「迷路に行こうと思うのです!」「は?」次の日の早朝。兵舎で用意してもらった朝食を食べ終え、例の会議室を借りて今後の動きについて話し合おうとしていた時だった。開口一番、ヴィマラが椅子から腰を上げ、机に手をつきながら冒頭の発言をした。「何?遊びに行くの?休憩?」「へ~!あたし巨大迷路ってやつ入ってみたかったんだ!」「違います!…いえ、あながち違くもありませんが!」チェリの言葉をヴィマラが食い気味に否定する。「ここから近くにある『ロメイ遺跡』という遺跡には、古代の遺物が多数収められているという噂があり…その中に欠片が紛れ込んでいる可能性が高いのです。」「!」その言葉にブローニャ達が反応する。「遥か3000年前に創建されたとされるその遺跡は、当時の王が各地から物珍しい物を収集しては保管し、倉庫のように扱っていたという話です。ただ、防犯対策のためか、遺跡に辿り着くまでに困難な道を辿ること、遺跡に到着したとして、中は難解な迷路となっていることから、悪党達も捜索を後回しにしているようです。」「…なるほどな。」「これまで私達も人数を割けなかった都合上、行くのを躊躇していましたが…。ブローニャ達がいる今なら、と思い立った次第です。」そして目をきらりと輝かせ、片手を握りしめながら、意気揚々と告げる。「行きましょう!!」やる気なヴィマラに対し、げんなりしたような他3人。「…なんかお前らテンション違くね?ていうか、ヴィマラのテンションがおかしいのか。」「…お前、今の話ちゃんと聞いたか?」オレリアがローテンションでヘザーに問いかける。「は!?聞いてたよ!」「"困難な道"、"難解な迷路"、これを聞いてテンションが上がると思うか?そもそもなぁ…ここはジャングルの奥地で、足場は悪いわ、迷いやすいわ、距離は遠いわで、観光客だって躊躇するほどの場所なんだぜ?ようやくたどり着いてもさらに厄介な迷路ときちゃあ、気が滅入るってもんだろ。」「ジャングル!?ちょっと面白そう!!」「道は困難な方が燃えるだろ!達成感もあるし!」「よくおわかりですね、チェリ、ヘザー!!」そう言ってヴィマラが2人の手を取る。「この若者共が!!!」そして3人、楽しみといった様子で話に花を咲かせるのを、他のメンツが見守る。「…ずっと行ってみたかったような様子だな。」デジャが問うと、サイとムダルが答えた。「あぁ。でも俺たちが『迷ったら危ないからやめよう』と言い続けて、何とか止めてきたんだ。」「あの子は、『古代の何か』と聞くとああいった状態になってしまってな。遺跡などを見ると、テンション上がるらしい。」「方向性は違うが、チェリとヘザーと一緒だな。」それを聞いたブローニャが問う。「そんなに険しい道なのか?」「まぁ、時間をかければ行けないことはない、って道だな。だが、汚れと疲労は覚悟して行く必要がある。」「そうか…。そのままにしておくのも手だろうが…。いつか悪党達の踏み込む可能性がわずかでもあって、いずれは探しに行かねばならないというのなら、今行くのが得策だろうな。」「ただ、"ハズレの可能性も無くはない"、というのは念頭に置いておいてほしいところだ。」「あぁ、そうか…欠片がない可能性もあるのか。」「ヴィマラの力も感知できる範囲が限られる。近くまで行かないと、本当にガラクタがあるのかはわからない。」「…そうか、確かに…。」ブローニャとデジャがどうすべきか考えあぐねていた時だ。肩肘を突きながらオレリアがぽつりとこぼした。「…でもよ、あんな楽しそうなヴィマラの顔見たら…却下もできねぇなぁ。」「…」ブローニャも、オレリアの目線を追ってヴィマラを見る。チェリとヘザーと話す様は、ただの少女のようだった。「…」その笑顔をじっと見つめるブローニャ。そしてオレリアはあごを乗せていた手を外し、一つため息をついた。「…まぁ、こっちは既に欠片をいくつか手にしてんだ。今持ってる欠片の情報の中で一番有力なのはそれで、他についてはバシリアさんの調査結果を待つしかねぇって状況だ。だったら、その時間を有効活用するしかねぇか。」オレリアの言葉に引っかかるデジャ。「そうだ。悪党達から情報をいくつか盗んでるんだろ。それでも可能性が一番高いのは今回の場所なのか?」「あぁ。…と、私達は思ってる。」「…そうか…。」「悪いが、付き合ってくれるか?」オレリアはブローニャとデジャに判断を委ねた。オレリア達3人は、どうやら既に受け入れているらしかった。「…仕方ないな。」「ははっ!まぁそういう反応にもなるよな!…でも助かるぜ。ありがとな。」「…それは、無事に辿り着いて、迷路を制覇してからいうんだな。」「あぁ、そりゃ確かにそうだ。」そうして全員で、ロメイ遺跡に行くことを合意したのだった。「どんな試練も乗り越えてきた私達なら大丈夫よ!!」そしてバシリアの部下へ、欠片を探しに遺跡に向かうこと、おそらく3日後までには戻ることを伝え、テキン町を出立するのだった。
