居住スペースだった宝船を失い、神社に寝泊まりした七福神達は、翌日の朝、真志達の一家と共に朝食にありついていた。食卓で点けられたテレビのニュースは、昨日の騒動の話題で持ち切りだった。妖怪や七福神の存在について、専門家達が議論を交わしている。「めちゃくちゃ大事になってるじゃねぇか…。」テレビにかじりつきながら、真志が冷や汗をかく。妖怪や天上の存在が、ついに公になってしまった。これまで懐疑的であった人々も、ここまでの証拠材料がそろってしまえば信じざるを得ない状況だった。「ほう。歴史的な日だな。」「すげぇ他人事だな!?」対して七福神達は特に気にするでもなく、淡々と飯を口に運んでいる。「今日の飯も上手いな。」「うんっ!おいひいれす!!」「ありがとうございます~♡」など、平和なやり取りを交わしている。お前ら当事者だろうが!!と呆れつつ、真志は再びテレビへと視線を戻した。そこでは、町の被害状況についての報告がされていた。家屋の倒壊・半壊が数件あったものの、深刻な被害には至らなかったようだ。とはいえ、今回の被害は『妖怪』という、現代人からすれば未曾有の要因によるもの。その存在によってもたらされた被害の補填はどこから出るのか、というのは今後の議論の争点になりそうだった。この話題については、流石の七福神達も反応を見せた。「…確かに、戦闘中に傷つけてしまった住宅は確かにありましたが…。」「うっ…、で、でも、やむを得なかったのもあるし…!!」「申し訳ないとは思うが、…もしや私達が責任を取らされる可能性があるのか…?」「まぁ、もしもの時は上が何とかしてくれるだろ。」「別に私達のせいじゃないし。」「大黒の場合、無駄に暴れ回って被害増やしたんじゃないの?」「無駄にってなんだよ。」青ざめる弁財天と寿老人に、他人事な毘沙門天。いがみ合う大黒天と恵比寿。そして、そんな七福神達をいよいよスルーし出す真志。そして、負傷者について。逃げる際の転倒や、妖怪に襲われ負傷した人は数人いたようだが、死者数は0人に抑えることができた。それは、七福神達の迅速な対応によるものも大きかっただろう。「…それが何よりだよね。」「良かったです…。」「取り敢えず一安心だな。」皆がほっとしていたのも束の間。テレビでは、七福神達が妖怪と戦う様子を納めた映像が次々と流されていた。自分達の戦う姿を客観的に見るのは初めてだったため、七福神達は恥ずかしがりながらも興味津々に画面へ釘付けになった。「なんか恥ずかしいな…。」「こんな感じなんだ…。」「う~~~ん…あそこでもう少し踏み込んでたらなぁ…。」「勉強熱心だな…。」そして毘沙門天と阿修羅の戦いについても、ばっちりと撮影されていた。「…確かに阿修羅だね。」「うん。あの身なり、見たことあるよ。」「…つーかあのテレビの奴ら、一体どこに潜んでやがったんだ…。」「一般人からの投稿もあるな。神社に逃げた民が撮影していたようだ。」そして、リポーターがカメラに向かって訴えかける。『彼女達は人命を最優先し、町民の安全を第一に行動していました。避難誘導に当たるだけでなく、危険が迫れば自ら現場へ駆けつけ、臆することなく勇猛果敢に妖怪達と交戦したのです。その活躍によって、この町は救われました。…そして彼女達は、自らを"七福神"と名乗っていました。まさにその名の通り、この町に"福"をもたらしてくれたと言えるでしょう。』「…」そのリポーターの言葉に、七福神達は黙って耳を傾ける。それは、彼女達にとって最大の賛辞だった。そうして皆で、その想いを噛みしめていた時だ。突如として、ドタドタと激しい足音が響き渡った。「たっ、大変です!!」居間に駆け込んできたのは、台所へ向かった筈の真志の母親だった。「!?」「どうした!?何があった!?」慌てて駆け寄る寿老人。もしやまた敵が…?と、七福神達も立ち上がる。「け、境内に…ッ!!」
――――「!?」真志と七福神達が神社の境内に向かうと、そこには沢山の人が訪れていた。「…なんなんだ、この騒ぎは…。」「う、うちの神社にこんなに人が…!?」1日に3~4人ほどしか参拝客が来ない神社に人が溢れかえっているのを見て、唖然とする真志。「えっ!?ねぇ、アレ…!」「アレが!?」「!?」そして、七福神達の存在に気づいた人々が、次々に集まってくる。それに珍しく圧倒される七福神達。「皆さん、七福神って本当ですか!?」「本物!?ねぇ、本物なの!?」「ていうか性別違くない?」「背ぇでか~。」「ていうか、君もなんか虎に乗ってたよね!?」「かっこいい…。」老若男女様々な人が、真志と七福神達を中心にして、円を描くように集合した。「おいおい…。」「と、取りあえず皆落ち着いてくれないか。」「あ…っあのッ!!」そしてその中から一人、女性が現れる。「先日は、助けていただき…ありがとうございました…!!」「お前は…」それは先日、毘沙門天が龍の妖怪から助けた女性だった。「お、俺も…っ!危うく殺されるところだった!」「私もっ!」そして、ここ数日の間に助けてもらった人々が礼を述べていく。それを見て、七福神達の胸の中に暖かいものが広がっていった。そして毘沙門天は、毎日欠かさずこの神社へ参拝に来るおじいさんが、すぐ傍らにいることに気づいた。