政治家の男からの相談で、「選挙が近づいている中、娘の命が狙われているかもしれない。護衛をしてほしい。」との依頼を受けた。バーに全員集まり、ダレルから説明を受ける。「護衛…。」「うわ…めんどくせ~~~…!!」ドナの発言を珍しく注意しないダレル。その理由というのも―――…「しかも、反抗期真っ盛りの娘さんだ。」どうやら護衛をつけようにも『いらない!!』と断られるらしい。買い物を行くにも、屈強な男達が付いてきては気が散るとのことだ。それで若い女性が二人いるダレル達の組織に依頼してきたというわけだ。だが、その情報は全員にため息をつかせることに。「マジか…。」
――――翌日、一人の少女の後を付いていくドナとルイザ。ドナもルイザも普段とは打って変わって、どこにでもいる普通の女性らしい恰好をしていた。ドナは髪を下ろしてサングラスをし、ファートップスに短パン、ブーツという恰好。ルイザはポニーテールにハイネックニットにミニスカート、ブーツという恰好だ。パッと見は普段、人を殺してるとは思えないような、お洒落で綺麗なお姉さんだ。「…お嬢さーん。命狙われてんだから、そう簡単に外出するもんじゃねーと思うけどなぁー。」今日何度言われたかわからない言葉をまた言われ、怒ったように少女が振り返る。「なんで何にも悪くない私が!家に引きこもってなきゃいけないのよ!」「お前に理由がなくともあっちにはあんだよ。」「知らないわよ!」そうして再びスタスタと歩き出す少女。意固地になっている少女の様子に、ドナとルイザは顔を見合わせる。「駄目だなありゃ。」「言っても聞かない人種だ。」「は~~~全く参るな…。」頭をボリボリとかくドナ。「取り敢えず付き合うしかないだろ。」諦観したようなルイザは、再び歩き出した。二人は引き続き少女の後を追う。
――――「そもそもパパも大袈裟なのよ!いっつも仕事仕事で家のことなんか省みないくせに、こんな時だけ父親面しちゃって!」「…まぁ、そういうもんだろ。政治家なんだろ?親父さん。」「私より国の方が大事なのよっ!!」「んー…そこは何とも難しい問題だな…。」社会人としては、仕事の忙しさで家庭や他が疎かになってしまう気持ちもわからなくはない。まして政治家ともあればなかなかに多忙だろう。だが、娘を省みない父親にもそれはそれとして問題はあると思う。特に多感な時期の娘には、寂しいことだろう。「でも、そんだけ親父が好きってことだろ?」「…!―――別に、どうでもいいし!」図星だった。「ははっ!ったく、素直になれよ~~。」少女を捕まえてウリウリと頬を突っつくドナ。「なっ…なんなの!?ウッッザ!!」その二人の様子を傍から見ながら、「(珍しく優しいな…。)」と、ドナの少女に対する言動に対し、思うルイザだった。『親父』―――…きっとそのワードのせいだろう。何故だか少し切なくなるルイザ。「んで?今日はどこ行くつもりなんだよ。」「え?服買いに。」「お前なぁ…何もこんな時に行かなくても…。」「はぁ!?私、先週から今日買い物行くって決めてたの!今更予定変更なんてしないわ!!」「たくよぉ、これだからお嬢様は…。」そんな風に話しながら歩いていると。「!」唐突に銃声が鳴った。ドナの耳元をかすり、建物の壁に弾が当たる。咄嗟に少女の肩を掴むと、建物の影に身を潜めるドナとルイザ。「…おいおい、どっから狙ってやがる。今のはなかなかヤバかったぜ。」「腕が良いな。しかも、街中でも構わずか。」「さっすがぁ!警察が機能してねぇこの国だからこそできることだな!」「褒めてる場合じゃねえぞ。」「なっ…、なんなのよッ!!」慌てふためく少女を気にも留めず、両サイドから周囲の警戒を続ける二人。「近くじゃねぇな。」「油断するなよ。」「ばーか、誰に言ってんだよ。」「ちょっと!ねぇ!聞いてるの!?」無視する二人に苛立ち、少女が咄嗟にドナの腕を掴もうとする―――が、ドナがそれを避け、逆に少女の腕を捻り上げた。「痛っ…―――!」「いいかお嬢さんよ。私達の邪魔だけはすんじゃねぇぞ。死にたくなけりゃ黙って言うこと聞いとけ。わかったか?」そう言っていつの間にか取り出していた銃を見せびらかし、フリフリと銃身を揺らす。目の前で上下する銃を見ながら、体を強張らせ、顔を青くしながらふるふると首を縦に振る少女。「よーし、良い子だ。」ドナが少女を黙らせている間に、どこかと連絡をしていたルイザ。「エルバート、どうだ?」『あー…悪いがわからねぇな。まだ居場所の特定ができてねぇ。』
