七福神結成編


『――――…福の神…ですか。』『そうだ。我々を信仰し、我々を存在させ、力を高めてくれる民に対して、何らかの施しが必要だからな。』『天人の中から複数の者を選出し、その者たちに福の力を授け、福天として民達に福を与えさせよという上のお考えだ。』『どのように選出するのですか?』―――『…』―――『…そこなんだがな…』『選ぶとしたら、やはり天部の中からだと思うのだが…。』『立候補にしても、進んでやりたいと言う者がいるかどうか…。』―――ウーン―――『…ちなみにだが…。』『?』『これは、素行に問題のある者たちの一覧だ。』
――――大黒天「で?よりによってなんで私?人選ミスじゃない?」『上の方々からも許可はいただいています。』大「いやいや…本格的に意味わかんないんだけど。私がそんなぬるい仕事やってられるわけないじゃん。勝手に仕事降ろされて、冗談じゃないよ。地上に降りて好き勝手してもいいってんなら話は別だけど。例えば…気にくわない民に手をかけるとか。」『大黒天。今の発言は問題ですよ。あなたは天部の一員なのです。それをもっと自覚なさい。』大「うるさいなぁ…。そもそも、こんな根暗と二人で福神なんか真っ平ごめんなんだけど。」恵比寿「私も嫌だ。こんな奴と一緒に仕事なんかしたくないし。」大「あはは。仕事もしないで、釣りばっかしてる奴に言われたくないなー。そもそもお前、天部じゃないだろ。」恵「だから?…自分勝手に好き放題暴れて、何もかも滅茶苦茶に壊しちゃう奴には言われたくないよね。」大「…」恵「…」『やめなさい、みっともない。…ともかく、現段階では仮の面子です。一先ずあなた方には、既定の場所でとある”課題”をこなしてもらいます。それを達成することができれば、晴れて正式に福の神として認められることになるでしょう。』大「いやいや…だからやらないって言ってるだろ。」『お黙りなさい。これは命令です。…指示に背くようであれば、降格とします。』大「…出たよ、上司権限。」恵「私降格しようがないんだけど。」『…ともかく。大黒天、恵比寿、くれぐれも問題を起こさないように。』
――――大「私パスね。やる気ないし。勝手に一人でやっといてよ。」恵「…上からの命令とか嫌いなんだよね。従うつもりなんてない。」大「…そこに関しては同意だけど。」恵「あんたと協力してやるってのも嫌だしね。」大「それも同意だね。あぁそうだ、そんなに気に入らないんなら一発ヤり合っても構わないけど?」恵「…」大「…」
――――『……いきなり険悪な雰囲気を漂わせているぞ…。やはり、あの二人のみに任せるというのは…少々、…いや、かなり酷だと思うが…。』『ふむ…そうだな。思っていたより相性が悪いようだ…。』『どちらも協調性に欠けているし…他者を受け入れない者であるというのは、周知の事実だからな。』『壊すことにしか興味がなく、悪神や魔の排除に専念し、抜きんでた戦闘力と狂気的な面を持つことから恐れられる大黒天。そして、他者との接触を嫌い、命令を一切聞かずに趣味の釣りにかまける怠け者な恵比寿――――。』『…誰だ、この二人を選んだのは!!どう考えても合わんだろう!!』『いや…似た者同士、これを機に、共に改善できればと思ったんだが…。』『…取り敢えず、様子を見てみるか…。』
――――『…数日経ったにも関わらず、一向に進める気配がない。それ以前に、大黒天が全く来ていないではないかッ!!』ドンッ‼『…むぅ…』『…ともかくとして、あの二人だけでは不安だ。ここは、二人を取り持つ存在が必要だな。』『ならば、まともで、協調性があって、明るい者だな。』
――――弁財天「こんにちはーっ!私、弁財天って言います!二人が大黒天と恵比寿だね!?初めましてー!今日から私も一員になりました!よろしくっ!」大「うわー、ウザそうなのが来た。来るんじゃなかったな。」弁「初対面でいきなりそれは酷くない!?よく言われるけど!」大「言われんのかよ。」弁「折角こうして選ばれた者同士なんだし〜これから一心同体で作業しなきゃって状況なんだから、まずは親睦を深めないとね!じゃあ早速大黒天!自己紹介よろしく!!」大「は?うざ〜〜。」弁「そんなこと言わずにさぁ〜!ねえ、恵比寿!」恵「私も別に。興味ない。何より釣りがしたい。」弁「えっ、釣り!?釣り好きなの!?」大「別に福の神になりたいわけじゃないし。何より私そいつ嫌いだからさ、一緒に仲良しで作業とか無理無理。」恵「こっちから願い下げだけど。」弁「えっ!?何!?いきなりその雰囲気!?まだ数回しか会ってないのに!?―――…まだお互いのこと良く知らないのに、そんなこと――」大「わかるでしょ、ある程度。第一印象でこいつ合わないなっての。…まあ、そんなことはどうでもいいんだけどさ。じゃあね。やりたいなら勝手にどうぞ頑張って。」弁「あっ!ちょっ…大黒天!!」恵「…私も。」弁「恵比寿!!えっ…ちょっ…!二人とも待ってよ〜〜~!!」