――――一行は、鬱蒼と生い茂ったジャングルの中を突き進んでいた。「もうやだぁ~~!!歩きたくない~~!!」いつものようにチェリが音を上げている横で、オレリアがへろへろになりながら怒鳴る。「だから言ったんだ…!!私は行きたくないって…!!」「お前、さっきの意気はどこへ…。」それをサイが呆れたように突っ込む。「文句言うんじゃありません、オレリア!」先を行くヴィマラが振り返りつつ、まるで母親のように叱る。「見てみなさい、デジャを!文句ひとつも言わずに淡々と進んでいますよ!」「…文句を言う気力もないだけだ…。」さすがのデジャも疲労が隠せない様子だ。「無理もねぇよなぁ…。休憩しようにも場所がないし…。」ヘザーもあたりを見回すが、座って休めそうな場所は見当たらなかった。足を止めてしまったチェリにムダルが声をかける。「最初は楽しんでたじゃないか、チェリ。」「最初はね!!見たこともない植物とか、動物とかいっぱいいたし!風景も見慣れなくて新鮮だったわよ!でもこれよ!!これ!!このぬかるんだ道!!最悪!!靴も服も汚れちゃった!!」「まず汚れを気にするんだな…。」「そうでしょ!!これもう取れないわよこれ!!」「服なんてどうでもいいだろ…。でもこのぬかるみ、すげぇ体力とられるのは間違いないな。」「こりゃ悪党達も近寄りたくないわけだな…。」「あっ!良いこと思いついた!!これ、あのつるにぶら下がって、振り子の原理で渡ってったらいいんじゃないの!?」「手の皮むけるぞ。」「そもそも掴んで振り落とされないほどの握力なんてないだろ!」「うぅ~~~じゃあせめて一回座りたい~~~!!誰か"武器を巨大化する"とかいう『神の力』ないの~~~!?」「微妙にありそうな能力やめろ。」「というか実際昔にあったみたいだしな。」「!あ、でもそれいいかも。」「へ?」そう言ってヘザーは近くの木の幹に触れ、そこから巨大なこん棒を作り出した。べちゃりと嫌な音を立てながらそれが横たわる。「別にあたしの力、大きさも自在だしさ。」「おぉ!」「こりゃすごい…。」「えっうそ。ちょっと待って!!私ファインプレイじゃない!?」「おーおーさすがだなチェリ。」「天才だなチェリ。」「そうでしょ!?もっと褒めて!!」ブローニャ達4人のやり取りに苦笑いしながら、ヴィマラ達もヘザーから武器を受け取り、各々座った。
――――「…はー…一先ず助かった…。」武器を椅子として使い、一時体を休める面々。皆表情が緩んでいる。先ほどのやり取りを思い出し、はたとヘザーが気づいた。「そういえば、お前らは『神の力』は持ってないのか?」オレリア、サイ、ムダルに問いかけた言葉であった。それにオレリアが答える。「あぁ。結局『神の力』を授かるかどうかなんてのは運だからな。『神の遣い』の民族だからって受け継がれるわけじゃねぇし。ヴィマラのはともかくとして。」「あぁ、そっか。」「しかしヘザー!お前の力すげぇな!!なんでも、どこからでも武器が作れるってことか!?」「おうよ!まぁ材質も質量も、その作り出すものに限定されるけどな。」「それでも十分便利ですね…。」「あぁ。武器なんていくつも持って歩けないからな。特にこんな僻地じゃ。」「あれ?ヘザーの力は知らなかったんだっけ?」「ほら、最初に会った時にチェリとブローニャの力は見たが、ヘザーはそうじゃなかっただろ?」「あぁ、言われて見れば確かにそうだな。」―――そうして『神の力』の話で少し盛り上がった後。話題は、今回の目的地である遺跡へと移った。「…おい、しかし本当にこんなところに遺跡があるのか?なんだか不安になってきたが…。」サイが思わずヴィマラに問いかける。「何言ってるの。遺跡マニアには有名な場所じゃない。」「俺は遺跡マニアじゃないからわからんが…。とはいってもなぁ…大分歩いてきたが、遺跡の"い"の字も見えてこないぞ。」「大丈夫よ。予定ではあと…そうね、2時間くらいあれば着くかしら。」「あと2時間!?マジ!?」「結構歩いたのに!?」「…まぁ、そもそも町からジャングルの入り口までが、まぁまぁあったからな…。」「そもそもこの道しかなかったのか?」「一番安全で、最短のルートがここなのです。」「これで!?」「嘘じゃん…。」「せめて馬に乗れればなぁ…。」「もう歩きたくねぇな…。」はぁ~~~~…と、すっかり意気消沈してしまった面々をじとっと見下ろしながら、ヴィマラが仁王立ちで呟く。「…でも、このままゆっくりしていると、このぬかるみの中を、暗闇で一晩過ごす羽目になりますよ。」そう言った途端、全員がすくっと立ち上がった。「早いところ行こう。」「こんなところじゃ寝られない!!」「もう早く到着して、そこで休もう!!」そして再び歩き出した一行だった。
――――途中で昼休憩を挟みながらも、歩みを止めない一行。ぬかるみに足を取られてよろけたヘザーを咄嗟にサイが助けてくれたり、へとへとになったオレリアの背中をデジャが押してやったり、水分を多く含んだ実を見つけたムダルが皆に共有してくれたりと、8人で協力しながら足を進めていった。日が傾き始めた頃には、全員が体中泥だらけで、へろへろボロボロの状態になっていた。―――そして。「あ……あった……!!」まるでオアシスを見つけたかのように、ヘザーがぷるぷると腕を上げて前方を指さす。そこでは、木や蔦等が生い茂る奥に、巨大遺跡が聳え立っていた。わずかに残った力を振り絞り、一歩一歩踏みしめていく。やがて、遺跡手前に敷かれた石畳みの上に、一番に到着したヘザーが転がり込んだ。「ぶはぁ!!!!」それに続くように、デジャ、ブローニャ、オレリア、サイが転がり込む。「し…死ぬかと思った…!!」