【9話】 七福神集結(火曜日)


「なんてこんなに見つからないの!?」七福神達は昨日と同様、公園の休憩スペースに集まり、状況の報告をし合っていた。昨日から丸一日、毘沙門天を捜索していたが未だ有力な情報は得られていない。「どうした、大黒。」寿老人が何やら考え事をしている大黒天が気になり、話しかける。大黒天は真剣な顔で呟く。「…いや、あの時、情報をくれた人間いただろ。あいつ…なんか怪しかったんだよな。久々の地上で感覚が鈍ってるせいかと思ったけど、ここまで見つからないとね。」「え?」大黒の発言に、5人の心がざわりと騒ぎ出す。「…言われてみれば確かに…。」だが、単純に人間の"気"の差異だろうと思って気にしなかった弁財天。「…まさか、嵌められたとでもいうことか?」「さてね。」6人の間で重苦しい雰囲気が漂う中、何かの小さな影が近づいてくる。「あの、七福神達サマ!」声がして振り返ると、そこにはおどおどとした様子の小さな妖怪が。昨日、聞き込みのついでに町の中に潜む悪鬼を倒した際、助けた妖怪だった。寿老人は妖怪の元へ近寄ると、片膝を立てて目線を合わせてやる。「昨日の子だな。どうした?」「あのね、毘沙門天サマを探してるって言ってたでしょ?」「あぁ。」「それでね、昨日他の妖怪達にも聞いてみたんだけど…多分それ、もっと北の方の町だと思うよ。」その言葉に、6人はハッとする。「どういうことだ?」「…これなんだけど…。」そう言って手に持っていた週刊誌のページを見せて来る。寿老人がそれを受け取ると、5人も集まって寿老人の背後から覗き込んだ。「なに…―――『山の奥地に落下物』…『クレーターのみが残され、その正体は不明』…」「!」「…5日前だって言ってたよね?」「これじゃん!絶対これだよ!!」「住所は―――…全然場所違うじゃん…。」「…」寿老人はその本を閉じると、小さな妖怪へと返した。「…わざわざすまなかったな。ありがとう、助かった。」寿老人は小さな妖怪に優しく微笑みかけ、その頭を撫でてやる。妖怪はくすぐったそうに笑った。それを見ると、顔を引き締めて立ち上がる。「…さて。行くとするか。」寿老人が歩き出すと、5人もそれについて行った。
――――「…俺にはこれは塞げねぇ。」「えっ!?」真志と小百合、毘沙門天、そして狐は、例の『穴』の場所を訪れていた。狐の発言に、思わず声を出す真志と小百合。「さっきも言っただろ。俺の力はすっかり衰えちまった。今の俺じゃあ無理だ。」「そうか…。」「…さっきので精いっぱいだったんだね…。」ビルの屋上で和解をした後、狐は守り神としての力を発揮させ、この町一帯に気を張り巡らせた。そして負の力を抑えつけることで、その空気をいくらか緩和させることが出来たのだが…。「おそらく、人の信仰が薄れているのも関係があるんだろう。」「…」真志は自分の掌を見つめる。
――――前日の夜、毘沙門天に『話がある』と呼び出された真志は、夕食後、神社の境内へと出向いた。そこには、鳥居の前で腕を組みながら町を見下ろす毘沙門天の姿が。真志はその隣に並んで、毘沙門天と一緒に町を見下ろす。…いくらか発展してきたとはいえ、小さな町だ、闇夜に浮かぶ灯は派手なものではなく、質素に点々と煌めいている。だが、真志はその控えめな風景が好きだった。「…お前の力について考えていたことがある。」真志の方を向くことなく、町を見下ろしたまま呟く毘沙門天。「え?」真志の呆けた声に、ようやく視線を合わせた。「お前には、妖怪達を"使役する"力がある。…阿形と吽形を"遣える"のも、まりもを呼び出せたのも、そういうことだ。私の力に充てられたせいで、その眠っていた才能が呼び起こされたんだろう。」「……は?」あまりにも突飛な話過ぎてついていけない。妖怪を"使役する"…?「…別に俺はあいつらを使役してるなんて…。」「…今まで感じたことは無いか。阿形と吽形に『こう動いてほしい』と念じた時、二人がお前の思い浮かんだ通りの動きをしたことが。」「そんなの…!ただ、俺達の息が合ってただけだって…。」「…それもあるがな。互いの波長が合ったからこそ、出来たというのもあるだろう。」そんな、まさか…と、これまでのことを振り返る。…でも、そんなのはまるで…。「…勿論、お前と奴らの全てが"そう"であるわけじゃない。そもそも、使役される側の奴が『そうしてもいい』と受け入れて、初めて成り立つ関係だ。双方に信頼がなければ出来ない。"使役する"ってのはそういうもんだ。」真志が感じる不安を察したのか、すかさず毘沙門天はフォローを入れた。「…さて、ここからが本題だが…。」そう言って体ごと真志に向き直る毘沙門天。「"使役する"力―――それだけじゃない。お前には、それよりも高度なことが出来るんじゃないかと思ってる。」「高度な…?」「例えば、妖怪達に"力を与える"ことで、その本来の力を呼び起こさせ、強化させる―――…とかな。言わば力の"増幅"だ。」「!?…そんな、漫画みたいなこと…。つーか、そんなことが出来るんなら、なんであの鬼に襲われた時は出来なかったんだよ?」「お前が"力の与え方"を知らなかったからだろう。