「なぁ~~~じいさん、頼むよー。あたしらも先を急いでてさぁ~~。」ヘザーが小柄な老人に声をかけると、老人は困ったような顔で振り返った。「そうは言ってもなぁ…わしにも仕事があるんじゃよ。荷物を届けに行ってやらなきゃならなくてなぁ~。それを終えるまで、ここを出るわけにはいかんのじゃよ。早くても、明後日になるかのぅ。」「明後日だぁ!?それじゃあ困るんだって!」ブローニャ達はアレンから借りた馬で森を抜けて、山を越えた先の町へ辿り着くことが出来た。その日は一先ず、宿で寝泊まりして夜を過ごした。朝になり町に繰り出し、久々に感じる人の活気に感動さえ覚えつつも、質素な食事とフードなどの防寒具だけ購入すると、すぐさま町を出るべく動き出した。目的地方面に向かう馬車に乗せてもらおうとしたが、なかなか条件に該当するものが見つからなかった。そこで、あらゆる御者をあたってみたところ、この老人であればそちらの方面に行くだろうとの情報を掴んだのだ。だが、その時既に老人は町を出立した後で、途中までなら乗せて行こうという別の御者にこの村まで連れてきてもらい、ようやく出会うことができたのだ。なんとか村で老人自体は捕まえることが出来たものの、冒頭のようにすぐには出立出来ない状態だという。というのも、老人は馬車を使って荷物や郵便、人を運ぶ仕事をしているのだが、今回のこの村での仕事というのが、村の目の前にある険しい山の、その奥深くに住むという男性へ手紙を届けることなのだというのだ。山は崖があったり急勾配であったりと、馬車で登ることが出来ないため、徒歩で届けに行くしかないという。「つーか爺さん、そんな体でそんな山登れんのかよ?危なくねぇの?」「な…っ舐めるんじゃないぞっ!何年この仕事やってると思ってるんじゃっ!!年寄り扱いするなっ!」ぷりぷりと怒る老人にヘザーも呆れる。「つったって2日もかかるんだろ?」「時間さえかければ余裕じゃっ!だからわしが戻ってくるまで待っといてくれれば、運んでもいいぞ。」はぁ~~~とため息をついた時、ヘザーが、あっ!と思いつく。「そしたらさ、あたしたちにこの馬、一回貸してくんないかなぁ!経由地点のところって馬牧場やってんだろ?そこの誰かに頼んで返してもらうからさ~~。」そのヘザーの言葉に再びぷりぷりと怒り出す老人。「そっ…そんなこと言って、借りパクするつもりじゃろう!!知ってるんじゃぞ!最近そういう若者が多いって…!わ、わしゃ騙されんぞい!!可愛い顔してからに!!そうやって、わしみたいな老人をたぶからし、…たぶか…らしおって!!」「たぶらかす、な!!いやいや、誑かしてねえから!!借りパクするつもりも…ってか、じいさんよくそんな言葉知ってんな。」「こいつは、こいつはなァ、娘のように可愛がってきたんじゃッ!!貴様らみたいな若者はっ、若者は…、っもっと動物たちを大切になぁ!!」「あぁ、わかった!!わかったから!!ごめんて!冗談だよ!!」「じいさん。」埒が明かなそうなので、二人の間にブローニャが割り込む。「ちなみにその山登りっていうのは、爺さんが通るっていう2日かかるルートしかないのか?」ブローニャの問いに老人は一度固まると、少し考えてから答えた。「わしの場合、歳も歳じゃからなぁ。安全と体力のことも考えて、なるべく平坦なルートを通っとる。途中に山小屋があってな、そこで一度休憩を挟むんじゃが…。そうじゃなければ、他にもルートはあるぞい。」「そうか…。もし私達が代わりに配達を済ませば、早めの出発は可能になるか?」「!?」「そうじゃなぁ…。お前さんたちは若いからのぅ。その別のルートを使えば、一日ですむかもしれんなぁ。」「おいブローニャ…!」「…ここから次の目的地まで、歩いて2日はかかる。体力温存のためにも馬車での移動は必須だ。だからって爺さんが戻ってくるのを待つのも時間の無駄。なら、代わりに配達に行って、その後馬車に乗せてもらうのが一番ましってもんだろ。」「いやいや…山登るんだぜ?それだって結構な体力…。」「あぁ、そういえば、今回の配達先には――――…」