「やっぱり毘沙門天様は…わしらを見守っててくれたんだねぇ。」そう言いながら綻ぶ笑顔を見て、毘沙門天も優しい笑みをこぼした。次の瞬間、毘沙門天は真面目な表情へと切り替えると、民達を見渡した。「…皆、聞いてほしいことがある。」その真剣な声色にぴたりと声が止み、辺りが静まり返った。「皆が察するように、私達は七福神だ。そして、私は毘沙門天という。」そこで再び場がざわついたが、毘沙門天が黙り込んだままでいるのを見ると、次第にざわめきはおさまっていった。静寂が戻ると、毘沙門天はようやく口を開いた。「…ここにいる者の――…もしかしたら全てではないかもしれないが、…殆どが、この町の住人だと思う。」その言葉に何人かの人々がこくりこくりと頷く。「この町は、遥か昔―――1200年も前から、狐の神が守護してきた。私達もその時代に訪れたことがあるが、当時は人と妖怪、そしてその狐の神が互いに手を取り合い、協力して暮らしていた。お前達の祖先は、狐を地主神として敬い、大層大事に祀っていたものだ。―――だが近年、奴の住処であった神社は取り壊され、その社だけがビルの上へと移された。そしてお前達は、その主を忘れ去り、放念するようになってしまった。そのせいで狐の力は弱まり、今回のような妖怪たちの侵入を許す事態となってしまった。…こう言ってはなんだが、今回の騒動は、お前達人間がその守り神を疎かにしてしまったがために起きたことだ。」その言葉に、殆どの人が顔を見合わせながら、なんのことかと疑問符を浮かべる。だが中には、アレのことかと気づいた者もいるようだ。「…奴は、どんな扱いをされようと、どんなに人に見向きもされずとも、この地を離れることなく、お前達を見守ることをやめなかった。そして今回も、この神社に現れた強大な敵に対し、己の力の限りを尽くすことで、人々を守った。」その言葉に、あの時この場に居合わせた者は己の記憶を、いなかった者はテレビやネットに上がっていた映像を思い出す。―――阿修羅がこの神社を襲った時、明らかに『何者か』が、その侵入を阻んでいた。「…話せばわかるが、良い奴なんだ。―――…もっと、大事にしてやってほしい。」そう言うと、毘沙門天は優しく微笑んだ。そしてそのまま視線を移すと、鳥居の前に佇む狐を見やった。「!?」先ほど到着したばかりの狐は、まさか自分の話をされているとは思わず、きょろきょろと狼狽えていた。しかし、背後にいたぬらりひょんと猫又に両側から捕まえられていたため、逃げ場を失っていた。毘沙門天達の視線につられ、人々も鳥居の方を見る。それにますます焦る狐。「(でも、どうせ見えねぇんだから―――)」「えっ!?ほんとに狐…!?」「…は…?」一部の人がざわざわと騒ぎ出す。「何言ってんのよー。」「ほんとだって!ほら、あそこ!見えない!?」「はぁ?」そんな人々の様子を見て、真志が疑問に思う。「どういうことだ…?」それに、寿老人と弁財天が答える。「…人々が、信じる心を取り戻しているということだろう。」「!」「妖怪や私達みたいな存在がいるんだもん。守り神のことだって、ああ言われたら信じちゃうよね。」「そんなことって…。」その状況に、狐自身が戸惑っていた時だった。「狐しゃん!」「!?」いつの間に傍にいたのだろう、狐の尻尾を掴んで呼びかける、小さな子供の姿があった。「ありあとう!」「…!」その子供の目は、まっすぐと狐の目を見ていた。その無邪気な笑顔と言葉に、狐の中で長年降り積もっていた感情がこみあげてくる。そして、狐はこらえきれずに、その場でぽろぽろと涙をこぼし始めた。「ほんとてめぇは泣き虫だな。」「うるせぇ!」ぬらりひょんの悪態にも、その涙は止まらなかった。隣の猫又ももらい泣きしそうになっている。「えっ…ちょっと…狐泣いてるんだけど。」「…大丈夫ですか、狐さん…?」「どうしたんだよ…?」「なっ…、泣かないで…!」そう言って数人の人々が、心配そうに狐に近寄っていく。その光景に、ますます涙を止めることができなくなる狐だった。それを見て、七福神も真志も微笑みを浮かべるのだった。「…もう、大丈夫そうだな。」毘沙門天はぽつりと呟き、真っ青な空を見上げた。
「よく来てくれたね!寿老人、毘沙門天!」「久方ぶりだな、梵天。」「お久しぶりです。」「…」「…帝釈天も。」「…あぁ。」騒動から数日後、寿老人と毘沙門天は、天上―――梵天と帝釈天の元へと呼び出されていた。ここは、梵天の執務室だ。「今回はよくやってくれたね。民から死者を出すことなく、事態を収拾してくれた。」「…危うく、と言ったところでしたが…。もし敵が民達を直に狙っていたとしたら、もう少し被害が拡大していた可能性もあります。」「寿老人は相変わらず真面目だねぇ。別の可能性を考え、反省することも勿論大事だが…結果は結果だ。今回は犠牲が無かった!それで良しとしようじゃないか。」「…ありがとうございます。」2人のやり取りに毘沙門天が切り込む。「…それで?本題はなんだ。」「あぁ、すまない。話はいくつかあってね。取りあえずそこに座ってくれないか。」促されるまま椅子に腰を下ろす毘沙門天と寿老人。「そうだね。―――まず、『降臨禁止令』を破ったことについてだが――…。」