――――数日後―――恵「・・・」弁「えーびす!!」恵「…また来たの。」弁「…だって、私だって暇なんだもん!今までの仕事取られちゃったし…。二人は来ないから作業は進まないし!!」恵「…」弁「で?どう?なんか釣れた?」恵「…釣れない。」弁「そっかぁ。…恵比寿はさぁ、なんでそんなに釣りが好きなの?」恵「…」弁「?」恵「…好き、なのもあるけど…してなきゃ落ち着かない、っていうか…。」弁「何それ。釣り中毒?」恵「まぁ、似た感じ。」弁「どうしてそうなっちゃったの?」恵「…」弁「あっ…。えーと…。いや、言いたくないことなら…」恵「…。……私、天上で生まれたんだけどさ…。」弁「!…うん、」恵「生まれた時の私、体が不自由だったんだ。」弁「!」恵「それである日、親に海へ流されたんだよね。」弁「え…?」恵「天上海って、昔はその一部が地上まで流れ落ちてたでしょ?…流される内に、いつの間にか地上に漂着したんだ。…生まれて間もない私は、飢えて死にそうになって…。それを、たまたま漁に出くわした民達が助けてくれたんだ。…そこの民達は、私を拾ってとても親切にしてくれた。…その優しさがすごく嬉しかった。その内、民達は私を神として祀り上げてくれた。それだけじゃない。彼らは私にいろいろなことを教えてくれたんだ。…釣りもその一つなんだ。彼らの信仰心が、愛情が、私を今のこの体にしてくれたんだ。」弁「…そうだったんだ…。」恵「暫くして私は天上に戻された。……勝手だよね。一度捨てた癖に、使えるようになったから呼び戻したんだ。…だから嫌いなんだよ。地上にいたあの頃のことは、多分一生忘れない。…天上は息苦しいから。釣りをしていると、あの人たちのこと思い出してほっとするんだよね。」弁「…そっか…。」恵「…私、天人が嫌いなんだ。民のために何かしてあげたいとは思うけど…あの人達の命令を聞くのは…。」弁「…」恵「…」弁「…でもさ、」恵「?」弁「民達の力になりたいって気持ちがあるなら…それを形にしないのは凄く…勿体ないと思うよ。」恵「…」弁「…上の命令が嫌だって言ったけどさ。それは違うよ。私達が、するんだよ。上の人達に命令されてするんじゃなくて、自発的にね。」恵「…」弁「誰かのために何かしたいと思う気持ちって、すごく素敵だと思う。まして、民達に幸福を授けられるなんて、とっても素晴らしいことじゃない!本来なら天上を守護すべき私達が、そんな役を任されるなんて願ってもない機会だよ!…それにこれは、私達天人にしか出来ない仕事だしさ。こんな機会、逃す手は無いんじゃない?」恵「…」弁「…それにね。今の話を聞いて思ったけど、これは恵比寿にとっても、変われる良いきっかけになるんじゃないかな。このまま話を蹴って、今までと同じに戻っちゃうなんて…恵比寿も嫌じゃない?」恵「…」弁「…すぐじゃなくてもいいけどさ。考えておいて。取り敢えずは、私がなんとか頑張ってみるから!」恵「…一人で、やるつもり?」弁「うん。私はね、福の神になりたいの。」恵「!」弁「…私はこれまで、沢山の過ちを犯してきた。それが最善だと思って、自分なりの正しい道を進んできたつもりだったけど―――…違った。自分を慕って、信じてくれる民達のためだって…状況を打破するにはこれしか無いんだって…そう思ってやってきたけど…。…ある時、自分のしてきたことを理解して、その事実を受け入れて…それをすごく後悔したの。これからは、真に正しい道を歩みながら、民達のためになることをしたいって思ってる。」恵「…」弁「…事情も、想いもそれぞれあるよね。恵比寿がどうするのかは、勿論恵比寿の自由だよ。―――…でもね、折角天人になったんだから、このまま一人で釣りだけしてるってのは、…うん。やっぱりすごく、勿体ないよ。何より私は…恵比寿ともっと、いろいろ話してみたいと思うよ。」
――――恵「…」大「今日も頑張ってるねー弁財天。なんで福の神なんかになりたがるかね。理解できないや。」恵「…」大「そういえば聞いたんだけど、あいつ地上で大分悪さしてきたみたいだね。そんで挙げ句しょっぴかれたみたいじゃん。私以上に好き勝手やってる奴がいるなんて驚きだよ。あんな無害そうな見た目してだよ?それが福の神やろうとか、なんか笑っちゃうよね。」恵「…」大「あれ、何だよ恵比寿。感化されちゃった?どうでもいいけどさ、騙されてるんじゃないの。ああいうやつほど裏の顔が――――」恵「…もういいよ。」大「!」恵「もういい。」大「…まぁ、お前があれと仲良しごっこやろうが、私に被害来なきゃなんだっていいけどさ。」恵「…」
――――弁「…うーん…やっぱりこの人数でこれは…キツイなぁ…。しかも非力な私達!!」恵「ごめん。私、遣いもいないし、体力もあんまりないんだ。」弁「恵比寿が謝ることじゃないよ!…ありがとね、来てくれて。…嬉しかったよ!」恵「…私も、変わりたいからさ。」弁「!」恵「弁財天も、きっとそうなんでしょ?」弁「……うん。」恵「……それに、弁財天と一緒なら…やってみても良いかなって思えたんだ。」弁「…!恵比寿……っ…!!」恵「うわ、ちょっ…抱き着かないでよ。」弁「だって〜〜!!」
――――弁「にしてもなかなか進まないなぁ…。これ、私達がどうってより、初めから人数的に無理じゃない!?やっぱり大黒天にも手伝ってもらうしか…。」恵「…」弁「そんな顔しないでよー。付き合ってみたら、案外いい子かもよ?」恵「それはない。」弁「即答…。で、でも、大黒天だって女の子だしさ、」恵「女の子?アレが?」弁「…」
――――弁「というわけで!」大「何がだよ。うざい。帰れ。」弁「そう言わずにさー!ねー、一緒にやろうよ〜〜!」大「あーうざいうざい。そもそもそっちの奴が嫌がるんじゃないの?」恵「…」大「私のこと毛嫌いしてるんだろ?」恵「…それは、お互い様だろ。」大「だね。」恵「…」弁「ちょっ…ちょっとちょっと!なんで毎度そんな喧嘩腰なの!!っていうか、なんでそんなに大黒天は福の神になりたくないの?」大「なりたがる心理の方が理解できないけどね。なんで他人のために働かなきゃいけないんだよ。しかも、地上の人間共のためなんてさ。」弁「でも、今までだって天部の仕事ちゃんとやってきたんでしょ?天上のためにやってたんじゃない。」大「私がやってたのは侵入者だとか敵の排除だよ。自分のやりたいことと一致してたからやってただけ。取り敢えず邪魔な奴とか強い奴ぶっ潰せばいいだけだからね。―――…福の神ってアレだろ?偶像になって、人間共に愛想と幸せ振りまいてやるだけだろ。そんなクソつまんない仕事なんかやるわけないじゃん。」弁「そ、そういう言い方する…!