先刻感じたおぞましい気配に、焦る弁財天。恵比寿に縋りながら訴える。「どうしよう、多分神社の方だよ…!すぐに行かないと!」「でも、こっちにはまだ残党がいるだろうし…。…誰かがここで食い止めないと…。」「そうだけど…ッ!!」「こっちは任せな。」「大黒天!」2人の元に大黒天が現れる。「残りはどうせあと少しだし、私と恵比寿で片づけるからさ。弁財天はさっさと行きな。――だろ?恵比寿。」「…そうだね。弁財天は先に行って様子を見てきて。私と大黒は後から行くよ。」「…わかった!」そう言うと、三者散り散りになり駆け出した。
―――――寿老人達一行は、山を急いで駆け降りていた。「…さっきの、何かしらね…。」「あんなの今まで感じた事ねぇ…。とんでもねぇ気配がしたぞ…!?」「皆大丈夫かな…。」座敷童は不安で泣き出しそうになっている。その様子を、悲痛な面持ちで見る布袋。「…何もないと良いんですけど…。」「…ともかく、急ぐぞ。」寿老人の言葉に、一層足を速める5人だった。
―――――「…おいおいおい、やべぇぞ…!!」「あいつは…。」狐とぬらりひょんが見下ろす先にいる男は、じっと神社の方を見上げていた。纏っている"気"が、明らかに他の妖怪達とは違う。尋常じゃない気の量と邪悪さだ。狐の毛がざわざわと逆立つ。その感覚だけで、その男が只者ではないと察した。男は、ゆっくりと石段に片足をかける。「登ってくるつもりかよ!?」狐は鳥居の前で臨戦態勢を取る。絶対に人間に近づけてはならない。「お前らはもっと下がれ!!」「はっ…はい!!」狐に指示されるがまま、真志の両親は住民たちに危険だから下がるようにと促す。人間達の中にも、本能的に気配を察している者がいるようで、青ざめたり脅えたりする様子も見えた。そんな人々を見た後、狐は千何百年ぶりに訪れた脅威に視線を戻す。男は一歩一歩、まるで踏みしめるようにしながら石段を登り、着実に距離を詰めて来ている。「(俺がなんとかしねぇと…!!」)」この神社には、多くの人々が避難している。狛虎も七福神達もいない今、ここを守ることができるのは狐しかいなかった。そんな狐の隣に、ぬらりひょんも立つ。「お前…。」「…当たり前だろ。俺だってこの町の住人だ。それに…―――お前の相棒だしな。」「!…ったくよ…!」そして2人して男に向き直る。「…俺の力は、『護り』に特化したものだ。…もしもの時は頼むぜ。」「あぁ。」そして狐は目を細めて精神を集中し、全身へ、周囲のあらゆる気を集めるようにして、力を込める。そしてカッと目を見開くと、溜めた力を解き放った。狐の放った力は形を成して、神社周辺に強固な結界を張り巡らせた。狐の総力が今、ここに集約している。「…これでどの程度奴を防げるか…。」まだ遥か下にいる男の出方を伺っていると、突然男は姿を消した。「!?」そして次の瞬間には、狐達のすぐ目の前にまで迫っていた。「!!」「なッ…!!」しかも、その手には刀が握られている。狐達がそれに気づいた直後、男はいつの間にか抜き身の刀を掲げ、頭上から振り下ろしていた。「…ッッ!!」狐が力を込め、結界でそれを防ぐごうとする。刀と結界が接した瞬間、激しい音と閃光が走り、気の波によって周囲に風が巻き起こった。後ろからは住民達の、「きゃあッ!!」という悲鳴が聞こえてくる。「(とんでもねぇ力だ…!!)」僅かでも気を抜けば、結界が割られるだけでなく、狐自身が吹っ飛ばされてしまうだろう勢いと強さがあった。狐は、全神経を集中して力を投入し、必死になって男の攻撃を食い止める。―――そんな最中、母親と共に境内の奥に避難していた子供が、母親に抱かれながら何かに気づいたように呟く。「あ…。」視線の先では、鳥居の前で力の限り踏ん張る狐の姿が薄ぼんやりと見えていた。―――攻撃に耐える狐に、ぬらりひょんが横から声をかける。「行けるか。」「物は試しだッ!!」ぬらりひょんの問いかけに狐が力を放出する。結界に接している刀へ、ばちりと一点集中で気を撃ち込み、男の斬撃を跳ね返した。「!」男の体が後ろへ傾き、宙に浮く。その隙に、ぬらりひょんが両手をかざし、男に向けてその掌から何かを打ち出した。「…!」直径30cmほどの気の塊が高速で男へ撃ち放たれ、腹部に直撃する。その勢いのまま男を押し飛ばし、石段の遥か下まで直行すると、ドカン、と大きな音を立てて地面に激突させた。衝撃で、砂埃が激しく舞い上がる。警戒を崩さずに、狐とぬらりひょんは石段の上から男の様子を伺う。煙に乗じて移動しないかと注意していたが―――…。やがて、煙がゆっくりと晴れていく。その中心には、クレーターの底で男がただ佇んでいた。