【14話】欠片探し① 迷路探索と出会い


「迷路に行こうと思うのです!」「は?」次の日の早朝。兵舎で用意してもらった朝食を食べ終え、例の会議室を借りて今後の動きについて話し合おうとしていた時だった。開口一番、ヴィマラが椅子から腰を上げ、机に手をつきながら冒頭の発言をした。「何?遊びに行くの?休憩?」「へ~!あたし巨大迷路ってやつ入ってみたかったんだ!」「違います!…いえ、あながち違くもありませんが!」チェリの言葉をヴィマラが食い気味に否定する。「ここから近くにある『ロメイ遺跡』という遺跡には、古代の遺物が数多収められているという噂があるのですが…そこに欠片が紛れ込んでいる可能性が高いのです。」「!」その言葉にブローニャ達が反応する。「遥か3000年前に創建されたとされるその遺跡は、当時の王が各地から物珍しい物を収集しては保管し、倉庫のように扱っていたという話です。ただ、防犯対策のためか、遺跡に辿り着くまでに困難な道を通ること、遺跡に到着したとして、中は難解な迷路となっている、という状況で、悪党達も捜索を後回しにしているようです。」「…なるほどな。」「これまで私達も人数を割けなかった関係上、行くのを躊躇していましたが…ブローニャ達がいる今なら、と思い立った次第です。」そして目をきらりと輝かせて片手の手のひらを握りながら軽く掲げ、意気揚々と告げる。「行きましょう!!」やる気なヴィマラに対し、げんなりしたような他3人。「…なんかお前らテンション違くね?ていうか、ヴィマラのテンションがおかしいのか。」「…お前、今の話ちゃんと聞いたか?」オレリアがローテンションでヘザーに問いかける。「は!?聞いてたよ!」「“困難な道”、“難解な迷路”、これを聞いてテンションが上がると思うのか?そもそもなぁ、ここはジャングルの奥地で、足場は悪いわ、迷いやすいわ、距離は長いわで、観光客だって躊躇するほどの場所なんだぜ?ようやくたどり着いてもさらに厄介な迷路ときちゃあ、気が滅入るってもんだろ。」「ジャングル!?面白そうじゃん!」「道は困難な方が燃えるだろ!達成感もあるし!」「よくおわかりですね、チェリ、ヘザー!!」そう言ってヴィマラが二人の手を取る。「この若者共が!!!」そして3人楽しみといった風に話に花を咲かせる様子を、他のメンツが見守る。「…ずっと行ってみたかったような様子だな。」デジャが問うとサイとムダルが答えた。「あぁ。でも俺たちが『迷ったら危ないからやめよう』と言い続けて、何とか止めてきたんだ。」「あの子は、『古代の何か』と聞くとああいった状態になってしまってな。遺跡などを見ると、テンション上がるらしい。」「方向性は違うが、チェリとヘザーと一緒だな。」それを聞いたブローニャが問う。「そんなに険しい道なのか?」「まぁ、時間をかければ行けないことはない、という道だな。だが、汚れと疲労は覚悟して行く必要がある。」「そうか…。そのままにしておくということも手だろうが、いつかは悪党達が踏み込む可能性があって、いずれ探しに行かねばならないというのなら、今行くのが得策だろうな。」「ただ、大前提として、“ハズレの可能性も無くはない”、というのは念頭に置いておいてほしいところだ。」「あぁ、そうか…欠片がない可能性もあるのか。」「ヴィマラの力も感知できる範囲が限られる。近くまで行かないと、本当にガラクタがあるのかはわからない。」「…そうか、確かに…。」ブローニャとデジャがどうすべきか考えあぐねていた時だ。肩肘を突きながらオレリアがぽつりとこぼした。「…でもよ、あんな楽しそうなヴィマラの顔見たら…却下もできねぇなぁ。」「…」ブローニャも、オレリアの目線を追ってヴィマラを見る。チェリとヘザーと話す様は、ただの少女のようだった。「…」その笑顔をじっと見つめるブローニャ。そしてオレリアはあごを乗せていた手を外し、一つため息をついた。「…まぁ、こっちは既に欠片をいくつか手にしてんだ。今持ってる欠片のありかの情報の中で、一番有力なのはそれで――――…他については、バシリアさんの調査結果を待つしかないって状況なら、その時間を有効活用するしかねぇか。」オレリアの言葉に引っかかるデジャ。「そうだ。悪党達からいくつか情報を盗んでるんだろ。それでも、可能性が一番高いのは今回の場所だと?」「あぁ。…と、私達は思ってる。」「…そうか…。」「悪いが、付き合ってくれるか?」オレリアはブローニャとデジャに判断を委ねた。3人はどうやら受け入れているらしかった。「…仕方ないな。」「ははっ!まぁそういう反応にもなるよな!…でも助かるぜ。ありがとな。」「…それは、無事に辿り着いて、迷路を制覇してからいうんだな。」「あぁ、そりゃ確かにそうだ。」そしてロメイ遺跡に行くことを合意したのだった。「どんな試練も乗り越えてきた私達なら大丈夫よ!!」そしてバシリアの部下へそのことを伝え、おそらく3日後までには戻ると伝え、テキン町を出立するのだった。