―――…でも、私達の存在は、地上の民達のおかげで成り立ってるんだよ?彼らにお礼の意味でも福を…―――」大「その代わりに上のお人等が地上を管理して導いてやってんだろ?天部の私には関係ないよ。好きで天人になったわけでも、こうやって生きてるわけでもない。頼んでもない。」恵「…大黒天って、死にたいの?」大「…は?なんでそうなるんだよ。」恵「そんなに戦って、壊してってばっかりで…何がそんなに楽しいの?…私からすれば、そっちの気持ちの方がよっぽど理解できないけど。」大「…」弁「あわわ…恵比寿…!!」恵「弁財天がね、言ってたよ。折角なんだから『楽しくやろう』って。」弁「!」大「…」恵「福の神としての仕事は勿論あるけど…それ以外の何かだって、あるんじゃないの。」弁「恵比寿…。」大「…なんだよ、それ。」弁「!」大「…だから、それが舐めてるって言ってるんだよ。」――――弁「…なんか、途中からあの笑み、消えてたね。…きっとアレが大黒天の素顔なんだろうね。」恵「…」弁「…でも、急にどうして恵比寿からあんなこと…。」恵「…あいつ、結構よく喋るよね。」弁「…うん。」恵「…確かに、話してみると案外普通の奴なんだなって思ってさ。」弁「…!」
――――大「…」恵「もう諦めたら?」大「!……おい、またお前かよ…。ていうかなんだよ。いきなり来て。」恵「そんな風に拗ねてたって、元の仕事にはもう戻れないのわかってるでしょ。」大「拗ね…」恵「余罪も沢山あるって聞いたけど。…なんだっけ?器物破損に?過剰防衛?道を踏み外しそうになったこともあるとか。弁財天のこと言えないねー。」大「………お前……。」恵「壊すことばっかりじゃないよ、人生。」大「!」恵「私もね、変わろうと思うんだ。…釣り以外のことも、やってみようと思う。大黒天も、別のことしてみたら気持ちが変わるかもよ。」大「…はっ、そんな訳…。」恵「やってみないとわからないじゃん。…それか、福の神とかは取り敢えず置いておいてさ。試しに私達と一緒に作業してみない?」大「―――…」恵「あ。びっくりしてる。」大「…お前、なんなんだよ。急に態度変えて。何考えてんだよ。」恵「こっちが態度を変えれば、相手も変わるんだなと思って。」大「…」恵「私、上に来てからは自分のことしか考えてなかったからさ。…自分が変わることとか、人のことなんか考えもしなかった。」大「…馬鹿だな。私にそんな話、」恵「無駄じゃないと思ったから、こうして話してるんだよ。」大「…」恵「弁財天がね、『良い機会』だって言ってたんだ。何の変哲もない日常が変わるきっかけになるって。…だから、その機会を逃すべきじゃないんじゃないかって、私も思った。」大「…」恵「…だからさ、大黒天も―――…」大「…苦手なんだよ。」恵「!」大「…作るのは。今まで壊すことしかしてこなかったんだからさ。…そんな私に頼むとか、あいつらも、お前等も、…頭おかしいだろ。」恵「…」大「それに、昨日言ったこともそうだし。面倒なんだよね、人付き合いとか。…そもそも誰かと一緒に何かする、っていうこともしてこなかったし。…つまらない仕事もしたくない。」恵「大丈夫だよ。」大「!」恵「私も似たようなものだからさ。」大「…」恵「あれこれ考えるより一先ずやってみようよ。…壊したり殺したり、そういうこととは別に楽しいことって他にもあるんじゃないのかな。私達だって生きてるんだからさ。」大「…」恵「…私もまだ、よくわかんないけどね。」
――――弁「ああっ!!白蛇!それそっちじゃなくてこっちだよ!!」大「うっわ、全然じゃん。」恵「だから手伝ってほしいんだよ。」弁「大黒天だ!!来てくれたんだ!!やったーっ!!さっすが恵比寿っ!!」大「お前ら、私を利用するだけしようってんじゃないだろうな。」弁「そんなことないよ!できればこれを機に仲良くなれればと思ってるし!!ね!!恵比寿!!」大「あーあー、うるさいうるさい。」
――――『なんとかうまくいったようだな。』『あの二人が作業に加わるなど予想外だったが…。』『だが、ようやくこれで新たな面子を追加することができるな。』
――――毘沙門天「…それで?なんで私が福の神なんぞに選ばれるんだ?」帝釈天「…」毘「…自分で言うのもなんだが、四天王としてそれなりにやっていたと思うが。…それに、正直に言わせてもらえば、この中じゃあ私が一番強い。北方面だって、これからは誰が守るんだ?」帝「…心配せずとも、お前の代わりならいくらでもいる。」毘「…私が、女だからか。」帝「…関係ない。ともかく上からの許可も貰っている。断るという選択肢は、お前にはない。」毘「…」
――――弁「わあっ!あなたが毘沙門天!?すごい!本物だ!!よろしく!私―――」毘「…」スッ 弁「…地味に傷つくんだけど…。」恵「よしよし。」大「へー、あんたが毘沙門天かぁ。」毘「…」大「あんた、確か四天王の一人だよね?なんであんたほどの奴がこんなぬるい仕事任されるの?」毘「…うるせぇな。消えろ。」大「…この天上世界も、結局男尊女卑なんだよね。あんたさぁ、四天王の中から腫れ物扱いされてたんだろ?」毘「…」弁「あわわわわ…大黒!!」大「そりゃそうだよね。四天王唯一の女でありながら、自分たちを差し置いて最強の座に君臨されちゃったらさ。男共としてはプライドがズタズタだよね。邪魔者だったわけだ。」毘「…てめえのその減らない口、二度ときけねえようにしてやろうか。」大「…一回やってみたかったんだよね、四天王最強って奴と。」弁「ちょっ…!!なんでそんな喧嘩腰なの本当!!やめてやめて!!武器出さないで!!仲良くやろうよ!!」毘「…」恵「大黒天って、なんで本当にそんななの。」大「生まれつきなもんで。」恵「開き直るなよ…。」毘「…ともかく、私に関わるな。」弁「びっ、毘沙門天…!」毘「…お前…。」