「…マジかよ…。」男は背筋を伸ばし、呼吸も乱さず、しっかりと地に足を付けて立っていた。その姿は、ほとんどダメージを受けていないように見える。対して狐はというと、たったあれだけの攻撃で既に息も切れ切れだ。隣で青ざめる狐の様子を見て、ぬらりひょんも戦況を察する。「(…保たねぇな…。)」七福神達の到着を待つにしても、逆立山からの距離を考えれば、時間稼ぎが必要なのは明白だった。だが、この戦力差では、その到着まで持ちこたえるのは不可能に近かった。気が変わって帰ってくれないか、なんて叶わぬ願いが過るが、それも虚しく、男は再び石段に足をかける。覚悟を決め、もう一度臨戦態勢に入る2人だったが―――…。男は、突如何かに気づき、石段に片足をかけたまま横を振り向いた。狐とぬらりひょんも、その視線の先を追う。―――男は、狛虎に乗った真志の姿を捉えていた。真志は冷や汗をかきながら、化け物でも見るような目で男を凝視している。「…お前、なんなんだよ…ッ!」今にも男へ食って掛かりそうな阿形と真志の様子に、狐が制止の声をかける。「真志ッ!!そいつはヤバい!!逃げろッ!!」流石のお前にも手に負えないと、逃げるよう促す狐。だが真志は、そこから動こうとはしなかった。それどころか、阿形から降りて男に対峙する。男も、石段から足を下ろすと、真志の方へと向き直った。「真志くん…!!」「小百合!!」狐達の後方から現れたのは、吽形に乗った小百合だった。「なんでお前…!」「真志くんが、危ないから別の方向から登れって…。」吽形は小百合を下ろすと、主の元へ向かって石段を駆け降りていった。真志の元へ辿り着いた吽形は、阿形の隣に並ぶ。「真志…!」狐達の心配する気配を感じながらも、男から目を離さない真志。「(ここでやっておかなきゃヤバいって、俺でもわかる。)」男は邪悪な雰囲気を纏い、その気配には何か得体の知れない"強さ"が滲んでいた。下手をすると毘沙門天並みか、それ以上の力を感じる。だが、神社には、小百合も、両親も、狐も妖怪達も、町の住人達もいる。危険に晒すわけにはいかなかった。ここで食い止めなければいけない。やれるか?ではなく、やらなければならないのだ。真志の想いに呼応するかのように、まりもも出現する。だが、やる気満々と言った様子の狛虎とまりもを、真志は一度制止した。「(…多分、俺が第一優先にすべきは"時間稼ぎ"―――…。)」勿論自分が倒してしまうのが一番なのだろうが、あの狐とぬらりひょんが苦戦するほどの相手だ。それは難しいだろうことは、真志自身も理解していた。『増幅』の力に目覚め、狛虎やまりもを覚醒させるに至ったものの、修行もしていない一人間の力などたかが知れている。ならば、こいつの気配を察知した七福神達が到着するまで、食い止めることが自分の仕事だと結論づけた。思考をそこまで巡らせた真志は、男に向かって言葉を投げかける。「…あんた、何者だよ。」「…」「あの貧乏神とかの仲間か?何しに来た。…この町で、何がしたいんだ。目的はなんだよ。」「…」真志の問いには一切答えず、無言を貫く男。「(…おしゃべりするつもりはないってことか…。)」となると、やはりやるしかないのだろうか。そう思い、まりもと目線を合わせる。力の使い方は、短時間だが少しずつ理解し始めていた。「…やれるか。」「勿論です。」すると、狛虎と同様に、まりもの容姿も見る見る変異していった。刀や服、頭の装飾が増えて、目つきも変わる。纏う"気"の量も増加している。
――――「真志…。」「…やるつもりなのか…。」狐とぬらりひょんの呟きに、小百合が手を合わせながら心配そうに見つめる。「真志くん…!」
――――自らは仕掛けず、男の出方を伺う真志。下手に刺激せず、戦わずに済むならそれに越したことはない。力量のわからない相手には、慎重に対処すべきだと判断した。「(3対1で卑怯だとか、そんなこと言ってる場合じゃねぇからな…。)――――!」すると、男は刀を持つ腕をゆっくり上げたかと思えば、そのまま構えの姿勢に移る。それを見た真志も警戒を強めた。次の瞬間、「!!」男の刀は、真志のすぐ目の前まで迫っていた。が、それを横から突き出されたまりもの刀が食い止める。ガキィン!という音と共に、男とまりもの刃が交差する。「(早い…!!)」まりもはギリギリと男の刀を押し返そうとするが、重みに阻まれ、思うように動かせない。その隙に、阿形と吽形が男に襲い掛かった。男は刀を振り抜き、後方へ高く跳び上がってそれを躱す。2匹は間合いを意識しつつ、男の刀撃を避けながら、爪で切り裂き、噛みつこうと仕掛ける。だが、男の素早さがそれを許さなかった。男は2匹相手に抜かりなく、無駄のない動きを続けた。そんな中、阿形と吽形が作った死角から、まりもが飛び出していく。「!」まりもの刀撃を、男はあっさりと躱した。まりもは怯むことなく、二手、三手と立て続けに攻撃を繰り出す。男は身軽に体を翻し、のけぞりながらそれをかわしていく。そこへ吽形が鋭い爪の攻撃を仕掛けるが、男はそれを刀で受け止めた。更にまりもが横から斬りつける。男は近くにあった塀を駆け上がりながら、二人の攻撃を避けた。