使役の力については、狛虎と昔から触れ合っている内、無意識に身につけたんだろうが…。…まぁ、もしかしたら、既にその力が開花している可能性は無くもないがな。」「…」「そういう反応になるのも無理はない。物は試しだ。―――阿形、吽形。」毘沙門天が呼びかけると、二匹は姿を現した。そして真志の正面に二人が向くように誘導し、自分は移動して距離を置く。「こいつらに手をかざしてみろ。」「!」「初めてなら、そうした方がわかりやすい。全身の力を自分の手元に集中させて、かざした先の相手に流し込む感覚だ。」「なっ…いきなりそんなこと言われても、」「いいからやってみろ。」「…な、なんか恥ずかしいんだけど…。」「ぐちぐちとうるせぇな。男ならさっさとやれ!」しびれを切らした毘沙門天が若干苛立ちながら叫ぶ。くっ、と手を握り締めると、真志は毘沙門天に言われた通りに手をかざす。目を閉じて、静かに、慎重に、掌に意識を集中させる。そして力を入れ、掌に集めた気を、二人に放つ感覚。「―――どうだ!」ぱっと目を見開くが、二人には何の変化も無かった。シーン…と辺りは静まり返る。「何もねえじゃねぇかッ!!」恥ずかしくなってその場で拳を振って怒鳴る真志。「…まぁそう上手くはいかねぇか…。」しれっと顔を反らす毘沙門天。「…毘沙門天様…。」まりもが現れ、毘沙門天に対し何事かを視線で訴える。「…わかってる。出来ない可能性もある、って言いたいんだろ。」「…」まりもが目を伏せる。それは肯定を示していた。その後も何度か練習したが、力を使うことは出来なかった。
―――そして今日。先ほど、真志は守り神としての力を発揮させようと狐に両手で触れ、力を流し込もうとしたが、上手くいかなかった。ちらりと毘沙門天を見やるが、特に気にする様子はなかった。
――――一先ずは一度、妖怪達の隠れ家に向かうことにした毘沙門天達一行。歩きながら、毘沙門天が隣を歩く狐に問いかける。「…お前は、いつから真志のことに気づいてたんだ。」小百合と並んで前を歩く真志を見やる。「…俺は…一目見た瞬間、わかったんだ。"あいつだ"ってな。ぬらりひょんや、当時からいた他の妖怪達もそうだ。…でも、他の人間どもと同じように、人は変わっちまう。例え同じ奴だろうと、あいつとこのガキは全くの別人なんだろうってな。」「…それもそうだ。余程我の強い奴や、使命を託された者以外、生まれ変わる中で"我"は残らないからな。見たところ、真志は全く自覚がない。」「それが寂しいような、…ほっとしたようなだな。」「…別に奴は、お前を咎めることはしないと思うぞ。」「…俺もそう思うが、俺側の気持ちの問題だ。」「…まぁ、その気持ちもわかるがな。」「…そういうお前は気づいてたのか?」そう問われ、どこか遠い目をする毘沙門天。「…ぬらりひょんに言われるまで、全く気付かなかった。」実は大昔に真志と毘沙門天は一度会っていたのだ。―――否、正確には、『真志の前世』の人物と、だ。「…なんという縁の巡り合わせだろうな…。」かつての狐の友であり、この地で大穴が空いた時、七福神の手伝をしてくれた陰陽師が、真志の前世の人間だったのだ。穏やかで優しく、正義感の強い男だった。狐は陰陽師に懐いていたのを覚えている。まさか、生まれ変わった先の人物と再び出会うとは思うまい。「お前がこの町に、このタイミングで来るなんてとんでもねぇ奇跡だぜ。」「それに関しては同意見だな。…だが、今となっては来るべくしてきたんだろうと思う。」「…そうかもな。」ここ数日間の出来事を振り返る。「…お前が来てくれて良かったよ。」町や妖怪達を守り、狐を呼び戻してくれた。その上、小百合まで狐が見えるようになった。「ありがとうな。」「…まだすべてが解決したわけじゃない。」「それはそうだがよ。」「…真志の力に、かつての陰陽師と近しいものを感じた。」「…」陰陽師は、妖怪達に力を与えて使役をしていた。狐の守り神としての力も、元は陰陽師が与えたものだ。真志にも同じことが出来るような気がしたのだ。だからこそ昨日の夜、真志を試した。「やめとけよ。…期待するだけ無駄だ。」「…」「あいつと真志は違う。…さっきも、実際出来なかったじゃねぇか。」狐は、真志が自分に触れた意図を理解していた。だが、それが叶わないことだろうことも。「…」毘沙門天は、昨日のまりもの反応を思い浮かべながら、黙って真志を見つめていた。
――――隠れ家に着くと、地元の妖怪達が勢ぞろいしていた。その中にはぬらりひょんの姿もあった。久方ぶりに見た旧友に、目を開かせる狐。「お前…!」「…ようやくか。随分とかかったもんだ。」「…うるせぇよ。」そして狐の元に妖怪達がわらわらと集まる。「戻ってきてくれたんだね!」「待ってたよ!」と口々に言う。彼らも狐の心情を推し量り、ずっと『戻ってきてほしい』『助けてほしい』とは言えなかったのだ。戸惑う狐に、猫又が声をかける。「お前の力だと思った。…待ってたぜ。」他の妖怪達と同様、嬉しそうに言う猫又に申し訳ないとばかりに謝る狐。「…悪かったな、長いこと。」「無理もねぇよ。気にすんな。」「…犠牲も出たって聞いた。」「…俺達みたいな存在は、そうなった方が良いことだってあるだろ。」そう言って毘沙門天を見る猫又。毘沙門天は複雑そうな顔をしていた。狐を取り囲む妖怪達の喜ぶ様子に、嬉しそうに笑みを浮かべる真志と小百合。「あれっ!?小百合、僕たちのこと見えるの!?」小さな妖怪が一人、小百合の存在に気づく。「えっ…と、そうなの。実は私も見えるようになって…。…やっぱり、あなた達も私のこと知ってたの?」「勿論だよ!だって真志の恋び―――」「わーーーーッ!!!?何言ってんだお前!?違うって言ってんだろ!!!」慌てて妖怪の口を手で塞ぐ真志。「?」頭に?を浮かべる小百合に、今度は妖怪達が小百合にも群がる。「やったー!小百合だー!」「よろしくねー!」そこにまりもも加わり、皆でわいわいがやがやと騒ぎ出す。