「…本当に、困難な道だったな…。」珍しくブローニャやデジャまでもが弱音を吐く。最後尾にいたチェリは、ムダルの腕を借りながらなんとか到達した。「あ、ありがとう、ムダル…!!」「いや、寧ろよく頑張ったぞ、チェリ。…お前はよくやった…!」「うっ…、うっ…!良かったよ~~~!もう駄目かと思ったぁ~~~~!!」泣きついてきたチェリをブローニャが抱きとめる。「…よしよし、偉いぞチェリ。ヘザーも。」「あ…あたし、マジで頑張った…!!」「あぁ、頑張ったな…。」デジャも珍しく褒めた。「それに、皆も無事でよかった…!!」「お前らすげぇよ…!!全員優勝だ!!」座り込んだり仰向けに寝転がり、息を整えながら少しおかしなテンションになっていた面々は、互いの健闘を称え合い、オレリアの言葉に笑った。その中で1人、ヴィマラだけが遺跡の方へ意識を集中していた。そしてはっと何かに気づくと、呟く。「…感じます。」「!!」ヴィマラの言葉に、全員が反応した。「何…?」「えっ…、まさか、本当にあるの!?欠片!!」「距離が遠いので微かではありますが…遺跡の奥の方に感じますね。」ヴィマラの視線の先を皆追う。遺跡は複数階層になっており、奥行きもなかなかありそうだ。確かにこれは探索するのに骨が折れるな、と皆が思っていた時だった。「行きましょう。」ヴィマラのまさかの発言に、全員の血の気が引く。「えっ待って。噓でしょ!?」「は!?おいおい、ありえねぇだろ!!お前体力おばけかよ!?」動揺するチェリとヘザーに、顔を青ざめさせるブローニャとデジャ。ムダル、オレリア、サイも思わず焦ったように制止する。「おい…待て。今日は取り敢えずここで野宿して、迷路の捜索は明日からにしないか…?」「無理だって、無理!!ここまでどんだけ歩いてきたと思ってんだよ!?この中も結構広いんだろ!?」「お前流石にそれは…。」「ですが…万が一悪党達に先を越されては…。」「大丈夫だって!!あんな道悪党どもは来れねぇよ!!」「他に人が来ないか俺が見張ってる!!だから安心しろ!!」ヴィマラを取り囲みながら、3人がどうにかして説得しようとする。「めちゃくちゃ焦ってる…。」「そりゃそうだろ…。私だって勘弁してほしいぞ…。」そしてサイが決めの一手を放つ。「そもそもこんな状態で中に入ったら、途中で体力が尽きる奴が出てきたもおかしくねぇぞ!!探索どころじゃなくなる!!どうやって助け合うんだ!?」「!」その言葉を聞いて、ヴィマラがあごに手を当てて考え始めた。「…ご尤もです。皆さんを危険にさらすわけにはいきません。今日の探索はやめましょう。明日、早朝から調査を始めることにします。」その言葉に、全員がほっと安堵するのだった。
――――「これ、さっき見つけたんだが…。」持ち込んだ夕飯にありついていると、サイがにやりとしながら、直径30cmほどの大きな丸い実を片手に乗せて掲げた。それを見たムダルが飛びつく。「お前…ッ、それルインの実じゃねぇか!!」「ルインの実?」皆の視線が集まる。「あぁそうか。ワヘイにはないのか。こいつはな、通称"酒の実"だ。」「!!」酒好きなブローニャとデジャが反応する。「内側の空洞に水分が溜まるんだがな、発酵するとそれが酒になる。見たところ、良い感じの状態になってるぜ。」「すげぇ稀少なんだぜ。しかもめっちゃ旨いんだ。果実部分もじゅくじゅくして甘くて旨いしな!」サイとオレリアの言葉に、ブローニャとデジャがごくりとつばを飲み込む。「…だ、だが、明日も迷路攻略という大事な任務があるし、立地的にも危険が憑き物だろう…。酒など飲んで、万が一にでも潰れてしまっては…。」「うっわ、ほんとだ!すげぇいい感じに発酵してんじゃん!」「!?」ムダルが試しに実を半分に切ってみたらしい。オレリアの興奮の声とともに、芳醇な香りがあたりに広がる。「うわ~~~すごいいい匂い!」「…確かにこれは…、そそられるな…。」「な、な!ブローニャ!ちょっとだけ!ちょっとだけなら良いだろ!」「だ、だがな…!こんなジャングルの奥地で、しかも遺跡で…!!」意固地になっているブローニャを、チェリとヘザーが両側から挟み込み、半分に切った実を近づけていく。「ほらほら~~~良い匂い~~~♡ブローニャも飲みたくなってきた~~~♡」「ん~~~!こんな香りしてるってことは、さぞ旨いんだろうな~~~♡」「くっ…!お前ら卑怯だぞ…!!」誘惑がブローニャを責める。ぐいぐいと二人が実をブローニャの頬に近づけていく。「わ…私は…屈しないぞ…!!」
――――「今宵は宴だ!!」ブローニャの宣言に、皆、わーーーーー!!と実を掲げて盛り上がる。その後、乾杯とでも言うように実をぶつけ合い、果汁をあおった。「ぷはーーーーーっ!!!うっわ、最高だな!!」「うっっま!!マジで旨い!!!めっちゃフルーティ!」「だろ!?私これ、好きな酒ベスト3に入るくらい気に入ってんだよ!まさかここで出会えるとはな~~!」「うん…、確かに旨い…!!これは出会いに感謝だな…。」味の感想を言い合いながら盛り上がる一行。「ヴィマラが飲むのって意外だな~。」チェリが隣に座るヴィマラに話しかける。「いつもは飲まないんですけどね。…たまにはこういうのも良いかと思って。」この騒がしさに、どこか心地よさを感じている様子を見せるヴィマラに、チェリも微笑む。