――――一行は鬱蒼と生い茂ったジャングルの中を進んでいた。「もうやだぁ~~!!歩きたくない~~!!」いつものようにチェリが音を上げている横で、オレリアがへろへろになりながら怒鳴る。「だから言ったんだ…!!私は行きたくないって…!!」「お前、さっきの意気はどこへ…。」それをサイが呆れたように突っ込む。「文句言うんじゃありません、オレリア!」先を行くヴィマラが振り返りつつ、まるで母親のように叱る。「見てみなさい、デジャを!文句ひとつも言わずに淡々と進んでいますよ!」「…文句を言う気力もないだけだ…。」さすがのデジャも疲労が溜まり始めていた。「無理もねぇよなぁ…。休憩しようにも場所がないし…。」ヘザーもあたりを見回すが座って休めそうな場所が見当たらなかった。足を止めてしまったチェリにムダルが声をかける。「最初は楽しんでたじゃないか、チェリ。」「最初はね!!見たこともない植物とか、動物とかいっぱいいたし!風景も見慣れなくて新鮮だったわよ!でもこれよ!!これ!!このぬかるんだ道!!最悪!!靴も服も汚れちゃった!!」「まず汚れを気にするんだな…。」「そうでしょ!!これもう取れないわよ!!」「服なんてどうでもいいだろ…。でもこのぬかるみ、すげぇ体力とられるのは間違いないな。」「こりゃ悪党達も近寄りたくないわけだな…。」「あっ!良いこと思いついた!!これ、あのつるにぶら下がって振り子の原理で渡ってったらいいんじゃないの!?」「手の皮むけるぞ。」「そもそも掴んで振り落とされないほどの握力がお前にはないだろ!」「うぅ~~~じゃあせめて一回座りたい~~~!!誰か“武器を巨大化する”とかいう『神の力』ないの~~~!?ヘザーにこん棒作らせて、そこに座りたい~~~!!」「微妙にありそうな能力やめろ。」「!あ、でもそれいいかも。」「へ?」そう言ってヘザーは近くの木の幹に触れると、そこから巨大なこん棒を作り出した。べちゃりと嫌な音を立てながらそれが横たわる。「別にあたしの力、大きさも自在だしさ。」「おぉ!」「こりゃすごい…。」「えっうそ。ちょっと待って!!私ファインプレイじゃない!?」「おーおーさすがだなチェリ。」「天才だなチェリ。」「そうでしょ!?もっと褒めて!!」ブローニャ達のやり取りに苦笑いしながらヴィマラ達はヘザーから武器を受け取ると、各々座った。――――「…はー…一先ず助かった…。」武器を椅子として使い、一時体を休める面々。皆表情が緩んでいる。先ほどのやり取りを思い出し、はたとヘザーが気づいた。「そういえば、お前らって『神の力』はないの?」オレリア、サイ、ムダルに問いかけた言葉であった。「あぁ。結局『神の力』なんてのはランダムだからな。『神の遣い』の民族だからって受け継がれるわけじゃねぇし。ヴィマラのはともかくとして。」「あぁ、そっか。」「しかしヘザー!お前の力すげぇな!!どこからでもなんでも武器が作れるってことか!?」「おうよ!まぁ材質も質量も、その作り出すものに限定されるけどな。」「それでも十分便利ですね…。」「あぁ。武器なんていくつも持って歩けないからな。特にこんな僻地じゃ。」「あれ?ヘザーの力は知らなかったんだっけ?」「ほら、最初に会った時にチェリとブローニャの力は見たけど、ヘザーは出してなかっただろ?」「あぁ、言われて見れば確かにそうだな。」『神の力』の話で少し盛り上がった後。話題は遺跡の場所について移った。「…おい、しかし本当にこんなところに遺跡があるのか?なんだか不安になってきたが…。」サイが思わずヴィマラに問いかける。「何言ってるの。遺跡マニアには有名な場所じゃない。」「俺は遺跡マニアじゃないからわからんが…。とはいってもなぁ…大分歩いてきたが、遺跡の“い”の字も見えてこないぞ。」「大丈夫よ。予定ではあと…そうね、2時間くらいあれば着くかしら。」「あと2時間!?マジ!?」「結構歩いたのに!?」「…まぁ、そもそも町からジャングルの入り口までもまぁまぁあったからな…。」「そもそもこの道しかなかったのか?」「一番安全で、最短のルートがここなのです。」「これで!?」「嘘じゃん…。」「せめて馬に乗れればなぁ…。」「もう歩きたくねぇな…。」はぁ~~~~…とすっかり意気消沈してしまった面々をじとっと見下ろしながらヴィマラが仁王立ちで呟く。「…でも、このままゆっくりしていると、このぬかるみの中を暗闇で一晩過ごす羽目になりますよ。」そう言った途端、全員がすくっと立ち上がった。「早いところ行こう。」「こんなところじゃ寝られない!!」「もう早く到着してそこで休もう!!」そして再び歩き出した一行だった。