その言葉に、寿老人と毘沙門天がぎくりと体を強張らせる。「今回は、お咎めなしだ。」朗らかな笑みを浮かべて告げる梵天に、しばし固まる2人。「…は…?」2人の反応を見て、梵天は笑みを深くする。「そもそも事の始まりであった毘沙門天の落下は、地上の妖怪達が町の異変をどうにかしようと助けを求めた結果、起きたことだ。他七福神達が地上に降り立ったのも、毘沙門天の捜索、救出のために実行したもの。やむを得ない行為であったと判断された。」毘沙門天と寿老人は、黙ってその続きを促す。「その上君達は、敵の襲撃に対して、制圧と民の保護、『通道』の封印による事態の収束を図ってくれた。更に、長年疎遠となっていた民と、再び"繋がる"きっかけも作ってくれた。その功績を称えて、違反に対する罰則は無しとの結論が下されたんだ。」「…それは、明王様達も…?」「勿論!"あの"三十三天も了承済みだよ。それどころか、この禁止令自体が、今回の件を以て解かれる予定だ。」「!」「これからは、好きに地上を行き来していいんだ。…昔のようにね。」梵天の発言に、毘沙門天と寿老人が互いに目を合わせる。「君達は既に、十分自由に行き来してるだろうけどね。まぁ、特例だ。」あははと苦笑いを浮かべる梵天。「…それは何よりです。」寿老人と毘沙門天は、ほっとしたように口元を綻ばせた。―――また地上に降りることが出来る。民に直接会い、直接話を聞き、直接福を届けてやれる。それほど嬉しいことはなかった。そんな2人の様子に梵天も微笑むと、話題を切り替えるように真剣な顔つきに変わった。「それから、吉祥天のことだけど…。」「!」「彼女も恐らく、唆された身だ。」
*
――――「…黒闇天に、誘われたのです。」
――――『"降臨禁止令"を解いたほうが良いと思ったことはありませんか?姉様。』『え…?』『このまま天と地の交流が途絶えてしまったままでは、私達天上の者や民…双方のためにも良くはないとは思うのです。私達天人は力が衰え、地上の民達も救われないまま。天上消滅の危機も有りましょう。姉様の大好きな毘沙門天だって、民の信仰が無くなれば消えてしまいます。それに…あれだけ民のことを想っているお方ですから…。福の神として、七福神として―――以前のように、民と触れあう機会を求めている筈です。天地交流の再開―――…私達が、そのきっかけを作るのです。』『…きっかけって…何を考えているの?』
―――「そして、今回の作戦を教えてもらったのです。『異所通道を開いて妖怪達を招き入れ、地上で一騒動起こす。そうすることで、偶然その地を通りかかる七福神へ、地上に降りる機会を与える。』―――と。」
――――「!」毘沙門天と寿老人が目を見開いて驚愕する。
――――『…それは、毘沙門天様を利用するということ…?』『姉様…最近毘沙門天にお会いしていないでしょう?』『!』『最近、"十二天定例会議"の頻度も落ちたという話ではありませんか。日頃全国を廻っている方…お目にかかる機会も減りましょう。…お会いしたくはありませんか?』『…っ…でも、そんなやり方では、その地に住む民や妖怪達に被害が及ぶ可能性があるわ…!』『大丈夫です。少し脅かすだけですよ。所詮ただの"異所通道"…。それに今回の目的はあくまで"天上に、民との交流を再開すべきと思わせる"こと。こちらも、人に危害は加えないようにします。』『…でも、』『全ては天上と民…そして毘沙門天のためですよ。』『!』
―――「そして私は、具体的な内容を聞きました。しかしそこで疑問が湧いたのです。『穴』を開け、仕掛けを施す等、黒闇天と私の力だけで出来るものなのかと。」
―――『…もしかして、他に協力者がいるのかしら?』『"協力者"―――とは聞こえが異なるかもしれまえんね。貧乏神や妖怪達を"利用"します。』『!あなた…』『あくまで利用するだけです。』
―――「その時、作戦を降りようとしました。…ですが既に、彼女達の間で私の想定よりも遥かに話は進んでいました。私が降りたところで、彼女達は実行するのだろうと。…非力な私は、彼女達を止められる訳もなく…。…私自身、確かに『降臨禁止令』を解きたいという思いはありました。明王様方にその時期を尋ねたところで、いつまでも明確な答えはいただけませんでしたから…。…毘沙門天様に嫌われるかもしれない。でも、お会いしたかったのも事実。…私の中で、様々な感情が渦巻き…悩んだ末、やはり妹に協力することに決めたのです。」
――――「…」毘沙門天はただ黙って、真剣に話を聞いていた。
――――「事前に準備を重ね、いよいよ時が来て…計画は実行されました。地上の無害な妖怪達が被害に遭っていることには…心を痛めましたが…。黒闇天からは、『作戦が完了するまで』手を出すなと言われていました。『これも全ては天と民のためだ』と。…私はそれを、見て見ぬふりをしたのです。」悲しそうな表情を浮かべる吉祥天。「そして予定通り、条件を整えたあの町に、七福神の宝船が訪れました。毘沙門天様が地上の妖怪達に落とされるのは予想外でしたが…、その後も計画は恙なく遂行されました。他の七福神達も到着し、『異所通道』が塞がり―――…これにて作戦は終了、―――…の筈でした。」
