ヒルデとスーシャの急襲により数名が負傷したこともあり、傷がある程度まで癒えるまで、無理せず数日間、町へ滞在することとなった。「遺跡の場所は、ある程度の目星がついた。」町民への聞き取りの結果、遺跡があるであろう地域までは絞ることができたものの、具体的な在処についてまで突き止めることは出来なかった。そのため、無傷組(チェリ、ヘザー、ヴィマラ、バシリア)とバシリアの部下数人が先行して現地に向かい、偵察しに行くことになった。「私も行けるぞ。」「私もだ。」ブローニャとデジャの申し出をチェリが仁王立ちで却下する。「負傷者は留守番!!」そしてそれにバシリアが補足する。「デジャ、お前は思ったよりも傷が深い。傷を早めに癒すためにも、無理はしない方がいいだろう。ブローニャ、お前には居残り組の看病と保護を頼みたい。」否応なしに言い切るバシリアの言葉に、デジャは頷き、ブローニャも「…わかった。」と渋々といった様子で了承する。チェリとヘザーが心配なのだろう、それを察してバシリアが笑う。「なに、遺跡のあるだろう場所はここからそう遠くはないみたいだからな。今日中には必ず一度戻ってくるさ。一先ず遺跡の場所を探しに行って、万が一発見した場合、私達だけで攻略が難しいようなら、また改めて皆で行こう。」その言葉に頷くブローニャ。そして、オレリアもオレリアでヴィマラを行かせることをずっと渋っていた。自分の目の届かないところで危険に晒される可能性を危惧しているようだ。だが、ヴィマラとバシリアの説得によりようやく折れた。「チェリ、ヘザー。」「ん?」「ヴィマラを頼む。」オレリアの真剣な眼差しに明るく答える二人。「もっちろん!」「任せとけって!」それを聞いて不服そうなヴィマラがいた。「寧ろ私が二人を任される立場じゃないの…?」「お前全然戦力にならねぇし、サバイバル力も無いだろうが。」「うっ…。」珍しく言い負かされるヴィマラに皆笑いを浮かべるのだった。「町民たちの話を信じるのであれば、どうやらあのあたりは盗賊や悪党共どころか、人自体全く見かけない土地らしいからな。なんせ、荒野と谷ばかりの“何もない”場所だ。誰も好き好んでは近寄らないようだし、お前たちが心配しているような事態にはならないだろう。」その言葉を聞いて少し安心する居残り組。「くれぐれもはぐれるなよ。食料と水は持ったか?」「危ない場所には近寄るんじゃないぞ。」「ちゃんとバシリアについていくんだぞ。知らない人にはついて行くなよ!」「ちょっと!!子供扱いしないでよね!?」「そのくらいあたし達だってわかってら!!」「私まで同じ扱いってどういうこと!?」保護者と子供達のやり取りを見て苦笑いを浮かべるジタ。「子離れしろよ…。」
――――そんなこんなで見送られたバシリア達一行は、馬で移動して1時間ほどで目的の地域に到着した。馬を降り、風景を見ながら呆気にとられるチェリ達。広大な荒野の中に佇む渓谷は30M以上はあろうかという崖が連なる。植物も殆ど生えておらず、生き物も見られない。景色が圧巻ではあるものの、観光地とするには些か不便で物足りない様に、確かにこれは人が訪れる理由が無いだろうと納得させられる。「…まさか、これを片っ端から調べろって言うんじゃないわよね…!?」「うーん…。」「…なんか、結構広そうだな…。」ヴィマラさえ若干引いていると、バシリアが腕を組みながら呟いた。「…町の人の話では、古くから『神の指差す先に遺跡がある』という言い伝えがあったらしいが…。」「『神の指』…?」「何よそれ!?」「そんなもんどこにあるんだよ!」「それなんだが…本当はその前の文章もあったらしいが、それを記した壁画が崩れ落ちてしまったみたいでな。それ以上のことはもうわからないらしい。もしかしたら具体的な在処について記述があったのかもしれないが…。」「じゃあやっぱり虱潰しじゃん!!」「まじかよ…。」「これは時間がかかりそうですね…。」早くも嫌になっているチェリ達を見て、明るく笑うバシリア。「あはは!まぁそう肩を落とすな!皆で探せば意外と早く見つかるかもしれないぞ!苦労して探して見つけた物ほど達成感があるというものだ!」「無茶言ってくれるな…。」「あんた達も大変ね…。」チェリがバシリアの部下に同情する。「ま、まぁ…。でも、悪い人ではないので…。」「それはそうだけど…。」「…ともかく、探してみないことには仕方がないわ。ここまで来たんだし、頑張りましょう、チェリ、ヘザー!」ヴィマラの前向きな鼓舞に二人は諦めたようにため息をついた。「…まぁ、もしかしたら欠片があるかもしれないしな…。」「はぁ~~~しょうがないか!取り敢えず頑張ろ!!」無理やりやる気を出す二人。「手分けして探した方がいいわね。」「あぁ。だがあまり離れても危険だ。まずは地域を絞って探してみよう。何か手掛かりがあればすぐにでも共有してくれ。」そうして皆で捜索を始めるのだった。
