【11話】代理と温泉


ブローニャ達一行は、とある村を訪れていた。「なぁ~~~じいさん、頼むよー。あたしらも先を急いでてさぁ~~。」ヘザーが小柄な老人に声をかけると、老人は困った様子で振り返った。「そうは言ってもなぁ…わしにも仕事があるんじゃよ。荷物を届けに行ってやらなきゃならなくてなぁ~。それを終えるまで、ここを出るわけにはいかんのじゃよ。早くても、明後日になるかのぅ。」「明後日だぁ!?それじゃあ困るんだって!」
――――ブローニャ達はアレンから借りた馬で森を抜けると、山を越えた先の町へ辿り着いた。その日は宿で一晩過ごし、翌朝になって町へ繰り出した。久々に感じる人の活気に感動さえ覚えつつ、質素な食事をとり、防寒用のフードだけを購入すると、すぐに町を出るべく動き出した。目的地方面に向かう馬車に乗せてもらおうとしたが、なかなか条件に合致するものが見つからなかった。そこで、あらゆる御者をあたってみたところ、この老人であればそちらの方面に行くだろうとの情報を掴んだのだ。だが、その時には既に、老人は町を出立した後だったため、途中までなら乗せて行こうという別の御者にこの村まで連れてきてもらい、ようやく出会うことができたのだ。
――――なんとか村で老人を捕まえることが出来たものの、冒頭のように、すぐには出立出来ない状態だという。というのも、老人は馬車を使って荷物や郵便、人を運ぶ仕事をしているのだが、今回のこの村での仕事というのが、山奥に暮らす男性へ手紙を届けることなのだという。山は、村のすぐ目の前にあるものの、崖や急勾配が続くため馬車では登れず、徒歩で向かうしかないという。「つーか爺さん、そんな体であんな山登れんのかよ?危なくねぇの?」「な…っ舐めるんじゃないぞっ!何年この仕事やってると思ってるんじゃっ!!年寄り扱いするなっ!」ぷりぷりと怒る老人にヘザーも呆れる。「つったって2日もかかるんだろ?」「時間さえかければ余裕じゃっ!だからわしが戻ってくるまで待っといてくれれば、運んでもいいぞ。」その言葉にヘザーは、はぁ~~~とため息をついた後、あっ!と何かを思いつく。「そしたらさ、あたしたちにこの馬、一回貸してくんないかなぁ!経由地点のところって馬牧場やってんだろ?そこの誰かに頼んで返してもらうからさ~~。」それを聞いて、再びぷりぷりと怒り出す老人。「そっ…そんなこと言って、借りパクするつもりじゃろう!!知ってるんじゃぞ!最近そういう若者が多いって…!わ、わしゃ騙されんぞい!!可愛い顔してからに!!そうやって、わしみたいな老人をたぶからし、…たぶか…らしおって!!」「たぶらかす、な!!いやいや、誑かしてねえから!!借りパクするつもりも…ってか、じいさんよくそんな言葉知ってんな。」「こいつは、こいつはなァ、娘のように可愛がってきたんじゃッ!!貴様らみたいな若者はっ、若者は…、っもっと動物たちを大切になぁ!!」「あぁ、わかった!!わかったから!!ごめんて!冗談だよ!!」「じいさん。」埒が明かなそうなので、2人の間にブローニャが割り込む。「ちなみにその山登りっていうのは、爺さんが通る2日かかるルートしかないのか?」ブローニャの問いに老人は一度固まると、少し考えてから答えた。「わしの場合、歳も歳じゃからなぁ。安全と体力面も考えて、なるべく平坦なルートを通っとる。途中に山小屋があってな、そこで一度休憩を挟むんじゃが…。そうじゃなければ、他にもルートはあるぞい。」「そうか…。もし私達が代わりに配達を済ませたら、早めの出発は可能になるか?」「!?」「そうじゃなぁ…。お前さんたちは若いからのぅ。その別のルートを使えば、一日ですむかもしれんなぁ。」「おいブローニャ…!」「…ここから次の目的地まで歩いて2日はかかる。体力温存のためにも馬車での移動は必須だ。だからって、爺さんが戻ってくるのを待つのも時間の無駄だ。なら、代わりに配達に行って、その後馬車に乗せてもらうのが一番ましってもんだろ。」「いやいや…山登るんだぜ?それだって結構な体力…。」2人がこそこそと話し合っている中、老人ふと何かを思い出した。「あぁ、そういえば、今回の配達先には――――…」