――――3人と男の戦闘を見ながら、狐は驚きを隠せなかった。そんな狐の周囲では、数人の人間達が、何事かと興味深げに石段の下を見下ろしていた。「(あんな奴相手に食らいついてやがる…!!)」狛虎と九十九神の元々のポテンシャルもあるだろう。だがそれにしても、あの男にあれほど対応できるとは。やはり真志の力に依るところが大きいのだろうか。「(にしたって、なんでこんなに?)」力に目覚めたのはつい先ほどだというのに、ここまで使いこなせるだなんて。遥か昔に培った力が、『我』に刻み込まれていたのだろうか?「…」「阿形くん、吽形くん、まりもちゃん…ッ!!」祈るような小百合の言葉に、はっと我に返る狐。3対1ということもあり、男を圧倒しているように見えた。真志の力は覚醒し、意志の強さに比例して増大している。もしかしたら―――と思わせた時だった。突然、男は素早い動きで阿形の懐に入り込むと、そのままその胸元を斬りつけた。「!!」「阿形ッッ!!!」「くッ…!!」阿形に追撃しようとする男に向かって、吽形とまりもが怒り狂ったように駆け出す。そのまま2人で飛び掛かるが、男は軽やかな動きでそれを避けると、吽形を横から斬りつけた。「吽形ッッ!!!」すぐさままりもが男に斬りかかるが、造作も無く刀で受け止められる。まりもは一度刀を引くと、間髪入れず次の攻撃、さらに次の攻撃と猛攻を仕掛ける。しかし、全てがいとも容易く刀で止められ、受け流されてしまった。そのあまりの手ごたえのなさに、まりもは察する。「(この人、まさか―――…ッ!!)」圧されていたのではない、彼はずっと、こちら3者の動きを分析していたのだ。つまり、「(加減してた…)」次の瞬間、まりもの腹が、男の持つ刀で貫かれた。「―――…ッッ!!」刀を引き抜かれたまりもがその場に崩れ落ちるのを、真志は絶望した表情で見ていた。「まりも…ッッ!!」そのあまりにも早すぎる展開に、皆唖然とした。3人が地に付す傍らで、ゆらりと真志に振り返る男。その時、真志の心臓がドクドクと嫌な音を立てる。冷や汗が噴きだし、頭が真っ白になる。男は真志に対して体を正面に向けると、その足を踏み出した。「真志!!逃げろッッ!!!」狐がたまらず声を荒げるが、真志の耳には届いていない。そもそも、大切な3人が痛めつけられて、自分だけ逃げられる筈がなかった。「(どうする、どうにかしないと、どうにか――――)」だが、自分を守ってくれる3人は手酷い傷を負い、動ける状態ではなくなっていた。非力な真志には、圧倒的な力を持つ男相手に為す術がなかった。―――その時。「!」男の足をまりもが両腕で掴む。「まりも…ッ!」「真志様…ッ!!逃げてッ…!!」まりもが必死になって男の脚を掴んで離さない。「…」「まりも!!いい!!離せッ!!」真志が危惧していた通り、男はまりもを見ながら刀を持ち換える。「まりもッ!!」たまらず駆け出す真志。まりもに刀を振り下ろさんとする男まで、あと一歩―――というところで、突然男がぐるりと振り向いた。「!!」「真志様ッ!!」そしてまりもに向けられていた刃が、真志の元へと振られる。そのあまりの速さに、真志は思考と体が追い付かず、迫ってくる刃をただ見ていることしかできなかった。「真志くんッッ!!!」頭上から聞こえる小百合の泣きそうな声を聴きながら、「(もう駄目だ。)」と、冷静に、淡々と、認識した時だった。真志の目の前に、何者かの影が現れる。ガキィン!という激しい金属音と共に、男の攻撃は止められた。男と真志の間に立つのは―――見覚えのある着物を着た、長身の女だった。「…今度は間に合ったな。」「―――毘沙門天…ッ!!」男の刀を、同じく刀で受け止めたのは―――毘沙門天だった。毘沙門天が刀で押し込み、振り払うようにすると、男は突如現れた新顔を前に、後方へ高く跳び距離を取った。毘沙門天は、血だらけで倒れる3人と、神社からこちらを見下ろす狐や小百合を確認する。状況を即座に理解すると、迷うことなく男に刀を向けた。「よく耐えたな。」傍らから毘沙門天の虎が現れ、狛虎2匹とまりもに近づいていく。真志も3人の様子を見ながら問いかける。「お前…なんでここに!?」逆立山からここまで、急いで走ってもあと10分はかかる筈だ。「吉祥天が教えてくれた。」「吉祥天が…?」先ほど、毘沙門天の去り際を止めた吉祥天。