――――その頃、待機組は…。ブローニャ以外の3人はベッドに寝転びながら会話をしていた。「そもそも手記にはなんて書いてあったんだっけか?忘れちまったよ。」ジタの問いかけにオレリアが答える。「確か…『実際に欠片があるかはわからないが、遺跡の先に宝があるとされているらしい。誰も辿り着いたことはないようだ。』だとか、そんな感じだ。」それにデジャが眉を顰める。「…随分ふわっとした内容だな。おまけに遺跡の場所も定かじゃないことを考えると、かなり骨が折れそうだ。」「あぁ。すぐには見つからねぇだろうな。」「…見つけたところで、欠片じゃない可能性も高いってわけか…。」「まぁ少しでも可能性があるなら、って感じじゃねぇの?」デジャがふと、自分のベッドの脇で何やら支度をしているブローニャの様子に気づいた。「…お前、何してるんだ。」「ん?飯を食わせてやろうかと…。」デジャに支給された食事を所謂「あーん」で食べさせようとしていたらしい。「いや、いらない。そのくらい自分で出来る。」冷静に真顔で断るデジャに対し、しゅんと落ち込むブローニャ。「そうか…。」「いや、なんでそんな残念そうなんだ…。」「デジャが負傷なんて珍しいし…。看病を任されたから、何か私でも出来ることをと思って…。」「…その気持ちはありがたいが、大丈夫だ。別にそこまで重傷ではないし…。寧ろ他のことでお願いしたい。」「そうか…。」あわよくばこの機会を利用してデジャに甘えさせようとしたブローニャだったが、計画は失敗に終わったようだ。「なぁブローニャ、俺腕上がんないから飯食わせてくれよ。」そんなブローニャに対して、少し離れたベッドからジタが呼びかけると、ブローニャは冷たくあしらった。「何甘えてるんだ。お前は自分で食え。」「えっ…?なんか俺には冷たくね…?」「ブローニャ、私も~。」今度はオレリアがベッドに寝転びながら手をひらひらと動かす。「お前も自分で食えるだろ!」「えっ…私こいつと扱い同じ!?」「デジャにだけ甘いのかよ…。」大人二人をあしらった後にデジャに向き直るブローニャ。「じゃあ他に何か食べたいものは無いか?りんごでも剥くか?欲しいものがあれば持ってくるぞ!着替えも手伝ってやろうか。」お節介焼きになりつつあるブローニャを、デジャが反抗期の娘の如く拒否する。「あーあー、いい、いい!お前は過保護な母親か!?」その時自分で言った言葉にブローニャがはっとする。「そうだ。着替えと言えばオレリア、手伝ってやるぞ。」「は!?…いや、それはいいよ。」さっきとは打って変わって急に恥ずかしそうに苦い顔をするオレリア。「その足じゃあズボンも履き替えるのが大変だろ。」「いいって。」「何恥ずかしがってるんだ。女同士なんだし、別に気にすることないだろ。」「女同士だろうが恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ!」「なぁ、俺は?」「お前は自分で出来るだろ。」「なんでだよ!!」
――――「結局なんも見つからなかったな…。」バシリア達は場所を変え、視点を変えながら1日かけて渓谷を探し回ったが、遺跡らしきものは見つからなかった。夕方合流し、全員揃って馬に乗ってとぼとぼと帰路を辿る。「遺跡なんて目立つもの、こんなに見つからないことある?」「全然ありそうになかったな…。」「…もしかしたら、隠されているのかもしれないな。崖だとか地下だとかに。」「そういう遺跡も多いですからね。ただそう思って、入り口とかも無いかと探しましたが、それらしき物も見つかりませんでしたね。」「『神の指』ってのがヒントなのかもしれないけど、ヒントがそもそも見つからないんじゃ意味ねえだろ!!」「…まぁ、こういうこともあるだろう。明日はもう少し奥の方を探してみよう。」「これ見つかるのかなぁ~~…。」疲労と若干の不安を抱えた皆が町に辿り着いた。バシリアは報告に行くと途中で別れたが、チェリ達は真っ先に4人がいるであろう病室へ向かった。そこでは、ブローニャがジタにご飯を食べさせてやっていた。「…何してんの。」「こいつが食べさせろって言うから…。」「違ッ…!!」チェリとヘザーの目線に途端に恥ずかしくなって怒鳴るジタ。「なんだよその目はッ!!」「べっつに~?」「あたし達が汗水流して遺跡探ししてきたってのによ…。」「し、しょうがねえだろ!!ほら、手首!!怪我してんだから!!――――ッてぇ…!!」必死に言い訳をするあまり脇腹の傷口に響いたジタを尻目に、他のベッドが空いてることに気づくチェリ達。「オレリアとデジャは?」「先に食い終わって、休憩室で二人でボードゲームしてるぞ。」「老後のおばあちゃんか何か?」「私達のこと心配なんじゃなかったの!?」「暇だったんだからしょうがねぇだろ。」一言余計なジタに睨みを利かせるブローニャ。「心配してたに決まってるだろ!無事に帰ってきて何よりだ。」ジタはチェリ達に進捗を尋ねようとするが、3人の様子を見て察する。「それで?…まぁその様子だと、ハズレ、って感じか。」「そんなとこね。そもそも遺跡が見つからない。」「あー…。」―――――そしてその後、休憩室に皆集合した。バシリアがテーブルの上に地図を広げながら指を差す。「今日はこのあたりを探したが、遺跡どころか手掛かりすらも全く見つからなかった。」うーんと皆で頭を悩ませる。「この地形じゃあ探すにも時間かかりそうだな。」「せめて『神の指』とやらが何かわかればなぁ…。」だが話し合いの結果も、結局手当たり次第探すしかない、という結論に至った。