――――「あの村の服可愛かったな~…。実はあのまま着て行きたかったのよね~。」「あのワンピースみたいなやつか。動きづらいったらないだろ。」「何言ってんのよ!おしゃれに動きづらさとか関係ないの!!」「…旅する上では関係あるだろ…。」「は~~~あ、いっつもおんなじ服でつまんない!たまにはもっと別のも色々着てみたいなぁ~。町中とかでも、可愛い服とか結構あったし!欲しかったのも結構あったのよねぇ…。」「わからないな…。服なんて別にどれも一緒だろ。」「一緒じゃないわよ!デジャ、あんたもちゃんとオシャレすれば絶対可愛いわよ!!なんなら私、コーディネートしてあげる!」「いらない。そもそもお前のセンスは本当に大丈夫なのか?」「ちょっと!!聞き捨てならないんだけど!?良いわよ!!だったらどっかで私の実力見せてあげようじゃない!!なんなら今回の任務で報奨金貰ったらコーディネートしてやるから!!」「はっ、そりゃ楽しみだな。」2人で盛り上がっていたところに、ブローニャとヘザーが戻ってくる。―――「えぇっ!?私嫌よ!?」「ほらな、言っただろ。」「予想通りだな。」反抗するチェリに対して、いつものことだと流す3人。「あのじいさんが大丈夫なんだ、なんとかなるだろ。」「だってお爺ちゃんが行くのとは別の道なんでしょ!?崖とかあったらヤバくない!?」「大丈夫だって!話聞いたら、そこまで危険じゃないらしいし。なんならその山奥に住んでるって人が、村まで降りてくる時に使う道だって言ってたぜ。」「降りて来るって…。っていうかそもそもソレ、本人がとりにくれば済む話じゃないの!?」「って言っても手紙が届いてるぞー、なんてどうやって知らせるんだよ。」「それは…。」「それに大事な手紙らしくてな。一刻も早く届けてほしいらしいんだ。あと本人は、数十年に一度くらいしか山を降りて来ないらしい。」「ぐぬぬぬ…!」「でもな、チェリ。一つだけ朗報があるんだ。」「何よ!」「配達先には、温泉があるらしい。」「!?」「めちゃくちゃ気持ち良くて、疲れも吹っ飛ぶって話だぜ。」「!!」「その上、美容にも良い成分が入ってるらしいぞ。」「………!!!」
――――「うっ…嘘つきっ!!」「わ…、私もこんな急勾配だなんて聞いてないぞ…!!」急な坂道を上る一行。「ブローニャ、ズボンに履き替えといてよかったわね…。」「全くだ…いつものスカートじゃあこれは無理だな。」「これ後で筋肉痛ヤバそ…。」「この辺り滑るから気をつけろよ。」「さんきゅー!…おわっ!!」「危なっ…!!」足を滑らせたヘザーの腕を、デジャが咄嗟に掴む。「言った傍からお前…!!」「あはは…悪い悪い。助かった!ありがとな!」「ったく…。」「先行き不安だな…。」―――坂を登り切ると、平坦な場所で一度休憩を挟む一行。300メートルほどの高さまで登っただろうか。4人は並んで山の外の景色を見下ろしながら、代わる代わる持参した水分を補給し、ほっと一息ついた。「しかし届け先の人ってどういう人なんだろうな。こんな山奥に1人で何年も住んでるなんて、よっぽどのもの好きだぜ。」「もしかしたら山頂は住みやすい環境なのかもしれないがな。食料も水もあって困らないとか。」「ただそれだけでこんなとこいるか?