――――途中で昼休憩を挟みながらも、歩みを止めない一行。ぬかるみに足を取られてよろけたヘザーを咄嗟にサイが助けてくれたり、へとへとになったオレリアの背中をデジャが押してやったり、水分を多く含んだ実を見つけたムダルが皆に共有してくれたりと、協力しながら足を進めていった。日が傾き始めた頃には、全員が体中泥だらけで、へろへろボロボロ状態になっていた。そして、「あ……あった……!!」まるでオアシスを見つけたかのように、ヘザーがぷるぷると腕を上げて前方を指さす。そこには、木や蔦等の奥に巨大遺跡が聳え立っていた。わずかに残った力を振り絞り、一歩一歩踏みしめていく。そして――――…遺跡手前に敷かれた石畳みの上に、ヘザーが転がり込んだ。「ぶはぁ!!!!」それに続くように、デジャ、ブローニャ、オレリア、サイが転がり込む。「し…死ぬかと思った…!!」「…本当に、困難な道だったな…。」珍しくブローニャやデジャまでもが弱音を吐く。最後尾にいたチェリは、ムダルの腕を借りながらなんとか到達した。「あ、ありがとう、ムダル…!!」「いや、寧ろよく頑張ったぞ、チェリ。…お前はよくやった…!」「うっ…、うっ…!良かったよ~~~!もう駄目かと思ったぁ~~~~!!」泣きついてきたチェリをブローニャが抱きとめる。「…よしよし、偉いぞチェリ。ヘザーも。」「あ…あたし、マジで頑張った…!!」「あぁ、頑張ったな…。」デジャも珍しく褒める。「それに、皆も無事でよかったよ…!!」「お前らすげぇよ…!!全員優勝だ!!」座り込んだり、仰向けに寝転がり、息を整えながら、少しおかしなテンションになりながら互いの健闘を称え合い、オレリアの言葉に笑う面々。その中で一人、ヴィマラだけが遺跡の方へ意識を集中していた。そしてはっと何かに気づくと、呟く。「…感じます。」「!!」ヴィマラの言葉に全員が反応した。「何…?」「えっ…、まさか、本当にあるの!?欠片!!」「距離が遠いので微かではありますが…遺跡の奥の方に感じますね。」ヴィマラの視線の先を皆追う。遺跡は複数階層になっており、奥行きもなかなかありそうだ。確かにこれは探索にも骨が折れるな、と皆が思っていた時だった。「行きましょう。」ヴィマラの言葉に、ヴィマラ以外の全員が驚愕する。「えっ待って。噓でしょ!?」「は!?おいおい、ありえねぇだろ!!お前体力おばけかよ!?」動揺するチェリとヘザーに、顔を青ざめさせるブローニャとデジャ。「おい…待て。今日は取り敢えずここで野宿して、迷路の捜索は明日からにしないか…?」「無理だって、無理!!この中も結構広いんだろ!?」「お前流石にそれは…。」ムダル、オレリア、サイも思わず焦ったように制止する。「ですが…万が一悪党達に先を越されては…。」「大丈夫だって!!あんな道悪党どもは来れねぇよ!!」「他に人が来ないか俺が見張ってる!!だから安心しろ!!」ヴィマラを取り囲みながら3人がどうにかして説得しようとする。「めちゃくちゃ焦ってる…。」「そりゃそうだろ…。私だって勘弁してほしいぞ…。」そしてサイが決めの一手を放つ。「そもそもこんな状態で皆バラバラに中に入ったら、途中で体力尽きる奴が出てきたもおかしくねぇぞ!!そいつをどうやって助けるんだ!?」「!」その言葉にヴィマラがあごに手を当てて考え始めた。「…ご尤もです。皆さんを危険にさらすわけにはいきません。今日の探索はやめましょう。明日、早朝から調査を始めることにします。」その言葉に全員がほっと安堵するのだった。――――「これ、さっき見つけたんだが…。」持ち込んだ夕飯にありついていると、サイがにやりとしながら、直径30cmはあろうかという丸く大きな実を片手に乗せて掲げた。それを見てムダルが飛びつく。「お前…ッ、それルインの実じゃねぇか!!」「ルインの実?」皆の視線が集まる。「あぁそうか、ワヘイには成ってないのか。―――…こいつはな、通称“酒の実”だ。」「!!」酒好きなブローニャとデジャが反応する。「内側の空洞に水分が溜まるんだがな、発酵するとそれが酒になる。見たところ、良い感じの状態になってるぜ。」「すげぇ稀少なんだぜ。しかもめっちゃ旨いんだ。果実部分もじゅくじゅくして甘くて旨いしな!」サイとオレリアの言葉に、ブローニャとデジャがごくりとつばを飲み込む。「…だ、だが、明日も迷路攻略という大事な任務があるし、立地的にも危険が憑き物だろう…。酒など飲んで万が一にでも潰れてしまっては…。」「うっわ、ほんとだ!すげぇいい感じに発酵してんじゃん!」「!?」ムダルが試しに実を半分に切ってみたらしい。オレリアの興奮の声とともに、芳醇な香りがあたりに広がる。「うわ~~~すごいいい匂い!」「…確かにこれは…、そそられるな…。」「な、な!ブローニャ!ちょっとだけ!ちょっとだけなら良いだろ!」「だ、だがな…!こんなジャングルの奥地で、しかも遺跡で…!!」意固地になっているブローニャにチェリとヘザーは両側から半分に切った実を近づけていく。「ほらほら~~~良い匂い~~~♡ブローニャも飲みたくなってきた~~~♡」「ん~~~!こんな香りしてるってことは、さぞ旨いんだろうな~~~♡」「くっ…!お前ら卑怯だぞ…!!」誘惑がブローニャを責める。ぐいぐいと二人が実をブローニャの頬に近づけていく。「わ…私は…屈しないぞ…!!」――――「今宵は宴だ!!」ブローニャの宣言に、皆、わーーーーー!!と実を掲げ盛り上がる。その後、乾杯とでも言うように実をぶつけ合い、果汁をあおった。「ぷはーーーーーっ!!!うっわ、最高だな!!」「うっっま!!マジで旨い!!!めっちゃフルーティ!」「だろ!?私これ好きな酒ベスト3に入るくらい気に入ってんだよ!まさかここで出会えるとはな~~!」「うん…、確かに旨い…!!これは出会いに感謝だな…。」