――――『もしかすると、人間が狙われる可能性があります…!』『何…?』『それも、大きな力が――…!』『!』
――――「吉祥天がどこまで知っていたかはわからないがな。」その時、どこからともなく鹿が現れた。それに気づいた毘沙門天は「お前もあいつらを避難させてやってくれ。」と声をかける。鹿は毘沙門天の指示通りに歩き出すと、まりもの傍に近づき、背中に乗れ、とばかりに屈んだ。その傍では、毘沙門天の虎が吽形の首根っこを咥えて、引きずるように運んでいた。真志も、ひょこひょこと歩き出した阿形を介抱する。それを確認した後、毘沙門天は男に視線を戻し、その姿をまじまじと見つめる。すると、はっと何かに気づいたように驚く素振りを見せた。「…お前、"阿修羅"か…!?」その言葉に、真志が振り返って思わず声を上げる。「!阿修羅ってあの…?」
―――――「…やっぱりか。」毘沙門天の発言を聞いたぬらりひょんが呟く。「なんだよ!?」お前何か知ってるのか、とぬらりひょんに食って掛かる狐。「阿修羅って言やぁ、天部から修羅に落ちた奴じゃねぇか。」「…!」「確か改心して天部に戻ったとか伝わってた筈だが…。あの様子じゃあそうでもねぇらしいな。」ぬらりひょんの言葉に、狐は微動だにしない男に目を向ける。通りであのような恰好、あのような"気"の気配をしている筈だ。
―――――「…なんでこんなところに…。」毘沙門天の呟きに、真志が問いかける。「…知り合いなのか?」「…大昔、天上の戦争でお目にかかったことがあるくらいだ。…敵側としてな。」「!敵…。」「直接戦ったことはねぇかもな。」毘沙門天は刀の構えを変え、臨戦態勢に入る。「!」真志はその瞬間、男―――阿修羅が、攻撃を仕掛けてこようとしていることに気づいた。「お前は離れてろ。」
―――――「大黒!」残党を片づけた大黒天と恵比寿が合流すると、山を降りてきた寿老人達も現れた。「おっ、お疲れさん。」思えば、作戦開始から殆ど走ってばかりの一行。息を切らしながら辿り着く。一度息を整えた寿老人が2人の顔を見やった。「…あの気配の正体は、阿修羅だ。」「!」「私の鹿を向かわせた。…今、毘沙門天が相手をしている。」「毘沙門天の姿が見えないから、片方はそうかなとは思ったけど…。」「まさかその相手が阿修羅なんてね。」皆、阿修羅と毘沙門天の激しい衝突の気配を感じ取っていた。「阿修羅ね…。どこに行ったのやらと思ってたけど、こんなところに現れるなんてね。」「…弁財天は?」「ちょっと前に向かったよ。」「そうか…。」「この辺りはもう大丈夫なの?」「ちょうどいま片付いたところ。」「それなら、私達も急いで行きましょう。」福禄寿の一声で、皆神社方面に向かって再び走り出した。
―――――「…すげぇ…。」離れたところからその光景を見ていた真志が思わずつぶやく。阿修羅と毘沙門天は刀のみで戦いを繰り広げていた。互いに素早く無駄のない動きで、休むことなく斬り合いを続けていく。片方が刀を振るうと、もう片方が体を反らせて避けるか、自身の刀身で受け止める。着物は掠れど、決して己の肉は切らせない。刀同士が交差する度、激しい金属音が辺りに響き渡り、火花を散らせる。両者互いに譲らず、その力は拮抗しているように見えた。純粋な斬り合い。純粋な強さを求めた戦いだった。毘沙門天の刀裁きと身のこなしは、ブランクがあるとは思えないほど滑らかで、これまでの戦いのどれよりも洗練されていた。まだ実力を出し切っていなかったのだと思い知らされる。「(…つっても、そんな毘沙門天が本気を出さなきゃヤバい相手ってことか…。)」久々の本気の斬り合いに、毘沙門天は高揚し、思わず笑みがこぼれた。「――…全く衰えないな、阿修羅…。」「…」互いに一度距離を置く。やや息を乱した毘沙門天に対して、阿修羅は平然としていた。面の下でどのような表情をしているか、窺うことはできない。攻撃の手が止まった今を好機、とばかりに毘沙門天が話しかける。「…如来の元で改心したと聞いていたが、違ったようだな。」「…」「…正直、"天部に復讐"ならわからなくもない。お前には相応の理由もあるだろう。かつての戦も、決着はつかずじまいだったしな。…だが、民を狙うのは話が違うんじゃないか。」この1週間弱、地上で人々と触れ合って過ごした毘沙門天は、長年忘れかけていた気持ちが蘇り、これまで以上にその想いが一層強くなっていた。