「…随分と賑やかになったもんだ。」ぬらりひょんが、その光景を離れた位置で眺めていた毘沙門天の隣で呟く。「全くだな。」「お前はとんでもねぇもんを運んできちまったようだな。」「…どうやらそのようだ。」どちらもその表情は優しかった。そんな風に平穏な空気を醸し出していた時だ。それをぶち壊すかのように、「毘沙門天サマーーー!!」と妖怪が一人、叫びながら隠れ家に駆けこんできた。「おいおい、どうした?」猫又がその子に呼びかける。その妖怪はぜーぜーはぁはぁと息を切らしながら、後方を指刺しながら答える。「大変!!お空の上から、船が…っ船が来るよっ!!」その言葉に、その場にいた全員が一斉に毘沙門天を見つめた。「やっと来たか…。」皆の視線を集めながら、腕を組み、呆れたように呟く毘沙門天。そして真志が興奮したように言う。「もしかして…ついに集まるのか…!?」

人々が天を見上げながら指を差し、口々に呟く。「えっ!?船!?浮いてない!?」「何あれ…。」「ままー、ふねがおそらとんでるー。」
――――「…あそこのあたりか…?」寿老人が紙の地図を掲げ、地上の地形と見比べながら呟く。「隠さなくていいの?」そんな寿老人に恵比寿が問いかける。ここ数日地上に降りる時は、宝船を結界機能で覆い隠して、人々からは見えないようにしていた。人々へ混乱を与えないためと、悪しき妖怪達に狙われないようにするためだ。「この際もう構わんだろ。逆に毘沙門天の方から見つけてもらうのに都合が良い。」「あっ!ねぇあそこ!神社じゃない?」弁財天が指す場所には鳥居が見える。「―――…確かに、神社のようだ…。例の落下地点とも近い。」「えっ!?あれっ!?あそこにいるの毘沙門天じゃないですか!?」布袋が指差す場所を、全員で見下ろす。そこでは、神社への石段を登る途中の毘沙門天が、船を見上げていた。その周囲では、数人の人間や妖怪達が階段を登っていく様子が見えた。「なんだよ、全然ぴんぴんしてるじゃん。」「…良かったぁ~~!無事だったんだ毘沙…!」はぁ~~~…と力が抜けるように崩れ落ちる弁財天。「本当に良かったです…!」「もう!心配させちゃって~!」「全く…。」皆ほっとしたように笑顔になる。取り繕ってはいたが、皆どこかで『もしかしたら既に毘沙門天は…』といった不安を抱えていたのもあり、その安堵の気持ちは大きかった。「取り敢えず近場の広いところに降りようか。」そう言って恵比寿は操舵室へと向かった。
――――「…な、なんかドキドキするな…。」神社の境内に集まり、皆で七福神の到着を待っていた。妖怪達も気になったようで、皆ついてきてしまった。真志と小百合、猫又はベンチに座り、妖怪達は境内でそれぞれに待機している。毘沙門天が、船の上から見下ろす仲間達と目が合った、と言っていたので、あちらも場所は把握しているだろう。先ほど山の裏手に船が下りて行ったので、もう少しで来る筈だ。「あれ…鶴、かな?」小百合の視線の先を見ると、白い鶴が上空を飛び回っていた。「…福禄寿の鶴だな。ここの場所を知らせてるんだろう。」「!」毘沙門天が説明し、真志の緊張がさらに増す。…本当に、あの七福神達がここに来るのだ。「おや、今日は何かあるのかな?」いつもの参拝のおじいさんが現れた。「じいさん、今日は早いな。」「なんだか賑やかそうだったから気になってね。…おや?今日は学校はどうしたんだい?」「あ、まぁ…その、色々あって…。」真志がごにょごにょと言いはぐっている時だった。「毘沙いたぁ!!」女性の声が境内の中に響き渡った。バッとその声のする先を見ると――――…「…!?」ピンクの着物に身を包んだ小柄な女性が一人、石段を登り切ったところで、息を切らしながら毘沙門天を指差していた。「えっ!?ていうかなんでこんなに集まってるの!?」境内の中に溢れんばかりの人や妖怪がいることに驚く女性――――…否、弁財天。その後ろからも次々に人が現れる。「やっと会えた~!」「全く、心配したんだぞ!」「本当に、無事で良かったです…!」「元気そうで何よりだね。」「流石しぶといなー。」口々に呟きながら歩いてくる。周りの妖怪達は、「アレが七福神…?」「なんかイメージと違う!」とこそこそと話し、真志と小百合も驚きで声が出ない。そんな中、毘沙門天は一歩前に出ると、仁王立ちで仲間を迎える。「お前ら遅いんだよ!」「!?」その言葉に驚く真志と小百合。「ここに来るまで何日かかってんだ?」