――――そして2日目。再び同じメンバーで遺跡の捜索に向かったバシリア一行。居残り組は1日目と同じように4人と兵士達を見送ると、療養のため暇を持て余していた。動けもしないとなると、出来ることは限られる。「…なんか今日は遅くねぇか?」ブローニャ達が病室で4人揃ってカードゲームをしていると、ふとジタが呟いた。窓の外を見ると、いつの間にか日がとっぷりと暮れてしまっている。「…確かにそうだな…。」「特に報告などは受けてないが…。」「粘ってんのか?」そんな風に話していた時だ。複数人の足音がブローニャ達のいる病室に向かって歩いてくるのが聞こえた。「おっ、噂をすればじゃないか?」そうして皆の視線が扉に注がれた時だ。そこから、浮かない顔をしたバシリアが現れた。それを見た瞬間、4人は“何かがあった”と瞬時に察した。ブローニャは立ち上がり、バシリアの元へと近寄る。「…どうした?何があった。」そしてその後ろにヴィマラはいても、チェリとヘザーの姿が無いことに気づいた。嫌な予感が過る。バシリアは重々しく口を開いた。「チェリとヘザーが行方不明になった。」「…!!」皆が息を呑み、ブローニャとデジャが目を見開く。「…日が傾き始めた頃、一度姿は見ていたんだが、夕方になっても集合場所に来なくてな…。その後も暫く探し回ったんだが、見つからなかった。…すまない…。私が着いていながら…。」バシリアが申し訳なさそうに謝罪する。そしてそんなバシリアにヴィマラも続いた。「私も…。目を離してしまったばかりに…。ごめんなさい…。」ヴィマラも不安そうな顔で謝罪する。「…二人のせいじゃない。」ブローニャは二人にそう声をかけると、身支度を始めた。デジャも同様だ。「おい、どこ行くつもりだよ!」「二人を探してくる。」「…こんな夜中にか。」「二人は疲労が溜まってるだろうから休んでてくれ。私は2日間休憩させてもらったから、体力が有り余ってる。」「そういう問題じゃねえだろ!」そんなブローニャの腕を取り、バシリアがその動きを止める。「夜は危険だ。お前達もよくわかっているだろう。」「…」「あそこは深い渓谷で、ただでさえ影が多いんだ。…お前たちが思っているよりずっと、あそこは暗闇が多い。…何かあっては、チェリ達を探すどころじゃなくなる。」「…」「それに、二人には念のためにと食料と水を持たせてある。…すまない。気持ちはわかるが、捜索は明日、明るくなってからにしよう。」その言葉に、デジャは力が抜けたようにカバンを下ろした。俯くブローニャはベッドにすとんと腰をかけると、「…わかってる。…すまない。」と力なく呟いた。「…すまない…。」今日何度目かもわからない謝罪の言葉を口にするバシリア。ブローニャもそれに応える。「いや、私こそ…。先走ってすまなかったな。今、冷静になった。」そしてふうとため息をつく。「…大丈夫だ。」「!」そう言って上げたブローニャの顔からは、前向きな意志の強さが感じられた。「…大丈夫だ。あいつらなら。―――…信じてるからな。」その言葉にジタが反応する。そして、ブローニャとデジャは目を見合わせて頷いた。「明日の朝、早い時間に出立しよう。」「あぁ、勿論だ。」その言葉に皆頷いた。
――――3日目。チェリとヘザー捜索のため、全員が早朝から準備をしていた。「お前怪我はどうしたんだ。」デジャの問いかけに歩いて見せるオレリア。「ほぼ治った!」「!?」それを見て驚愕する面々。「早すぎねぇ!?」「私代謝がいいんだよ。」「いやいや…良いにも程があるだろ…。」「私の看病が良かったってことか。」「ボケてんのか?それ。」「オレリアは昔から傷の治りが早いのよ。完治、ってわけではないでしょうけど、大分良くはなってると思うわ。」「ほう…そういう体質ってことか。」「羨ましいな…。」「デジャとジタは大丈夫なのか?」「問題ない。」「あぁ。激しい動きさえしなきゃ大丈夫だ。」「…それじゃあ、行くぞ。」準備を整えた皆は、日が出る前に渓谷へ向かって出立した。――――「チェリとヘザーはあのあたりへ探しに行った筈なんだ。…だが、何も見つからなくてな。」渓谷に到着するや否や、チェリとヘザーの担当エリアを訪れた。「…なるほどな。」初めて訪れる居残り組は、あたりを物珍しそうに見渡す。「確かにこれは…骨が折れるな。」「見通しも悪いしなぁ…。」「ともかくそういう訳だから、あまり離れず捜索しよう。2人組で行動するように。」「わかった。」そうして別れ、手分けをして探すこととなった。――――数時間ほどチェリ達を探したが、影も形も見当たらない。無情にも時が流れ、少し焦りが過る中、デジャがあることに気づいた。谷の奥へと進んだ時に、視界に入ってきた背の高い岩の先端が、ふと指の形に見えたのだ。「(『神の指』――――…。…まさか…!?)」はっとして岩の周りを探してみるが、何も見つからない。「(『指差す先』―――…まさか上空ってわけでもないよな…。先…――――)」そう考えながら視線を移すと、岩の影が伸びた先が、崖の斜面を指していることに気づいた。「!!」すぐさまそこへ駆け寄り、ぺたぺたと触れてみるが何もない。「(…バシリアの話だと、言い伝えの前文があったって話だが…。…それがもし、季節や時間を指す内容だとしたら…。)