味の感想をいいながら盛り上がる一行。「ヴィマラが飲むのって意外だな~。」チェリが傍に座りながら実をあおるヴィマラに話しかける。「いつもは飲まないんですけどね。…たまには、こういうのも良いかと思って。」どこか、この騒がしさに心地よさを感じているような表情を浮かべるヴィマラに、チェリも微笑む。暫く騒がしく飲んだ後、落ち着いて改めて酒を味わう一行。「…こんな旨い酒が飲めるなんて、ここまで頑張って来た甲斐があるってもんだな。」「あぁ。皆で苦難を乗り越えた後の美酒は旨いな…。」「こういう時に呑む酒が一番なんだよな~。」顔を赤くしながらサイとムダル、オレリアが呟く。「えぇ。お酒を飲んでいて…こんなに楽しい気分になったのは久々です。」「!」気分がよさそうにほろ酔いで微睡むヴィマラを、ブローニャが少し離れた場所から横目で見る。「それもこれも…ブローニャ達のおかげですね。」「!」「…特にチェリ、あなたには感謝しています。」「え?私?」チェリの問いかけに、ヴィマラは目を細めながら微笑む。「あなたがあの場でブローニャを引き留めてくれなければ…こうして私達が…4人と共に行動することも…バシリアと繋がり…協力を仰ぐことも…できなかったでしょう。…私は正直…ブローニャの気持ちもわかりますから…仕方ないとも思ってたんです…。それでもあの場であなたはああして言ってくれた…。…何より…あなたのあの言葉が…私は嬉しかった…。」「…!」「…ありがとう…チェリ。」そう言ってヴィマラはふにゃりと笑った。「…ヴィマラ…。」そしてヴィマラの体が左右に揺れ出した。「えっ!?大丈夫!?」チェリが心配そうにしていると、倒れそうなヴィマラの肩をオレリアが受け止めた。「こいつ酔いが回るのが早いんだよ。」オレリアも顔を赤くしながら笑う。「…今のは、こいつの本心だと思うぜ。…素直に受け取ってやってくれ。」オレリアの言葉に、チェリはにっと微笑んだ。「…勿論!」そしてそこから暫くして。酒が進んだ酔っ払いたちのテンションがおかしくなっていった。「あっはははは!!それでさぁ!サイの奴が!!」「おい、チェリお前!一発芸やれよ!」「え~~~~!?内輪ネタだもん!どうせわかんなわよ~~~!!」「なんだなんだ!やってみろ!!」「え~~~!?じゃあ…」「あはははは!!なんだそれ!!!」酔っ払いたちの声がジャングルに木霊する中、夜は更けていくのだった。――――「ブローニャ!ほら、ちゃんと寝袋入って寝ないと体痛めるわよ!?」「ん~…、もう動けない…。動きたくない…。」「全くもう…、だから飲み過ぎるなって言ったのに!」「自分が真っ先に潰れてんじゃねぇか…。こうなりゃもう駄目だな。ほらチェリ、手伝えよ。」「デジャも爆睡してるし…。酒は飲んでも飲まれるなよ!!!」そう叫ぶチェリの傍らで、寝袋で熟睡するヴィマラを除き、オレリア達も石畳みの上に突っ伏しているのだった。
――――翌朝。「頭が…っ…!!」「う“っ…。…少し、羽目を外し過ぎたようだな…。」「…しまった、酒を飲んでからのことを覚えてない…!!」「まだ酒臭い…!!」「皆さん、いくらタダだからって飲み過ぎですよ。」それなりに吞んでいた筈のヴィマラがすん、としている。「こいつ…。」そしてヴィマラにチェリとヘザーが続く。「そうよ!!私達がどれだけ大変だったか!!」「迷惑料払ってほしいくらいだな!!」私達が皆を介護したのだと胸を張って主張する。それに対し言い訳のしようもないく反省する大人達とデジャ。「…面目ない…。」「そんなことしてると置いて行きますよ!」「待て待てヴィマラ!もうちょっとだけ待ってくれ!」そして暫く休憩した後、「よし!」と気合を入れると、皆で遺跡の入り口に立った。「…それでは、本当に行きますよ。」「あぁ。」「危険と判断したらすぐに引き返してください。」「わかった。」そうして全員で足を踏み入れるのだった。
―――――ジャングルで拾った木の実を一定の距離で落としながら進んでいく一行。入り口から道なりに進んでいき、分かれ道があれば別の種類の木の実を置きながら一人ずつ抜けて探索していく、という方式で迷路攻略を目指していく。一人、また一人と減っていき、ついぞヴィマラが一人となる。だが、それでもまだまだ道は続き、分かれ道も現れていた。「…本当に大きいですね…。」
そして別の場所ではヘザーが壁の前で佇んでいた。「うっわ、行き止まりかよ…。」また別の場所では、別れた筈のチェリとデジャが出会っていた。「あれ?ここ繋がってたんだ。」「そうみたいだな…。」またまた別の場所では、ムダルが途方に暮れていた。「…ここ、さっきも通った気がするな…。」そして難解で長い迷路にどんどんと飲み込まれていく一行。苛立ち始めるオレリア。「クッソ…!!似たような景色ばっか続きやがって!宝はどこだ!?」混乱するサイ。「こ…、ここに入ってどのくらい経つんだ……!?」焦り出すヘザー。「本当に宝なんかあるのかよ!?」立ち尽くすチェリ。「こ…っ、この迷路、マジでやばくない…!?」