弁「へっ?」毘「噂は兼がね聞いてるぞ、弁財天。お前の悪評はな。」弁「…!」毘「具体的には知らねえが…地上で随分と好き勝手やってきたみたいじゃねぇか。悪神だとか妖怪に飽き足らず、民達に対しても手を出すなんてな。…それが随分と人の好さそうな顔をしてるもんだ。」弁「…っ…」毘「!―――…」大「まぁ、私も人のことは言えないけどね。」弁「!」恵「大黒天は見たまんまじゃん。」大「お前だってそうだろ。」弁「またそうやって!」毘「…」スタスタ 弁「あっ…―――待ってよ、毘沙門天!!」毘「あ?」弁「……確かに私は、間違いを犯した…。それに気づかなかったことも、重い罪だったと思う。…でも、罰を受けて、修行もして…心を入れ替えたの。」毘「…」弁「これだけは言える。『民達のためになりたい』って気持ちに、嘘はない。私はこの力を、民達のために使いたい。」毘「…」弁「もう、間違えない。だから―――…」毘「…そうか。勝手にやってろ。」
――――弁「なんであんな感じなんだろう…。」大「プライドだろ。自分が誇りに思ってた仕事を下ろされて、気に食わないんだよ。私もそうだし。」恵「拗ねてたもんね。」大「うるさい。」弁「だとしたら、私達から何言ったって逆効果だね…。」大「だろうね。ま、見た目に反して結構真面目で、寛容な奴だって聞いてるよ。いい大人だし、いつまでもうじうじしてるような奴ではないでしょ。」恵「あえて放っておいたほうがいいってこと?」大「だろうね。」弁「他人にとやかく言われなくても、自分で答えにたどり着けるってことかな。―――…よし!じゃあ私達は作業に集中しよっか!」
――――数日後―――弁「毘沙門天…!」毘「…頭が冷えた。悪かったな。」弁「!」毘「大人げないと思ってな。…外されたことをいつまでも引きずって、職務を放棄し続けるのは。」大「思ってたより早かったね。」恵「大丈夫だよ。ここに拗ねた挙句、散々面倒くさいこと言って私達を困らせた奴もいるしね。」大「あはは、恵比寿、それって誰のことだよ。」恵「やだな、一人しかいないじゃん。」大「…」恵「…」弁「ううん、来てくれて嬉しい!改めてよろしくね、毘沙門天!」毘「……悪かった、弁財天。初日、ただの噂を真に受け…お前に酷いことを言った。」弁「ううん。…あれは…ただの噂なんかじゃない事実も混じってるから…。私の過ちが引き起こした事態だもん。全部真正面から受け止めるよ。―――…それに、私のことはこれから知ってもらえればいい。それで、あなたが真実を決めてくれればいい。」毘「…わかった。」弁「ちょっ…二人とも!!そこで暴れないで!!折角作ったのに壊れる!!」――――大「ところでさぁ、毘沙門天。あんたは福の神になるのは構わないの?」毘「福の神も誇りある仕事だろうからな。特に文句はない。それに、民のためになると言うのなら願っても無い話だ。」大「ふーん。真面目なことで。」毘「お前こそどうなんだ。おとなしく作業をこなしているとは意外だったぞ。」大「…さてね。」毘「それで?進捗状況はどうなってるんだ。」弁「うーん…。」恵「進捗、ねぇ…。」――――毘「…おいおい、全然じゃねぇか。」弁「流石にこの人数でこの大きさはねー…。」恵「しかもこいつがよくサボる。」大「は?作業効率悪いお前にだけは言われたくないんだけど。」恵「…」大「…」毘「…仕方ねえな…。」――――弁「うわっ!?誰なのこの人たち!?」夜叉羅刹「…何か御用で御座いましょうか、毘沙門天殿。」毘「悪いが手伝ってほしい。私達だけじゃ間に合わなそうだ。…構わないか?」夜羅「勿論で御座います。例え毘沙門天殿が多聞天の座を奪われようと、我々はあなた様の配下に変わりはありません。いくらでも手をお貸しいたします。」毘「…お前等は、本当によくできた部下だ。」弁「す…すごい…。」大「流石最強クラスの天部、ってところかな。」恵「これだけいればなんとかなりそうだね。」
――――寿老人「何故ですか!福の神というのはありがたいお話ではありますが…っ、私は、今行っている仕事に責任を持っています!これまでも、私がやってきたではありませんか!」「…お前はよくやっていた。だがな、言わせてもらうが、お前の指導は行き過ぎだ。彼らの中からも不満が出ている。『寿老人は厳しすぎる』とな。」寿「・・・!!」「…妹はどうした。」寿「!…っ、それは…、」「…そういうことだよ、寿老人。」寿「・・・」「妹も上手く扱えない者が、彼らを使えると思うな。」寿「・・・・ッ…!!」
――――寿「初めまして。私は、寿老人と申します。諸事情により、妹の福禄寿の到着が少々遅れているようで…申し訳ありません。本日より皆様方の一員に加えさせていただきます。上の方より、リーダーの役を仰せつかりました。何卒、よろしくお願いいたします。」弁「おぉ…期待の新人…!!」大「なんかお堅そうだなー。苦手なタイプ。」恵「大黒天に好きなタイプがあるのかどうかも疑問だけどね。」大「一々煩い奴だな。」毘「…」――――寿「弁財天様…この材料はあちらで使用するものです。」弁「嘘っ!?あわわ、ごめん!」寿「そういった小さなミスが大きな問題に繋がることもあります。次からはお気をつけください。」弁「ごっ…ごめんね!」――――寿「大黒天様!!ここはもう少し正確な位置に打ち込んではいただけませんか!」大「別にいいじゃん。細かいなー。」寿「後になって不具合が出たらどうするおつもりですか!!危険極まりません!」大「もうマジでうるさいんだけど。そんな怒られるとやる気なくすっての。」寿「・・・!」――――寿「申し訳ありませんが、もう少し恵比寿様はスピードをあげていただけませんか?作業に遅れが生じてしまいます。」恵「…」弁「ごめんね、寿老人。恵比寿はのんびり屋さんでさぁ。大目に見てよ。」寿「ですが、このままのペースでは完成は厳しいですよ。」――――寿「毘沙門天様!そのようなお立場にありながら、お煙草を吸われるなど…!」毘「…お前等に迷惑をかけないように、わざわざこの裏で吸ってんじゃねぇか。文句を言われる筋合いはないと思うがな。」寿「私は吸う“場所”のことを言っているわけでなありません!天人としての行いのことを―――…」毘「ガミガミうるせえな…母親かお前は。―――…いいから、さっさとあっちへ行け。」寿「しかし…っ、」毘「あっちへ行け、…と言ったんだが。」寿「…っ」
