「おっ!イライザ!」ドナとルイザが事務所の応接室に入ると、イライザと呼ばれた、赤髪で目つきの悪い女がいた。彼女は武器商人で、例の老人の紹介によって、ダレル達の組織と契約を行った業者の構成員だ。信頼度の高い業者で、イライザはダレル達の組織の担当を受け持っている。今日はホームへブツの納品に訪れていた。当のイライザは冷めた目でドナとルイザを一瞥する。「なぁイライザ〜〜今度は例のやつ仕入れてくれよ♡オマケしてさ♡」「…きちんと金払えば入れてやるよ。」「例のやつってなんだよ。」「ロケットランチャー!!」「いらねえだろ…。」「ロケットランチャーはロマンだろ!」「いつ使うんだよ。」戯れるドナとルイザを尻目に、さっさとダレルと処理を進めるイライザ。「…にしても、今回は随分と沢山買ったな。」「あぁ。ちょっと一仕事があってな。」「…そうか。」それ以上の話は仕事上必要ない、とばかりに打ち切るイライザ。だが。「なぁなぁ~!もっと興味持ってくれよ!聞くか?今度の仕事の話!」そう言ってイライザの肩に腕を回し、ウザ絡みするドナ。「…」明らかに鬱陶しそうな顔をしているイライザの頬をドナが突く。「お前さぁ、取引先ともっとコミュニケーションっつーの?取らねぇと上手くやってけねーよ?まずは世間話からさぁ、」「…おい、こいつ酔っぱらってんのか?昼間っから酒たぁ、どういう教育してんだ。」ウザ絡みしてくるドナに苛立ったイライザは、ダレルに抗議する。「…すまんな。年上の姉さんに甘えてるんだ。」「はぁっ!?なっ…違っ!!」顔を赤くしながら咄嗟に立ち上がるドナ。「じゃあこれで。」構わずさっさと書類をまとめて出ていくイライザ。「ったく、相変わらず連れねぇな~…。」「お前の絡み方が悪い。」ドナを刺しながらスタスタと納品された武器の元へ歩いていくルイザ。
――――数日前。作戦会議室に集められた組織メンバー一同。皆、普段とは打って変わって真面目な表情でダレルの話を聞いている。「今回の依頼は…ギャングの壊滅だ。」皆の中心にある机には地図が置かれていた。「5年ほど前から突如台頭してきた組織で、近頃は女子供関係なく"ヤク"を売り捌いて回っているようだ。中毒者が蔓延し、既にペゼウ地域は壊滅状態らしい。」地図上の"ペゼウ地域"と書かれた箇所へ、全員の視線が集中する。「どうやらまた取引があるらしくてな。取引先諸共、潰してほしいとのことだ。―――ちなみに今回は、市からの依頼だ。…被害の内容と依頼元の情報から、今回は受けてもいいと判断した。」依頼者の情報に、「面倒だな」「まーた市のおサボりかよ」という雰囲気を醸し出す仲間達。「…殺してもいいのか?」グレッグの質問に、「構わない。」と即答するダレル。「ま、市のお墨付きならまだやりやすいってもんだな。」「つーか市警は現場に来ねぇってこと?」「…終わりそうな頃に到着するそうだ。」「うーわ。」「怠慢も良いとこだな…。」「まぁ、我々を信用しているということだろう。」「物は言いようだな…。」ぐちぐち言うメンバーに対し、ダレルが締めの言葉を放った。「…ということで、色々と準備が必要だ。よろしく頼む。」
――――町を車で通り過ぎる。夕方だというのに、街中には、四肢を放って寝転がったり、心ここにあらず、といった様子で壁に寄りかかり遠くを見つめる市民がいた。他にも、ゾンビのように徘徊したり、ただただ道の真ん中で佇んでいるだけの者もいた。「…おいおい、マジでラリった連中ばっかじゃねえか。」しかもその中には子供もいる。「こりゃひでぇ…。こんな状況になるまで放っておいたのかよ?」このペゼウ地域は市の外れの方にあり、ダレル達の組織まで風の噂ほども情報が流れてこなかった。「…ここまでの状況になったのは、特にここ数か月らしいからな。無理もねぇ。」「…」窓の外を眺めるドナとルイザは、何か思うところがあるらしいが、何も言わずに無言を貫いた。