暫く騒がしく飲んだ後、ようやく落ち着いて酒を味わう一行。「…こんな旨い酒が飲めるなんて、ここまで頑張って来た甲斐があるってもんだな。」「あぁ。皆で苦難を乗り越えた後の美酒は旨いな…。」「こういう時に呑む酒が一番なんだよな~。」顔を赤くしながら、サイとムダル、オレリアが呟く。「えぇ。お酒を飲んでいて…こんなに楽しい気分になったのは久々です。」「!」気分がよさそうに、ほろ酔いで微睡むヴィマラを、ブローニャが少し離れた場所から横目で見る。「それもこれも…ブローニャ達のおかげですね。」「!」「…特にチェリ、あなたには感謝しています。」「え?私?」チェリの問いかけに、ヴィマラは目を細めながら微笑む。「あなたがあの場でブローニャを引き留めてくれなければ…。こうして私達が…4人と共に行動することも…、バシリアと繋がり…協力を仰ぐことも…できなかったでしょう。――…私は正直…ブローニャの気持ちもわかりますから…、仕方ないとも思ってたんです…。…それでも、あの場であなたはああして言ってくれた…。…何より…あなたのあの言葉が…私は嬉しかった…。」「…!」「…ありがとう…チェリ。」そう言ってヴィマラはふにゃりと笑った。「…ヴィマラ…。」そしてヴィマラの体が左右に揺れ出した。「えっ!?大丈夫!?」チェリが心配そうにしていると、倒れそうなヴィマラの肩をオレリアが受け止めた。「こいつ酔いが回るのが早いんだよ。」オレリアも顔を赤くしながら笑う。「…今のは、こいつの本心だと思うぜ。…素直に受け取ってやってくれ。」オレリアの言葉に、チェリもにっと笑った。「…勿論!」それから暫くすると、酒が進んだ酔っ払いたちのテンションがおかしくなっていった。「あっはははは!!それでさぁ!サイの奴が!!」「あははっ!!ほんとかよそれ!?」「おい、チェリ!一発芸やれよ!」「え~~~~!?内輪ネタだもん!どうせわかんなわよ~~~!!」「なんだなんだ!やってみろ!!」「え~~~!?じゃあ…」「あはははは!!なんだそれ!!!」酔っ払いたちの声がジャングルに木霊する中、夜は更けていくのだった。
――――「ブローニャ!ほら、ちゃんと寝袋入って寝ないと体痛めるわよ!?」「ん~…、もう動けない…。動きたくない…。」「全くもう…、だから飲み過ぎるなって言ったのに!」「自分が真っ先に潰れてんじゃねぇか…。こうなりゃもう駄目だな。ほらチェリ、手伝えよ。」「デジャも爆睡してるし…。"酒は飲んでも飲まれるな"!!よ!!!」そう叫ぶチェリと呆れるヘザーの傍らで、寝袋で熟睡するヴィマラを除き、いい歳した大人達は石畳みの上に突っ伏しているのだった。
翌朝。「頭が…っ…!!」「う"っ…。…少し、羽目を外し過ぎたようだな…。」「…しまった、酒を飲んでからのことを覚えてない…!!」「まだ酒臭い…。」「皆さん、いくらタダだからって飲み過ぎですよ。」それなりに吞んでいた筈のヴィマラがすん、とすました顔をしている。「こいつ…。」そんなヴィマラにチェリとヘザーが続く。「そうよ!!私達がどれだけ大変だったか!!」「迷惑料払ってほしいくらいだな!!」私達が皆を介護したのだと、胸を張って主張する。それに対し、言い訳のしようもなく反省する大人達とデジャ。「…面目ない…。」「そんなことしてると置いて行きますよ!」「待て待てヴィマラ!もうちょっとだけ待ってくれ!」
――――そして暫く休憩した後。「よし!」と気合を入れると、皆で遺跡の入り口に立った。「…それでは、本当に行きますよ。」「あぁ。」「危険と判断したらすぐに引き返してください。」「わかった。」そしてようやく、全員で足を踏み入れるのだった。
――――ジャングルで拾った木の実を、一定の間隔で落としながら進んでいく一行。道なりに進み、分かれ道があれば1人ずつ抜けて、手あたり次第に探索していく。1人、また1人と減っていき、ついにはヴィマラが1人となった。だが、それでもまだまだ道は続いている。分かれ道も多数現れ、途方に暮れるヴィマラ。「…本当に大きいですね…。」―――別の場所では、ヘザーが壁の前で佇んでいた。「うっわ、行き止まりかよ…。」―――また別の場所では、別れた筈のチェリとデジャが再会していた。「あれ?ここ繋がってたんだ。」「そうみたいだな…。」―――またまた別の場所では、ムダルが途方に暮れていた。「…ここ、さっきも通った気がするな…。」―――苛立ち始めるオレリア。「クッソ…!!似たような景色ばっか続きやがって!宝はどこだ!?」―――混乱するサイ。「こ…、ここに入ってどのくらい経つんだ……!?」―――立ち尽くすチェリ。「この迷路、マジでやばくない…!?」難解で巨大な迷路に、次第に引きずり込まれていく一行だった。