―――『黒闇天!!』『あら姉様。どうしたんですか?そんなに血相を変えて。』『"混所通道"だなんて――…聞いてないわ…ッ!!』『こちらの方がより効果が出るかと。』『もう十分でしょう!?これ以上何をしようというの!?』『何を仰ってるんですか?まだ足りないでしょう?この程度では、天上に危機感を煽ることなどできません。思ったよりも毘沙門天が滞りなく解決してしまいましたからね。…もっと騒動を大きくしないと。』『…!…っそもそもあなた達、どうやって…!』『姉様。』『!』『姉様は、毘沙門天に会って来てください。』『…!』『もう後戻りはできませんよ。』『…っ!』
―――「そして私は、自分がどうすべきかわからないまま姿を現しました。その後はご存知の通りです。…私の知らない計画と…『もっと騒ぎを大きくしないと』という黒闇天に嫌な予感がして…毘沙門天様に、『民の元へ向かうように』とお願いをいたしました。…阿修羅様がいるなど、存じ上げてはおりませんでした。…黒闇天は、あの計画のより深い部分を知っていたのかもしれないし、私と同じく、ただ利用されただけなのかもしれませんが―――…。」黒闇天は逃げ去ってしまったため、真偽は不明のままだ。「…これが私の知っている全てでございます。」そして吉祥天は正座して、向き直る。「…この度は…誠に、申し訳ございませんでした…。」そう言って畳に頭を擦り付けるが如く、深々とお辞儀をした。
*
――――「…彼女が嘘を言っているようには見えなかった。つまり吉祥天も、黒闇天と貧乏神達、…そして他の協力者達に騙され、利用されていただけだ。それ以外に何者が関わっていたか、今回の真の目的はなんであるか、彼女は知らないんだ。」梵天の言葉に、毘沙門天と寿老人はため息をつきながら、天を仰ぐ。結局、新たに得られる情報は何もないということだ。犯人に繋がる手がかりは無し、完全に行き詰まってしまった。毘沙門天が前かがみになり、梵天に問いかける。「…吉祥天への面会は。」「…吉祥天は罪人だ。そして君はその被害者。…面会は禁止されている。」「…そうか。」「君になら本当のことを言うだろうが…、…でも今回に関しては、これ以上の情報は出てこないと思うよ。彼女も、仕事や自分の立場においては根が真面目だからね。」「…そうだな。」遠い目で吉祥天を想う毘沙門天。それを気がかりにする寿老人だった。「あとは、地上に降りている調査隊の結果を待とう。黒闇天や阿修羅の行方の捜索もそうだが、あの町に何か痕跡がないかも調べてる。」「…阿修羅と言えば…。」毘沙門天がちらりと部屋の奥へ目線を移すと、先ほどからずっと目を瞑り、腕を組んだまま黙り込む帝釈天の姿があった。「阿修羅はまだ、お前のことを許してねぇみたいだぞ。」「…」「今回の責任はどう取るつもりだ?」「おい、毘沙門天…!」思わず寿老人が毘沙門天の肩を掴む。対して帝釈天はというと、目を開いて視線を落とした。「…いずれ取ろう。」「はっ、いつまでも女数人侍らせてる奴が言っても信用ならねぇな。」「毘沙門天!―――梵天、話は以上でよろしいでしょうか!?」険悪な雰囲気になりそうな2人の気配を感じ取り、寿老人が慌てて梵天に確認をする。「え?あ、あぁ…。」「それでは失礼します!」そう言って寿老人は毘沙門天の腕を無理矢理取ると、部屋を出るため歩き出した。「そうだ!一つだけ!」梵天の呼びかけに、寿老人と毘沙門天が足を止めて振り返る。「今回の件で思い出したことがあるんだ。…昔―――寿老人、君と同じような経歴で天上に来た男がいたんだけど…。暫く修行を重ねた後に、彼は『ここでは私のしたいことはできない』と告げて、どこかへ姿を消してしまったんだ。」その梵天の言葉に、はっと何かに気づいたように顔を見合わせる毘沙門天と寿老人。「…今思えば、彼はきっと…"あの町を"守りたかったのかもしれないね。」「…」「…もしかしたら、…だけどね。これは余談だよ。」そして梵天は「またね。」と手を振り、2人を見送った。寿老人はそれにお辞儀をして、毘沙門天の腕を引きながら執務室を出た。帝釈天は、2人を見ることなく座ったままだった。
寿老人と毘沙門天が町に戻ると、宝船の修復をしている人間と妖怪達の姿があった。その中には、見知った顔もあれば、そうでない者達もいた。皆それぞれ、建築材料を運んだり、成形したり、工具で部品を取り付けたりしている。設計について議論を交わす者もいた。「おかえりなさい!毘沙門天様、寿老人様!」袖をまくり、大きな板を運ぶまりもが通り過ぎた。「すっかり良くなったようで何よりだな、まりも。」「お陰様で、怪我する前より良くなった気がします!」そう言って、えへへと笑うまりも。そこに駆けてくる阿形と吽形。「よしよし、お前らも元気そうだな。」」毘沙門天が頭を撫でてやると、嬉しそうに擦り付け、目を細めた。そこに真志と小百合が出迎えた。「おかえり!どうだった?」「お咎めなしだ。」「マジか!良かったじゃねぇか!」「皆さん、町のために色々頑張ってくれましたもんね!」「そこは良かったんだがな…。」「あの騒動に関しての新情報は無しだ。」「そうか…。」―――あの騒動後、町は片づけや復興に追われた。七福神達も町民に交じって手伝いをしていたところ、町の庁舎にお呼ばれし、町長から直々に礼を言われた。