――――大「ねぇ…ちょっとうるさくない?アレ。」毘「ああもガミガミ言われるとな。」大「確かに噂の通りだったなー。『小言が喧しい“人間上がり”の“老人”』てね。」毘「…お前意外と噂好きだよな。」大「周りで話してるのが耳に入ってくるだけだよ。それに、人の欠点は責めるネタになるからね。」毘「はっ、性格悪ぃな。」寿「―――こんなところにいらっしゃったのですか…。」大「うわ、噂をすればだ。」寿「まだ休憩には些か早いと思いますが。」毘「…」
――――福禄寿「こんにちは~。」寿「…っ…福禄寿…!!」弁「あ!アレが寿老人の妹?」寿「福禄寿!!貴様…ッ、何度言えばわかるんだ!!!いつまでもサボってばかりで……!!」福「やだぁー、寿―ちゃんこわーい。別にいいでしょ?ちょっと遅刻しちゃっただけじゃない。そんな怒らないでよ~。」寿「…ッ貴様…ッッ!!!」弁「じゅっ…寿老人!落ち着いて…!その手離して!乱暴は駄目だよ!!!」寿「そうやっていつも暢気に構えているがな!!!お前のせいでいつも私がどれだけ苦労してると思ってるんだ!!!仕事はサボる、いつの間にかいなくなる!!遊びに現を抜かす!!いつからそんな腑抜けになった!!」弁「…!!」毘「…」寿「人間であったあの頃のお前はどうしたんだ!!!あの修行の日々の中にいたお前はどうした!!仏となり、民を救うことを志して…っ…、二人で辛く苦しい修行に耐えてきたんだろう!!!人の限界を超えた苦しみを味わいながらも!!!それでも仏になりたい一心で!!その結果がこれかッッ!!!」弁「――――」毘「…」福「…もうなんか…どうでも良くなって来ちゃったのよね。」寿「…なに…ッ…!!」福「…そりゃあ人間だったころは…本当に、人々を救いたい、っていう思いだけで頑張ってきたよ。寿―ちゃんが一緒だったし、あんなに死ぬほど辛かった修行にも耐えてこれた。…でもさ、実際天人になってみたらどう?この天上で下っ端として使い回されて、仕事、仕事、仕事の毎日。民のためにとか、民と触れ合う機会なんてのも与えられなかった。…寿―ちゃんが頑張ってきたことは、私が一番よく知ってる。でもね、全部空回ってるんだよ。それに知ってた?周りの人、皆寿―ちゃんのこと嫌ってたよ。『人間上がりの分際で』『天部でもないくせに』って言ってたの、よく聞いてた。…勿論、私も言われてたけどね。そんな寿―ちゃんの姿見てたら…頑張りたくもなくなるよ。結局さ、ここでは人間時代の努力とかどうでもいいの。天部でもない私達が、しかも人間上がりってだけで、どれだけ頑張っても下に見られるんだから。…こんなんじゃ…仏になんてなれるわけない……。…全部、無駄なんだよ。」寿「…っ…」福「福の神の仕事がどうだか知らないけど…、どうせまたしょうもないことやらされるんでしょう?……もう、疲れたの。馬鹿にされるのも、無意味に頑張るのも。」寿「福録…」福「…っ…寿―ちゃんなんて、嫌いよ…!」
――――弁「…状況は最悪…。福禄寿はいなくなるし、寿老人は元気なくしちゃったし、毘沙門天、大黒天はどっかいっちゃうし…。」恵「まずは寿老人にげんきになってもらわないとね。」弁「…でも、慰め方がわからないよ…。生まれも育ちも違うし、…私の立場からじゃあ、なんて言ってあげればいいのか…。」毘「ほっときゃいいだろ。」弁「毘沙門天!」毘「あれは個人の問題で、姉妹の問題だ。」弁「そうかもしれないけど…。これは、天人だとか、天部に対する問題でもあると思うんだよね…。」毘「それもそうだが…。…言っただろう。『疲れた』ってな。きっと寿老人の奴もそうなんだろう。あいつらには一度休息が必要だ。そして…自分と向き合って物事を考える時間もな。」恵「…まぁ、それもそうだね…。これまできっと、修行に仕事に、ゆっくり考える時間なんて無かったのかもしれないし。」弁「……あの子達にとっては、これまで積み重ねてきた全てが関わってるんだもんね…。…きっと民のために、たった二人ですごく努力して…頑張ってきたんだよね。だから尚の事、辛かっただろうな…。…なんだか、天部として申し訳ないよ…。」毘「…そのあたりの話をした方がいいのも事実だがな。頃合いを見て、声をかけてやりゃあいい。それまでは少し放っておいてやれ。」弁「うん…。」
――――「皆様、福の神をあつめていらっしゃるとのことですが…。」『そうだが…何か用か?』「是非、私の方から推薦したい者がおりまして。名を布袋と言います。」
――――布袋「福の神…」「そうです。予てより、民のために尽くしたいと言っていたでしょう。嘗て、人として多くの人に愛されていたあなたにならば、きっと良い行いが出来ると思いました。」布「それは願ってもないお話ですが…その福神とやらには、…その、既に大物の天部の皆様方がいらっしゃると伺いました。私のような未熟者がいては、足手纏いになってしまうのでは…。」「そんなことはありませんよ。あなたは今でもよくやっています。あちらにいかれても、きっと役立つことはできると思いますよ。それに…それだけ名を連ねる方々がいれば、あなた自身、多くを学ぶことも出来るでしょう。きっと良い経験になりますよ。」布「…そうですね…!何より、折角いただいたご推薦です。私、頑張ってみます!」「良い心意気です。頼みましたよ。」