その言葉に大黒を除いた七福神達一行が申し訳なさそうに謝る。「…すまない、遅れてしまって。何分、お前の行方がわからなくて―――」「天下の七福神が聞いて呆れるな!たかだか私一人を探し出すだけに、こんなに時間かけやがって…どれだけ私が一人で頑張ったと…。そもそもな―――」確かに内容は否定できない。だが、毘沙門天のぐだぐだぶちぶちといった一方的な叱責に、段々とイライラしてくる寿老人と弁財天。布袋はおろおろと慌て、恵比寿は静観し、福禄寿は苦笑いを浮かべ、大黒天は面白そうに眺めている。そしてその内、弁財天の中で何かがぷつりと切れた。「何よ!!そもそも毘沙が船から落ちたのが悪いんでしょ!?」そして寿老人がそれに続く。「そうだ!!こういうことがあるから、普段から甲板で煙草を吸うのはやめろと言っているんだ!!」「誰も船から落ちたなんて言ってねえだろうが!」「お前には前科がある!!信用できるか!!そしてその服の中に隠してるのはなんだ!!」寿老人に指摘されてさっと着物の袖を隠す毘沙門天。「また性懲りもなく煙草を買ったな!?金はどうした!!まさか民に無心したわけじゃあるまいな!!」「…ちゃんと返そうと思って借りただけだ。人聞きの悪いこと言うな!」「全く…!これだから中毒者は…!いい加減懲りたらどうだ!!」「それとこれとは話が違うだろ!お前らの到着が遅れたのは事実だろうが!平和ボケして力が衰えたのはお前らの方じゃねぇのか?」「おーおーなんだよ?やろうっての?いいよ、久々の地上だし、リハビリがてらやろうか。」「私達だって何もせずにここまで来たわけじゃないからね。ハンデとか無いよ。」「良いだろう、かかってこい。」売り言葉に買い言葉で、どんどんヒートアップしていく七福神達。一体何が起こってるのかわからず、震えながら困惑するおじいさんに、あわあわと困惑する小百合。そして「おいおい…。」と呆れる真志と猫又の傍らで、狐がけらけらと笑う。「相変わらずだな。」「…そうなのか?」「おうよ。あんな感じだぜ、七福神サマ方はよ。…ほっとしたようだな、毘沙門天も。」「そうかぁ?」「照れ隠しみたいなもんだろ。」「!」そう言われて毘沙門天達を見る。周りの妖怪達が焦ったように必死に七福神達を止めに入っていた。妖怪達に纏わりつかれて動けなくなった七福神達を馬鹿にしたように笑い、どこか生き生きとしたような表情を見せる毘沙門天の様子を見て、納得する。…要はプロレスってわけか。「下手に心配やら謝罪されるよりは、こちらの方が良いと思ったんでしょうね。」真志の隣でまりもが笑う。きっと、七福神達もそれをわかっていてそうしてるに違いない。「…素直じゃねぇの。」いい歳した神様達がよ、と真志自身もその光景を安堵した気持ちで眺めていた。
――――「すまない、うちの阿呆が世話になったな。」「誰が阿呆だ、コラ。」家の居間では狭いからと、本殿に案内された七福神達。「挨拶が遅れたな。私は寿老人という。」「私は弁財天!」
「布袋と申します。」「私は福禄寿よ。」「恵比寿だよ。」「私は大黒天。」寿老人に続き、皆口々に挨拶をした。「あっ…よ、よろしくお願いします!」真志と小百合が慌てて頭を下げる。「こいつは真志。この神社の息子だ。こいつとその両親に世話になった。」「そうか…色々と面倒をかけたようですまなかったな。助かった。」「い、いやそんな…!寧ろ世話になったのはこっちっていうか…。」「…それから、こっちは真志の幼馴染の小百合。この周りにいる奴らは、この町に住む妖怪やら神達だ。」「…ところで、何故全員集合してるんだ?」「…まぁ、ちょっと成り行きでな…。」「七福神様方がどんな人か気になって!」「会ってみたかったから…。」猫又と妖怪が口々に言う。「…そうか。どうやらお前達にも世話になったようだな、感謝する。」律儀な人だな、と真志が思っていると、「あれ、あなたは…。」布袋がふと、狐とぬらりひょんを見て何かに気づいた。「んー…私もさっきからなぁーんか見覚えがあったのよね~…。二人とも、どこかで会ったことあるかしら?」福禄寿からの問いに驚いたように顔を見合わせる狐とぬらりひょん。「…驚いたもんだ。覚えてる奴が他にもいたとはな。」「…毘沙門天にも言ったが、お前らは、昔にもここに来たことがあるんだ。」そして平安時代に七福神がこの場所に訪れたという話をする狐。「あぁ!昔大穴塞いだ時の!?」弁財天が立ち上がって叫ぶ。「そうか、1300年前…なるほどな。」そして当時を振り返り、軽く思い出話に花を咲かせる七福神達と狐達。「『穴』―――…か。確かあの時、この地域は穴が開きやすい場所だとか言っていたな。」「それなんだが…」「ん?」毘沙門天と猫又が、事の顛末を説明した。町の"気"に違和感があったため調査をしたところ、余所から妖怪が多数押し寄せていたり、至る所に呪物が置いてあったり―――…。終いには『穴』が見つかった、ということも伝えた。「―――それでだが布袋、お前には『穴』を塞いでほしい。私が一先ず仮に結界を張ったものの、おそらくは保たない。」「それは勿論です…っ!」「妖怪や悪鬼達は大丈夫なのか?」「私が厄介そうな奴らは大方片づけた。