それ以外の理由として…この奥に何かあるとか。」「山頂の景色が凄い綺麗すぎて降りたくないとか?」「うーん、理由にはなる!」「野生動物達と仲良くなって降りられなくなったとか。」「何それメルヘンすぎ…。」「温泉が好きすぎて降りたくないとか?」「んー…そりゃない…―――とも言い切れねぇな。」「それか、逆に降り"られない"のかもしれないぞ。」「おじいちゃんが足腰弱っちゃって…とか?」「それか終の棲家的な?こりゃ降り"たくない"理由か。」「まぁ、そんな感じかもな。」そんな風に雑談をした後、ブローニャがふいに立ち上がった。「よし!そろそろ行くぞ!」「え~~~もう!?」「暗くなる前に登りきらないとだからな。」「近道って言ってもそれなりに距離はあるし…道も険しいしな。」「はぁ~~あ、行くかぁ!」「ほら、チェリも行くぞ!」「うぅ…はぁ~~い…。」
――――岩場をよじ登っていくブローニャ達。「高い~~~!こんなの登れない~~~!!」「ほらチェリ、手ェ貸せ!」「ううぅ~~~!!」「頑張れチェリ、気合い入れろ!」「ここに足かければ登りやすいぞ、力入れて踏ん張れ!」「ぐぬぬ…!」「ファイトーーーッ!!」「いっぱぁーーーーつ!!」
――――「洞窟…!?」「ここ通れるのか…すごいな。」「なんだろう…!すごくわくわくする…!!」「冒険してるって感じだな!!」「ワヘイ探検隊、行くぞ!!」「「おーーーーっ!!」」「ガキか。」「ブローニャ隊長!足元気を付けてください!」「うむ。」「乗り気だな。」「!?隊長!!前方から何か来ます!!」「ほう。何かってなん――――…!?」大きな岩が転がってきていた。「!!?」「にっ…逃げろッ!!」「死ぬ死ぬ死ぬッ!!!」「!横道があるぞ!!飛び込め!!」命からがら、横道に逸れて何とか助かった。「あっぶね~~~…。」「し、死ぬかと思った…!!」「今まででこれが最大のピンチってなんだよ…!!」
――――そしてその後も4人は、山を越え谷を越え、川に寄って水分補給をし、蛇や鹿と対峙し、お花畑で花を摘み、蝶々を追いかけ、更に歩みを進めた。――――…「…あと少しだぞ…!皆頑張れ…!」4人とも息を切らし、へとへとふらふらになりながら道なき道を進む。皆疲れ切って喋る気力もなくなっていた。「…?」ふとチェリが何かに気づいたように耳を澄ます。「…どうした?」「なんか今聞こえなかった?」「はあ?」ヘザーも耳を澄ませるが、何も聞こえない。「…お前遂に幻聴が…。」「違うわよっ!」チェリの言葉にブローニャが辺りを見回すと、西の空では日が沈みかけていた。そして、視界にあるものが映る。「お前ら見てみろ。」「んん…?」3人はブローニャに言われるがまま視線を動かす。「…!!」そこには、夕焼けに照らされた山脈と、辺り一面に森の美しい景色が広がっていた。ため息が出る光景に、しばし見とれる一同。「これだけで頑張って来た甲斐があるってもんだな…。」「…登山する人の気持ちが少しわかったかも…。」4人して心が洗われたような気持ちになっていた時だ。ヘザーが視線を動かし、はたと何かに気づいた。瞬間、青ざめて固まると、ちょいちょいと傍にいたデジャの裾を引っ張った。「なんだよ?」カタカタと震えるヘザーの視線を追う。「…!!!」それを見た途端、デジャも顔を引き攣らせた。「お…おい…ッ!!」デジャがブローニャとチェリにも呼びかける。「ん?なに―――…」2人が振り返るとそこには―――「!!?!?」一頭のクマが、立っていた。4人はその場で息を呑む。「や…ヤバい…ッ!!クマだ…!!」「しかもでかくない…!!?」「お…ッ落ち着けお前ら…!!」「いいか、刺激するなよ…!!急に動くな…!!」珍しくブローニャとデジャも焦っている。