やがて車は目的地付近に到着した。指定の敷地に駐車をし、荷物を建物の中へと持っていく。そこには既に辿り着いていた面々が、武器や装備の準備を始めていた。残弾数や、銃に不具合がないかを改めて確認し、体制を整えていく。ブレットがふと時計を見る。「―――…そろそろ時間だな。」その言葉を合図に、その場にいた全員が荷物を手に動き出す。建物を出ると、日は既にとっぷりと暮れていた。二手に別れて、行動を開始する。周囲を警戒し、陰に身をひそめながら、目的の建物へと足を進める。巨大な廃工場で、中は少し複雑なつくりをしていた。取引には持って来いの場所というわけだ。既に人員が配置されており、建物のあちこちで監視の目を光らせていた。それを掻い潜りながら、必要に応じて、サイレンサー付き小銃で麻酔薬を撃ち込み、眠らせていく。そうしてやがて取引現場へとたどり着いた。ドナ、エルバート、ロイドチームは、2階の手すりから見下ろすように1Fの取引現場を眺める。「取りあえず写真納めとくか。」そう言って今まさに取引のまっ最中である写真をスマホに収めるドナ。「送ったぜ、ジョン。」通信でジョンへと連絡を入れるドナ。『あぁ。念のため市警に送っておく。』「で?どいつが頭だ?」「多分あいつだな。」エルバートと確認しつつ、市警から貰った情報と一致をさせる。『準備は出来てるか。』別の方向に潜むルイザから無線が入る。「ロイド、お前はどうだ。」「万端。」「だそうだ。」『じゃあ行くぞ。』そして合図をすると、ルイザがギャングのリーダーの頭をスナイプして撃ち抜く。構成員達や取引相手がどこだどこだと探している間に、ドナ達、ルイザ達が両方向から銃を乱射していく。次々に倒れこむターゲット達。そして、ドナ達の居場所に気づいた構成員達が、続々と移動を開始する。「来たぞ。」「そろそろ行くか。」銃撃戦が始まった。ジョンが予め、建物の平面図や写真等を取り寄せた上で、現在の建物の状態を調査してくれていたことから、構造や中の状態は把握済みだ。敵がどの方向から攻めて来るかというのも計算済み。上手く廊下の角や遮蔽物を利用しながら、銃以外にも、ロイドの煙弾や手榴弾なども使って敵を蹴散らしていく。なかなか効率的に進んでいるように思えた。―――が。「敵の数が多すぎねぇか!?」倒しても倒しても敵が湧いて出てくるような状態。建物の廊下の端と端で打ち合いをするドナ一行。膠着状態が続いていた。「これじゃ埒が明かねえな…。」「これ使う?」そう言ってロイドが取り出したのは―――「おっ!良いもん持ってんじゃねえか!」そしてドナはそれを受け取り、ピンを外すと、敵のいる方向へぶん投げた。そして耳を塞いで目を瞑ると、閃光が走る。キーン…という音が木霊する中、すぐさま低い姿勢で走り出すドナ。スライディングしながら、廊下の奥の死角に向けてマシンガンをぶっ放す。残りの敵は、起き上がる勢いに任せながら、蹴りでなぎ倒した。一度相手のスペースに入ってしまえばこちらのものだ、とばかりに、そこから接近戦を持ち掛ける。残り二人に素早く駆け寄ると、近接格闘術と、懐から取り出したナイフを駆使してなぎ倒した。後から追いかけてきたエルバートは、ドナの無双っぷりを見て、味方と言えど引き気味だった。「…あいつやっぱイカレてやがんな…。」「頭おかしいな、あの動き。」思わずロイドも賛同する。「お前ら行くぞ!」呼びかけるドナの背中を追って、エルバートとロイドが続いた。やがて物が溢れた倉庫内に辿り着く。そこではすでに、ルイザ達が銃撃戦を繰り広げていた。「よう。」巨大な箱の裏に潜んでいたルイザの隣につくドナ。「そろそろ弾がヤバい。」そう言って残弾数を確認するルイザ。それを見て、「まぁ任せとけって。」「あっ…お前ッ!!」ルイザの制止も聞かず、ドナは陰に身を潜めながら敵との距離を詰めていく。