そして今は、この狐の力のおかげで、町の負の力が弱まっている。今残っている奴らも、その内出ていくだろう。」「…そうだな。確かに私達がここを訪れた時には、特段この土地の"気"に感じるものはなかった。効果は出ているだろう。」「じゃあ早速行く?」「その前に―――」皆が立ち上がろうとした時、寿老人が静止した。「一つだけ、肝心なことを聞き忘れた。…そもそもお前は、本当にただ落下しただけなのか?」「…」寿老人の問いに、皆、宙に浮かせた腰を再びその場に下ろした。「…お前の不在に気づかなかった私が言うのもなんだが…この町の状況を考えると、お前がただ偶然、ここに落下しただけとは考えにくい。」「…それなんだが…3日前に貧乏神に会った。3人組だった。」「!」「奴らが絡んでいる可能性が高い。」ふと大黒天が、周りにいた妖怪達がその話題になった途端、何やら挙動不審になっていたことに目敏く気づいた。「おい。」「ヒッ」「お前ら何か知ってるんだろ?」大黒が声をかけると、妖怪達はその漆黒の瞳を見て、体を震わせ、脅えた様子を見せた。毘沙門天を含めた七福神達も妖怪達に振り返り、真志と小百合も困惑した表情でそれを見る。その時だ。「………私が、やりました……っ…。」「!」その場にいた全員が、声のする方を見る。本殿の入口―――扉を隔てて、着物を着た小さな少女がこっそりとこちらを覗いているのが見えた。「座敷童…!」猫又が声をかける。「最近見ねぇなと思ったら。」と真志も呟くと、毘沙門天が小さくため息をついた。「…お前か。ずっと後ろから見ていたのは。」毘沙門天が声をかけると、びくりと体を震わせる座敷童。毘沙門天は落下してからのここ数日、時折、貧乏神でも、狛虎でもない気配を背後に感じていた。狛虎と同様に、悪いものではないようだったからずっと放っておいたのだが。「あ…っうあ、あの…っあのぉ…っ!!」泣きそうになりながら手足を震わせて何かを訴えようとする座敷童。それを見て真志は、毘沙門天を指差しながら声をかける。「そんなにこいつが怖いのか?」「違うだろ。」「いやいや、あながち間違ってないと思うぞ。お前、多分自分が思ってるよりずっとガラ悪いからな。」「あぁ?」「ほらその顔!」「まぁ毘沙門天はねー。」「その気持ちはわかるかも。」「しょうがないよね。」「お前ら…。」そう皆が言い合っている中、座敷童が突然走り出したかと思うと、畳の上でスライディングしながら、毘沙門天に対して土下座をして見せた。「申し訳ございませんでしたぁッッ!!!」真志も毘沙門天も、そして七福神も。呆気にとられながら、謝罪の言葉を繰り返す彼女をぽかんと見ていた。「わっ…わたくしが、わたくしが…っ毘沙門天様を船から引きずりおろしてしまいましたぁ…っ!!誠に申し訳ございませんっっ!!!」衝撃の事実を口にする座敷童。猫又は頭を押さえ、周囲の妖怪達も「ついに言っちまった…」という雰囲気を醸し出している。「…顔を上げろ。」涙でぐちゃぐちゃになった座敷童の前にしゃがみ込む毘沙門天。座敷童が想定していたよりも、毘沙門天の声色は優しいものだった。声に従い、顔を上げる。「…何か訳があるんだろう。お前のような奴が理由もなくそんなことをするとは、私も思っていない。正直に話してくれるか。」その表情はとても優しく、慈しみがあった。座敷童は姿勢を正すと、促されるままその理由を話し出す。「…先々週辺りから、我々の中でも…町の空気がおかしくなったり、余所者が蔓延っていたりと…この町に異常さに気づいておりました。…そして、その事態をどうにかしなければと思っていたのです…。…そんな時に、偶然、七福神様方がこの近辺を通過されるという噂を耳に致しまして―――…相談し、助言をいただこうと思ったのです。」その座敷童の言葉に、猫又や妖怪達がうんうんと頷く。「…それで、他の妖怪や神々と協力して、なんとか天上までの道を作り、宝船までたどり着きました。そこで、甲板にいた毘沙門天様を見つけたのです。―――…それで、お眠りになっていた毘沙門天様を起こそうと、体をゆすった時――…その、私達も、天上までたどり着くので精いっぱいで…限界が、きて……、その、うっかり、……少し、…ミスを…、してしまい…落として、…しまって………。」段々と声が小さくなる座敷童。冷静に聞く毘沙門天と、その衝撃的な内容に、固まる真志と小百合、そして他の七福神の面々。「もっ…申し訳ございません!!!当然叱られるものだとわかっておりましたので、その、こ、怖くて―――い、いいいえ!!!な、なかなか言い出せず、時間が経ってしまいました…!!本当に、本当に申し訳ございませんッッ!!!」そう叫んで再び深々と頭を下げる。それはもう、畳に頭をこすりつけるほどであった。可哀想なことに、座敷童はあまりの怯えで体が震えている。「…私はどれだけ怖がられてるんだ…。」怒るどころか、座敷童の様子に戸惑いさえ見せた毘沙門天が呟く。「日頃の行いじゃね?」「私が何をしたって―――」その時、はっと気づく。「…おい、お前ら笑ってんじゃねぇぞ。」毘沙門天が振り返ることなく、背後で笑いをこらえる七福神達を諭す。