――――「あの村の服可愛かったな~…。実はあのまま着て行きたかった…。」「あのワンピースみたいなやつか。動きづらいったらないだろ。」「何言ってんのよ!おしゃれに動きづらさとか関係ないの!!」「…旅する上では関係あるだろ…。」「は~~~あ、いっつもおんなじ服でつまんない!たまにはもっと別のも色々着てみたいなぁ~。町中とかでも、可愛い服とか結構あったし!欲しかったのも結構あったのよねぇ…。」「わからないな…。服なんて別にどれも一緒だろ。」「一緒じゃないわよ!デジャ、あんたもちゃんとオシャレすれば絶対可愛いわよ!!なんなら私、コーディネートしてあげる!」「いらない。そもそもお前のセンスは本当に大丈夫なのか?」「ちょっと!!聞き捨てならないんだけど!?良いわよ!!だったらどっかで私の実力見せてあげようじゃない!!なんなら今回の任務で報奨金貰ったらコーディネートしてやるから!!」「はっ、そりゃ楽しみだな。」二人で盛り上がっていたところに、ブローニャとヘザーが戻ってくる。――――「えぇっ!?私嫌よ!?」「ほらな、言っただろ。」「想像通りだな。」反抗するチェリに対して、いつものことだと流す3人。「あのじいさんが大丈夫なんだ、なんとかなるだろ。」「だってお爺ちゃんとは別の道行くんでしょ!?崖とかあったらヤバくない!?」「大丈夫だって!話聞いたら、そこまで危険じゃないらしいし。なんならその山奥に住んでるって人が山降りてくる時に使う道だって言ってたぜ。」「降りて来るって…。っていうかそもそもソレ、本人がとりにくれば済む話じゃないの!?」「って言っても手紙が届いてるぞー、なんてどうやって知らせるんだよ。」「それは…。」「それに大事な手紙らしくてな。一刻も早く届けてほしいらしいんだ。あと本人は、数十年に一度くらいしか山を降りて来ないらしい。」「ぐぬぬぬ…!」「でもな、チェリ。一つだけ朗報があるんだ。」「何よ!」「配達先には温泉があるんだとよ。」「!?」「めちゃくちゃ気持ち良くて、疲れも吹っ飛ぶらしいぜ。」「!!」「その上美容にも良い成分が入ってるらしいぞ。」「………!!」
――――「うっ…嘘つきっ!!」「わ…、私もこんな急勾配だなんて聞いてないぞ…!!」急な坂道を上る一行。「ブローニャ、ズボンに履き替えといてよかったわね…。」「全くだ…いつものスカートじゃあこれは無理だな。」「これ後で筋肉痛ヤバそ…。」「この辺り滑るから気をつけろよ。」「さんきゅー!…おわっ!!」「危なっ…!!」足を滑らせたヘザーの腕を咄嗟に掴むデジャ。「言った傍からお前…!!」「あはは…悪い悪い。助かった!ありがとな!」「ったく…。」「先行き不安だな…。」―――――坂を登り切ると、一度平坦な場所で休憩をする一行。4人並んで山の下の景色を見下しながら、代わる代わるに持参した水分を補給し、ほっと一息つく。「しかし届け先の人ってどういう人なんだろうな。こんな山奥に一人で何年も住んでるなんて、よっぽどのもの好きだぜ。」「もしかしたら山頂は住みやすい環境なのかもしれないがな。食料も水もあって困らないとか。」「ただそれだけでこんなとこいるか?それ以外の理由として…この奥に何かあるとか。」