――――時を同じくして、ドナ達がいるビルとは反対側の建物の屋上に、銃を手にしたエルバートとグレッグがいた。「ここで仕掛けてくるとは、予想通りだったな。」少女が遊びに行く場所は大体決まっていた。今日もこのルートを通るだろうと見越し、もし敵がスナイプするなら…という地点を予測しての配置だった。「あぁ。この辺りだと思うんだけどな…。」「もしかしてビルの中か?」「あー…その可能性は無きにしも非ず、だな。…となると。」エルバートは再び無線に手を伸ばす。「ロイド、そっちはどうだ?」
――――今度は、ドナ達側のビルの数階上―――飲食店の窓辺から、ロイドが双眼鏡で見下ろしていた。暫く無言だったが、突如「あ。」とだけ声を発した。『いたか?』「…エルバート達から見て斜め左前のビルの―――6階だ。」ロイドの視線の先では、窓の隙間から未だドナ達の方へ銃口を向けている男の姿が。
――――「…おいおい、素人かよ。」「こっちとしては好都合だな。――行くぞ。」その情報に、エルバートとグレッグは動き出した。
――――「…さて。どうする。」「取り敢えず入るか。」「それもそうだな。」そう言って少女を引き連れて、少女の目的地であった巨大ショッピングモールに入ろうとする二人。「えっ!?ちょっ――…大丈夫なの!?」「あぁ?大丈夫だって。寧ろ人が多い所の方が紛れ込めるし、あいつらも下手に銃をぶっ放せない。好都合なんだよ。」「そのためのこの恰好だ。」不自然なく逃げ込めるようにと、一般女性の恰好をしているというわけだ。「もしもの時は使えるしな。」そう言ってにやりと笑うドナは、不思議と頼りになった。ドナとルイザは間に少女を挟み、周囲を警戒しながら中を進む。「服屋行くぞ。」「えぇ!?」そう言って若い女性向けのショップに入る。適当な一式コーデを3種手に取ると、店員に話しかける。「これとこれとこれ、買うから。すぐ着ていく。服は捨ててくれていい。」そう言って多めに金を出すと「釣りはいらねぇ。」と言い、少女の襟首を掴んで、服と一緒に更衣室へぶち込む。「30秒で着替えろ。」そう言ってカーテンを閉め、自分達も隣の更衣室へ入った。「えっ、えっ!?」「さっさとしろ!」言われるがままに急いで着替える。着替え終わり、カーテンを開けると、既に二人は着替え終わっていた。どちらかというとガーリー寄りだった二人のコーデは、パンツスタイルの大人かっこいいマニッシュ系のファッションに変わっていた。二人ともサングラスをかけており、まるでモデルのようだ。髪型も変えており、ドナは帽子の中に髪をしまい込み、ルイザは後ろでまとめていた。まるで雰囲気の変わった二人に見惚れていると、「これ被れ。」とドナに帽子を渡され、「行くぞ。」とルイザに背中を優しく押されて、急かされるように歩き出す。堂々とモール内を歩く3人。「きょろきょろすんな。」そう言われ、びしりと背筋を伸ばして前を向く少女。「私達だけだったらこんなまどろっこしいことしねぇんだがな。」か弱い少女を傷一つつけないよう守りつつ逃げる、という制約はなかなかに厳しい。そんな時、ふいに何かを察知する二人。「―――…今の…。」「あぁ、多分な。」サングラスを少しずらし、すれ違った男達を振り返りながら、少女の頭上でこそこそと喋る二人。男達は周囲をきょろきょろと見回している。「作戦成功っ、てか?」「おい、台無しだぞ。」ルイザに指摘されたドナは、前へと振り向きながら、緩くなった顔を再びキリリと戻す。だが、すぐにまた元通り。「このまま行けんじゃねぇの~?」「慢心は足元掬われるぞ。」「へいへい。」そう言いながらドナは、ふと視線を左右へ移した。「――…。」「どうした。敵か。」「いや…。」ドナの視線の先には、白髪の幼い少女が。こちらを見ているような気がしたが…。