「どっ…どどどどうすればいいの…!?しっ…、死んだふりするんだっけ…!?」「それよく言うけど駄目なやつだ!!」「じゃあどうすんのよ!?」「こういう時は、背中を向けずに、後ずさりしながら距離を離してくんだよ…!!」そして4人はじりじりと少しずつ、少しずつ下がりながら、クマとの距離を離していく。だがその時、突然クマが立ち上がって唸った。「「わあああああッ!!」」「ばッ…!!」ブローニャとデジャが、脅えるチェリとヘザーの前に出て、武器を手に臨戦態勢を取った。その時だった。「!?」突如現れた人影が、クマに襲い掛かった。「あ…っ…」「アレは…!?」その人影の正体は、上背のある、筋骨隆々な初老の男性だった。「誰!?」ブローニャにしがみつきながら、チェリが思わず叫ぶ。その先で、男性はなんと、素手でクマと取っ組み合いをしていた。しばらく膠着状態になった後、「ふんッ!!」男性は力の限りを尽くし、そのままクマを組み倒した。「なっ…!?」「す、すげぇ…ッ!!」クマは体を起こすと、慌ててその場から逃げ出していった。「二度と来るんじゃないぞ!」走り去るクマの背中に手を振って、男性はブローニャ達の方へと振り返った。「こんな山奥にお嬢さん方4人で―――…危ないじゃないかッ!!」「ひいッ!」びくりと脅えるチェリの横で、ブローニャがはたと気づく。「…もしかして、あんたがクラークさんか…?」「ん?いかにも私はクラークだが…。」その返答に、4人は顔を見合わせた。
――――「…」目を細めながら手紙を読む、クラークという男性。ブローニャ達は、彼の住む山小屋にお邪魔していた。先ほどクマが現れた地点から少し登った、開けた場所にこの山小屋はあった。「…ありがとう…。」クラークは手紙を読み終えると、大事そうに、そっと封に仕舞った。「…町へ出た娘からの手紙でな。こうして月に1度、近況を手紙で報告し合っているんだよ。…元気そうで何よりだ。」少し涙目になりながらも、嬉しそうに微笑んだ。その表情を見て、4人も顔を見合わせ笑みを浮かべた。道中困難ばかりで、一時、来るんじゃなかったとも思ったものだが、彼の喜ぶ姿を見て、届けに来て良かったと思うのだった。「娘に会いに行ったりはしないのか?…そもそも、どうしてこんなところに?」「…さっきクマに遭遇しただろう。昔、この辺りには、クマなんか現れなかったんだ。天候の影響か、採れる餌が無くなって来たせいか…。近頃は北の山からああして熊がやってくることが多くてな。村に降りてくることが無いよう、ここで私が見張って食い止めているのだ。いくつか罠も仕掛けてあるから、いつどこに出没しても把握できるようにしている。」先ほどチェリが聞いたという物音と、クラークがクマを投げ倒した様子を思い出す。なるほど確かに、彼さえいれば村は安泰かもしれない。「そういう訳で、私はここを空けるわけにはいかないのだよ。娘も娘でもう所帯を持っていて、仕事も忙しく来られないという状況でな。…ここ数年、娘に会えていないのだ。」寂しそうな目で遠くを見つめるクラーク。「…ここでの生活は危険も伴うだろう。娘さんも心配してるんじゃないのか?」「はは、察しの通り、娘からは『さっさと山を降りろ』と何度も言われているよ。…だが、生まれ育った故郷だ。自らの手で守りたいのだよ。」「か…かっけぇ…!!」ヘザーがキラキラと目を輝かせる。「この辺りなら獲物はいるし、山菜やきのこ、果実なんかも採れて、湧き水も出ているから生活には困ってないのさ。」「そうか…。」「あとは温泉もあるし、でしょ?」「よく知っているな。そうだ。あの温泉は極上だぞ。ここから少し登ったところにある。後で入っていくといい。」それを聞いたチェリとヘザーが楽しみ~!