「山頂の景色が凄い綺麗すぎて降りたくないとか?」「うーん、理由にはなる!」「野生動物達と仲良くなって降りられなくなったとか。」「何それメルヘンすぎ…。」「温泉が好きすぎて降りたくないとか?」「んー…そりゃない…―――とは言い切れねぇな。」「それか、逆に降り”られない”のかもしれないぞ。」「おじいちゃんが足腰弱っちゃって…とか?」「それか終の棲家的な?こりゃ降り”たくない”理由か。」「まぁ、そんな感じかもな。」そんなこんなで雑談をしていると、ブローニャが立ち上がった。「よし!そろそろ行くぞ!」「え~~~もう!?」「暗くなる前に登らないとだからな。」「近道って言ってもそれなりに距離はあるし…道も険しいからな。」「はぁ~~あ、行くかぁ!」「ほら、チェリも行くぞ!」「うぅ…はぁ~~い…。」――――岩場をよじ登っていくブローニャ達。「高い~~~!こんなの登れない~~~!!」「ほらチェリ、手ェ貸せ!」「ううぅ~~~!!」「頑張れチェリ、気合い入れろ!」「ここに足かければ登りやすいぞ、力入れて踏ん張れ!」「ぐぬぬ…!」「ファイトーーーッ!!」「いっぱぁーーーーつ!!」――――「洞窟…!?」「ここ通れるのか…すごいな。」「なんだろう…!すごくわくわくする…!!」「冒険してるって感じだな!!」「ワヘイ探検隊、行くぞ!!」「「おーーーーっ!!」」「ガキか。」「隊長!足元気を付けてください!」「うむ。」「ドンか何かか?」「!?隊長!!前方から何か来ます!!」「ほう。何かってなん――――……!?」大きな岩が転がってきていた。「!!?」「にっ…逃げろッ!!」「死ぬ死ぬ死ぬッ!!!」「!横道があるぞ!!飛び込め!!」命からがらに4人横道にそれて何とか助かった。「あっぶね~~~…。」「し、死ぬかと思った…!!」「今まででこれが最大のピンチってなんだよ…!!」そしてその後も4人は、山を越え谷を越え、蛇や鹿と遭遇したり、川沿いに寄ったり、途中あったお花畑で休んだり蝶々を追いかけたりとしながら歩みを進め――――…「…あと少しだぞ…!皆頑張れ…!」4人とも息を切らし、へとへとふらふらになりながら道なき道を進む。皆疲れ切って喋る気力もなくなっていた。「…?」その時ふとチェリが何かに気づいたように耳を澄ます。「…どうした?」「なんか今聞こえなかった?」「はあ?」ヘザーも耳を澄ませるが、何も聞こえない。「…お前遂に幻聴が…。」「違うわよっ!」チェリの言葉にブローニャも辺りを見回すと、西の空では日が沈みかけていた。そして視界にあるものが映る。「お前ら見てみろ。」「んん…?」3人はブローニャに言われるまま視線を動かす。「…!!」そこには、夕焼けに照らされた山脈と森の美しい景色が広がっていた。ため息が出る光景に、思わず見とれる一同。「これだけで頑張って来た甲斐があるってもんだな…。」「…登山する人の気持ちが少しわかったかも…。」暫くそうして見て、4人が心が洗われたような気持ちになっていた時だ。ヘザーが視線を動かしてはたと何かに気づく。瞬間、青ざめて固まり、ちょいちょいと傍にいたデジャの裾を引っ張る。「なんだよ?」カタカタと震えるヘザーの視線を追う。「…!!!」それを見た途端、デジャも青ざめる。「お…おい…ッ!!」ブローニャとチェリにも呼びかける。「ん?なに―――…」二人が振り返るとそこには、「!!?!?」クマが一頭、そこに立っていた。4人はその場で息を呑む。「や…ヤバい…ッ!!クマだ…!!」「お…ッ落ち着けお前ら…!!」「いいか、刺激するなよ…!!急に動くな…!!」珍しくブローニャとデジャも焦っている。「どっ…どどどどうすればいいの…!?