何か謝礼を、と申し出があったが、寿老人はそれを断った。「礼など不要だ。私達は福の神として己の責務を果たしただけだ。私達よりも、民達への取り計らいをしてやってくれ。」それでも何か、と引き下がらない町長にうーんと頭を悩ませる面々。「…そうだな…。強いて言えば、宝船が壊れてしまって困っているくらいか。…宝船は私達の住まいと同じでな。全国を廻るのにも利用している。修復するのに、人の手を借りられると助かるんだが…。」その発言をきっかけに、町の大工を初め、様々な人々が手伝いに来てくれた。その中には、七福神達に命を救われたから恩返しをしたい、という町民もいた。「私達に出来ることがあれば、手伝わせてください!」そしてその中には、真志の友達もいた。「姐さん!!俺らにも出来ることないすか!?」「お前ら…。」「誰が姐さんだ。」「いつの間に手下作ったの?」「手下じゃねぇ。」七福神達は、その人々の申し出に甘えることにした。ただし、建築材料には天上で採取できる材木や鉱物を使用しなければ、船を天上に浮かべることも、敵に襲われても耐える堅牢な造りも、『隠密形態』と呼ばれる透過機能を備えることも出来ない。そこで、その点については、恵比寿のツテを利用して天上の職人達にも協力を仰ぎ、材料の運搬と設計について手を借りることにした。天人と、人と妖怪が手を取り合い、ともに協力して宝船を建築していく。その光景を、どこか嬉しそうに眺める毘沙門天と寿老人。―――2人が奥の方へと歩いて行くと、テントの前に他の七福神達が集まっていた。「おかえりなさい、毘沙門天、寿老人!」「あっ!おかえり~!見て見て2人とも!これ、民達からの贈り物だよ!!」「『是非使ってください』、だってさ。」そこには、全国の人々から寄せられた贈り物が集められていた。食べ物だけではなく、小物や雑貨、家具までもある。あの騒動の後、度々七福神達の元へテレビや新聞、雑誌の取材、インフルエンサー等が訪れていた。七福神達は悪ふざけ半分、といった無礼な者には厳しく接したが、真面目な者には真摯に対応をしていた。取材の中で「今何が必要ですか?七福神の皆さんに贈り物をしたい、という人たちも少なからずいるみたいですが。」という質問もあり、それに対して弁財天と寿老人が以下のように答えた。「そうだなぁ…。…あ、でもそれよりも、この町で被害に遭った人達に、何か送ってあげてほしいな!それから…真にそういう物を必要としている人達の元へも!」「…この世界には、『自他一如』という言葉がある。己と他者は一つの存在であり、区別が無いという意味だ。私達は何者も、他者に助け、助けられて生きている。どうか助け合って生きることを忘れないでほしい。」そういった言葉の数々が、人々の胸に刺さったのだろう。その心身の強さと、長く生きてきたが故の達観した目線と言葉、知識。そして何より、その人間に対する愛情が、徐々に人々の人気を集めていた。そこには、各個人の個性のあるキャラクターが"ウケた"というのもあるだろうが。そんな七福神達に、全国の人々から"彼女達が必要としているかもしれない"贈り物が続々と届いたのだ。「すげぇな…。」「家具や調理器具等はありがたいな。…折角だ、使わせてもらおう。」「しかしなんか変なもんも紛れてるね。」「…釣り道具…すごい、今の民のってこうなってるんだ…!」「おいおいおい、煙草の山じゃねぇか…。ありがたいな…。」「よくわかってるな、私達の好みが…。」「あれだけ取材で言いふらせばね。」「ねぇこれなんだろ!?」「『美顔ローラー』ですって。…!弁財天!!これで顔を滑らせると、小顔になるそうです!!」「嘘!?やんなきゃじゃん!!」「えー!私も使いたい~!」「何故そんなものまで…。」「…気持ちはすごく嬉しいんだけど…こんなに乗らないね…。」「寄付でもすりゃいいだろ。」「そっか!確かに!後で民の偉い人達にも相談してみよっか。」そうして、船に運び込むものを選別するのだった。
――――作業の休憩時間、煙草を吸う毘沙門天の元へ真志が訪れた。「お前らのおかげで、うちの神社も大忙しだよ。」例の件があってからというもの、神社には途切れることなく参拝客が訪れ、繁盛して忙しいことこの上なかった。お守りもすぐに売り切れてしまうような状態だ。日々両親が副業を休んで対応し、てんやわんやで嬉しい悲鳴を上げている。『七福神降臨の地』として聖地になっているようだ。「私達も、あの2人には大分世話になったからな。これで返せたのなら何よりだ。」「…まぁ、そこは確かに…。」「お前もすっかり有名人だしな。」「それはマジで勘弁してほしい…!!」ぐああと頭を抱えて悶える真志。七福神達は勿論として、真志もすっかり有名人になってしまった。阿修羅との戦いを映した映像の中には、勿論、真志の姿も収められていた。狛虎とまりもの姿が見えない人間も殆どだが、見えた者から『現代版陰陽師』と呼ばれたことで、あっという間にその呼び名が広がってしまった。町を歩けば声をかけられ写真を求められ、果てにはサインをねだられたりもしている。「町歩くと絡まれるわジロジロ見られるわで、家に帰れば人で溢れ返ってるしよ…親は疲労困憊だし…マジで落ち着かねぇよ…。」