「いや、だって…っ…!」「なんで気づかないの…?」「やっぱりただ落ちただけじゃんっ!!」あははっと弁財天が我慢できずに笑い転げる。「おい、こら弁財天、失礼だぞ…ふふっ…、」「やだも~~毘沙門天ったら~!!いくらなんでも抜けすぎよ~!」「平和ボケしてたのはどっちだろうねー。」「お前ら殺すか。」その様子を苦笑いで見ていた布袋だったが、「…でもきっと、あなたのような純粋な心を持った良い妖怪だったから、毘沙門天は安心して身を任せてしまったんでしょうね。…これが、悪意を持った悪神なら、すぐにでも目覚めて斬り捨てていた筈です。」「布袋様…っ!」布袋の菩薩のような、優しく暖かな笑顔と言葉に、座敷童はうるうると涙を滲ませる。「安心しすぎでしょ。」「黙れ大黒。」「もー、布袋が折角フォローしてあげてるのに~。」「そういうとこも可愛いわよ~毘沙門天♡」「まぁ気にしない気にしない。大黒だってああ言ってるけどやらかしてるからね。」「おい恵比寿、どさくさに紛れて流れ弾やめろよ。」「お前らうるせぇ!!」纏わりついてきた福禄寿と恵比寿を振り払った毘沙門天は、はぁ…とため息をつくと、改めて座敷童に向き直る。「…別に私は怒ってはいない。気にするな。」「毘沙門天様…!」「…お前だって、この町をどうにかしたという思いで私の元へ来たんだろう。それに、故意じゃなかったんだ。謝ることはない。」「…っ…!」「それに、黙っていたこいつらも同罪だ。」そう言って親指で指された猫又達は、その言葉にびくりと体を強張らせる。「おっ、俺は、座敷童が怒られたら可哀想だなって…!!」「お前らも天上の道を作った時にいたんじゃねぇのか?」ギクリとする妖怪達は気まずそうに目を反らす。それを見て、またため息をついた。「…まぁいい。それから―――」今度はちらりと狐を見やる毘沙門天。「…大方お前も、見かねて手助けでもしたんだろう。」その言葉に、今度は妖怪達が驚く。「…」狐は毘沙門天の指摘にただ黙っていた。「あれだけの高さから落下したにも関わらず、私はあの程度の怪我で済んだんだ。…こいつらの力だけじゃ到底無理だ。」「…お前には全部お見通しかよ。」「なっ…それじゃあ…」毘沙門天が落下した時に、道を作った妖怪達も皆バランスを崩して落下をした。妖怪達の動きを察知していた狐は当然、その毘沙門天の件も知っていた。咄嗟に助けに入り、己の力を何層にも重ねることで、クッションのようにして衝撃を和らげたのだった。目覚めた座敷童や猫又たちは、気づいた時には地上にいた。「だからあの時、私達も助かったんだ…。」「…お前…!」なんで言わなかったんだ、とでもいうように狐を見る猫又達。だが次の瞬間、ふっと笑う猫又。「…お前は本当に、俺達の『守り神』だよ。」「けっ!」照れ隠しのように顔を反らす狐だった。その様子を見て、真志と小百合は顔を見合わせて微笑む。「…どうやら、真実を知ったのは私達だけじゃなかったようだな。」寿老人の言葉に、皆も顔を綻ばせた。「…話は纏まったようだな。じゃあ、さっさと行くぞ。」そう言って毘沙門天が立ち上がると、七福神達も立ち上がる。「あ、俺も―――」「お前達は来なくていい。」「え?」「念のためだ。」
――――寿「敵が現れるかもしれないからか?」七福神達が勢ぞろいで石段を下る。毘「"念のため"だって言っただろ。」弁「…犯人も、まだわからないんだよね?」毘「あぁ。貧乏神の姿も、その後見ていない。」恵「貧乏神がここまでのことするとは思えないなー…。」毘「それは私もそう思う。」寿「もし明確に敵がいるのなら、私達がここに辿り着いたことも知っている筈だということだな。」毘「あれだけ派手に現れりゃな。」恵「なら、姿を見せて来る可能性もあるね。」福「…私達も、毘沙門天の捜索を阻害された可能性もあるものね。」毘「そうなのか?」大「地上で毘沙門天の居場所を聞き回っている時に、偽の場所を教えられたんだよ。」弁「それで一回、南の方の別の町を探してたの。」布「…すみません、私が至らなかったばかりに…。」恵「何言ってんの、気づかなかったのは私達全員同じだよ。」大「まぁ私も、その時は確証持てなかったし。」弁「変化の術にしてはかなり高度なものだったと思うよ。地上が久々で鈍ってたとはいえ、私達に見破られないくらいには精工だった。」毘「そうか。…到着が遅れたのもそういうことだったのか。」大「まぁそれと、寿老人がちょいちょい『ついでに妖怪退治もしていこう』とか言うから。」寿「…放っておけん"気"を出していたからな。実際行って良かっただろう。」毘「じゃあお前ら、無駄な寄り道はしてなかったってことだな。」毘沙門天の問いに、ぴたりと足を止める6人。「……お前ら正直者だな。」弁「…べ、別に…ちょっと"らんち"したくらいだよ!?ほとんどの時間はちゃんと毘沙のこと探してたもんっ!!」布「そうですっ!!"ぱふぇ"とか、"くれーぷ"なんて食べてませんっ!!」寿「あっ!おいこら布袋…!!」毘「全くお前らは…。―――ちなみに私は"ろこもこ"を食べたがな。」ドヤァ 布「なっ、なんですかそれは…!?」大「毘沙門天も満喫してんじゃん。」福「私ねー、もっといろいろ食べてみたいのがあったのよ~♡」恵「折角久々に地上出てきたんだし、色々片付いたら美味しいもの食べたいね。」そこでふと、毘沙門天があることを思い出す。「そういえばお前ら、『降臨禁止令』はどうした。」その問いに、6人が呆れたように見やる。「「誰のせいでっ!!!」」