――――仲間達が混乱の渦に呑まれる中、ヴィマラがふとあることに気づく。「(…?)」感知する『神の力』の数が、いつの間にか一つ増えていた。「(どういうこと…?…――まさか…!)」自分たち以外の『神の力』を持つ攻略者がいるということか―――その結論に至った途端に焦り出すヴィマラ。「(もし悪党側の人間だったら…!)」宝が奪われるだけではなく、仲間達の身に危険が及ぶ可能性がある。だが、皆バラバラになった今の状況では、合流することも、この情報を共有することも難しい。「(…作戦を間違えたかしら…。)」まさか、こんな僻地で同時期に他の人間と出くわすなんて…。考えていなかった訳ではないが、高をくくっていたのは事実だ。「(…とにかく、今は己の過ちを悔やむより、これからどうすべきかを考えないと…!)」一先ず仲間の誰かと合流せねば、と来た道を引き返そうとした時だった。事態は進展する。「!!」欠片と思われる、これまで不動だった『神の力』の気配が、移動をし始めたのだ。「なっ…!!」ヴィマラは慌てて気配のする方を見る。だが、そこには壁が行く手を阻むばかりで、その先を見通すことは叶わなかった。
――――「うーん…。」ブローニャは迷路の中で道に迷っていた。腕を組みながら歩みを進める。「しまった…。もうどこから来たかもわからなくなってしまった…。」手元にはもう、木の実は残っていない。最初の方に落とし過ぎたなと反省する。先ほどからずっと景色が変わらないように見える。同じところをぐるぐると回っているような気がしてきた。頭がおかしくなりそうだった。「そもそも私は本当に起きているのか…?今も酔っぱらったまま夢を見ているんじゃないか…?」自分の発する声や音以外何も聞こえず、壁と床ばかりの閉じた空間の中、そんなことすらもわからなくなりつつあった。脳みそが思考停止しそうになりながら、曲がり角を左に進んだところだった。誰かと肩がぶつかった。「む。すまない。」「悪いな。」そう言って通り過ぎようとした時だ。「ん?」先日のエテマ町でのように、つい町ですれ違った時のような対応をしてしまった。だが、思い直せば、こんな場所に仲間以外の人間がいる筈がない。そう考えたブローニャは、瞬時に正気を取り戻して振り返った。見ると、相手も同じことを思ったようで、きょとんとした顔でブローニャの方へと振り返っていた。黒い髪に眼帯をつけた長身の女は、右手に手記らしきものを持っていた。そして、その左手には―――「!!!」ブローニャはそれを見た途端、わなわなと震えた手でその代物を指差した。「え?」呆けた女が左手に持っていたそれは―――…紛れもなく"欠片"だった。女はブローニャの指と、それが差す、自分が手に持つ物体を交互に見る。そして、ブローニャと目を合わせ、固まった。「…」「…」暫し時が止まった後。女はへらっと愛想笑いをすると―――突如、その場から逃げ出した。「!?おいっ!!待て!!!」女の思わぬ行動に一手遅れながら、ブローニャは慌ててその後を追いかける。走りながら女は顔だけ振り返り、ブローニャに向かって叫んだ。「誰が待つかよ!!お前もこれ狙ってるってことか!?」「そうだ!!それを探してここまで来た!!だからそれを寄越せ!!」「はあッ!?"だから"ってなんだよ、意味わかんねぇ!!渡すわけねぇだろ!!俺が先に見つけたんだから!!」「お前…!悪党組織の一味か!?」「あぁ!?なんでそうなるんだよ!!なんの関わりもねぇぞ!!そもそも俺は個人主義者だ!!」「…!!」女の問答にどこか違和感を覚えるブローニャ。だが、まずは欠片を取り返すのが先決だった。「おい!!誰かいないか!!女だ!!眼帯の女が欠片を持って逃げている!!」「!?お前仲間いんのかよッ!!!卑怯だぞ!!」「はっ!こっちはなりふり構ってられないもんでな!!痛い目に遭いたくなければ、おとなしくそれを寄越せ!!」「どっちが悪党だって―――うおわッ!!?」ブローニャお得意のナイフ投げを、女はスレスレで避けた。ナイフは女の前方―――突き当たりの壁に当たって、キン、という高い音を立てて落ちた。それを見て顔を青ざめさせる女。「あっ…ぶねーーーー!!!お前ふざけんなよ!?当たったらどうすんだ!?」「チッ…!!」「舌打ち!?綺麗な顔してこの女…ッ!!」逃走劇を繰り広げている内に、女の進行方向の先にヘザーが現れた。「おっ!!ブロー―――…にゃ?」再会を喜ぶ暇もなく、目の前の騒動に否応なしに巻き込まれる。「ヘザー!!そいつ捕まえろッ!!」「は…?誰だよこいつ!!」女は一瞬、ヘザーの顔に既視感を覚えるが、それどころではないと言葉を返す。「こっちの台詞だよ…ッ!!」女は横道を見つけると、それを曲がって行った。その後を、ブローニャとヘザーが合流しながら追う。「なんだよ!?なんであの女追っかけてんだ!?」「あいつが欠片を持ってるのを見たんだ!!」「…!おいおいマジか!!本当にあったんだな!?…ってことはあいつ…!」「いや、奴の言葉を信用するなら、悪党の仲間ではないらしい。」「は?じゃああいつ何なんだよ?」「多分、ただのフリーランスの盗人だ。」「フリーランス…。」会話しながらもしつこく追いかけてくる2人の様子を見て、眼帯の女は「クソッ…!!」と悪態をつく。2対1ではどう考えてもこちらが不利だ。戦闘を避けるべく、どう撒こうかと悩んでいた時だった。「!」目の前に、蔦のカーテンがぶら下がっているのが見えた。それを見た瞬間、眼帯の女は剣を取り出す。「!!」ブローニャとヘザーも、走りながらそれぞれの武器に手をかけた。眼帯の女は剣を手にしたまま、垂れ下がった蔦をかき分け、通り過ぎた。その直後、急停止しながら体を反転すると、蔦のカーテンに向かって剣を振るった。その瞬間だった。「!?」蔦が、周囲の草が、炎で一気に燃え上がった。「わわわっ!!」炎のカーテンに慌てて足を止める2人。「どういうことだよ…!?」「…!!」目の前で轟々と燃え上がる炎を見ながら、2人は呆然と立ち尽くしていた。