「はは、そりゃ悪かったな。」「微塵も思ってねぇだろ。」「まぁ、なるべくしてなったとも言えるな。お前の力を考えれば。」「そうかぁ…?」「いずれ同じ事態にはなってただろ。」「そうかなぁ…。」「学校でモテたりはしてねぇのか。」「モテ…てんのかはわかんねぇけど、いろんな奴に話しかけられるようになった。それもまた疲れるったら…。嬉しいは嬉しいけどよ。」「お前って奴は…。…まぁお前には小百合がいるからな。」「なッ!!ばッ…!!違っ…!小百合はそんなんじゃ…!」「そんなんってなんだ?私は何も言ってねえぞ。」「…!!この…ッ…!!」真っ赤になってわなわなと震える真志に、にやにやと笑う毘沙門天。爽やかな風が2人を撫ぜる。「…しかしそれにしても…。」そう言って真っ青な天を仰ぎ、空気を吸い込む毘沙門天。「町の気が随分と安定したもんだ。」「…あー…そうだなぁ。狐の力が増してんのかな?」「そうだろうな。」毘沙門天が先日呼びかけてからというもの、町の人々はその日から狐と社を大事に扱うようになった。社を綺麗にし、供物を捧げ、祈ることで、それが徐々に狐の力となっていった。ただ一つ難点なのがその立地だ。今の設置場所がビルの屋上ということで、人が安易に立ち入ることが難しい。なので、もう少し人が訪れやすい場所へと移す計画があるようだ。多くの人が狐の元を訪れることで、かつての力を取り戻すことができるだろう。「…この分なら大丈夫そうだな。―――…懐かしい空気だ。」毘沙門天が心地よさを感じていると、向こうからルンルン気分の猫又と狐がやって来た。「おっ、真志に毘沙門天じゃねぇか。」「ん?おお!よう相棒!」「タマ!と、狐!」「話をすればだな。」猫又と狐は浮足立ったように2人の元へと駆け寄ってきた。「なんだよ、随分と上機嫌じゃねぇか。」「へへっ、気づいたか?実はよ、―――昔の仲間達が戻って来たんだ!」「え!?」『異所通道』が開き、余所の妖怪達が流入してきたことで別の地へ追いやられた仲間達が、事態の解決と共に戻ってきたという。「…皆、申し訳なさそうにしてたけどよ。戻ってきてくれたのが何よりだぜ!」「…そっか…。良かったな!」「また賑やかになりそうだな。」「おうよ!」嬉しそうな2人の様子に、真志と毘沙門天も顔を綻ばせる。「それからなー、今日は小百合の家にお呼ばれしてんだ。」「へ~!お前失礼なことすんなよー?」「当たり前だろ!現代の礼儀作法は、皆に教えてもらいながら勉強したぜ!」近頃は真志や小百合以外の人とも交流があるらしい。うきうきな様子の狐に、可愛い奴だな…と見守る3人だった。その時、そうだ、と思い出したように狐が毘沙門天へ向き直る。「毘沙門天、ほんとにありがとよ。」「おいおい、なんだ、改まって。」「へへ、ちゃんと礼を言ってなかったなと思ってよ。」狐の言葉に、ふっと笑みをこぼす毘沙門天。「私はただ、民達にあるがままの真実を伝えただけだ。―――1200年もの間…町や人々を守り続けるだなんて、そうそう出来ることじゃない。私なりのお前への敬意だ。」「なんだよ、照れるじゃねぇか。」「事実だろ。」「それを言うならお前もだろ!」「!」「お前は自分のためじゃない、純粋に人間達のことを想って、全国各地を廻って、身を削りながらも戦って…福の神としての務めを果たしてきた。それだってすげぇことだ。…今回の件で、その凄さがよくわかった。俺だって、昔に初めて会ったあの時から、お前を買ってたんだぜ!」狐の言葉に、毘沙門天は優しく微笑む。「…その言葉、素直に受け取っておこう。」「おうよ。そうしてくれ!俺が人を褒めることなんてそうそうねぇからよ!」狐がそう言うと、皆笑うのだった。
その後も、町の復興や宝船の修復作業に追われる日々を過ごした。その中で、七福神と人々、妖怪達は交流を重ね、共に時間を共有しながら、一つの目標に向かって協力していた。
―――そして2週間後―――…。
「すげぇ…。」完成した宝船を見上げる真志と七福神。その周りには、携わった妖怪や人間達が集まっていた。船は巨大で、大層立派なものになった。「すごい…すごいよ!!ほんとにちゃんと完成したよ!!」「素晴らしいな…。」「…なんだか、感動です…!」「やだも~布袋ったら!私もつられちゃうじゃない!」布袋と福禄寿は感極まって泣きそうになっている。周りの皆も、互いに完成を喜んでいた。弁財天が船を見上げながら呟く。「私達と民と、妖怪達と。皆で作り上げた宝船―――…私…すごく好きだなぁ!」そう言って嬉しそうに微笑む。「…そうだな。」寿老人も、他の七福神達も皆、つられて笑った。お祝いムード一色の中、どこか寂しそうな表情を浮かべる真志がいた。それに気づいた小百合は、その背中に手を添える。「小百合…。」わかってるよ、とでも言いたげに、小百合はただただ真志に寄り添っていた。