――――布「遅くなり申し訳ありませんっ!!私、布袋と申します!人間からの成り上がりでして、まだまだ未熟者ではありますが、学ぶ気持ちと、やる気だけは誰にも負けません!先輩や、天部の皆様方、どうかいろいろとご指導、ご鞭撻願えればと思っております。よろしくお願いいたします!」弁「良い子そうな子が来たー!!!救いの神!!」毘「まるで私らがそうじゃないみたいな言い方だな。」大「素直そうな子じゃん。」恵「なんか面接みたい。」――――布「…そうですか…。寿老人様と福禄寿様が…。」弁「うん…。天人もいろいろいるからね〜…。そんなこと言っちゃう人達も…―――あ!私達はそういうのないからね!!布袋も、私達にそんな気遣わなくていいから!もっと気楽にやろ!ほらほら、肩の力抜いて〜〜!」布「いっ…、いえ!そういう訳には…!やはり天部の皆様にはきちっと礼儀を…!」弁「あはは…天部ったってそんな大層なものじゃないしさ。…寧ろ寿老人や福禄寿、布袋の方が、私はよっぽど凄いと思うよ。それだけの努力をしないと、天人になんてなれないもん。」布「…私はお二人のことをよく存じ上げませんが…。同じ人間上がりとして、同じような辛苦を乗り越えた身としては…推し量るものがあります。そしてそれだけ、民のことを想っていたのだろうということも…。―――…私は和尚として、各地を渡り歩いて、多くの人々と出会ってきました。…飢餓や、争い、貧困、疫病―――……。皆、苦しみや辛さを抱えて…傷つきながらも、己自身や目の前の苦難と戦い、日々を一生懸命に生きていました。」弁「……」布「そういう人々を見てきたからこそ、福の神に選ばれたことは私にとって…とても名誉で、光栄なことなんてす。本当はきっと、お二人にとってもそうなんだと思います…!今はただ、心が曇ってしまっているだけで…。」弁「…うん。」布「…ただ、それだけに疑問に思うことがあります。……天部含め天人の皆様方は、福の神になることを嫌がられていると耳にしました。…それは…何故なのでしょうか…。」弁「…そうだよね…。…例えば天部ってさ、本来は天上を守る役目を担ってるでしょう?力の強い天人ほど、それだけ重要な仕事をしてきた。今まで天上に貢献してきたし、これからも尽くすつもりだったんじゃないかな。…なのに、その仕事を取り上げられて…本来とは違う仕事を宛がわれて…。具体的な内容はまだわからないけど、福の神の仕事って、『民に会って福を振りまく』ことだって言うじゃない?偶像的な存在になって…天人からすると―――…まぁ言っちゃえば、”誰でも出来る楽な仕事”っていう印象が強いのかもね。天部としての自分を侮辱された気持ちなんだよ。」布「…なるほど…。」弁「…ほら、毘沙門天とか大黒天とかは特に強いし、有名でしょう?福神への選出は、戦力外通告みたいなものなんじゃないかな。…あとは、そういう仕事内容もあった上で、『福の神は”問題児の排除組織”らしい』って噂も流れてるから……余計になのかもね。…まぁ勿論、皆民のためになる仕事なら、って気持ちは底にはあると思うよ?でも、その前提があるから―――」布「そ…そうだったんですか…!わ、私…っ…上司の方に推薦されてここにきたんですが…まさか、捨てられ…」ガビーン 弁「あ!?あぁ!ごめん!違うの!それはないと思うよ!?―――…あなたの上司は、心根の優しい方で有名だし、多分あなたの為を想って…っていうのは本当だと思う。…ただきっと、この現状を打破するために加えられた、ってのも真の理由の一つだとは思うけど…。決して悪いことじゃないよ。寧ろ良いこと!実際あなたが来てくれて、私達はほっとしたしね!!」布「そっ…それなら、良かったです…!ですが、私に何かできることがあるのでしょうか…?」弁「できるできる!なんでもね!…これから一緒に考えて行こう!」布「はい…!」
――――弁「…今日も来ないか…。」布「あの…もしかして、来づらいのではないですか?」弁「え?」布「私はその場にいませんでしたし、お二人について何も知りませんが…同じ人間からの成り上がりとしての気持ちは理解できます。…皆様のような恐れ多い方々の前で姉妹喧嘩など、みっともない真似をしてしまったと思ってらっしゃるのではないかと…。大変真面目な方とお聞きしますし、妹様に指摘されて、己の数々の行動を省みているのでは…。」弁「…そうだよね…。」恵「本人の中でいくら整理がついたところで、ここに戻ってくるか、ってとこだね。」弁「そうだね…。毘沙門天はどう思う?」毘「…あの頭堅そうなあいつは、教えてやらなきゃ、下手したら思考が変な方向へ進む可能性もあるってことだな。」布「弁財天、迎えに参りましょう。」弁「…うん!そうだね。皆でまずは寿老人を迎えに行こう。」大「あたしはパスー。そういう面倒なのはいいや。」弁「大黒冷たい!!」恵「いいから来る。」