しっ…、死んだふりするんだっけ…!?」「それよく言うけど駄目なやつだ!!」「じゃあどうすんのよ!?」「こういう時は、背中を向けずに、後ずさりしながら距離を離してくんだよ…!!」そして4人はじりじりと少しずつ、少しずつ下がりながら、クマとの距離を離していく。だがその時、急にクマが立ち上がって唸った。「「わあああああッ!!」」「ばッ…!!」ブローニャとデジャが脅えるチェリとヘザーの前に出て、武器を手に臨戦態勢を取った時だった。「!?」突如現れた人影が、クマに襲い掛かった。「あ…っ…」「アレは…!?」その人影は、筋骨隆々な初老の男性だった。「誰!?」ブローニャにしがみつきながら思わずチェリが叫ぶその先で、男性はなんと素手でクマと取っ組み合いになっていた。そしてしばらく膠着状態になると、「ふんッ!!」力の限りを尽くして、そのままクマを組み倒した。「なっ…!?」「す、すげぇ…ッ!!」クマは倒れこんだ後、立ち上がると慌ててその場から逃げ出していった。「二度と来るんじゃないぞ!」走り去るクマの背中に手を振って、男性はブローニャ達の方へと振り返った。「こんな山奥にお嬢さん方4人で―――…危ないじゃないかッ!!」「ひいッ!」びくりと脅えるチェリの横で、ブローニャがはたと気づく。「…もしかして、あんたがクラークさんか…?」「ん?いかにも私はクラークだが…。」その返答に4人は互いに顔を見合わせた。
――――「…」目を細めながら手紙を読むクラークという男性。ブローニャ達は、彼の住む山小屋にお邪魔していた。先ほどクマが現れた場所から更に少し登ったところの開けた場所に、この山小屋はあった。「…ありがとう…。」クラークは手紙を読み終えると、大事そうに、そっと封に仕舞った。「…町へ出た娘からの手紙でな。こうして月に1度、近況を手紙で報告し合っているんだよ。…元気そうで何よりだ。」少し涙目になりながらも、嬉しそうに微笑んだ。その表情を見て、4人も顔を見合わせ微笑む。道中困難ばかりで、一時来るんじゃなかったとも思ったものだが、彼の涙目になりながら喜ぶ姿を見て、届けに来て良かったと思うのだった。「娘に会いに行ったりはしないのか?…そもそも、どうしてこんなところに?」「…さっきクマに遭遇しただろう。昔はこの辺りには、クマなんか現れなかったんだ。天候の影響か、採れる餌が無くなって来たのか…。近頃は北の山からああやって熊がやってくることが多くてな。村に降りてくることが無いよう、ここで私が見張って食い止めているのだ。いくつか罠も仕掛けてあるから、いつどこに出没するのか把握できるようにしている。」先ほどチェリが聞いたという何かの物音と、クラークがクマを投げ倒した様子を思い出す4人。なるほど確かに彼さえいれば村は安泰かもしれない。「そういう訳で、私は山を降りてここを空けるわけにはいかないし、娘も娘で、もう所帯を持っていて、仕事も忙しく来られないという状況でな。…ここ数年は娘に会えていないのだよ。」寂しそうな目で遠くを見つめるクラーク。「…ここでの生活は危険も伴うだろう。娘さんも心配してるんじゃないのか?」「はは、まさに娘からはさっさと山を降りるよう何度も言われているよ。…だが、生まれ育った故郷だ。自らの手で守りたいのだよ。」「か…かっけぇ…!!」ヘザーがキラキラと目を輝かせる。「この辺りなら獲物はいるし、山菜やきのこ、果実なんかも採れて、湧き水も出ているから、生活には困ってないのさ。」「そうか…。」「あとは温泉もあるし、でしょ?」「よく知っているな。そうだな、あの温泉は極上だぞ。ここから少し登ったところにある。後で入っていくといい。」