―――――「…なんだ?どういうことだ?"天部への復讐"って…。」ぬらりひょんに問いかける狐。「…聞いた話だが、阿修羅は、『帝釈天』とかいう四天王のトップに君臨する天人に、娘を無理矢理嫁がされたらしい。其れに激怒した阿修羅が、軍勢を上げて、帝釈天側に対して戦争を起こしたそうだ。結果は敗戦。そのまま憎しみと怒りに囚われ、修羅の道に落ちたみてぇだな。」「…!」「毘沙門天は四天王に所属してたって話だからな。当時帝釈天側で、奴らの軍勢と戦ったんだろうぜ。」
―――――「…私は、本来ならどうこう言える立場ではないかもしれない。あの件に関しては、『天上を乱す者を制圧する』という役目を負っただけの、大勢の内の一人にすぎないからな。…だが、怒りに我を忘れ妄執にとりつかれたお前を、同じ天上の者として放っておくわけにはいかない。まして、民にまで危害を与えようとするならば尚更だ。このまま見過ごすわけにはいかない。」「……」阿修羅はただそこで佇むのみだ。だが、何故か攻撃に転じる様子はない。―――その時、ふと毘沙門天の頭の中に考えが過る。もし、言葉が通じるのなら、戦わずして解決する術はないか。今回の件について奴がどこまで関わっているのかは不明だが、無関係ということはありえないだろう。相応の罰が下るのは間違いない。―――…だが。「…釈迦如来はお前のことを信じ、待ち続けている。天の至る場所にお前の居場所を空けている。…お前が、いつ戻ってきてもいいようにと。…娘も会いたがっているぞ。…あのような始まりではあったが、今では帝釈天の奴とは仲睦まじくやっている。何も心配はない。ただ、お前のことをいたく気がかりにしていた。帝釈天も――…相変わらずのクソ野郎ではあるが、…それでも昔からは変わった。年月を経て大分落ち着いたようだ。…挙句には、お前に詫びたいとも言っていたようだ。あの器の小さかった、自己中な男がだ。」毘沙門天の言葉を理解しているのかはわからないが、構わず続ける。正気を失う前の彼は、温厚で、その柔らかな表情で、周りも民も思いやる男だった。「この世は諸行無常だろう。この数百年で地上の景色や人々が変わってしまったように、状況も、環境も、個々の気持ちや考え方も、全ては刻々と変化していく。…お前以外の者は、皆その変化を受け入れた。…いや、己でそれをもたらした。この数日、この町にいてわかった。変化も、悪いことばかりじゃない。新しい気づきや、別の道へ進む選択が生まれる可能性だってある。大事なのは、『変化に順応する』ことだ。…お前だって、同じだろう。」そう言いながら毘沙門天は、背後にいる真志達や、神社から見下ろす人間、妖怪達の気配を感じる。「…確かに、長い年月を経てしまった。過ぎてしまった過去も取り戻せはしない。だが、すべては今、この瞬間からどうするかだ。お前には、帰る場所も、帰りを待ち続ける者たちもいる。そして…お前が危害を加えようとした人間達の中にも、『阿修羅』を信仰する者がいる。これ以上は、お前自身にも、お前を思う者たちのためにも良くはない。あとはお前が―――…。―――!」毘沙門天の言葉も虚しく、阿修羅は再び刀を構えだした。そして、一切耳に入らない、といった風に俊敏な動作で攻撃を仕掛けてくる。それを刀で食い止める毘沙門天。その力強さは、『話しても無駄だ』ということを表していた。「……やはり、修羅に落ちた者か。」阿修羅の攻撃を振り払いながら、今度はこちらから仕掛ける。横に、縦に、と振り避けられる中で、毘沙門天は少しの違和感を覚える。阿修羅は、お返しとばかりに毘沙門天の腹部を狙い、斜め下から刀を振り上げた。
毘沙門天はそれを刀で受け止め、火花を散らしながら流す。続けて突き攻撃が来るが、顔を避けて躱した。その勢いのまま、逆手に刀を持ち替え首を狙って斬り上げる。しかし、それも避けられたため、すぐさま持ち手を元に戻した。「(…さっきよりも早いな…。それから―――)」
―――「!」阿修羅の動きの変化を見て、真志は自分たちの状況と重ねて気づいた。「(まさか…あいつ、毘沙門天相手にも…!?)」―――加減していたというのか、と真志が考えた瞬間だった。「!」振りかぶった阿修羅の刀の切っ先が、毘沙門天の頬を掠った。「毘沙門天…ッ!!」真志が思わず名を呼ぶ。だが、そんな真志の心配をよそに、毘沙門天は戦いの最中だというのに笑みをこぼした。「!?」阿修羅が脳天目掛けて真下に振り下ろした攻撃を、毘沙門天は刀で受け止める。ギリギリと互いに迫る中、毘沙門天は阿修羅に顔を寄せる。「ただ力任せに振るうだけじゃあ相手は斬れない、…――ってのは、どこのどいつが言ったもんだったか。