――――仲間達が混乱の渦に飲み込まれる中、ヴィマラが迷路を攻略している途中、何かに気づく。「(…?)」察知する『神の力』の数が、いつの間にか一つ増えた気がした。「(どういうこと…?…――――…まさか…!)」自分たち以外にも、攻略者がいるということか?と気づくヴィマラ。「(まずい、もし悪党側の人間だったら…!)」宝が奪われるだけではなく、仲間達の身に危険が及ぶ可能性もある。だが、皆バラバラになったこの状態で、情報を共有することも難しい。「(…作戦を間違えたかしら…。)」でもまさかこんなところに同時期に人が訪れるなんて…。だが、今は己の過ちを悔やむより、これからどうすべきかだ、と考えているうちに、事態は進展する。「!!」気づいた時には、欠片と思われる、これまで不動だった『神の力』の気配が、移動し始めていた。「なっ…!!」ヴィマラは慌てて気配のする方を見るが、もちろん壁しかなく何も見えなかった。
――――「うーん…。」ブローニャは迷路の中で道に迷っていた。腕を組みながら歩いていく。「しまった…。もうどこから来たかもわからなくなってしまった…。」木の実を最初に落とし過ぎたと反省する。いつの間にやら同じところをぐるぐるしている気がする。先ほどから景色が変わらない。頭がおかしくなりそうだった。「そもそも今私は本当に起きているのか…?今も酔っぱらったまま夢を見ているんじゃないか…?」音も聞こえず、壁と床以外の何も見えない環境の中で、それすらもわからなくなりつつあった。惑う中、曲がり角を見つけて左に曲がったところだった。誰かと肩がぶつかった。「む。すまない。」「悪いな。」そう言って通り過ぎようとした時だった。「ん?」先日あったように、つい町ですれ違った時のような対応をしてしまったが、そもそもこんなところに人がいるのはおかしいだろう、と瞬時に正気を取り戻し、振り返った。相手も相手で同じことを思ったようで、きょとんとした顔でブローニャの方へと振り返っていた。黒髪の眼帯をつけた長身の女は、右手に何かの手記らしきものを持っており、その左手には――――「…!!!」ブローニャはわなわなと震えた手でその代物を指差した。「え?」女が左手に持っていたのは、紛れもなく“欠片”だった。女はブローニャの指と、それが刺す、自分が手に持つそれを交互に見る。そして、ブローニャと目を合わせ、固まった。「…」「…」暫くして女は、へらっと愛想笑いをした直後、突如その場から走り出した。「!?おいっ!!待て!!!」女の思わぬ行動に一手遅れ、ブローニャは慌ててその後を追いかける。走りながら女は顔だけ振り返り、ブローニャに向かって叫んだ。「誰が待つかよ!!なんだよ!!お前もこれ狙ってんのか!?」「そうだ!!それを探してここまで来た!!だからそれを寄越せ!!」「はあッ!?“だから”ってなんだよ!!意味わかんねぇ!!渡すわけねぇだろ!!俺が先に見つけたんだから!!」「お前…!悪党組織の一味か!?」「あぁ!?なんでそうなるんだよ!!あんな奴ら関係ねぇし、俺は個人主義者だ!!」「…!!」女の問答にどこか違和感を感じるブローニャ。だが、まずは欠片を取り返すのが先決だった。「おい!!誰かいないか!!女だ!!眼帯の女が欠片を持って逃げている!!」「!?お前仲間いんのかよ!!!卑怯だぞ!!」「はっ!卑怯だなんだ、こっちはなりふり構ってられないもんでな!!痛い目に遭いたくなければ、おとなしくそれを寄越せ!!」「どっちが悪党だよ!?だから嫌だって言って――――…うおわッ!!?」ブローニャお得意のナイフ投げを、女はスレスレで避けた。ナイフは壁に当たってキン、という高い音を立てて落ちた。「あっ…ぶねーーーー!!!お前ふざけんなよ!?当たったらどうすんだ!?」「チッ…!!」「舌打ち!?綺麗な顔してこの女…!!」逃走劇を繰り広げている内に、前方にヘザーが現れた。「おっ!!ブロー―――…にゃ?」再会を喜ぶ間もなく、目の前の事態に巻き込まれるヘザー。「ヘザー!!そいつ捕まえろッ!!」「は…?誰だよこいつ!!」女は一瞬ヘザーの顔に既視感を覚えるが、気のせいかと思い言葉を返す。「こっちの台詞だよ…ッ!!」女は途中で横道を見つけると、それを曲がって行った。それを後からブローニャとヘザーが合流しながら追う。「なんだよ!?なんであの女追っかけてんだ!?」「あいつが欠片を持ってるのを見たんだ!!」「!―――おいおいマジか!!つーか、本当にあったんだな!?」「あぁ!!…だが、どうやら悪党の一味ではないらしい。」「は?じゃああいつ何なんだよ?」「多分、ただのフリーランスの盗人だ。」「フリーランス…。」話しながらもしつこく追いかけてくるブローニャとヘザーの様子を見て、眼帯の女は「クソッ…!!」と悪態をつく。2対1ではどう考えてもこちらが不利だ。どう撒こうか悩んでいた時だった。「!」目の前に蔦のカーテンがぶら下がっているのが見えた。それを見た瞬間、眼帯の女は剣を取り出す。「!!」それを見て、やる気か?と、ブローニャとヘザーも走りながらそれぞれの武器を取り出そうとした。が、眼帯の女は垂れ下がった蔦を通り過ぎた直後、体を反転して、その蔦のカーテンに向かって手にした剣を振るった。