――――「へへ、よしッ…!!」燃え上がるカーテンの向こうから2人が追ってこないことを確認すると、眼帯の女はそのまままっすぐと走っていく。やがて女は開けた場所に出た。「このまま逃げ切れりゃ…!!ええと、こっからどこ行くんだったかな…。」女が手元の手記を開いた時だった。「おっ!!ほんとにいた!!」「!?」女の目の前にオレリアが現れた。女は咄嗟に足を止める。「ただの私の幻聴かと思ったが…ビンゴだったみたいだな!」先ほどのブローニャの声を、迷路で疲弊して聞こえたただの幻聴かと思っていたオレリアは、女を実際に目の当たりにして心底安心していた。事実ならば、とオレリアは、警戒する女に向かっていきなり剣を切りつける。「うおわッ!?」女は、反射的にその攻撃を自分の剣で受け止めた。「へえーっ!良い反応じゃねぇか。」「なっ…なんなんだよ、お前ら…!?」「遺跡から盗み出したもん渡してくれたら教えてやるよ。」「!―――…誰がやるかよ…ッ!!」そうして女は剣を弾き飛ばすが、オレリアは再び素早い動きで迫ってくる。二度、三度と剣を交えてから、女はオレリアから距離を取った。そして隙を見つけると、持ち前の身体能力を活かし、遺跡の壁や石の出っ張りを利用して飛び上がった。吹き抜けとなった2階部分へと着地すると、オレリアに構う余裕も無く、そのまま逃げ出していった。それを見届けたオレリアは、女が通った先を見つめながら苦笑いを浮かべた。「…おいおい、マジでやるじゃん。」
――――「くっそ~~~~!!人居すぎだろ…!!どうなってんだ!?過疎遺跡なんじゃなかったのかよ!?」すっかりルートを乱されてしまった女は焦っていた。最短ルートも、オレリアに邪魔をされて通れなくなってしまった。「あれ!?人だ!!」「!?」走る女の前方に、今度はチェリが現れた。「おいおいおいおい!!まだいんのかよ…!!」「…!?」眼帯の見知らぬ女が、必死の形相でこちらに向かって走ってくる。何も知らないチェリは、訳もわからず慌ててナイフを構えた。「なになに!?もしかして悪党の仲間!?どういうこと!?」「クソっ…!!こいつもやる気か…!―――!!」その時女は、前方に横道があることに気づいた。だがそれは、チェリのすぐ目の前の位置にある。「(こいつは弱そうだからすぐやれそうだが…さすがに可哀想な気がするな…。)」女は背中の弓矢を取り出し、道に垂れ下がる蔦をぶちりと千切って矢に巻きつけた。「…?」チェリが訝しげにそれを見ていると、眼帯の女がふいに足を止める。そして弓を構え、チェリに向かって矢を放った。「わわっ!!」チェリが身を縮めて怯えるが、矢はチェリにまっすぐ飛ぶことなく、下方へ向かって落ちていく。しかし、落ちる最中にその矢は炎を纏い、燃え上がった。「ひえっ!?」矢がチェリの目の前へ落ちると、その火が石畳の草や蔦へ燃え移った。「あちちっ!」チェリは慌てて後方へ逃げる。「へへっ、悪いな!」そう言って女は横道に向かって走り去っていった。チェリはぽかんとしながら、その様子をただ見守ることしか出来なかった。「な…ッ、なんなの…!?」
――――「えーーー…と?ここがどうで…アレ…?…ッあーーーーークソッ!!あいつらのせいでもうごちゃごちゃだ!!」道に迷い、スタミナも切れ始めていた女は、歩きながら1人ごちていた。「クソッ…!!このあたりか!?―――!!」そうして一先ず道を進めていると、今度は女の前にデジャが現れる。ポケットに手を突っ込みながら、道を塞ぐようにして佇んでいる。「…」「…おいおい、マジかよ…。」女は冷や汗をかきながら笑うしかなかった。まさかあれだけの人数がいて、まだ他にも仲間がいるとは思わなかった。「…ッ!!」先の横道めがけて、再び走り出す女。「(今まで闇雲に逃げ回ってたが、今度は違ぇ!!この横道を行けば出口につながる筈だ…!!ともかくこいつより先に――――)」そう思って走っていた矢先。突然、女の目の前に、壁から生えるようにして剣身が飛び出してきた。「うわッ!!?」慌ててのけぞり、急停止する女。女は間一髪手前で停止し、ぶつからずに済んだ。目の前に伸びる剣は、まるで壁と一体になっているかのように突き出している。「(なんだ…!?何かの罠――――…)!!」剣に気を取られている内に、デジャが目前に迫っており、攻撃を仕掛けてきていた。「ッのやろ…!!」女は慌ててそれを避け、後方に距離を取る。「見つけたぜ…!!」「!!」女が振り返ると、背後には息を切らしたヘザーが辿り着いていた。「…!!」両側から挟まれ、逃げ場が無くなる。「…やるしかねぇか…!」覚悟を決めて、女が剣を取り出した時だった。「ん?」縄が括り付けられたナイフが、宙を浮いたまま女の背後から現れ、その右側を通り過ぎた。「…あ?」やがてそれは女の前方で旋回し、今度は左側へと回っていく。「んんん?」女が状況をつかめないでいる間に、ナイフはぐるぐると女の周りをまわっていく。「は?―――…はあッ!?」気づくと女の体には縄が巻きつけられていた。「うわッ!!」バランスを崩した女はその場に倒れこむ。「…ッてぇ~~~~!!」そこに近づいていくデジャ、ヘザー、チェリ。「や…やっと捕まえた…!!」「ご苦労だったな。」「ほんとだぜ…!!こいつ足早いのなんのって…!!」3人が女を取り囲んだ時だ。「…うまくいったようで良かった。」曲がり角からブローニャが現れた。「!お前…!」ブローニャの顔を見て、眉間に皺を寄せる女。「…さて、話を聞かせてもらおうか。」「…!」女は、自分を見下ろすブローニャを恨めしそうに睨みつけるのだった。