――――ブローニャ!」「!どうした、何かあったか?」近くにいたブローニャに呼びかけると、駆け寄ってくる。そんなブローニャに対し、推論を述べるデジャ。「…!」「影の動き方を計算すれば、おおよその検討は付けられるんじゃないか。」「…やってみよう。」そして二人協力しながら、太陽の位置から影の遷移する位置の予測を立てる。それに基づいて周囲を探索した。そして、「…?」ブローニャが崖の一角で違和感を見つける。「ここだけ色が…。それに、何か線のような…?」不審に思い、あちこちと触ってみると、崖の壁の一部が動き出した。「…!!デジャ!!」「!」すぐさまデジャが駆け寄ってくる。そして二人で壁を押すと―――…―――「…これが、遺跡だって…?」デジャとブローニャが見つけたのは、“扉”で、その奥には、石垣で覆われた通路が続いていた。全員を呼びつけると、皆驚いたような顔でその中を覗き込んでいた。「凄いな、デジャ…!」「たまたまだ。見つけたのはブローニャだしな。」「デジャが気づいてくれなかったら私もわからなかった。」「…まさか、岩の形を指していたとはな…。」「謎解きだったってわけかよ…。」ふとジタが気づく。「…待てよ?じゃああのチェリ達がこれを解いたって?」それを聞いて何故か冷や汗をかくオレリア。「まっさか~!あいつらが解けるわけねえだろ!」「もう!!失礼じゃない!!」「…だがあの火…明らかに最近、誰かが通った後だ。」「…確かに…。」通路の脇には火が灯っており、煌々と通路内を照らしていた。「…ともかく、問題はこの先に二人がいるかどうかだな。」「二人じゃない可能性も…あるだろうしな。」「…何があるかわかったもんじゃねぇな…。」「皆、覚悟を決めろ。」その言葉に皆頷いたのを確認すると、バシリアがもしもの時のために松明を作り、先導する。「お前たちは外で待機していてくれ。」「はっ!」部下に指示を出すと、バシリアは暗闇の奥へと進んでいった。――――石垣で囲われた通路を進んでいく。「よくもまぁこんなもの作ったもんだ。」「すごいな…。」「岩盤が丈夫だからこそできるんだろうな。…それにしたって、掘り進めるのも大変だったろう。」「すごい…!!どうやって掘ったのかしら…!」「興奮すんな。」そうして5分ほど歩いた時だ。「!広い空間があるぞ。」通路の先には開けた場所が見える。少し足早にそこへ近づいていく。すると、奥の方から何者かの声が聞こえてきた「…!この声は…!!」ブローニャとデジャがバシリアを追い抜いて走っていく。そして、開けた空間に出た時だ。そこには、檻に閉じ込められたチェリとヘザーの姿があった。「チェリ!!ヘザー…!!」二人の存在に気づいたチェリとヘザーが檻の隙間から手を差し出しながら泣き出した。「わ~~~ん!!ブローニャ!!デジャ!!」「もうダメかと思った!!!来てくれてほんと良かった!!!」二人に皆近寄っていくと、檻越しに二人を抱きしめてやるブローニャ。バシリア達も後から近づいてくる。「大丈夫か?怪我は?」「怪我はない!!この檻が邪魔なだけ!!」その元気な様子にブローニャとデジャだけでなく、皆がほっと胸を撫でおろす。「そうか…良かった…。」「無事でよかった…!」バシリアとヴィマラも笑みを取り戻した。「二人もごめん、心配させて…。」そんな二人を見て申し訳なさそうに謝罪するチェリ。「…というか、なんなんだこれは?何があった?」「敵がいるのか?」「もしかして…遺跡とかじゃなく敵の本拠地…?」口々にそう言ってあたりを見回す皆。「え~~っと…どこから話していいのか…。」「そもそもお前達はどうやってここに辿り着いたんだ。」「んっとね…。」
―――― ~回想~ 扉付近をうろうろと歩き回っていたチェリとヘザー。「も~~~!!ほんとに遺跡なんてあるの!?こんだけ探しても見つからないなんておかしいじゃない!!」「もう埋もれちまったとかじゃねぇのかなぁ…。」「ね~もう良くない!?遺跡見つけたところで、欠片があるとも限らないんでしょ!?私達で見つからないなら、悪党達にも見つからないわよ!!」「確かになぁ…。」丸2日探し回って既にくたくたの二人。「は~~もう疲れた…。一回休憩!」ヘザーがそう言って崖面に寄り掛かった時だ。触れた壁が後ろに移動する感覚があった。「わっわっわっ!!なんか開いた!!なんか開いたぞ!?」「何これ!?」慌てて中を見ると、どうやらヘザーが押したのは扉で、奥には通路のようなものがあることに気づいた。「えっ!!嘘ッ!!見つけちゃった!?遺跡!!」「あっはは!!すげぇ!!マジかよ!!ほんとに!?」「お手柄じゃない、ヘザー!!」「よっしゃー!!」そう言って二人でハイタッチをする。「ね、ちょっと入ってみない?時間も時間だし、皆呼んでくる時間考えると、行ってすぐお宝があればそれ持って帰るだけで終わりだしさ!」「まぁ確かに…。ちょっとだけ様子見に行くか!」そう言ってもしものためにとバシリアから持たされた松明作成セットを取り出して、二人で中へ進んで行ったのだった。 ~回想おわり~