その瞬間、「!?」蔦が炎で燃え上がる。「わわわっ!!」炎のカーテンに慌てて足を止める二人。目の前で轟々と燃え上がる炎を見ながら、呆然と立ち尽くす。「どういうことだよ…!?」「…!!」――――「へへ、よしッ…!!」燃え上がるカーテンの向こうから二人が追ってこないことを確認すると、眼帯の女はそのまままっすぐと走っていく。やがて女は、開けた場所に出た。「このまま逃げ切れりゃ…!!ええと、こっからどこ行くんだったかな…。」そう言って手元の手記を開いた時だった。「おっ!!ほんとにいた!!」「!?」女の目の前にオレリアが現れた。「ただの私の幻聴かと思ったが…ビンゴだったみたいだな!」先ほどのブローニャの声が、迷路に惑わされた中で聞こえたただの幻聴かと思っていたらしいオレリアは、女を実際に目の前に見つけてほっとしていた。事実ならば、とオレリアは、警戒する女に向かっていきなり剣を切りつけた。「うおわッ!?」慌てて女はそれを自分の剣で受け止める。「へえーっ!良い反応じゃねぇか。」「なっ…なんなんだよ、お前ら…!?」「そのかばんに入ってるもん渡してくれたら教えてやるよ。」「!―――…誰がやるかよ…ッ!!」そうして女は剣を弾き飛ばすが、オレリアは素早い動きでさらに迫ってくる。二度、三度と剣を交えてから距離を取った女は、隙を見つけて持ち前の身体能力を使い、遺跡の壁や石の出っ張りを利用して飛び上がると、吹き抜けとなった2階部分へと逃げ出していった。それを見上げながら冷や汗をかくオレリア。「…おいおい、マジでやるじゃん。」――――「くっそ~~~~!!人居すぎだろ…!!どうなってんだ!?過疎遺跡なんじゃなかったのかよ!?」すっかりルートを乱されてしまった女は焦っていた。最短ルートが先ほどの女に邪魔をされて通れなくなってしまった。「あれ!?人だ!!」「!?」走る女の前方に、今度はチェリが現れた。「おいおいおいおい!!まだいんのかよ…!!」「…!?」眼帯の見知らぬ女が、必死の形相でこちらに向かって走ってくる。何も知らないチェリは、訳もわからず慌てて武器を構えた。「なになに!?もしかして悪党の仲間!?どういうこと!?」「クソっ…!!こいつもやる気か…――――!!」その時女は、前方に横道があることに気づいた。だが位置的に、チェリのすぐ目の前だった。「(こいつは弱そうだからすぐやれそうだが、さすがに可哀想な気がするな…。)」女は背中の弓矢を取り出すと、道に垂れ下がる蔦を走りながらぶちりと千切って、矢に巻きつけた。「…?」チェリがそれを訝しげに見た直後、眼帯女は一時足を止めると、弓矢を構えてチェリに向かって放った。「わわっ!!」チェリが体を縮こませながら脅えるものの、矢の軌道はチェリに向かってまっすぐ飛ぶことはなく、下方へ向かって落ちていった。だが、先ほどと同じように、飛ぶ最中に矢は炎を纏って燃え上がった。「ひえっ!?」矢がチェリの目の前に落下すると、纏った火が石畳に生えた草や蔦に燃え移った。「あちちっ!」チェリは慌てて後方へ逃げる。「へへっ、悪いな!」そう言って女は横道に向かって走り去っていった。その様子をぽかんとしながらただただ見守るだけだったチェリ。「な…ッ、なんなの…!?」――――「えーーー…と?ここがどうで…アレ…?…ッあーーーーークソッ!!あいつらのせいでもうわけわかんねえよ!!」道に迷い、スタミナも切れ始めていた女は、歩きながら一人ごちていた。「クッソ…!!このあたりか!?――――…!!」そうして一先ず道を進めていると、今度は女の前にデジャが現れた。「…」「…おいおい、マジかよ…。」女は冷や汗をかきながら笑うしかなかった。まさかアレ以上まだ仲間がいたとは思わなかった。「…ッ!!」そして先の横道めがけて、再び走り出す女。「(今まで闇雲に逃げ回ってたが、今度は違ぇ!!この横道を行けば出口につながる…!!ともかくこいつより先に―――――)」そう思って走っていたが、突然、女の目の前に、壁から生えるようにして、剣身が飛び出してきた。「うわッ!!?」慌ててのけぞりながら急停止する眼帯女。剣は、壁を壊すことなく、まるで壁と一体になっているかのように突き出していた。「(なんだ…!?何かの罠――――…)!!」気づくと目の前にデジャが迫っており、攻撃を仕掛けてきていた。「ッのやろ…!!」女は慌ててそれを避け、後方に距離を取った。「見つけたぜ…!!」「!!」そして後方にはヘザーが息を切らしながら辿り着いていた。「…!!」両側から挟まれ、逃げ場が無くなってしまった。「…やるしかねぇか…!」そう覚悟を決めて、女が剣を取り出した時だった。「ん?」縄が括り付けられたナイフが女の横を通り過ぎた。「…あ?」そしてそれは旋回して来た方向とは逆側へ回っていく。「んんん?」女が状況をつかめないでいる間に、ナイフはぐるぐると女の周りをまわって行った。「は?―――…はあッ!?」気づくと女は、縄に体をぐるぐる巻きにされているのだった。「うわッ!!」バランスを崩して、女はその場に倒れこむ。「…ッてぇ~~~~!!」そこに近づいていくデジャ、ヘザー、チェリ。「や…やっと捕まえた…!!」「ご苦労だったな。」「ほんとだぜ…!!こいつ足早いのなんのって…!!」「…うまくいったようで良かった。」曲がり角から現れたブローニャも近づいてきた。「!お前…!」ブローニャの顔を見て眉間に皺を寄せる女。「…さて、話を聞かせてもらおうか。」「…!」女は恨めしそうにブローニャをにらみつけるのだった。