まるでアサシンのように潜みながら敵の牙城に攻め込む。障害物を壁にして、時には踏み台にして、時には盾にして、どんどんと数を減らしていく。そんな時。「ドナ!!右だッ!!」ブレットの声で振り返るドナ。「――…!!」ドナの死角である右側から、潜んでいた敵が現れる。その男が銃を構えようとした時―――パァン、と音を立てて、男は頭から血を流し、崩れ落ちた。それを見て笑うドナ。「あっはは!!さっすが相棒!!」見ずともわかった。ルイザだった。「ったく…無茶すんな馬鹿ッ!!」「お前がなんとかしてくれんだろ。」「まぁ、良い囮にはなってくれたな。」「酷ぇな!」そう言って笑うドナとルイザの周りには、もう立っている敵はいなかった。「お前ら息ぴったりかよ。」エルバート、グレッグ、ブレット、ロイドが、拾った銃を確認しながら集まってくる。「まだ残党がいるかもしれねぇな。」銃撃戦の中、どさくさに紛れて逃げ出した構成員も目撃した。「したら、もう少し奥探索するか。」そう言って探索を始めようとした時だった。突如その先の部屋から爆発音がした。「―――…は?」一同目を丸くしてそちらを見やる。と、『お前らヤバい!!!早くそこから出ろッッ!!!!』ジョンの焦ったような言葉が聞こえ、何も言わず、瞬時に逆方向へと走り出すメンバー。直後、連鎖的に爆発が起こる。『そこの奥はやべぇ!!!――――花火倉庫だ!!!!』全速力で逃げ出す6人の背後で、ドンドンと爆発音が鳴り響いた。「聞いてねぇ!!聞いてねぇよッ!!!」その背後ではドンドンぴゅーぴゅーと花火が暴発する。爆発によって生じた崩壊が、6人へと迫ってきていた。廃墟で建物の耐久性が落ちていたからか、連鎖的な崩壊が止まらない。脅えながら、必死な形相で逃げ続けるメンバーの中で、グレッグとロイドも珍しく冷や汗をかいていた。―――遠くでは、表へ飛び出してきた残党を始末していたギルが、屋上で手を掲げながら「…綺麗だな…」とのんびりと眺めていたのであった。
――――「…し、死ぬかと思った…!!」皆、地面に座り込んだり、仰向けに寝転んだりと、逃げ切った安堵感の中、呼吸を整えていた。『…悪い。何十年も前に廃墟になったって聞いてたから、まさか未だにブツがあるとは俺も…。』怒る気力にもなれず、皆ただひたすら荒い呼吸を繰り返していた。「つーかさっきのマジでナイスだったぜ、ルイザ。流石にアレはヤバかった。」仰向けに寝転んだドナが、傍らに座るルイザに話しかける。「…まぁ、私がお前の右目になるって言ったからな。」「!」懐かしい言葉に、思わず目を反らす。「…んなもんいつまでも気にしてんなよ…。」「うるせぇ。」「それを言うならお前の顔に傷付けたの私だぜ。」「私は五体満足だ。」「ったく、クソ真面目な奴…。」ドナが起き上がると、遠くから警察が到着するのが見えた。「遅ぇよッ!!!」「終わった"後"に来てんじゃねぇよ…。」
そして後から到着したギルに、「綺麗な花火にならなくてよかったな。」と言われたが、誰も何も返せなかった。
「その後残党も大方始末できたみたいだ。あんなことが起きて、警察も本気を出してきたとなれば、組織再建も暫くは難しいだろう。」警察がようやく仕事をして、組織を壊滅に追い込むことができたという。ダレルからその話を聞いて、一先ず安堵するドナとルイザ。「…ヤクなんてなけりゃあ、普通の暮らしを続けられた奴らもいただろうにな…。」ルイザが、移動中に見た光景を思い出しながら、目を伏せる。「ああいった事件は未然に防止したいところだが…難しいな。」ダレルも遠い目をしながら呟く。そんな二人に、ドナが吐き捨てるように言った。「カミサマじゃねーんだ。タラレバなんて考えたって仕方ねぇよ。私達は私達の出来ることをするしかねぇ。」ドナが言うと、ダレルとルイザが見る。「…そうだな。」そしてそう言って、空を見上げるダレルの姿があった。