――――「たまたまか…。」「だから言っただろ!こいつらにわかるわけないって!」「ははっ!そうだよな!私だってわかんねーもん!」チェリとヘザーが自分達と同レベルの馬鹿だと思っていたジタとオレリアは、ただの杞憂だったとわかり安心していた。「ちょっと!!よくわかんないけどあの二人腹立つんだけど!?」「なんか知らねーが馬鹿にしてやがんな!?」檻の中からぎゃーぎゃー騒ぐ二人を見て余裕を見せる二人。「こうして見てるとなんか檻に閉じ込められた動物みたいだな!」「あっはは!ほらよしよ~し!」「なんなのこの大人二人!?」「クッソ~~~~!!舐めやがって!!」そんな大人げない二人に呆れるヴィマラ、ブローニャ、デジャ。「全く…。」そんな中苦笑いしていたバシリアが二人に更に問いかける。「それで、中で何があったんだ?この檻はなんなんだ。」そう問われてチェリが腕を上げてどこかを指差す。「それよ、それ!!」チェリが指差す方を皆が追うと、端っこに扉が着いた岩の壁が。その中央には、何やら文字が書かれていた。「えー…と、何々?『“浮足立つ”とはどういう意味か?①: 喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている。②: 不安や恐れなどの感情を抱き、落ち着きがなくなる。①が正解なら左の石版に、②が正解なら右の石版の上に乗りなさい。』――――…なんじゃこりゃ。」「クイズってことか?」そして皆がチェリとヘザーが乗る石版の場所を見る。「①…。」「なっ…、何よ!!」「正解が②だから、罰を受けたってことなんだろうな。」えっそうなの?という顔をするオレリアとジタ。「デジャ、お前もわかってたのか…?」「なんだ。一般常識だろ。」「…!!」二人が打ちひしがれる中、チェリとヘザーは言い争いに発展していた。「こいつが馬鹿な答えしたから!!」「はあっ!?あんただってわかんないって言ったじゃない!!!」「『学校で習ったからわかる!』って自信満々に言ったのはどこのどいつだよ!!」「ぐぅッ…!!」チェリがぐうの音も出なくなった頃に、バシリアがあごに手を当てて納得したように呟く。「…つまり、出された問題に対して不正解だと檻に閉じ込められ、正解だと扉が開いて先に進めるってことか?」「えっ?じゃあ…、」試しにとジタがBの石版に足を乗せると、「!」扉がゴゴゴ、という音を立てて開いた。「…なるほどな…。」「す…すごいな…。」「この仕掛け…この石版で重さを量り、誰かが乗ったことを感知した時に、壁の岩や扉が動くという仕組みなのですね…、すごい…!!」「お前は黙ってろ。」興奮するヴィマラにオレリアが冷静に突っ込む。「まぁ、ルールはわかったが…。」そう言ってブローニャは檻の柵を手で握る。「これはどうやったら脱出出来るんだ…?」「わかんねぇよ…石版に乗ったらいきなり下から生えてきて…。」「じゃあ持ち上げることもできないわけか。」「剣で斬る…は出来ないか。」「あの悪党の女がいたらな…。」「それは間違いないけど…。」「…ジタ、お前の力でこの檻切れないのか?」「俺もそう思ってた。」そう言って剣を取り出して柵に当てる。…が。「…駄目だな。俺の力も、多分温度に限界があるんだ。正直こいつは厳しいな。」「ジタの剣でもダメなの!?」一縷の望みに賭けていたチェリはそれが叶わないと知るとがっくりと項垂れ、後ずさる。「ま、まさか死ぬまで出られない…!?」「そ、そんなわけないだろ!諦めるな!」「でっ…でもぉ…」そう言って後ろに下がるチェリの足元に何かがぶつかった。「え…?」「…お、おい、それ…。」それを見たヘザーが青ざめる。それは――――骨のような何かだった。それに気づいた瞬間、チェリが再び泣きながらブローニャの元へ駆けていく。「いやああッ!!こんなとこで死にたくない!!ブローニャぁ〜〜〜!!」そんなチェリを檻越しに抱きしめて頭を撫でてやるブローニャ。「だっ…、大丈夫だ!!なんとかする!!絶対にこんなことに置いていかないぞ!よしよし…!」「わあぁ~~~~ん!!」その時、壁の岩が動いた。「!?」「な、なんだ…!?」皆警戒するが、回転した岩壁の向こうには、また別の文字が現れた。
『誰かしらが全問正解すれば、全員出られるよ』「うわあッ!?答えた!?」「つーかノリ軽ッ!!」「なんつータイミングで説明だよ…。」内容よりも、あまりのタイミングの良さにどことなく薄気味悪さを感じる皆。「す、すごいです…!もしかして失われた技術を使った音声認識…!?」「テンション上がってんじゃねぇよ。」「…だが、やることは決まったな。」バシリアが真剣な顔で述べる。「私達は問題を全問正解する。そしてチェリとヘザーを助け出す!」「!」「最悪これだけの人数がいるんだ。一人ずつ問題を解いて、もし間違えたとしても、残ったメンバーが先に進めばいい。」「生贄ってことか…。」「言い方!」そして開いた扉の先を見つめた。扉の奥はまた通路となっており、その先にはまた開けた空間があるようだ。ブローニャはチェリとヘザーに向き直る。「チェリ、ヘザー。悪いが少しだけ待っててくれ。私達は先に進む。…必ず、全問正解して帰ってくる。」泣きそうになりながら頷く二人。「うん…ッ!!」「絶対だぞ!!待ってるから!!」「あぁ。約束する。」そして意を決したように扉の奥を見つめた。「よし、行くぞ!!