――――「クッソ〜〜〜〜!!」遺跡の入り口で、眼帯の女は縄で縛られて座らされていた。そこには、ヴィマラ、オレリアと、ブローニャ達4人が集結していた。「サイとムダルは?」チェリの問いに、ヴィマラが困ったような顔で答えた。「…サイがまだ、中で迷っています…。」その時、迷路の方からムダルの叫ぶ声が聞こえた。「サイーーーーー!!ここだぁーーーーー!!」皆それを一瞥した後、目の前の女に視線を移した。そして、ブローニャが話を切り出す。「お前、名は?」ブローニャの問いに、女は諦めたようにため息をつくと、その口を開いた。「…ジタだ。」「ジタ、か。もう一度聞こう。お前は本当に悪党組織とは関わりがないんだな?」「…だから、最初に言っただろ!あんな奴らに協力なんかしねぇし、俺は個人で動いてる。それがなんなんだよ!」「じゃあなんでこの“欠片”を探しに来た。」「なんでって…。…俺はただ、この遺跡にあるっつーその“宝”が、“金”になるんじゃないかと思って探しに来ただけだ。」「なんだ。ただの金目当てか。」「泥棒じゃん!!」「どろッ…!――――…ぐっ…なんも言い返せねぇがよ…!」“盗み”であることの自覚はあるのだろう女がうなだれる。その様子を見ながらブローニャが更に問う。「…お前は、これがなんなのか知ってるのか?」「…だから宝だろ?昔の富豪が趣味で集めてたっていう…。っつーかお前らこそ、こんなところまでわざわざこれを探しに来て…。そこまで拘るってことは、なんか知ってるのか?」「…」ジタの答えに皆が顔を合わせる。「どうするの?」「どうするって、ただの金目当ての盗人に説明する必要なんかねぇだろ。」「まぁ、それもそうだな。」「おい、丸聞こえだぞ!説明しろよ!」「ちなみに欠片は本物なのか?」「えぇ、間違いなく。『神の力』が宿っていますので。」「えっ!?すごい!!当たりじゃん!!」「ラッキーだったな!来て正解だったってことじゃねぇか!!」「苦労してあの悪路を辿ってきた甲斐があったってわけだな…!」「こりゃまた今夜宴をしなきゃか?」デジャの冗談に、どっと笑う皆にジタが痺れを切らして怒鳴る。「おい!『神の力』が宿ってるってなんだよ!俺にも説明しろって!!おい!!」怒鳴るジタを見ながら、ブローニャがふと思い出してヴィマラに問う。「なぁヴィマラ、『神の力』と言えば、こいつもしかしてなんだが…。」ブローニャの意図を察したヴィマラは首を縦に振った。「えぇ。『神の力』を持っていますね。」そのヴィマラの言葉にジタが目を丸くする。迷路の中でヴィマラとは遭遇していないにも拘らず、確信を持って答えたその様子に疑問が湧く。「は…?なんで…。…つーか!そう言うお前らも持ってんだろうが!『神の力』!」「そうだ!こいつが振った剣から炎が出てたぜ!」「じゃあ武器から炎を出す能力ってことか?」「う~~ん?でもこの人、矢を撃つ時に蔦をぐるぐる巻きにしてたわよ。ただ炎が出るだけなら、あえてそんなことする必要ないんじゃない?と思うんだけど…。」「じゃあ武器を高温にする能力ってことか。だから耐火力がない蔦なんかの植物が燃える。」「おいやめろ!!人の力を分析するんじゃねぇ!…合ってるけど!!」「正直者だな。」「そういう性分なもんで。」そしてブローニャが更に迷路での出来事を思い出した。「…そうだ。気になっていたんだが、お前、どうやってあんな厄介な迷路を攻略できたんだ?」「そういえば手記みたいなものを見ながら歩いていたな。」「はっ?ええと…、」あからさまに顔をそらすジタを余所に、皆してごそごそとジタのカバンやポケットを探り始めた。「あっ!!おい!!てめぇら勝手に…!!」「…これか。」ジタのポケットから出てきたのは、先ほど彼女が手にしていた“手記”だった。「どれどれ…。」その手記を手にしたオレリアがページをぺらぺらと捲っていく。「おい!」ジタが制止の声をかけるが止まらずに読み進めていく内に、オレリアの瞼が驚愕したように開かれていく。「!これは…!」「!どうした?」オレリアの様子にブローニャが思わず声をかける。オレリアは手記から顔を上げると、皆の目を見ながら答えた。「…ここには、遺跡の地図が描かれている。宝までの道筋もな。そして――――…『“欠片のありか”に関する情報』もいくつか書かれてる。」「…!!」その言葉に皆も目を丸くした。「…チッ…。あぁ、そうだよ。」降参、といった風におとなしくなったジタは、ため息をついて足を組みなおすと、素直に説明を始めた。「その手記は知り合いの古物商に貰ったんだ。どうやら数百年前に、その欠片とやらと似たような構造をしてる古物がいくつかあることに、どっかの歴史研究家が気づいたらしくてな。興味を持ったその研究家が、欠片を探して各地を探し回った記録みたいだぜ。