――――「クッソ〜〜〜〜!!」遺跡の入り口で、眼帯の女は縄で縛られて座らされていた。そこには、ヴィマラ、オレリアと、ブローニャ達4人が集結していた。「サイとムダルは?」チェリの問いに、ヴィマラが困ったような顔で答えた。「…サイがまだ、中で迷っています…。」その時、迷路の方からムダルの叫ぶ声が聞こえた。「サイーーーーー!!ここだぁーーーーー!!」皆それを一瞥した後、目の前の女に視線を戻した。ブローニャが話を切り出す。「お前、名は?」ブローニャからの問いかけに、女は諦めたようにため息をつくと、その口を開いた。「…ジタだ。」「ジタ、か。もう一度聞こう。お前は本当に悪党組織と関わりがないんだな?」「だから最初に言っただろ!俺は個人で動いてるし、あんな奴らに協力なんかしねぇ。それがなんなんだよ!」「じゃあなんでこれを探しに来た。」そう言ってブローニャは、女が持ち去った欠片を手に掲げた。「なんでって…。…俺はただ、この遺跡にあるっつーその"宝"が、"金"になるんじゃないかと思っただけだ。」その言葉に、ヴィマラ、ブローニャ達は顔を見合わせる。「…なんだ。ただの金目当てか。」「泥棒じゃん!!」「どろッ…!―――…ぐっ…なんも言い返せねぇがよ…!」"盗み"であることの自覚はあるのか、チェリの言葉が刺さった女はうなだれる。その様子を見ながら、ブローニャが更に質問をする。「…お前は、これがなんなのか知ってるのか?」「…だから宝だろ?昔の富豪が趣味で集めてたもんだって言うし、何かしらの価値があるもんなんじゃねぇの?…っつーかお前らこそ、こんなところまでわざわざこれを探しに来て…。そこまでコレに拘るってことは、なんか知ってるのかよ。」「…」ジタの答えに皆が再び顔を見合わせる。「どうするの?」「どうするって、ただの金目当ての盗人に説明する必要なんかねぇだろ。」「まぁ、それもそうだな。」「おい、丸聞こえだぞ!説明しろよ!」「ちなみに欠片は本物なのか?」「えぇ、間違いなく。『神の力』が宿っていますので。」「すごい!!当たりじゃん!!」「ラッキーだったな!来て正解だったってことじゃねぇか!!」「苦労してあの悪路を辿ってきた甲斐があったってわけだな…!」「こりゃまた宴をしなきゃか?」デジャの冗談に皆がどっと笑う。それを見たジタが痺れを切らして怒鳴った。「おい!『神の力』が宿ってるってなんだよ!俺にも説明しろって!!おい!!」ジタの怒声を聞いて、ブローニャがふと思い出す。「なぁヴィマラ、『神の力』と言えば、こいつもしかしてなんだが…。」ブローニャの意図を察したヴィマラは首を縦に振った。「えぇ。『神の力』を持っていますね。」そのヴィマラの言葉に、ジタは目を丸くする。迷路の中でジタはヴィマラとは遭遇していない。にも拘らず、確信を持って答えるその様子に疑問が湧く。「は…?なんで…。…つーか!そう言うお前らも持ってんだろうが!『神の力』!」「そうだよな。こいつが振った剣から炎が出てたし…。」「じゃあ武器から炎を出す能力ってことか?」「う~~ん?でもこの人、矢を撃つ時に蔦をぐるぐる巻きにしてたわよ。ただ炎が出るだけなら、あえてそんなことする必要ないんじゃない?と思うんだけど…。」「じゃあ武器を高温にする能力ってことか。だから耐火力がない蔦なんかの植物が燃える。」「おいやめろ!!人の力を分析するんじゃねぇ!…合ってるけど!!」「正直者だな。」「そういう性分なもんで。」ブローニャは更に、迷路でのジタの行動を思い出した。「…そうだ。そう言えばお前、どうやってあんな厄介な迷路を攻略できたんだ?」「そういえば手記みたいなものを見ながら歩いていたな。」「はっ?ええと…、」ジタはあからさまに顔をそらす。それを見て、全員でジタのカバンやポケットをごそごそと探り始めた。「あっ!!おい!!てめぇら勝手に…!!」「…これか。」ジタのポケットから出てきたのは、先ほど彼女が手にしていた"手記”だった。「どれどれ…。」探し当てたオレリアが、そのページをぺらぺらと捲っていく。「おい!」ジタが制止の声をかけるが、構わず読み進めていく。やがて、その瞼は驚愕したように開かれていった。「!これは…!」「!どうした?」オレリアの様子に、ブローニャが思わず声をかける。オレリアは手記から顔を上げると、皆の目を見ながら答えた。「…ここに、この遺跡の地図が描かれてる。宝までの道筋もな。そしてそれ以外にも――――…『"欠片のありか"に関する情報』が、いくつか書かれてる。」「…!!」その言葉に、皆も目を見開いた。「…チッ…。あぁ、そうだよ。」見られてしまっては仕方ない、とばかりにおとなしくなるジタ。ため息をついて足を組みなおすと、素直に説明を始めた。「その手記は知り合いの古物商に貰ったんだ。…どうやら数百年前に、どっかの歴史研究家が、それと似た構造を持つ古物がいくつもあることに気づいたらしくてな。