「…なんでもねぇ。」大人なお姉さんに見とれたか?と、気を取り直して前を向く。やがて広い吹き抜けを通りがかり、エスカレーターを降りようとしている時だった。「!!」明らかにこちらを見る男二人組が、上の階から覗き込んでいるのが見えた。「おいおい…なんでわかった。」「結構特徴隠したんだがな…。」「つーか情報回るの早くね?」冷静なドナとルイザに対して、慌てふためく少女。「どっ、どうすんのよ!!」「まぁ落ち着けよ。」「慌てたところでヘマするだけだ。」エスカレーターを降り切った瞬間に少女の手を取って走り出す。「走るぞ!!」「走る前から言いなさいよっ!!」そう言って近くの女性物の下着店に駆けこむ。客のフリをしてやり過ごすと、背後で男達が走り去るのが見えた。「行くぞ。」足早に移動する。その後も、雑貨屋、家具屋、…と、店に隠れながら男達の視線を搔い潜っていく。「くっそ~~~~!!あいつらしつけぇな!!」なかなか振り切れない男達。「そろそろ出ないと集まってくるな。」そうして、従業員用出入口に入ろうとすると、女性店員が慌てて止めに入る。「お客様!すみませんがこちらは―――」「悪漢に追われてる。」ドナが小声でそう言い、女店員に詰め寄る。女店員がドナ達の背後を見ると、見るからに怪しげな男達が、きょろきょろと何かを探している様子が目に入った。ドナとルイザ、そして一人の少女を見る。「…こっちよ。」察したように、女店員は静かに扉を開けてドナ達を誘導する。ドナは、小さな声で隣のルイザに呼びかける。「こういう時に女だと便利だよな!」「お前って奴は…。」そうして出口に誘導してもらった。
――――時は少し戻って。エルバートとグレッグが目当ての建物に入った瞬間だった。「!!」明らかに怪しげな男―――目深く帽子を被り、ハイネックパーカーに顔を隠した男―――が、慌ただしく階段を下りてきた。エルバート達の姿を見るや否や、彼らとは別方向に走り出す。「全くわかりやすいな。」男を追いかけながら銃を撃とうとするが、男は廊下の窓を開けると、そこから身を乗り出し―――飛び出した。「!」隣の建物に着地すると、そこからまた走り出す。「おいおいおい、追いかけっこは勘弁してくれよ…。」「元気なこったな。」エルバートは同じルートで、グレッグはそのまま真っ直ぐと走りだす。そこから逃走劇だ。ビルの中や屋上、障害物を利用して、男は銃弾を避けていく。「全然素人じゃなかったな…!」つかず離れずで男の後を追い続けたエルバートは、段々とその息が上がっていくのを感じた。エルバートがそろそろ勘弁してくれ!!と思っていた矢先だった。「!」男が逃げる前方にグレッグが現れ、道を塞いだ。それを目にした瞬間、方向転換する男。だがその先は…―――。「ナイスだグレッグ!」「遅ぇーぞ。さっさとしろ。」クールにそう言い放つグレッグも、若干息を切らしていた。エルバートが男を追った先は、まさに袋小路だった。突き当りは壁、他の三方向も全て壁だ。立ち尽くす男。もう逃げ場がないと悟った男は、急に体を翻すと、エルバートの顎目掛けて掌底を繰り出してきた。「おっと!」それを間一髪で避けるエルバート。「早ぇ~~~…」一時距離を置く。男は近接でやる気だ。動きを構え、軽快なステップをし出す。「おいおい…。」おっさんもう疲れてんだよ、という気持ちだったが、やる気になっている相手に銃をぶっ放す気持ちにもなれなかった。「任せたぞ。」もう面倒だ、とばかりに柱に寄りかかり、腕を組んで観戦モードのグレッグ。「あぁ!?お前がやれよ!!」「俺はもう今日の仕事は終わりだ。」「チッ…!!クソ野郎~~~~!!」そうこうしていると、男がエルバートに仕掛けてきていた。「!」突き出された拳を、咄嗟に腕を使い受け流す。立て続けに攻撃が来る。エルバートはそれに対し、避けたり、受け流したりして、そう簡単には当たらせない。掠りはしても、上手いこと直撃を免れる。男は自分の腕に自信があったのだろう、思ったよりも反応を見せるエルバートに焦りを感じ始めていた。その焦りが一瞬の隙を生んだ。エルバートは男の腕を捉えると、足を薙ぎ払い、その体を宙に浮かせた。