――――通路を歩きながらジタが呟く。「へっ、でもうちはバシリアもいるし勝ったも同然だな。」「ん?まぁ、兵士もそれなりに頭脳も求められるからな。自分で言うのもなんだが、知識はそこそこにあると自負している。」「じゃあ任せたぞ、姐さん!!」「勿論だ!」――――『この世で大切なものは、"頭脳"?"筋肉"?』「筋肉だな!」ガシャーン!!と檻が伸びて捕まる仁王立ちのバシリア。「馬鹿かよ!?」「筋肉馬鹿すぎだろ!!」「な…ッ、なんでだ!!筋肉がなければ敵に抵抗もできないんだぞ!!襲われたら頭脳なんて役に立たないじゃないか!!」「それはそうだが…。」「つーか問題がクソすぎ。こんなの人と状況によるだろ。」ジタの言葉で岩が動く。『なお、問題文にケチをつけるようなら、全員閉じ込めます』「…」口をつぐむジタ。「やっぱり音声認識してるだろ…。」「す、すまない…。」「気にするな。」
――――そして次の部屋へ進む。「よし、次は私がやろう。」「だ、大丈夫か、デジャ…。」ブローニャが心配そうに声をかける。「任せろ。余程変な問題でない限りできる筈だ。」そして岩の壁が動く。そこには文字と一緒に図形が書かれていた。『【問題】点Pは、1辺5cmの正方形ABCDの辺上を AからB、Cを通ってDまで毎秒1cmの速さで動きます。点PがAを出発してからx秒後の△APDの面積をy㎠とするとき、xとyの関係を式に表しなさい。なお、この問題は時間制限があります。』「「!?」」問題を見て驚愕する皆。デジャも困惑が隠せない。「計算問題…だと…!!」「な…なんだこの動く点Pって…!?」「しかも時間制限アリかよ!?」デジャが慌てて岩版の上に置いてあるペンのようなものを手にして岩上に書いていく。「ま、待て…、三角形の大きさは底辺×高さ÷2だから…でもPが動くってことは可変式…?それってどうやって表すんだ…?x?y…!?」「な、なんか出来そうで出来なさそう…!!」「なんだよこれ!!知らねぇよ!!」「う…うぅっ…!!」「デジャ頑張れ!!」「あんな困ってるデジャ初めて見た!!」そして時間が切れ、ガシャーン!!と檻が閉まる。「…」膝をついたまま落ち込んだ様子のデジャに皆がフォローする。「しょ、しょがないわよ、デジャ!」「お前はよくやった!」「気にすんなって!問題が悪――――…ゴホンッ!」
――――次の部屋に入ると、先に文字が表示されていた。『ワヘイ王国の歴史に関する問題です』「世界史!?」それを見て、ブローニャが一歩前に出る。「ワヘイ王国の問題と言えば私しかいないだろう。」「だ、大丈夫か…?」「私もそれなりに王国史を学んできた。ある程度の問題には答えられるだろう。…何よりも、ワヘイ王国兵士として、この問題を間違えるわけにはいかない…!!!」――――『ワヘイ王国第三代目国王の名は―――』「わかるぞ!!“ガレアッツォ”国王だ!!!」『ガレアッツォ国王ですが、』「!?」『その愛人の名は何?』「…!!?」―――檻の中で両手を石畳の上について立膝になり四つん這いで落ち込むブローニャ。「いいや、もう我慢ならねぇ!!問題が悪ぃぞ、問題が!!!」「正解させる気ねえだろ!!!」「わっ…、私は…、兵士だというのに…!」「落ち着いて、ブローニャ!いくら兵士だろうと、普通は国王の愛人の名前なんて知らないわ!!」「寧ろよくあの名前が出たよ…。」「マリトッツォだっけ?」
――――更に次の部屋へ進むと、そこには――――…「…なんだこれ?」「なんかこれまでと違うな…。」石畳の一部が四角く切り取られており、そこに別の素材のカーペットのような何かが敷かれている。『遺跡に関する問題です』「おっそれならヴィマラしかないな。」「勿論です!行きましょう!」そしてまた岩壁が回転して追加の文字が現れた。『一人は回答者、一人は走者です。』「走者…?」すると、カーペットのようなものが動き出した。「はあ!?」「なんだこれ!!」『走者が走っている間のみ、回答者の回答が有効になります。』「なんじゃそりゃ…。」「意味がわからねぇが、やるしかないみたいだな…。」そう言ってオレリアがジタの背中を押し出す。「はあッ!?」「お前やれ。」「お前…ッヴィマラが答えるんだから、お前がサポートしてやるもんじゃねぇのかよ!!さっき脚治ったって言ってただろうが!!」「あー…いてて…まだ治ってねぇやこれ。こんな状態で走ったらうっかり傷口開いちまうよ。」「お前…ッ!!」「走りたくないだけよ。どうせここに来るまでにもう疲れたとかでしょ。」ギクリ、とヴィマラの指摘に反応するオレリア。「療養してたから体力面で不安があるだけだ!!ジタ!!お前なら大丈夫だって!!」「クソ~~~!!俺だって条件はあんま変わんねぇのによ~~!!」文句を垂れつつも歩き出すジタ。