――――そしてその日の夜。例によって宴が開かれた。そこには以前と違って町民の姿もあった。協力してくれた人々も招いての盛大な宴だ。完成のお祝いと、七福神達のお別れ会も兼ねた席だった。「…もう少しいたっていいんだぜ?」妖怪も、人々も、皆口々にそう言ってくれるが、七福神達は頑としてそれには従わなかった。「もう十分世話になった。…それに、今回この町を見て、私達が手を貸すべき民達がいることを知った。いくつか、困りごとを解決してほしいという内容の封書も届いてるようだしな。…まぁ、その内のどれほどが確かな情報であるかはわからないが…。」「…私達は福の神だからね。助けを求めてる人がいるなら、行かなきゃ。」それはわかっているが、いなくなってしまうのは寂しいと、真志の母親や小百合、座敷童や妖怪達が泣き出すのを、七福神達がなだめる。だが、七福神達の方もそれにつられて泣きそうになっていた。「そう言ってくれると…私っ…!泣いちゃいます…っ…!!」「またその内遊びに来るよ…っ!」「うぅ~~~…皆のこと忘れないから…っ!」「…私達も勿論寂しい。…お前達が作ってくれた宝船を見て、お前達のことを思い出そう。」酒も入っているせいか、皆次々に泣き出す始末。「おいおい酔っ払い共さぁ。」それを呆れたように眺める大黒天。「うぅっ…!」はたと隣を見ると、狐もぼろぼろと涙をこぼしている。「全くさぁ。」「…まぁまぁ、いいじゃねぇか。」ぬらりひょんがおちょこで吞みながら呟く。「…今夜は宴だ。」気分の良さそうなぬらりひょんを見て、大黒天は静かに溢した。「…別に、悪いとは言ってないよ。」
――――宴の後、皆が宴会場で無造作に眠りこける中、真志と毘沙門天は縁側で並んで座り、星空を眺めていた。「…本当に行っちまうんだな。」「…あぁ。」「……寂しくなるな。」あまりにも小さな声で呟かれたその言葉に、毘沙門天は真志の方を見る。俯き、顔が見えないその様子は、社交辞令などではなく、心からの言葉であることを物語っていた。「…何言ってやがる。お前の周りには、あれだけ騒がしい奴らがいるじゃねぇか。」毘沙門天はそう言って、優しい瞳で寝潰れている人や妖怪達を見やる。「…それはそうだけどよ…。…そうじゃねえ…。」「…」たった数週間だが、毘沙門天や七福神達と共に過ごした日々は濃密だった。「…お前が来てから、毎日いろんなことがあって…いろんな人や存在と出会って…。俺自身も、周りの人も、環境も、皆変わって…。世界がまるで別物になっちまった。」「はっ、そりゃそうだろうな。」"本物の"毘沙門天と出会い――小百合に自分と同じものが見えるようになり――自身は使役の力に目覚め――世の中の人々は天人や妖怪の存在を認めるようになった。起きた変化があまりにも大きすぎて、それ以前の世界が最早考えられない。「…でも、前よりも良いんだ。…俺は、今のこの世界が好きだ。」「…そうか。」「そうなったのも全部、お前のおかげだ。…それだけ、お前の存在が大きかったんだ。」「…」「…俺さ、…お前と一緒に過ごす時間も、小百合や、妖怪達、七福神達とか…皆でわいわいやる時間も、一緒に協力して何かを成し遂げる時間も、―――…全部、楽しかった。」「…それは私達も同じだ。」「!」「…久々だった。こんなにも地上の民達と触れ合って、話して、共に笑ったのは。それができたのは、紛れもなくお前のおかげだ。皆、お前が引き合わせてくれた。その人柄があってこその"縁"だ。…私は、数百年ぶりに出会えた人間がお前で良かったと、心から思ってる。」「毘沙門天…。」「それにな、変化をもたらされたのはお前達人間ばかりじゃない。私も、私達天人もそうだ。」「…」「お前は、私達天人と人々の懸け橋になってくれた。…私達皆の恩人だ。」「…そんな…、」「お前のおかげで私は助けられた。そしてお前の友人や狐、小百合、町の民達や妖怪達もそうだ。お前がいなければ、この中の誰かが犠牲になっていたかもしれない。それはお前の、"力によるもの"だけじゃない、純粋な『人々を守りたい』『大切な存在を守りたい』という気持ちがあってこそ、実現したものだ。…私は、お前のそういう心が大事だとも、尊敬に値するとも思っている。…真志、お前は―――自分が思ってるよりも、ずっと凄い奴だ。」「…毘沙門天…。」「自信を持て。"毘沙門天"のお墨付きだぞ。」「…ははっ、そう聞くと確かにすげぇな。」ひとしきり二人で笑った後、真志に向かって手を差し伸べる毘沙門天。「…改めて。―――…ありがとう、真志。」あまりにも真っ直ぐな目とその優し気な笑みに、真志はどこか照れながらその手を取る。「…そんなの、こっちの台詞だ。…ありがとう、毘沙門天。」「なら、おあいこってことにしとくか。」「ははっ、そうだな!」「お前は、私の大事な『友』だ。」「…!」その言葉で、真志は泣きそうになってしまう。「その内また来る。」「…俺、」「ん?」「…絶対、強くなるよ。そして狐やぬらりひょん、猫又達と一緒に、この町を守る。―――…この町が好きだからさ。」「…あぁ。」「次会う時は、めちゃくちゃ強くなってるぜ!」「はっ、言ったな。楽しみにしてるぞ。」そして2人で星空の下、再び笑い合った。