そして―――男を地面に叩きつけると、その場に組み伏せた。「…ッ!!」その様子を見て、ぴゅうと軽く口笛を吹くグレッグ。息を切らしながら男の帽子を剥ぐエルバート。その顔を見て、はあと息を吐き出す。「――…おいおい、ガキかよ。」その発言にギラリとエルバートを睨みつける、齢は17くらいと思われる少年。「…俺は雇われただけだ。」「そうだろうなとは思ったよ。で?依頼主は誰だ。」「…それは言えねぇ。」はーっとため息をつくと、屈んでいた体勢から腰を下ろす。「折角良いもん持ってんのに宝の持ち腐れだぜ。もっとまともな仕事しろ~?」そう言って少年の頭をぐりぐりと撫でまわす。「ガキ扱いすんなッ!!」「まだガキだろ。」「…あんたら、何者だ。」少年の問いに、エルバートは微笑みながら答える。「裏世界の、何でも屋だ。」
―――ドナとルイザはショッピングモールを出た後、周囲を警戒しながら、少女を連れて裏道へ移動していた。そこに道を塞ぐようにして、突如として現れる男二人。男達が銃を構えるより早く、ドナは少女を勢いよく引き寄せながら建物の影に隠れ、ルイザは男達に銃弾を撃ち込む。ルイザは、銃弾が男に着弾したのを確認した後、すぐさま柱に身を隠した。「――…このルートで正解だったな。」「障害物がなけりゃやられてたな。」そう言ってルイザは、今度は自分達が来た方向へ、ドナは進行方向の先へ、銃を撃ち込み、牽制する。前後の敵も、応戦するように銃を放つ。銃声が絶え間なく響き、弾丸が空を飛び交う。「きゃああああッ!!」縮こまり、頭を抱えて悲鳴を上げる少女。「うるっせぇ!!静かにしてろ!!」やがてルイザの弾は後方の敵に当たる。それを好機と、身を乗り出すルイザ。同時にドナは、近くに落ちていたゴミ箱を、前方の敵に向けて思い切り投げた。「!」敵がそれに気を取られている内に、低姿勢で素早く敵の近くへと接近する―――と、回し蹴りで相手の首元を蹴り上げた。そのままの流れで、もう一人にも裏拳を食らわせる。倒れこむ二人を眺め、「女だからって舐めてっと痛い目見んぞ。」と吐き捨てた。後方でも敵を片づけたルイザが、少女の腕を取り促していた。「さっさと行くぞ。」
―――やがてドナとルイザは、海の傍の公園へと辿り着いた。高さのあるレンガ造りの花壇の前で、座り込んで潜む。不安と緊張からか、少女は突然泣き出してしまった。「おいおい泣くなよ…。」ドナは呆れながらも、その頭に手を乗せると乱暴に撫でてやる。そんな少女の様子を見ながら呟く。「…これに懲りたら、これからは親父の言うことをちゃんと聞くんだな。」「ひっ、うぅ…っ、」「お前の親父は確かに普通と違う。でもだからこそ、普通ではいられねぇんだ。…そこはお前も、理解してやらなきゃいけねぇところだ。」少女は次第に泣き止んでくると、ドナの顔を見た。ドナは、真剣な表情で目の前の海を見つめていた。「…お前の親父は、お前のことを守りたくて私達を手配した。お前のことが大切だから、そうした。…それは紛れもない事実だ。」そして再び少女を見る。「死んじまったら、二度と会えねぇぞ。」その言葉に、ルイザはドナの様子を伺うように見る。そして弱気になった少女はまた泣きそうな顔になった。「もう無理よぉ…。」「無理じゃねぇよ。私達が、お前を親父のところまで送り届けてやる。」「…!」そう微笑むドナの顔は、頼りがいに溢れていた。そんな時だった。後方を警戒していたルイザが、何かに気づいたように身を屈める。ドナもそれに倣い、ルイザと同じ方角を見た。ドナ達の背後の奥の方。先ほどの奴らの仲間だろう男達が、歩いてくるのが見えた。「きっ…来た…!!」少女が脅える。が、「大丈夫だ。」ルイザが微笑んで少女の肩に手を乗せた。「!」その時、数発の銃弾が上空から降り注ぐと、男達が倒れていった。遠くのビルから――…ギルが、スナイパーライフルを構えていた。「さっすがぁ!!」「私達の仲間だ。」ルイザの言葉にほっとしたのか、表情が和らぐ少女。だが今度は、ドナ達の元へ勢いよく車が突っ込んで来る。近くまで来たそれは、ドリフトしながら3人の目の前で停車した。