――――弁「ここにいたんだね。」寿「弁財天様…!皆様も…。」弁「いつまで待ってても来ないから、迎えに来たよ。」寿「…!」大「あたしは無理矢理付き合わされただけなんだけど。」恵「ちょっと黙ってて大黒。」寿「…申し訳ありません…。あんな無様なものをお見せしてしまって…。合わせる顔がなかったものですから…。」弁「…」寿「妹の発言、受け止めてよく考えてみました。…私は、なんと愚かな姉だったのか。…ようやく気づくことができました。妹があのようになってしまった責任は、私にあります。…その上、皆様にまで横柄な態度…無礼にも程がありました。任ぜられた役目を果たそうと、そればかりを考えてしまい…指示される側の気持ちになることを忘れてしまっていました。あんな風では、誰がついてくるわけもない。…申し訳ありませんでした。」弁「…謝ることなんてないよ。」寿「!」弁「寿老人は、自分の仕事を責任もって果たそうとして一生懸命だっただけだもん。真面目なのは悪いことじゃないよ。」寿「…」弁「それにほら、私達も悪いとこあったし…ね!!」恵「そうそう。主にこのワル二人が。」毘「…まぁ、非は認める。」大「…あー、はいはい。悪かったよ不真面目で。」布「あの、私も、お気持ちわかります。」寿「あなたは…、」布「申し遅れました。私、先日新たに加わりました、布袋と申します。…私も、人間上がりです。」寿「…!」布「寿老人様のお気持ち、お察しします。…これまで、大変苦労されたことでしょう。私もまだまだ未熟者で…寿老人様にも教えを請うこともあるかと思います。ですが、同じ人間上がりとして、共に頑張っていきませんか…!」寿「…っ…!」恵「…そんな、気負わなくていいんじゃないかな。」寿「恵比寿様…。」恵「以前がどうあれ、天人であった年月がどうあれ。今は皆等しく天人であり、同じ立場にいるんだから。もっと気楽に考えていいと思うよ。」寿「……恵比寿様…っ…、」毘「なんでもいいが、妹は大切にしてやれよ。…たった一人の家族なんだろ。」寿「…っ…」毘「共に長い年月を乗り越えて、天人になったんだろうが。」寿「…」毘「…それに、さっき妹がああなったのは自分のせいだと言っていたが…当然といえば当然のことだが、本人の責任に依るところが大きい。そのことには、お前と同じで、妹自身も気づいている筈だ。…お前がこうして反省しているように、今頃あいつも、自分の言葉を思い出して、同じようなことを思っているんじゃないか。…なにせ双子だしな。」大「まぁ、己の行為を顧みて反省できる奴は嫌いじゃないよ。」恵「うわ、自分のこと棚に上げてる。」大「お前そろそろ本当に殺すぞ。」恵「おー、怖い。」弁「寿老人、福禄寿のところ、行こう?」寿「…ですが、」毘「お前が行かなければ、何も変わらないぞ。」寿「…」
――――福「…寿―ちゃん…。」寿「…少し、話をしてもいいか。」福「…どうして、皆して…。」毘「…福禄寿。姉の話を聞いてやれ。…これはお前のためでもある。」福「…!」寿「…すまなかった、福禄寿。私は…自分のことばかりで、お前のことを見てはいなかった。…お前の想いに、気づいてやれなかった。己の責務に目を向けるばかりで、お前と向き合おうとしなかった。挙句の果てに、随分酷いことを言ってしまった…。すまない…。お前の評価を下げていたのは、私の方だ…。お前の未来を奪ってしまったのは、私だ…。」福「…」寿「…私達は、双子だ。同い年な上に、同性で…。私はいつからだかお前のことを、”同じ道を志した友”だと感じるようになっていた。…だが、それは間違っていた。お前は、愛すべき家族だった筈なのに、私は…っ、姉、失格だ…。」福「…!」寿「でも、それでも…、私はお前を愛している…!お前は私の、たった一人の、大事な妹だ…!!」福「…」寿「…」福「…ごめんね…。」寿「!」福「…ただの、八つ当たりよ。こうしたのは全部、自分の意志なのに…。寿―ちゃんが苦労してきてることだって、私が一番知ってるのに…。私も同じだよ。悩んで苦しんでた寿―ちゃんを、放っておいたの。」寿「そんな…。」福「私だって、寿―ちゃんの妹失格よ。…ずっと、…ずっと忘れてた。二人で仏を目指し始めた頃の思い。人のためが、自分のためだった。だからこそあれだけ辛い修行も頑張ってこられたのにね。…それなのに、いつからあんな風に…。」寿「…」福「…私もね、ちょっと考えてみてたの。このまま天人として、私はどうなるんだろうって。寿―ちゃんと離れてみて、やりたくないことから逃げて、仕事をサボって、やりたいことばかりやって、…ってやってみたけど、…でも、そのどれをやってる時も、私を責める影が背後にずっとちらついていて――…。誰なんだろうって考えてみたら、…人間時代の私だった。『それが本当にあなたのやりたいことなの?』って、目で問いかけてくるの。」毘「…」福「…私、ただ子供みたいに拗ねてただけなのね。憧れていた天上はちっとも優しくも美しくもなくて、…自分が夢見てた世界とは違ってた。…人間時代に目指していた、ずっとやりたいこともできなくて…。寿―ちゃんがあんなに頑張ってるのに、周りからはあんなことを言われるし…。どんどん荒れて…。何もかもが、ただただ嫌になっただけなの。……でも……。人を助けたいっていう思いは、…ずっと、胸の奥底にあったのよ。」寿「福禄寿…、」福「…私、やっぱり福の神になりたい。…寿―ちゃんと。」寿「!」福「…寿―ちゃんと一緒なら、…寿―ちゃんと一緒だから、きっと叶えられる、寿―ちゃんと一緒に叶えたい、って…思ったの。だからずっと、苦しくて、辛い修行にも耐えて頑張ってこられたのよ。…この私がね。―――…本来ならとっくに寿命が終わって、別の何かに生まれ変わって―――…ってなっていたでしょうに…。私は天人になって、今もこうして寿―ちゃんといられる―――…その意味を、ちゃんと考えたいなって思ったの。」寿「…!」福「――…それに、民達のために働かないと…今までの苦労が水の泡になっちゃうもんね!」寿「……っ…!」福「!もう寿ーちゃんったら~~!泣き虫!!」寿「お前だってそうだろ…っ…!!」――――大「これで一先ず一件落着、ってところ?」毘「そういうことだな。…やれやれ、手のかかる姉妹だな。」恵「…でも、良かったね。」弁「うぅっ…!!ほんとだよ…!!良かったぁ…!!」大「おいおい…何泣いてんだよ。うざ。」布「本当に良かったです……!!」恵「こっちも泣いてるよ。」毘「全くお前らは…。」