帝釈天か?」毘沙門天のその言葉にぴくりとする阿修羅。毘沙門天はその反応を見逃さなかった。「…なるほどな。さっきの言葉、届いてなかったわけじゃなさそうだな。」「え…?」思わず真志が呟く。自我の有無は不明だが、毘沙門天の言葉は、阿修羅の耳から脳へしっかりと届いていたらしい。その内容か、もしくは『帝釈天』という名前が、どうやら彼の琴線に触れたらしかった。先ほどの冷静さは消え、奥底に眠っていた怒りと憎しみが蘇った阿修羅は、力任せに刀を振るっていた。それを察すると、毘沙門天は真剣な表情に戻る。「本能的なもんか、理性で感じ取ってるのか…。…ともかく、まだ囚われているようだな。」そして阿修羅は一度距離を取ると、すぐに再び毘沙門天へと向かっていく。怒りに任せ、怒涛の斬撃を繰り出す阿修羅。毘沙門天はそれを冷静に、かつ隙無く受け止め、避けていく。だが、「!」その切っ先は、毘沙門天の腕や、脚を次々に掠めていった。「毘沙門天!!」「…」傍から見れば避けるので精いっぱい、という様子に見える。だが毘沙門天はそれに焦ることなく、淡々と攻撃に対応していく。深追いされないよう、用心しながら。そんな最中、毘沙門天は周囲にいる真志や人間達、妖怪達の気配を感じながら、ぽつりと呟く。「…お前にも譲れない、思いや目的があるのかもしれない。――…だがな、」「!!」次の瞬間には、阿修羅の懐に侵入していた。「…ッ!!」「―――悪いが、」真下から斬り上げ、真っ二つにせんと攻撃するが、ギリギリで躱される。「私も、民が見ている前で負ける訳にはいかないもんでな。」「…!」その攻撃を契機に、毘沙門天は攻勢に転じた。阿修羅同様、矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。それには、技術や能力など足りない部分を補うだけの、『意志の強さ』が込められていた。「!!」先ほどよりも激しい刀撃に、阿修羅のペースが乱される。これは、かつて天上で戦った記憶とは違う動きだ。この何百何千年、阿修羅が修羅界で戦っていたように、毘沙門天も戦いの経験を積んでいたのだ。それはすべて、民のため。「…私は福の神だ。私がいる限り、民に―――この町の住人に、危害は加えさせはしない。…絶対にだ。」「毘沙門天…、」そして次第に、毘沙門天の攻撃が阿修羅に当たるようになる。腕を、肩を、腹を、次々斬りつけていく。そして―――「……!!」毘沙門天の刀が肩から腹部へ斜めに入り、阿修羅の身を深く裂いた。「…!!」直後、固まる阿修羅の手から、刀が零れ落ちる。刀は金属音を鳴らしながら、地面を跳ねるように落下した。阿修羅は膝立ちになると、そのまま地面へと倒れこんだ。「…人間を狙ったのが、裏目に出たな。」汗をかき、息を切らしながら、倒れる阿修羅を見下ろす毘沙門天。暫く様子を見ていたが、阿修羅が再び起き上がることはなかった。それを確認すると、目を細め、少し俯く。「…お前はかつてより弱い。こんな、力任せに振るばかりではなかった。―――…私は、お前達から太刀筋を学んだんだ。」少し切なそうな表情で、かつての同族を見下ろす。修羅界に飲まれ、ただただ戦うだけの日々を過ごしたことで、理性が消え失せてしまったのか。本能だけの獣は、理性のある戦闘者よりも劣る。「毘沙門天!!」真志が毘沙門天の元へ駆け寄ってくる。「大丈夫か!?」「私は問題ない。それより、狛虎とまりもの様子はどうだ。」「…皆、意識はあるよ。今、妖怪達が介抱してくれてる。」「そうか…。見たところ3人共、おそらくそこまで酷い怪我ではないだろう。寿老人達が戻れば、気功術を使って少しは治療もできる。奴らの到着を待とう。」「本当か!?」「あぁ。」そう言って真志に向き直る毘沙門天。「真志、」「ん?」「…よくやったな。」「!」そう言って優しい笑みを浮かべる毘沙門天。少し照れくさそうにしながら、真志は自分が責務を果たせた理由を思い出した。毘沙門天が、自分の秘めた力を信じてくれたからだ。「…お前の言ってた通りだったな。」「はっ、そうだろ。歳上の言うことはよく聞いておくもんだ。」「はいはい。…まさか、俺にあんな力があったなんてさ…。…でも、まだまだ足りねぇな。」「そこは今後の修行次第でいくらでも強くなる。」俺に修行させるつもりかよ、と真志は思わず笑う。そして、ふっと表情を和らげる。「…ありがとな、助けにきてくれて。」「…当然だ。」「めちゃくちゃかっこよかったぜ。」「…」「あんたはやっぱり俺の―――俺達の、ヒーローだ。」真志の笑顔を見た後、毘沙門天の視界の端に、石段の上から狐や小百合達がぞくぞくと降りて来るのが見えた。