と、嬉しそうに笑う。「まぁ確かに、これだけ良いところなら、長く住みたくもなるかもね。」「はは、そうだろう!」窓の外を見ると、雄大な自然が広がっていた。交通の便が悪いところと、クマが襲ってくるという欠点はあるものの、住めば都だ。「ところで、君達はどうしてこんなところまで?」――――「ワヘイ王国からわざわざ!?」クラークが思わず大きな声を上げて驚く。思った以上に声が出てしまったのか、コホンと一つ咳払いすると、話を続けた。「失礼した。…そんなに大事なものなのかね?」「…まぁな。」「そうか…。それにしても大変だっただろう。馬もいなくなったとなると…。」「あぁ。だが目的地までもう少しだからな。何とか踏ん張ってみるつもりだ。」「…」4人の固い決意を込めた顔を見て、クラークも真剣な表情を浮かべる。「…君達には君達の、帰りを待っている人がいるだろう。」「…」クラークの言葉に、4人それぞれがその人物を思い浮かべた。それは親だったり、兄だったり、師匠だったり、偶然出会えた人達でもあった。「その人達のためにも、無事に帰ることを第一に考えなさい。」「!」「ここで出会えたのも何かの縁だ。…私も、君達が目的を果たして、無事に大切な人達の元へ帰れることを祈っているよ。」クラークの優しく暖かな言葉に、4人はどこか切ない気持ちになった。「…ありがとう。」ブローニャも目を閉じながらその想いを噛み締める。その時、デジャが口を開いた。「…あんたも、娘に会いたいなら会っておくんだな。」「!」「…いつ何時、会えなくなるかわからないんだ。会えるうちに会っておけ。」「…」デジャの言葉に、クラークが何かを感じ取る。ヘザーも、窓の外の星空を見つめながら「…そうだよな…。」と呟いた。そこにチェリが、テーブルに身を乗り出して明るく言い放った。「おじさんも、手紙で娘さんに『たまには帰って来い!』とか、『会いたい!』って書きなさいよね!」そんなチェリの言葉に、クラークが「こりゃ一本取られたな。」と笑うと、皆も笑った。
――――「はぁ~~~……。」「気持ち良いな…。」「本当に…。」クラークの作った料理をご馳走になった4人は、その後、山の上の温泉にやってきた。ブローニャとデジャは湯舟に浸かりながら、そのあまりの気持ち良さにうっとりとしていた。温度はちょうどよく、温泉成分のせいだろうか、少し白濁の濁りがあるのもまた一興だった。「確かにこれは最高だな…。」「あぁ。頑張って来た甲斐があるってもんだ。」「それにここからも景色が見えるとはな…。しかも星が綺麗だ…。」先ほどより更に開けた、美しい景色が一望出来た。空も広く、星空がまるで迫ってくるかのような迫力だ。「うん。穴場も穴場だな。」珍しくだら~と気が抜けている2人。「もうここに住みたい…。」「チェリみたいなこと言うな。」そう言って2人で笑い合っていた時だ。「…さっきからなんなんだ?」チェリとヘザーの視線に気づいたブローニャが声をかける。「…デカいとは思ってたけど、やっぱりこう、まじまじと見ると違うわね…。すご…。」「何したらそんなデカくなるんだ…?」「…!?お前ら、どこ見て言ってるんだ!!」恥ずかしくなったブローニャは胸元を隠して2人の視界を遮る。「ねぇ……一回だけ…揉ませてくれない…?」「!?何言っ…」「あ…あたしも、ちょっとだけでいいから…。」「…!!お、お前ら…!!」まるでハンターのような目線に、ブローニャは両手で胸を守りながら後ずさった。その後、ギャーギャー暴れながら揉み合いになる(意味深)3人に、デジャが一喝した。「温泉で暴れるな!!温泉ってのはゆっくり静かに入るもんだ!!マナーを守れ!!」