それを聞いたチェリとヘザーが楽しみ~!と、嬉しそうに笑う。「まぁ確かに、これだけ良いところなら、長く住みたくもなるかもね。」「はは、そうだろう!」窓の外を見ると雄大な自然が広がっていた。交通の便が悪いところと、クマが襲ってくるという欠点はあるものの、住めば都だ。「ところで、君達はどうしてこんなところに?」――――「ワヘイ王国からわざわざ!?」クラークが思わず大きな声を上げて驚く。自分が思った以上に声が出てしまったのか、コホンと一つ咳払いすると、話を続ける。「失礼した。…そんなに大事なものなのかね?」「…まぁな。」「そうか…。それにしても大変だっただろう。馬もいなくなったとなると…。」「あぁ。だが目的地はもう少しだからな。何とか踏ん張ってみるつもりだ。」「…」固い決意を込めたような顔をしている4人を見て、クラークも真剣な表情を浮かべる。「…君達には君達の、帰りを待っている人がいるだろう。」「…」クラークの言葉に、4人それぞれがその人物を思い浮かべた。それは親だったり、師匠だったり、偶然出会えた人達でもあった。「その人達のためにも、無事に帰ってくることを第一に考えなさい。」「!」「ここで出会えたのも何かの縁だ。…私も、君達が目的を果たして、無事に大切な人達の元へ帰れることを祈っているよ。」そのクラークの優しく暖かな言葉に4人はどこか切ない気持ちになった。「…ありがとう。」ブローニャも目を閉じながらその想いを噛み締める。その時、ふとデジャが口を開いた。「…あんたも、娘に会いたいなら会っておくんだな。」「!」「…いつ何時会えなくなるかわからないんだ。会えるうちに会っておけ。」「…」デジャの言葉に、クラークは何かを感じ取り、ヘザーも窓の外の星空を見つめながら「…そうだよな…。」と呟いた。そしてチェリがテーブルに身を乗り出して、明るく言い放った。「おじさんも、手紙で娘さんに『たまには帰って来い!』とか、『会いたい!』って書きなさいよね!」そんなチェリの言葉に「こりゃ一本取られたな。」とクラークが笑うと、皆で笑った。
――――「はぁ~~~……。」「気持ち良いな…。」「本当に…。」クラークの作った料理をご馳走になった4人はその後、山の上の温泉にやってきた。湯舟に浸かりながら、そのあまりの気持ち良さにうっとりとするブローニャとデジャ。温度はちょうどよく、湯は温泉成分のせいだろうか、少し白濁の濁りがあるのもまた一興だった。「確かにこれは最高だな…。」「あぁ。頑張って来た甲斐があるってもんだ。」「それにここからも景色が見えるとはな…。しかも星が綺麗だ…。」先ほどよりも更に開けた美しい景色が一望出来た。空が開けて見えるので、星空がまるで迫ってくるような迫力だ。「うん。穴場も穴場だな。」珍しくだら~と気が抜けている二人。「もうここに住みたい…。」「チェリみたいなこと言うな。」そう言って二人で笑い合っていた時だ。「…さっきからなんなんだ?」チェリとヘザーの視線に気づいてブローニャが声をかける。「…デカいとは思ってたけど、やっぱりこう、まじまじと見ると違うわね…。すご…。」「何したらそんなデカくなるんだ…?」「…!?お前ら、どこ見て言ってるんだ!!」恥ずかしくなったブローニャは胸元を隠して二人の視界を遮る。「ねぇ……一回だけ…揉ませてくれない…?」「!?何言っ…」「あ…あたしも、ちょっとだけでいいから…。」「…!!お、お前ら…!!」まるでハンターのような二人の目線にブローニャは両手で胸を守るようにしながら後ずさりする。その後、ギャーギャー暴れながら揉み合いになる(意味深)3人にデジャが一喝した。「温泉で暴れるな!!