「う"っ…昨日飲み過ぎた…!」「号泣してぐちゃぐちゃになってその後のこと覚えてません…。」「頭いたぁーい!」次の日の朝。二日酔いで各々ダウンしている七福神達。を呆れた目で見る真志。「おいおい、お別れの日にやめてくれよ…。」寿老人と福禄寿の気功術でいくらか改善したようで、準備を終えて船の前に集まった頃には、すっかりいつも通りの調子を取り戻していた。気を取り直して、互いに向き直る一同。そこには、かつてのメンバーが勢揃いしていた。真志と両親、小百合、猫又に狐、ぬらりひょん、座敷童、そして妖怪達。船を背に立つ七福神達と向き合うように、町民達が並ぶ。挨拶をと、まずは弁財天が口を開いた。「皆、本当にありがとうね!宝船の建造を手伝ってくれたり、私達に現代の色々を教えてくれたり、沢山話してくれたり…。――…一緒に、楽しい時間を過ごしてくれたり…。昨日の宴も、とっても楽しかった!」そして明るい笑顔を落ち着ける。「…この町の皆さんは、優しくて、温かくて…。…おかげで私達は改めて、『人を助けたい』って思えたの。…最初は、久々の"人間の皆"に、受け入れてもらえるのか少し不安もあったけど…そんなの必要なかった。…改めて、皆、ありがとう。私達を受け入れてくれて。…本当に、本当に嬉しかった!」そう言って微笑む弁財天の目尻には、涙が浮かんでいた。その言葉に、皆また目を潤ませる。「皆さんと出会えて、良かったです!!」「楽しかったよー。」「また遊びに来るわね!」「まぁ精々元気でやってな。」七福神達が口々にお別れの挨拶を述べる中、寿老人が毘沙門天に呼びかける。「毘沙門天からも一言言ったらどうだ。」促されると、毘沙門天が一歩前に出る。「…皆、本当に世話になった。」毘沙門天が話し出すと、場が引き締まった。「お前達の気遣い、優しさ、この身に染みて伝わった。私がここで無事に過ごせたのも、万全の調子で挑めたのも、事態の解決を図れたのも、全てお前達のおかげだ。…そして、ここで過ごした日々は―――…私にとって尊く、かけがえのない大事なものとなった。…私はこれから先、この町も、お前達のことも、一生忘れることはないだろう。―――…本当に、ありがとう。」その毘沙門天の言葉に、こらえ切れず妖怪達が走り出す。「毘沙門天サマ〜〜〜ッ!!!」小さな妖怪達や狛虎が毘沙門天に抱き着くように集まる。「全くお前達は…」そう言いながらも、一人一人の頭を撫でる毘沙門天の笑みは、満更でもなさそうだった。そして、妖怪達を抱えたまま、真志達の方へと向き直る。「真志、狐。」「!」「おうよ。」「…この町を、頼んだぞ。」「!…勿論だ!」「…言われなくとも!」そしてひとしきり挨拶を済ませると、七福神達は船に乗り込んだ。甲板から皆を見下ろす七福神達。皆手を振りながら見上げる。「毘沙門天!煙草はほどほどにしろよ!」「うるせぇ!余計なお世話だ!」毘沙門天と真志のそのやり取りに皆笑う。「行くぞ。」その寿老人の言葉を合図とばかりに、船は動き出す。―――「…本当に、行っちゃうんだね…。」涙を拭きながら小百合が呟く。「…あぁ。」その横で、寂しそうな表情を浮かべる真志。町の住人も、七福神達も、「ありがとねーっ!」と言いながら、互いに手を振り続ける。船はどんどんと上空へと上がっていく。次第に小さくなっていく町や、真志や人々、妖怪達を見て、毘沙門天は一瞬、切ない表情を浮かべる。だが、泣きそうな真志の顔を見て、それを隠すようにあの優しい笑みを浮かべるのだった。それに真志も気づくと、零れそうな涙をこらえ、精一杯の笑顔を返してやる。そして毘沙門天と目を合わせ、感謝の気持ちを込めて大きく手を振り、希望に向けたその新たな旅立ちを見送るのだった。やがて七福神達の顔が見えなくなるほど、宝船は小さくなる。町の皆は暫くそのまま、船の行った場所を見つめていた。
数日後。『本日、総理が七福神の皆さんと会合を――――』「…おいおい、すげぇな…。」真志は学校の屋上で、小百合と狛虎、まりもと一緒に、スマホで動画配信を見ていた。「本当にすごい人たちなんだなって思うよね…。」「ほんとだよ。」最早呆れながらそれを眺める。だが、次の瞬間には嬉しそうな表情を浮かべていた。「…皆、元気でやってるんだな。」「会えないけど、テレビとかネットで無事を確認できるなんて…良い時代になったよね。」「…そうだな。」『真志くん!小百合ちゃん!皆~~!!元気してる~~!?』その時、真志がブーーーッと飲みかけたお茶を噴きだす。思わずスマホにかじりついて見る。画面の向こうから、七福神が真志達に向かって呼びかけていた。『私達は元気だよ~っ!!』『何かあったら呼んでくださいね!』『また遊びに行くわね~~!♡』「…相変わらずだね…。」「でも、こうして呼びかけてくれるのは嬉しいですね。」ふふ、と嬉しそうに笑う小百合とまりもに、ハンカチで口元を拭きながら「…ったく、しょうがねぇ奴らだな…。」と、満更でもなさそうな顔で呟く真志。その画面の向こうには、苦笑いを浮かべる毘沙門天の姿も見えた。「…俺も頑張るぜ、毘沙門天。」そんな真志に、小百合とまりもは微笑み、狛虎はがおっと吠える。「それじゃあ今日も特訓ですね!!」「寿老人さんと福禄寿さん直伝の特訓メニューだね!」「いや、アレはちょっとハードすぎ…。布袋のメニューにしねぇ?」「駄目ですよ!!私達は強くならないとなんですからっ!!」「下手すると大黒天さんの地獄メニューだよ?」「それは勘弁してくれッ!!」そんな5人の元には明るい日差しが降り注ぎ、爽やかな風が通り過ぎていた。
世界のどこか。金色に輝く、何かの卵が置かれていた。