流石に脚を怪我した奴を走らせるわけにはいかなかった。カーペットのようなものに足を乗せて歩き出す。ウォーキング程度の速度に余裕綽々といった態度を見せるジタ。「…なんだ、このくらいならいけるんじゃねぇか?」「頼んだわよ、ジタ。」「あぁ。お互いにな!」そして岩壁が回転し、問題が出現する。『エスニェット文明時代の後期に作られたとされる遺跡を、5つ答えなさい。』「いッ…5つ…!!」「!!」すると急にカーペットの速度が上がった。「ほら走れジタ!!」「~~~そういうことかよッ!!」走り出すジタ。対してヴィマラは記憶を辿るように目を瞑ったり視線を宙に舞わせながら答えていく。「え…え~~…、テクラマカ遺跡、ネヒラ遺跡、トーレ遺跡…、~~~~…ッ…!!」「頑張れオレリア!!」「はッ…早くしてくれッ!!」「あ…あれ…!!オレリアが料理名みたいって言ったの…!!マ…マ…!!あっ!!マリブ遺跡!!」「うし!!あと一つ…!!ジタも頑張れ!!」「む…ッ、無理だッ!!病み上がりにキツイってこれ!!!マジで!!頼む!!早くしてくれヴィマラ!!」「エスニェット文明…エスニェット文明…、…ッだめ…!!出てこない!!な、なんだっけ…!」「クソッ…焦って頭真っ白になってんな…。」「いッ…!」腹の傷に響いたジタが体勢を崩す。「あぶねッ!!」慌ててオレリアが支えに行く。と、「おわッ!!」「!?」カーペットの動きに流されたジタが後ろに飛ばされ、助けに来たオレリアの顎に頭をぶつけた。二人吹っ飛んで後ろに倒れ込む。「~~~~ッてぇ~~~!!!!」ぜーぜーはーはーと息を切らすジタと顎の痛みに耐えるオレリアが倒れたまま動けずにいた。そんな中、無情にも檻がヴィマラを捕える。「そ…そんな…!私が遺跡の問題を…間違えるなんて…ッ!!」落ち込むヴィマラにオレリアが痛みに耐えながら声をかける。「落ち込むなって…。こんな状況じゃ仕方な―――」「まだまだ私の知らないことがあるのね…!!面白いわ!!」「あ、普通に知らないだけだった。」「…逆に…燃えるタイプかよ…。」
――――「傷口開いてねぇのか?」「そこは大丈夫だ。」「ならよかったけどよ。」残ったジタとオレリアが通路を進んでいた。「…つーか、まだあるのか~~?問題どんだけあるんだよ…。遺跡広すぎんだろ!!」「今のところ全問不正解だぜ。これ以上間違えたら人が足りねぇよ。」「…全員バラバラに檻の中で野垂れ死に、か…?」想像した瞬間に背筋がぞっとする二人。「…次こそは正解しねぇとだな…。」「…でも、出題の傾向的にどんどん正答率が下がるぜ。2択がどれだけ優しかったかだな…。」「あークソッ…!!」そして開けた空間に辿り着いた。「良かった…。さっきの動く床はねぇな。」「…最初のヒントも無いってわけか。」そしてオレリアが前に出る。「まぁ見てろよ。私にかかれば楽勝だって。」「おい待てよ…ッ!!」「お前に託すぜ。」「!!」「後はお前に任せた。」「オレリア…。」だがふとジタは気づいた。「とか何とか言って、お前最後責任追いたくないだけじゃねぇかッ!!」図星とでも言うように、へっとした顔で笑うオレリア。「さて…。今度はどんな問題が…。」―――『これから一つの小説を読んでもらいます。問題文を読み、この登場人物の心情を答えなさい。』「知るかぁッ!!!!」ガシャーン!!と檻に閉じ込められるオレリア。「…私は、人の心がわからない人間なんだ…。」「何地味にダメージ受けてんだよ。」ガシャ、と檻を足蹴にするジタ。「は~~~~…俺がやるしかねぇのか…。」開いた扉の先を見る。その先にはまだ何かありそうだった。「…悪いな、ジタ。」「…」「頼んだぞ。」真剣な顔で言うオレリアに、「わかってるよ。」と答えて扉の向こうへと歩き出すジタ。
――――「あ~~~これで終わりならいいんだがな…。」そう言って嫌々通路を進み、開けた場所へと出る。「!!」そこは最初と同じように石版が二つ並んでいた。「ラッキー!!2択じゃねぇか!!」そして岩壁が回転する。『最終問題です』「…!!…おいおい、マジかよ。」ジタの顔に冷や汗が流れる。「こうなったらなんでも来いよッ!!」そしてまた岩壁が回転し、問題が出現した。『薬草として使えるのはどっち?タイネル草orミカラ草?』「知るかッ!!!」思わず怒鳴るジタ。「俺もあちこち旅して来たけど、聞いたこともねぇよ、そんな野草!!またマニアックなところ出しやがって!!」しゃがみ込んで考え込むジタ。「(クソッ…!どこまでも舐めやがって…!!!そんなの学者でもねぇんだから、知るわけねぇだろ…ッ!!)」だがこのまま不正解では仲間達を救い出すことは出来ない。仲間の顔が過った時、ふとジタは、ブローニャ達の旅の話を思い出した。『薬草が効いたみたいなんだ』「―――!!」