温泉ってのはゆっくり静かに入るもんだ!!マナーを守れ!!」――――そして気を取り直して、は~~とため息をつきながら再びゆっくり湯に浸かる4人。「それにしても勿体ないな。村まで引けば観光地にもなるだろうに。」「確かに!…でも、こうしてゆっくり静かに浸かれるのはいいかもね~…。」「…あぁ、それもそうだな…。」「あ!そういえばこの温泉、やっぱり美容に良いんだって!!さっきおじさんが言ってた!つるつるすべすべになるんだって~~!」「あぁ、だから…。」「確かになんか、さっきから腕とか脚がとぅるとぅるしてんな。」「ね~!こう…旅ばっかりしてるとお肌のケアとかできないから…たまにはこういうのも良いわよね~!」「でもチェリ、よく気にしてるが全然大丈夫だぞ?十分綺麗だ。」そう言ってチェリの頬をつつくブローニャ。「そお?ブローニャも肌綺麗よね!」そういってお返しとばかりにブローニャの顔を両手で挟みこんで撫でるチェリ。「こら!」「あ~~すべすべ美肌~~♡」「デジャも結構肌綺麗だよなー。」「私のことはいいんだよ!」「なぁーに照れてんだよ!」「照れてない!…全く、肌が綺麗とかそんなの一々気にしてられるか。」「あっ!またそんなこと言って~!」星空の下でひとしきりじゃれあった後、ブローニャが口を開いた。「そういえば、これからの話をしておこう。」その言葉で3人も顔が引き締まった。「ディーンとはぐれた後、私たちは徒歩で森の奥の村まで辿り着き、そこで借りた馬で町に到着した訳だが…。本来通る筈だった道よりも、またいくらか近道できていたことがわかった。勿論、徒歩で進んだ分、遅れてはいるが…まだ追いつける可能性はある。」ブローニャの言葉と表情に”確信”を感じ、チェリは問いかけた。「…何か策があるの?」「あぁ。考えがある。」「また近道?」「まあな。また歩くぞ。」その言葉にチェリが「え”っ!!」とあからさまに嫌そうな反応をしたが、気にせずブローニャは続ける。「次の目的地は、あの山の向こうにあるエテマ町だ。奴らが最終目的地であるテキン町に辿り着く前に、一つ手前にあるその小さな町で、ガラクタを回収したい。」その言葉にチェリとヘザーが緊張する。頭の中で、地図に書いてあるマークが浮かぶ。そして先ほどクラークも、山小屋の窓の外を指して『あの山を越えたところがリテン王国で、そこに君達が目指す町がある。』と言っていたのを思い出した。4人でその方向を見る。「…いつのまにか、もうそんなところまで来てたのね…。」「…最後のチャンスってことか…。」「あぁ。そこで追いつけずに悪党どもの仲間の手に渡れば、その後を追えなくなる可能性が高いからな。」その言葉に3人はブローニャを見る。「今回は必ず、追いつかなければならない。だから皆、…――――協力してくれ。」皆、まっすぐとブローニャを見た。もうその目に迷いはなかった。「当たり前だ。」「ここが正念場だな!」「勿論、頑張るわよ!!」一人一人目を合わせると、皆して笑った。
――――温泉に入りすぎて若干のぼせ気味となったブローニャ達は、クラークの山小屋へ戻った。そしてクラークが用意してくれていた、客人用だという2人用の狭い布団に身を寄せ合いながら4人で眠るのだった。翌日、クラークに別れの挨拶をした4人は「最短ルートがある」と言われて、坂道を滑り下りるルートを辿って行ったのだった。
――――荷造りの準備をしていた老人の元へ、人影が現れる。「待っとったぞ。」振り返った老人の後ろには、ブローニャ達4人が歩いてきていた。4人は決意を込めた表情で老人の元へ足を運ぶ。「それじゃあ爺さん、頼んだ。」そして4人は馬車に乗り込んだのだった。