――――気を取り直して、は~~とため息をつきながら、再びゆっくりと湯に浸かる4人。「それにしても勿体ないな。村まで引けば観光地にもなるだろうに。」「確かに!…でも、こうしてゆっくり静かに浸かれるのはいいかもね~…。」「…あぁ、それもそうだな…。」「あ!そういえばこの温泉、やっぱり美容に良いんだって!!さっきおじさんが言ってた!つるつるすべすべになるんだって~~!」「あぁ、だから…。」「確かになんか、さっきから腕とか脚がとぅるとぅるしてんな。」「ね~!こう…旅ばっかりしてるとお肌のケアとかできないから…たまにはこういうのも良いわよね~!」「でもチェリ、よく気にしてるが全然大丈夫だぞ?十分綺麗だ。」そう言ってチェリの頬をつつくブローニャ。「そお?ブローニャも肌綺麗よね!」そういってお返しとばかりにブローニャの顔を両手で挟みこんで撫でるチェリ。「こら!」「あ~~すべすべ美肌~~♡」「デジャも結構肌綺麗だよなー。」「私のことはいいんだよ!」「なぁーに照れてんだよ!」「照れてない!…全く、肌が綺麗とかそんなの一々気にしてられるか。」「あっ!またそんなこと言って~!ほらほら!」「おい!こらっ…触るな!!」「えへへ、あたしも~!」「おい!!」星空の下でひとしきりじゃれあった後、ブローニャが口を開いた。「そういえば、これからの話をしておこう。」その言葉で3人は顔を引き締める。「ディーンとはぐれた後、私たちは徒歩で森の中を歩いて、山奥の村を経由してあの町までやってきた訳だが…。本来通る筈だった道よりも、またいくらか近道できていたことがわかった。勿論、徒歩で進んだ分、遅れてはいるが…まだ追いつける可能性はある。」ブローニャの表情に確信を感じ、チェリは問いかけた。「…何か策があるの?」「あぁ。考えがある。」「また近道?」「まあな。また歩くぞ。」その言葉にチェリが「え"っ!!」とあからさまに嫌そうな反応をしたが、ブローニャは気にせず続ける。「次の目的地は、あの山の向こうにあるエテマ町だ。奴らが最終目的地であるテキン町に辿り着く前に、その手前の町でガラクタを回収したい。」その言葉に、チェリとヘザーに緊張が走る。頭の中で、地図に書いてあったマークが浮かぶ。そして先ほどクラークが、山小屋の窓の外を指して『あの山を越えたところがリテン王国で、そこに君達が目指す町がある。』と言っていたのを思い出した。4人でその方向を見る。「…いつのまにか、もうそんなところまで来てたのね…。」「…最後のチャンスってことか…。」「あぁ。そこで追いつけずに、ガラクタが悪党どもの手に渡れば、その後を追えなくなる可能性が高い。」3人がブローニャに顔を向ける。「今回は必ず、追いつかなければならない。だから皆、―――協力してくれ。」皆、まっすぐとブローニャを見た。もうその目に迷いはなかった。「当たり前だ。」「ここが正念場だな!」「勿論、頑張るわよ!!」一人一人目を合わせると、皆して力強く笑った。
――――温泉に浸かりすぎてのぼせ気味となったブローニャ達は、クラークの山小屋へと戻った。そしてクラークが用意してくれた、客人用だという2人用の狭い布団に、身を寄せ合いながら4人で眠るのだった。―――翌日、クラークに別れの挨拶をした4人は「最短ルートがある」と言われて、坂道を滑り下りるルートを辿って行ったのだった。

荷造りの準備をしていた老人の元へ、人影が現れる。「待っとったぞ。」振り返った老人の後ろには、決意を込めた表情のブローニャたち4人が歩いてきていた。「それじゃあ爺さん、頼んだ。」そして4人は約束通り、馬車に乗り込んだのだった。


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