―――そうこう話している内に、やがて目的地に到着した。道中人々の視線を集めていた気がしたが、話に夢中で特に気にしていなかった。布袋が準備をして、6人が周りを取り囲む。「…この辺りには特に気配は無いようだな…。」「周囲にはいなさそうね。」布袋は準備を整えると集中し、穴を塞ぐための儀式に入る。――――「…流石だな。」布袋の力で、穴は綺麗に塞がった。「これでここは問題ないと思います。」「一先ずはこれで、…と言う訳にはいかないんだろう?」寿老人の問いかけに、5人の視線が毘沙門天へと集中する。「あぁ。悪いがもう少しここにいてくれ。」その言葉に、6人は『当然』だという顔をしながら、出口へと足を進める。「先ほどの話を聞いて、黙って帰るわけがないだろう。」「このまま放ってはおけないよね。」「せめて犯人は見つけておきたいなー。」外に出ると、もう辺りは暗くなっていた。「…一先ず帰るか。」毘沙門天が呟くと、再び神社への道を歩き出した。
―――「わぁ…!!」七福神達が神社―――兼、真志の自宅に行くと、そこには豪勢な食事が用意されていた。「両親に『七福神が揃った』って話したら張り切っちゃって…。」それに対し、なんだか申し訳なくなってしまう七福神達。「別に良かったのに…!」「なんだか無理させちゃったわね…。」「かえって気を遣わせてしまったな…。すまない。」寿老人が詫びると、両親は「とんでもない!!」と両手をぶんぶん振りながら答える。「折角七福神様達がいらっしゃったのに、何もしないわけにはいきませんからっ!!」「私達がしたくてそうしたのです!!」「そうは言っても…。」そこで、布袋がずいと一歩前に出る。「出されてしまったものは仕方ありません…折角作っていただいた料理も勿体ないですし、ありがたくいただきましょう。」そう言って頷く布袋は至って真面目そうだが、その口元からは涎が滴っていた。「いいから涎を拭け。」「…ところであいつらはなんでまだいるんだ。」毘沙門天の視線の先には、狐やぬらりひょんと、猫又、座敷童達妖怪の姿があった。そこには小百合もいる。「『宴』だって言ったらはしゃいじまってよ。」「全く…呑気な奴らだな。」「まぁまぁ、いいじゃねぇか。…楽しそうで何よりだ。」そう言って彼らを見て微笑む真志の表情は柔らかかった。妖怪達は皆それぞれ、不安や孤独から解放されて、晴れやかな顔をしていた。その中に狐の姿があることも喜ばしかった。「…そうだな。」毘沙門天もつられてふっと微笑む。「まぁ、宴は賑やかな方がいい。」「だろ?」そして毘沙門天も席に着いた。七福神達と真志、両親、小百合、そして妖怪や神達が一堂に会して、宴が始まった。皆、陽気にそれぞれが会話をしている。―――「…待て。お前の両親も見えていたのか?」七福神とだけでなく、さり気なく妖怪達と話している真志の両親。「あ?知らなかったのか?」「…知らなかった…。」あの両親、やはりなかなか食わせ物だと思った。「ところで、『穴』は無事塞がったんだろ?」「何で知ってるんだ。」「狐が察して皆に伝えてた。」「そうか…。」「…これで終わった、…んだよな?」どこか探るような真志の目線に、毘沙門天は答えられずにいた。「…念のため、暫くは用心しておけ。」「…」
――――宴も終わり、片づけをした後の夜中―――少し灯を消して、薄暗い中、七福神達と猫又、そして狐が静かに晩酌をしていた。真志は小百合を家に送りに行き、他の妖怪達も自分の住処に帰っていった。狐「そういやぁ『降臨禁止令』なんてお触れが出てたんだな。知らなかったぜ。」寿「下手に民を刺激しないことと、天上人保護の名目だな。」恵「民の判断に委ねるっていうか…一先ず事態を静観するって意図もあったみたいだけどね。」毘「お前らは許可取って降りてきたんだろうな?」福「まっさか~!」布「寿老人の判断で、毘沙門天の捜索を第一優先として、許可は取らずに降りてきちゃいました。」毘「お前…」寿「…ルールなど、それよりも大事なことがあるからな。」毘「…はっ、そりゃありがたい話だな。」弁「ねー!びっくりしちゃったよ!あの寿老人が!」福「寿―ちゃんそういうとこ優しい~♡」寿「あーうるさいうるさい!」大「まぁ、一々許可取ってたら、数日かかるのは目に見えてるしね。」猫又「つっても実際問題、お前らその禁止令っつーの破っちまって大丈夫なのかよ?」その言葉に七福神一同沈黙する。弁「…ま、まぁ毘沙門天が色々頑張ってくれたことだし、それでちゃらってことに…。」布「なるでしょうか…。」福「明王様達に怒られるのは必至かもね~。」恵「あとはこういう時って意外と梵天辺りが怖いんだよね…。」寿「一体何をやらされるのやら…。」毘「まぁなんとかなるだろ。」そんな風に雑談を繰り広げる中、話題は町の話に移った。寿「―――…その呪物というのが気になるな。」毘「あぁ。」