歴史研究家がそこまでして欲しがってるもんなら、よっぽど価値のある物なんだろうと思ってよ、見つけて集めたら売りさばいてやろうと思ってたんだよ。」「…ちなみに、これまでに他の“欠片”を見つけたことは?」「あー…そもそもそれを貰ったのがたった1か月前のことなんだよ。で、1か所だけ、そこにある“湖の畔の村”ってところに行ってみたんだが、何もなかった。まぁ数百年前の手記だからな。他の奴が掘り起こしただので、無くなっててもおかしくはねぇ。」ジタがそう言うと質問をしたブローニャがじっ…とその目を見つめる。その視線の意図を察したジタが抗議する。「なんだよ!!嘘なんかついてねぇぞ!!」「そうか。」「え~~~こんなのがあったなんてずるい!」「ずるかねぇよ!!俺の働きの正当報酬!!つーかそれ、俺の本なんだから返せよ!!」「…」ヴィマラが手記を読み込み、何かを決断したような顔でジタの方を向く。「…この欠片は、『神の力』の逸話に登場する品なのです。」「おい…。」オレリアが静止の声をかける。ヴィマラはオレリアに振り返りながら答える。「…この本は有益です。実際にこの遺跡には欠片があったのですから。持ち主である彼女に協力を仰がなければ、活用はできません。」「真面目かよ…。」折れたようなオレリアを見て、ヴィマラは再びジタに向き直った。「この欠片の正体についてお話しましょう。」――――「一々大変ね。」「…私も、まさかこんなたった数日で同じ説明を何度もすることになるとは思いませんでした。」「…」ヴィマラの説明を聞いて、何やら考え込むように地面を見つめるジタ。そしてそんなジタの反応を窺うブローニャ。暫くして、ジタがぽつりとつぶやいた。「…俺の村に伝わってた話なんだが…、」皆の視線がジタに集まる。「俺達の遥か昔の祖先が、『神の力』を悪用して痛い目を見た、とかなんとかで…。それを教訓にした子孫たちが代々言い伝えてきた言付けがあってよ。ガキの頃から、"『神の力』を悪いことに使うと災いが起きる"って口酸っぱく言われてたんだ。」そして欠片を見るジタ。「俺は正直、神がどうとかは知らねえが、こいつにも『神の力』が宿ってるって言うのなら…似たような何かがあるのかもしれねえな。」「…!」ヴィマラの話をすんなりと受け入れたジタにブローニャは目を丸くする。「でも盗みに使ってるじゃん。」「そっ…れはよ…!」チェリからの指摘にどもるジタ。「…でも、」それを見て、ブローニャが口を開く。「…こいつは、私達の誰かを傷つけてでも逃げようとすれば、それが出来たはずだ。だが、それをしなかった。」「!」「…まぁ、確かに。」炎を直接ぶつければ燃え上がっただろうに。矢で直接射貫けば良かったろうに。「…」ジタとブローニャの視線が交差する。「…えぇ。そうですね。」ヴィマラも同意する。「ジタ、この本をお借りすることはできませんか。」「!」ヴィマラの提案に皆の視線が集まる。「今話したように、私達には“欠片”が必要なのです。この本にはその手掛かりがある。…欠片を見つけた暁には、あなたには相応の報酬を差し上げましょう。ですから、この本をお貸しいただけませんか。」「…」「報酬については、私達の民族が代々保管している倉庫に、古銭や古い美術品などがあります。それをお渡しするということでいかがでしょうか。おそらく、それなりに歴史的価値はあると思います。」文句を言いそうなオレリアも何も言わない。それだけ、この本には価値があるということなのだろう。ジタは再び考え込むように視線を落とした。自ら探しに行くよりも、報酬とやらを貰った方が手っ取り早いに決まっている。“金目当て”であるジタにとっては願ってもない提案の筈だ。「…わかった。」「!では、」「本は貸してやる。でも、俺も同行する。」「!?」皆目を見開く。「お前らの話を全部信用したわけじゃねえ。まだその"欠片"とやらに金銭的価値が無いとも言えねえだろ?もしかしたらその“報酬”なんかよりもよっぽど価値が高いかもしれねぇじゃねぇか!!なんたって世界各地に散らばってる稀少なもんなんだろ?全部集めりゃ、富豪にもなれるかもしれねぇ!!」熱を上げて主張するジタを見て、皆呆れたような顔をする。「…どうする?」「…まぁ、余計なことしなけりゃいいんじゃないか。」「本は貸してくれるって言ってるしな。」「こいつそれなりに戦力になりそうだぜ。連れてって損はねえんじゃねぇか?」「…」6人でひそひそと話して合意すると、ヴィマラがジタの方へと一歩出た。「…わかりました。では、同行をお願いします。」「よし!」そしてオレリアがジタの縄を外してやる。「ふぃ~~やっと自由になったぜ。」そう言って肩をぐるぐる回したりとストレッチをする。「変なことするなよ。」「…しねぇよ!どう考えても俺の方が不利だろ!」「さて…。まずはこの手記でサイを探し出しましょうか。」「そ、そうだった!」「サイ!!今行くぞ!!」そうして仲間が増えてまずはサイを探し出すことから始めるのだった。


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