――――福「…申し訳ありません、皆様。ご迷惑をおかけしまして…。」毘「…お前達の努力は認めている。余程の努力をしない限り、人間が上格の天人として生まれ変わることはできないからな。…お前等がこれまでしてきた行いは、十二分に誇っていいことだ。」寿「…!ありがたきお言葉でございます。」弁「まぁ、今までのことは水に流してさ、これから楽しくやっていこうよ!折角福の神になったんだよ?好き放題やらせてもらおうよ!!選任したのはあの上司達だし、責任取るとしたら明王様方かな!私達が集まったのも何かの縁だしね!!」大「言われなくとも好き放題するつもりだったよ。」恵「そうだね。私達が何しようと責任は全部上の奴等にあるし。」毘「勝手に職を解かれた恨みもあるしな。寧ろこっちから何か仕掛けてもいいくらいだ。」大「おっ、いいね。なんかやらかす?」毘「やるにしても落ち着いてからだな。奴等が油断した隙を狙ってやるべきだ。」弁「わ、私、悪だくみの意味で言ったんじゃないんだけど!?」恵「この二人にそれ言ってもね。…短期間だけど、なんか皆のこと大体わかった気がするよ。」布「み、皆さん…。」寿「…ふふ、」福「?どうしたの、寿-ちゃん。」寿「いや…あの名の知れた方々も、私達と変わらないのだなと思ってな。…今まで、固く考えすぎていたかもしれん。」福「…そうね。正直、人間と変わりないわ。」
――――そしてそこから数か月後――――弁「かーんせーい!!!」皆が協力して作り上げていたのは、宝船だった。全員で自分達の作り上げた舟を感慨深げに見上げる。弁「今更抜けるとかはもう無しだよ?」恵「だってさ、大黒。」大「あはは、その言葉、そっくりそのまま返すけど?」毘「まぁ楽な仕事もたまにはいいだろ。」寿「何を言いますか!なすべきことはきっちりしていただきますよ!!」福「もう、本当に真面目なんだから。」布「わっ、私も頑張ります!!」
――――『諸君ら7名に対し、正式に福の力を授けよう』そして正式に福の力を授かることで、『七福神』としての活動を開始することになったのだった。

弁「―――…てなことがあったねー。」アハハ 寿「やめろ…なぜ今更その頃の話を蒸し返すんだ…。」福「なんだかんだで寿―ちゃんあの頃から全然変わってないわよね~。ずぅーっとガミガミ言ってるー。」寿「やかましいっ!!」毘「変わったと言えば態度だけだな。」大「あの頃は私達に対してあんな下手に出てたのにね。ちゃんと敬語使ってたしさ。」寿「言っておくが大黒天、お前こそ当時はやたらとやさぐれていただろうが。酷かったぞ、当時のお前は。」恵「本当だよね。なんか孤高演じて斜に構えてたし。」大「…うるさいな。若かったんだよ、あの頃は。」弁「私あの頃、大黒はそうだけどさー、まさか恵比寿がこんなにひょうきんだとは思わなかったなー。」恵「そう?」布「そうですよね、恵比寿ってもっとおとなしいタイプだと思ってました。」大「私も。」福「だから最初は嫌がってたんだもんね~?」大「うるさい福禄寿。」恵「そうだね、大黒の嫌がり加減は異常だったよ。」大「…もう私の話はいいって。」弁「あははっごめんて大黒!拗ねないでよ~!」大「拗ねてない。」寿「…お前は昔から変わらないな、弁財天。」弁「えっ!そう?昔からずっと可愛いって!?」恵「変わらないねー。うるさいとことか。」毘「鬱陶しいとことかな。」弁「酷っ!!」福「やーね、嘘よ!弁財天は昔からずっと可愛いわよ♡」ギュ~ 弁「くっ…くるし…っ、福禄寿!胸でかすぎ・・・っ!」寿「福禄寿…お前は少しは変われ…。」福「えーっ?前に比べたら、ちゃんと仕事してるじゃなぁーい。」寿「その態度だ態度!恰好も!」福「だってこれが楽なんだもーん♡」恵「…布袋も変わったね。前は私達に気遣って、いっつも緊張してたし。」布「皆さんが優しくしてくださったので…おかげで他の天人の方と会うにも、気が楽になりました。」毘「お前こそ、そろそろ敬語はいらないんじゃないか。」布「あはは、弁財天にも何度も言われてるんですが、もう敬語が染みついてしまって…。」大「まぁ確かに、今更話し方変えるのは違和感あるかもね。」寿「そうだな…布袋は寧ろ敬語も個性というか。」大「おっ。自分は違うって?」寿「やかましいっ!!まったく、一々人の揚げ足をとって!!」
――――恵「私は、あれもいい思い出だと思ってるよ。」大「…」恵「あの頃の大黒は貴重だったし。」大「うるさいな。」恵「やたら饒舌だったよね?」大「…いつまでも言ってると本当に…。」恵「『己の行為を顧みて反省できる奴は嫌いじゃない』よ。私も。」大「…なんか、恵比寿も変わったよね。」恵「私もそう思う。…皆には感謝してるよ。特に弁財天にはね。」
――――寿「…悪かったな、あの頃は。」福「え?」寿「お前の気持ちも考えずに、自棄になっていて…冷たくしていた。…たった一人の、妹なのにな。」福「やーね!あの時十分謝ってもらったじゃない!…そもそも、そんなことないわよ。私の方こそ自分のことしか考えてなくて、寿―ちゃんに迷惑ばっかり。…ありがとうね、見捨てないでくれて。私ね、寿―ちゃんのこと、ず~~っと、大好きよ!」寿「…っ!」福「やーね、泣かないでよぉ。」寿「なっ…泣いてないっ!!」福「ふふっ…もう、泣き虫なんだから。」
――――毘「お前があの時―――…私達をまとめてくれていなかったら、今の私達はない。…感謝している。」弁「…!」毘「お前はあの時、これからの自分を見て判断してほしいと言ったな。…過去のお前は、確かに過ちを犯したかもしれない。だが…お前は、そんな自分を否定することなく、受け入れた上でその償いをしようと努力してきた。民を救いたいという気持ちも、紛れもなく真実だ。」弁「!―――…やっぱり、毘沙門天様は懐が深いね。…ありがとう、毘沙。」そうして二人で微笑み合うのだった。


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