寿「土地柄、自然に『穴』が空き、そこから妖怪達が押し寄せる…というのはまだ理解できる。だが、呪物が置かれていたことについては、何者かが意図的にやったとしか思えない。」毘「その『穴』に関してもだが…他所から来た妖怪達は口々に『引き寄せられるように来た』と言っていた。」布「…となると、何者かが介在している可能性が高いですね…。」弁「なんか昔もいなかったっけ?霧で惑わせて子供達を別の場所に誘導させる妖怪とか…。」恵「いたいた。あの時はただのいたずらだったから良かったけど。」大「寿老人が説教かましたやつね。」寿「そんなことばっかり覚えてるな貴様らは!」布「…でも、今回のはいたずらの度を超えていますもんね…。」大「まぁ、妖怪達もやられて、危うく人間も、ってところだしね。」猫又「…」福「毘沙門天が倒した中に、そういうことしてそうな子はいなかったの?呪物置いたりー、他の妖怪達を引き寄せたりー、なんて。」毘「いなかったな。何か目的があって訪れたとか、そこまで計画して動くほどの連中には見えなかった。それに、そういう特性を持ってそうな奴もいなかったな。それになんというか、強さに関しても、いても中級、くらいの奴らばかりだったと思う。」恵「…少なくとも、毘沙門天を出し抜けるほどの奴らだろうしね。」寿「訪れた妖怪達も、利用されただけの可能性があるな。」大「…それはあるね。」寿「そしておそらく敵は複数犯だろう。貧乏神や、私達を惑わせた変化の術を使う者も含まれているだろうな。」恵「あとは座敷童が聞いた、"噂"を流した奴っていうのも気になるんだよね。」弁「私達がこの付近を通りかかるってやつ?」布「そうですよね…天上の航行ルートなんて地上からじゃわかるわけもないですもんね…。」毘「座敷童が誰から聞いたのか、お前らは知ってるのか?」猫又「…本人から聞いた話だと、『着物を来たお姉さんから聞いた』って言ってた気がするな。」その言葉に七福神は一瞬沈黙する。毘「…やっぱり貧乏神か?」弁「そうかも…もしかして吹き込まれたのかな。」大「まぁあいつらのことだから、私達の動向探っててもおかしくはないね。」福「暫く姿を見てなかったけど…今回のために計画したってこと?にしたって、随分と手間がかかってるわよね。」毘「私もそれは思っていた。貧乏神達なら私達を恨んで…ってのもありえなくはないが、それにしたってだな。」恵「でも、町の中に気配を感じないんだよね。毘沙門天も一度会った以降は見てないんでしょ?」毘「あぁ。私もそれ以降はさっぱりだ。」狐「気配と言えば…。一つ、気になることがあるんだが…。」寿「言ってみろ。」狐「…気のせいかと思うくらいのレベルだったから言わなかったんだが、町全体へ気を張り巡らせた時に…一箇所だけ違和感があった。」寿「それはどこだ?」狐「あっちの山の方―――この神社から真東にある、『逆立山(さかだてやま)』ってところだ。」毘「…あぁ、あの山が連なってるところか。」福「"違和感"っていうと、どんな感じなの?」狐「それが、俺もなんて言ったらいいのやら…。とにかく、長年ここでこの土地を見てきた俺に言わせりゃあ『いつもと違う気がする』って感じだな。それが貧乏神って奴のものなのかもさっぱりわからねぇ。」恵「…でも、確かにそれは気になるね。」弁「気になるところは、取りあえず調べてみようよ!」寿「そうだな。他に手がかりが無い以上、当たってみる他無いだろう。…とはいえ、今日はもう夜も深い。調査は明日だな。」大「…でも、万が一それで何かあるとしても、私達に感づかせないって…よっぽどの奴が関わってるってことじゃない?」布「…毘沙門天も数日ここにいましたが、そこには何も?」毘「…町中の方に気を取られていたこともあって、そこまでは意識が向かなかったな…。人里から少し離れたところにあるだろうし。」福「まぁ、行ってみて何もなければいいじゃない!目と感覚も6人分増えたことだし、何か気づけることもあるかも!」弁「…そうだね。」明日、『逆立山』を調査するとその場にいた全員が合意した。
――――境内に出て、猫又と狐を見送る七福神。「…今回この町を見て思ったんだが…」毘沙門天の言葉に6人が振り返る。「私達が地上へ降りなかった150年の間に、人間達は変わり、土地も、環境も、…そして妖怪達も変化した。…それによって、私達の知らないところで色々と問題が起こってるんじゃないかってな。」寿老人が毘沙門天に向き直る。「…それは私たちも感じた。お前を探している間、各所を廻る中でな。」人間達とともに、妖怪達も変化している。今回の狐の件のように、何かしらの悪影響が出ている可能性も否めなかった。「…だが、悪いことばかりでもないだろう。」そう言って微笑む寿老人の後ろから、真志が現れた。「なんだよ、もうお開きか?」先ほどの結界を張りに向かった行き帰りの道で、七福神達は毘沙門天から真志や小百合、狐や他の妖怪達の話等も聞いていた。「未来ある少年!」「は?」そしてその後、"年上のお姉さん"達にもみくちゃにされる真志だった。


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