興味を持ったそいつが、その古物を探して各地を巡った記録みたいだぜ。…"歴史研究家"がそこまでして欲しがってるもんなら、よっぽど価値のある物なんだろうと思ってよ、見つけて集めたら、売りさばいてやろうと思って探してた、ってわけだ。」「…ちなみに、これまでに他の"欠片"を見つけたことは?」「そこに書かれた場所の内、1か所だけ"湖の畔の村"ってところに行ってみたが…何もなかった。数百年前の手記だしな。他の奴が掘り起こしたりで無くなっててもおかしくはねぇ。そもそもそれを貰ったのが、たった1か月前のことでよ。他の場所はまだ行けてないんだ。」そう言うジタの目を、ブローニャがじっと見つめる。意図を察したジタが咄嗟に抗議した。「なんだよ!!嘘なんかついてねぇぞ!!」「そうか。」「え~~~こんなのがあったなんてずるい!」「ずるかねぇよ!!俺の働きの正当報酬!!つーかそれ、俺の本なんだから返せよ!!」「…」手記を読み込んだヴィマラが、何かを決断した表情でジタの方を向く。「…この欠片は、『神の力』の逸話に登場する品なのです。」「おい…。」オレリアが静止の声をかける。ヴィマラはオレリアに振り返りながら答えた。「…この本は有益です。実際にこの遺跡には欠片があったのですから。持ち主である彼女に協力を仰がなければ、活用はできません。」「真面目かよ…。」折れたオレリアを見て、ヴィマラは再びジタに向き直った。「この欠片の正体についてお話しましょう。」――――「一々大変ね。」「…私も、まさかたった数日で同じ説明を何度もすることになるとは思いませんでした。」「…」ヴィマラの説明を聞いて、何やら考え込むように地面を見つめるジタ。ブローニャはそんなジタの反応を窺っていた。暫くして、ジタがぽつりと呟く。「…俺の村に伝わってた話なんだが…、」皆の視線がジタに集まる。「俺達の遥か昔の祖先が、『神の力』を悪用して痛い目を見た、とかなんとかで…。それを教訓にした子孫たちが代々言い伝えてきた言付けがあってよ。ガキの頃から、"『神の力』を悪いことに使うと、災いが起こる"って口酸っぱく言われてたんだ。」そして欠片を見るジタ。「俺は正直、神がどうとかは知らねえが、この"欠片"とやらにも『神の力』が宿ってるって言うんなら…似たような何かがあるのかもしれねえな。」「…!」ヴィマラの話をすんなりと受け入れたジタに、ブローニャは目を丸くする。「でも盗みに使ってるじゃん。」「そっ…れはよ…!」チェリからの指摘に口ごもるジタ。「…でも、」それを見て、ブローニャが口を開く。「…こいつは、私達の誰かを傷つけてでも逃げようとすれば、それが出来たはずだ。だが、それをしなかった。」「!」「…まぁ、確かに。」ヘザーもチェリも、先ほどのことを思い出していた。炎を直接ぶつければ燃え上がっただろうに。矢で直接射貫けば良かったろうに。「…」ジタとブローニャの視線が交差する。皆の反応を見たヴィマラが、再び口を開いた。「ジタ、この本をお借りすることはできませんか。」「!」ヴィマラの提案に皆の視線が集まる。「今お話したように、私達には"欠片"が必要なのです。この本にはその手掛かりがある。…欠片を見つけた暁には、あなたには相応の報酬を差し上げましょう。ですから、この本をお貸しいただけませんか。」「…」「私達の民族が代々保管している倉庫に、古銭や古い美術品などがあります。それをお渡しするということでいかがでしょうか。それなりに歴史的価値はあると思います。」文句を言いそうなオレリアも何も言わない。それだけ、この本には価値があるということなのだろう。ジタは再び考え込むように視線を落とした。自ら探しに行くよりも、報酬とやらを貰った方が手っ取り早いに決まっている。"金目当て"であるジタにとっては、願ってもない提案の筈だ。「…わかった。」「!では、」「本は貸してやる。でも、俺も同行する。」「!?」皆が驚いたような反応をする。「お前らの話を全部信用したわけじゃねえ。まだその"欠片"とやらに、金銭的価値が無いとも言えねえだろ?もしかしたらその"報酬"なんかより、よっぽど値が張るかもしれねぇじゃねぇか!!なんたって世界各地に散らばってる稀少なもんなんだろ?全部集めりゃ、富豪にもなれるかもしれねぇ!!」熱を上げて主張するジタを見て、皆呆れたような顔をする。「…どうする?」「…まぁ、余計なことしなけりゃいいんじゃないか。」「本は貸してくれるって言ってるしな。」「こいつそれなりに戦力になりそうだぜ。連れてって損はねえんじゃねぇか?」「…」6人でひそひそと話して合意をすると、ヴィマラがジタの方へと一歩踏み出した。「…わかりました。では、同行をお願いします。」「よし!」そしてオレリアがジタの縄を外してやる。「ふ~~やっと自由になったぜ。」そう言ってジタは、肩をぐるぐる回したりとストレッチをする。「変なことするなよ。」「…しねぇよ!どう考えても俺の方が不利だろ!」そうして先ほどよりもどこか和やかな空気で会話を交わしていた時だった。「さて…。まずはこの手記でサイを探し出しましょうか。」ヴィマラの一言で、皆がハッと思い出す。「そ、そうだった!」「サイ!!今行くぞ!!」そしてまずは、サイを探し出すことから始めるのだった。