それを見て、毘沙門天も笑みを浮かべる。「…そりゃあ"毘沙門天"としちゃあ冥利に尽きるな。」そう言って踵を返すと、毘沙門天は阿修羅の方へと近づいていく。「…そういえばそいつ、どうするんだ?」「捕まえてみっちりと話を聞かせてもらう。…まぁ、話せる状態かもわからないが。それに、天上にも送り返さないといけないからな。」その時だった。「うわッ!?」「!!」突然、強風が辺り一帯を吹きすさんだ。毘沙門天も真志も、思わず目を瞑る。まさか、と毘沙門天がはっとして目を開けた時には、目の前から阿修羅の姿が消え失せていた。「…は…!?」「!!…くそッ!逃げられた…!!」気配も感じさせずに、この毘沙門天や、大勢の人、妖怪のいる前から堂々と連れ去る度胸。並大抵の相手ではないことは確かだった。毘沙門天に駆け寄り、話しかける真志。「…やっぱり、他にも協力者がいるのか…?」「…あぁ、間違いなくな。」「そしたらまた…。」「いや、おそらくこの町はもう大丈夫だろう。」「え?」「今後天上からの監視も厳しくなる。そんな状況で、リスクを冒してまでこの町に固執する理由はない筈だ。…それに、」そう言って石段の上を見上げる。「お前とあいつらがいるからな。」「真志くん!毘沙門天さん!」小百合と妖怪達が駆け降りてくると、二人の元にわらわらと集まり出した。「すごかったよ!!かっこよかった!!」「助けてくれてありがとう!!本当にありがとう!!」「毘沙門天!!お前…あの頃も強いとは思ってたが、ここまでとは!すげー奴だなぁ!!」「あんなすごい戦い初めて見たよ!!ていうか阿形と吽形はなんなのアレ!?」「あの男の人怖すぎてちょっとチビっちゃったよ…。」わいわいがやがやと騒ぎ出す一行を見て、毘沙門天と真志が目を合わせる。「…ともかく今は、事態の収束と皆の無事を祝うべきだ。」「…ははっ、そうだな。」その時だった。「毘沙!!」ぜぇぜぇはぁはぁと息を切らしながら辿り着いたのは弁財天だった。そして現場を見て目を丸くする。「えっ!?もう終わってる!?」「遅いんだよ!何しに来た!」「ご、ごめん!」怒鳴る毘沙門天と謝る弁財天を見て、皆が笑うのだった。
神社に避難していた人々を帰していると、寿老人達も神社に到着した。その後、神社の本殿で、阿形と吽形、そしてまりもの容態を確認する。暫くして、寿老人が真志に告げた。「…大丈夫だ。少し休めば良くなるだろう。」「本当か!?」「あぁ。私と福禄寿の"気"の力で、本人の生命力を増幅させた。自然治癒力を促進しているから、数日もあれば回復する筈だ。」「…良かった~~…。」そう言って真志は、脱力したように阿形と吽形にもたれかかる。「3人とも俺が酷使しちまったからかと思って…。」そう言って2匹の頭を撫でてやると、目を細めて嬉しそうに喉を鳴らした。そこに、毘沙門天と恵比寿、そして狐がフォローを入れる。「あの状況じゃ仕方ないだろ。」「寧ろ皆、よく頑張ったよ。」「おかげでこっちは被害が無かったんだからな。」そんな狐に、真志は優しい眼差しを向けた。「…狐、お前もありがとな。」「当たり前だろ!」へへ、と得意げに笑う狐を見て、真志と小百合が微笑み合った。そして、ぬらりひょんや猫又もまた、笑みをこぼすのだった。そして、七福神の面々が真志の力を称賛する。「それにしても真志くん、本当に力を使えるようになったんですね。」「あぁ、驚いた。よく頑張ったもんだ。」「まさか…あんな短期間でね。」「大活躍だったね~!真志くん!」「かっこいいわよ!♡」「いやぁ…はは…。」"歳上のお姉さん"達に褒められ、照れ照れと頭をかく真志に、狐と猫又がにやつく。小百合はというと、心から嬉しそうに微笑んでいた。「…ご心配おかけしてすみません、真志様。」布団に潜り込んだまま、まりもが謝罪する。「何言ってんだよ!俺と、皆のために頑張ってくれたんだろ!…ありがとな、本当に。」「いいえ!…寧ろ、自分の力不足を痛感致しました。真志様を危険な目に遭わせてしまうなど…。毘沙門天様の到着が遅れていれば、どうなっていたことか…。その上、毘沙門天様には遠く及ばずに…。」高度な戦闘を目の当たりにして、力量の差をまざまざと感じ、落ち込むまりも。「おいおい何言ってんだよ!そりゃああっちは何百何千年戦ってるわけだからな。でもまりもはたった数日でだぞ!?十分すげぇよ!」「…ありがとうございます…。でも私、次からは一人でも真志様をお守りできるように、今後は毘沙門天様ほどのお力をつけるべく、修行して参ります!」「…そ、そうか…。」そのあまりの気迫に圧される真志。その気持ちは嬉しいが、まりもがあんな風になったらちょっと怖いなと思うのだった。