それを見て、「ヒツ」と引きつった声を上げる少女。ドナとルイザは少女を連れて性急な動作で車に乗り込む。「出してくれ、ブレット。」そして車は、急発進してその場を走り去った。後ろから弾丸が数発発射されて少女はまた縮こまったが、防弾仕様の車体により弾かれ、無傷で済んだ。バックミラーを覗くと、車に銃を放った男達が、遥か後方で倒れこむのが見えた。「多分ロイド辺りも着いたな、ありゃ。」ドナとルイザは振り返っていた体を元の位置に戻す。「…仲間が、沢山いるのね…。」少女がふと零した呟きに、得意げにドナとルイザが答える。「あぁ。―――頼りになる仲間がな。」そんな二人の笑みを見て、ようやく少女も笑った。
―――「どうやら終わったようだな。」連絡を受けたグレッグがエルバートに伝える。「…なぁ、お前うちの組織に来ねぇ?」拘束した少年に対し、勧誘の言葉を投げかけるエルバート。「おいおい…」たまらずグレッグが突っ込む。「お前、そうやってどんだけうちの人手増やすつもりだよ。」「有能な従業員はどれだけいてもいいだろ?俺の仕事が楽になる。」「…そうやってロイドを勧誘したのが1~2年前だったか?ダレルの奴が頭抱えるな。」「あー…なるほどな。言われて見りゃあ、確かに似てんのかもな、ロイドとこいつ!」そんな風に話していた時。「あ!!」少年はいつの間にか拘束を解いて、逃げ出していた。「誰がお前なんかと一緒に働くかっ!!」捨て台詞のように叫ぶ少年。「てめこのガキ…!!」今から追っても捕まえられない距離だ。無情にも手を伸ばして固まるエルバートに、背後のグレッグは呆れたようにため息をつく。「あーあー。」「ぐ…グレッグ!頼む!このことは…!」「どうすっかなー。暫く昼飯驕ってくれたら黙ってやらねぇこともねぇが。」「よぉーし、1週間だ!!」「2週間。」「ぐっ……!…じゃあ2週間…。」「交渉成立だな。」がっくしと項垂れるエルバートを置いて、さっさとその場から歩き出すグレッグ。「…まぁ、あいつは単独で依頼されたみたいだし、今回受けた組織とは実質別だろう。主犯は残りの奴に聞きゃあわかるだろうぜ。」「…そうだけどよ…。」「エルバート。」立ち止まって振り返るグレッグ。「あんなのに一々構ってやれるほど、俺らの寿命は長くねぇぞ。」「!」「いい加減割り切れ。」そう言って背を向けて再び歩き出すグレッグ。「――…流石先輩の言うことは尤もだなぁ…。」そう言って見上げた空は、夕焼けに染まっていた。
「で?主犯は見つかったって?」バーのボックス席で新聞を眺めていたドナがダレルに問う。そこには、『共同党ジョシュア氏、対抗政党のトップに対し暗殺部隊を派遣か!?娘の命を狙う』とあった。「あぁ。捕まえて渡したメンバーが吐いたらしいな。」あの後、ロイドとギルが捕縛し、依頼者の元へ引き渡したようだ。「これにて一件落着、ってか?」「ドナ、ルイザ!!」カランカランと音を立てて少女が入店してくる。その姿を見て、げっとドナとルイザが目を見開く。あの護衛をした少女だ。「この前はありがとう!」2人の姿を見つけるや否や駆け寄ってくる。「おいおい、お嬢様がこんなとこに来るもんじゃねぇぞ。」「よくここがわかったな。」「パパに詰め寄って聞いたのよ。」「言うなよな…。」「…あの後、パパとよく話したの。話して、お互いのこととか気持ちとか、全部共有した。そしたら…パパに対する反抗心がちょっと消えたの。パパも、私達家族のことを想ってくれてるのがわかったから。―――…ちゃんと話さなきゃ、わからないことってあるのね。」その言葉にドナの表情が和らぐ。「…ありがとう。二人が、…皆が、私を守ってくれたからよ。一言、直接お礼を言いたかったの。」その場にいたメンバーの少女を見つめる目は、皆どこか優し気だった。「ねぇ、たまに遊びに来てもいい!?」「はぁ!?駄目に決まってんだろ!!」「え~どうして~。」「あのなぁ!ここはアジトなんだぞ!銃扱ったり殺しをしたりしてる奴らの!危ないの!わかるか!?」「でもバーでもあるんでしょ?」「お前にはまだ早い!!」「え~~!!」そうやって少女と戯れるドナの様子を見て微笑む仲間達だった。