そしてその時の流れを思い出す。――――「なんか、火山の麓にある場所で、そこでしか自生しないらしいわよ!」「ブローニャの傷も早く治ったもんな。」「あぁ、名前はなんだったか…。」「えー…と、確かねぇ…。」――――「(…まさか…)」ジタは立ち上がると、右の石版に乗った。そして、「…!!」檻は降りてこず、代わりに目の前の扉が開いた。「…!!」時を同じくして、全員を捕えていた檻が解除される。「えっ!?嘘ッ!!」「あッはは!マジかよ!!」皆が慌てて通路の先へと走っていく。「ジタ!!お前やったのか!?」オレリアの補助をしながらヴィマラも一緒に現れた。「お、おう、まあな。」自分でも驚いているのか反応が鈍いジタ。そして続々と仲間達が駆け寄ってくる。「ジタがやったのか!?」「すごいじゃないか!!」「見直したぞ!」「やるじゃん!!ありがと~~ジタ!!」口々に褒められ照れくさくなるジタ。「お前らこういう時ばっかりよ~~!!」そう言って皆が笑う。悪い気分はしなかった。「問題は何だったんだ?」「薬草として使えるもの、か…。」「あッ!!これって確か…。」「ワヘイ王国にあった稀少な薬草か?」「…!!」問題を見て目を見開いたブローニャ達4人は、ジタの方を見た。「…お前らの話を聞いてなきゃ、絶対正解してなかったぜ。」そう言って笑うジタ。「よく覚えてたな!!」「すごい!!」「じゃああたし達のおかげじゃね?」「確かに!」「おい!!正解したのは俺だぞ!!」そうしてきゃっきゃと騒いでいると、バシリアが扉の奥を覗き込んだ。「…この先に宝があるのか…?」そしてそれに倣って皆も覗く。「…行ってみよう。」本題だ、とばかりに静かになった皆はその奥へと進み出した。そして、通路を進んだ先には――――「わぁ~~~…。」これまでよりやや少し広めの空間と、美しく磨かれた岩壁と石畳、中央奥に装飾が施された祭壇のようなものが見えた。そのどこか神秘的な雰囲気に思わず声が漏れる。「…な、なんかすげぇな…。」「神聖な場所、って感じする…。」少し緊張した様子でぞろぞろと歩みを進めていく一同。祭壇には箱が置かれており、その箱には扉が着いていた。「じゃあここはジタが開けないと!」「俺かぁ?」「結局、正当な正解者はジタだけだもんな!」「あ、そうなの?何よ!皆間違えてんじゃん!!」チェリの言葉に皆が笑っている間に、ジタが箱に近づく。「…開けるぞ。」皆ドキドキと心待ちにしながらその様子を見ていた。ギィ、と古めかしい音を立てながらその小さな扉が開く。そしてそこには――――…「………………」それを見て皆思わず絶句した。ジタはそこから物を取り出すと、皆の方へ見せる。何やら人の形を象った像だ。その土台には、こう記されていた。『この遺跡を作った偉大なる私の像』「………………」再び沈黙が落ちる。そして少しした後、ジタから像を奪い取ったヘザーが像をたたき割ろうと振りかぶる。「………ッ!!!」慌ててそれを止めようとするブローニャとバシリア。「落ち着けヘザー!!」「気持ちはわかる!!気持ちはわかるが――――…もしかしたらこれも欠片の可能性が…!」「ないですね。」バシリアの言葉に冷静に即答するヴィマラ。「…」思わず動きを止めて、ヴィマラに振り返るブローニャとバシリア。「欠片ではありません。」あの優しくて穏やかなヴィマラがこんなに冷めた目をするのか、と二人が思っていると、ガシャーン!!という音を立てて像が砕け散った。皆、それを冷静に眺めていた。「なんだよ、骨折り損かよ!!」「あんだけ頑張ったのに~~~!!時間と労力返してよ~~!!」「なんだったんだ…この2日間…。」皆が項垂れる中、壊れた像を見てデジャがあることに気づく。「おい、待て!」「!」その言葉に、帰ろうと歩き出していた皆が振り返る。「…金だ。」「!?」像の中には、金塊が隠されていた。一緒に手紙も入っていた。それを開いて読み上げるデジャ。「…『正解者には正当な報酬を』――――…だそうだ。」呆気にとられた皆だったが、「…なんだよ、やるじゃん。」「そこまでお見通しだってわけか…。」先ほどまでの怒りはどこへやら。気が抜けたような感覚に襲われるのであった。
―――――「今後は勝手な行動はしないこと!ちゃんと仲間に連絡してから侵入すること!いいな!!」「はぁ~~~い…。」帰り道を歩きながら話をしていた皆。ブローニャがチェリとヘザーにきつくお灸をすえていた。「マジで無駄足だったな。」「しょうがねぇよ。大方探しつくして手掛かりが減ってきてる今、もうこういうのを一個一個潰していかなきゃならない状況だしな。」「あーあ!もう早く帰ろう~!」愚痴を吐きながら歩いている皆の中、ヴィマラは一人笑っていた。「…でも、なんだか楽しかった。」そんなヴィマラの言葉と表情を見て、皆も笑うのだった。