―――そして話題は、今回の事件へと移っていた。「ところで、吉祥天は?」「…天上の奴が来て、引き渡した。」毘沙門天の発言に、七福神の面々が目を見開く。「えっ!?もう来たの!?ていうか、『降臨禁止令』は!?」弁財天が問うと、寿老人が答える。「こんな事態になったんだ、そんなものはもう不要だろう。…時代は変わった。天上も、変わるべき時が来たということだ。」それに毘沙門天が続く。「調査隊が派遣されてくるらしい。暫くは町に警護もつけるって話だ。」「…そりゃ安心だ。」それを聞いて、ほっと胸を撫でおろす真志と町の住人達。そして、毘沙門天が天上の者から聞いたという言葉を皆に伝える。「だが、結果的に民達を守ったとしても、規則は規則だそうだ。禁則事項を破ったことについては、後で呼び出しが来るだろうな。―――寿老人に。」それを聞いた寿老人が思わず立ち上がる。「!?何故私なんだ!?呼び出すとすれば、そもそもの原因である毘沙門天、貴様だろう!!」「『七福神の責任者は寿老人だから、寿老人に頼む』と言ってある。」「貴様勝手なことを…!!」ギャーギャー口論する2人の奥で、布袋がぼそりと呟いた。「…でも、破ったのは私達全員なので、結局はお呼ばれしそうな気もしますが…。」「あはは、聞いてないよ、あの2人。」そうして、騒がしい日常が戻って来たのであった。
――――「黒闇天の時と同じだ。」七福神達は山を歩いて登りながら、互いの情報を共有し合っていた。毘沙門天が阿修羅が消え去った時の状況を伝えると、大黒天が白状した。「えっ?それは逃げられたってこと?」「…」「えっ!?天下の大黒天が!?」「お前ら殺すぞ。」いじる恵比寿と弁財天に、いつもの笑顔を張り付けたまま暴言を言い放つ大黒天。「…穴の存在を隠した奴といい、相当の手練れだろうな。」「…だけど、騒動の合間は一度も顔を出さなかった、かぁ…。」「ほんと、何を企んでるんだろう。」「これで終わりとは思えませんね…。」「…情けないけど、結局主犯が誰かも、目的もわからなかったね。殆どの妖怪は、ただ利用されただけみたいだし。」「吉祥天がどこまで話してくれるかと…、あとは調査隊に任せるしかないね。」「…」どこか考え込む様子の大黒天。「どうした?」「いや…」
――――話している内に、やがて『混所通道』があった場所に辿り着く。その光景を初めて目にした4人は絶句する。「あ~あ…。」半分に欠け、ボロボロになったかつての居住船を眺めて、皆言葉を失っていた。「…せめて、お気に入りの小物とかだけでも出しておけば良かった…。」「お菓子もまだ食べてないやつがあったのに…。」「あーん、折角の可愛い服が~~~…。」「そういえば金は?」「それだけは確保しておいた。」「流石…。」「山積みになってた書類が跡形もなく消えちまったのは何よりだな。」「それはそう!」「全くお前達という奴は…。」思い思いに失われた宝船について呟いていると、恵比寿が口を開く。「…思い出の物とかは無くなっちゃったけど、」恵比寿の言葉に、全員の視線が集中する。「皆が無事で良かったよ。…民も、皆も、…毘沙門天も。」それを聞いた皆は、次の瞬間には口元に笑みを浮かべていた。それをきっかけに、思考を切り替える。「あーあ、また作り直しかー。」「千何百年ぶりかなぁ?作り方忘れちゃったよ。」「またガミガミは嫌よ?寿―ちゃん!」「お前達がちゃんとやれば私だって何も言わんぞ!」「どうせならもっと今風の装飾にしよう!!もっと可愛いやつ!」「そうですね!前よりも良いものにしましょう!」「あんまり派手なのは勘弁しろよ。」そうして、新たなる宝船の装飾案について、しばし皆で語り合うのだった。
――――その後、七福神達が神社に戻ると、宴の準備がされていた。しかも、前回よりも更に豪華になっている。「ま…また無理してないか…?」「何を仰いますか!!そんなこと気にせずにほら、皆さまお座りになってください!!」「あれだけの脅威を解決してくれたんです!!寧ろこれでは物足りないくらいですよ!!」「…本当に、ありがとうございました!!」七福神達に向かって、真志や両親たち、小百合や妖怪達もこぞって礼を言う。それに対して笑みを浮かべ、各々席に着く七福神達だった。「猫又と座敷童もよく頑張った!」「すげえなお前ら!!」「まぁ俺にかかれば楽勝よ!」「そんな大役…座敷童ちゃん、すごいよ!」「えへへ…。」「壊れた宝船、俺達が修理手伝ってやるよ!」「ほんとに!?助かるよ~!」「ボク達も恩返ししたいんだ!」楽しい宴に、毘沙門天は優しく微笑みながらその喧騒を噛み締めるのだった。