の元に、一人の少女が近づいてくる。「なぁに、ミリアム?」ミリアムと呼ばれた少女の手には、コップに入った暖かいココアが。「ありがと。」それを受け取ると、女は少女の頭を撫でる。少女は嬉しそうに笑顔を咲かせた。「…さーて、次はどうしようかなー…。」その笑みは次の何かを企んでいるかのようだった。