【22話】村防衛① 開戦


「ほんとに来るのかな~…。」チェリはヴィマラ、デジャと共にウッドデッキの階段に座って待機をしていた。時刻も昼過ぎになろうという頃。シフトで昼飯を済ませて、交代で見張りを続けるが、悪党達の集団は一向に現れない。チェリ達がこの村に到着してから、もう既に2日は経とうとしていた。ふと見上げると、綺麗な青空が広がっており、鳥がちゅんちゅんと鳴きながら飛んでいく。「…平和~…。」「お前って奴は…緊張感が無いな。」「だって!!こんなに日が経ってるのに来ないってことある!?」「遠方からきてるのなら不思議じゃないだろ。」「えぇ~~~…にしたってさぁ…。」その時だった。ヴィマラがハッと何かに気づいたように立ち上がった。「来ました…ッ!!」「!!」その瞬間、チェリは息を呑み、デジャは警戒態勢に入る。ヴィマラは気配を感じる方角を見つめながら、集中力を高めた。「『神の力』を…いくつか感じます…!…4…5…―――…いえ、6…!?」「…!?」ヴィマラの言葉に、2人とも目を見開いた。
――――一方で、森の中を進む集団がいた。彼らは村の入り口で馬を降り、その先を歩いて進んで行く。そして、人っ子一人見当たらないことと、そのあまりの静けさに違和感を覚えた。「…まるで廃村だな。」リーダーと思しき男が呟く。それに対して、傍らにいた、茶髪で小柄の目つきの悪い女が問う。「どういうことだ?場所は合ってるんだよな。」「その筈だが…。」すると、黒髪の長身の女が、どこか1点を見ながら呟いた。「…でも、人はいるね。」「え?」茶髪の女もつられてその方向を見るが、家はあっても、その周辺には誰の姿も見当たらない。「…警戒は怠るな。」訝しげに思いながらも、一行はさらに村の奥へと進んでいった。
――――やがて、村の中心部であろう開けた場所へと出た。その時だった。「…!」建物の陰から、バシリアとローザを先頭にした兵士の隊が現れた。「…ほう…特殊兵士部隊か…。」男は動じる様子もなく呟く。「…なるほどな。どこから情報が漏れたかは知らないが…。」男が1人納得する間に、バシリアは集団の顔と人数を確認していた。「(…随分と多いな…。)」その数、見たところ15人ほど。その中には、若い少女や女も紛れている。先ほど偵察に向かわせたヴィマラの報告を思い出した。―――『…おそらく、欠片を持っているのでなければ、『神の力』を有しているのは―――…女性6人です。』―――その女の中に、バシリアは特徴に覚えのある顔を見つけた。「お前がライリか。」バシリアに呼ばれた"ライリ"は、薄気味悪く浮かべるその笑みを深くした。「…ふふ、会ったことあったっけ。」「先日、うちの部下が世話になったようだからな。」「部下…?―――…あぁ、この前の…。」「借りを返しに来た、…と言いたいところだがな。何分我々は私怨じゃ動かん。大人しく投降してくれれば、危害は加えない。」「…ははっ、流石特殊部隊兵士様はご立派だな。…でもそもそも、俺達が何をしたって?まだ何もしちゃいないぜ。」「過去の余罪がいくらでもあるだろう。」「…」男は目を細めてバシリアを見据える。隣の茶髪の女も、バシリアを睨み付けるように鋭く見つめた。「…残念だが、お前達が探しに来たという"欠片"はもう無いぞ。私達が回収して、既に別の場所に運んだ。」「…あぁ、そうか…。"欠片"のことも知ってるのか…。」男は声のトーンを落としながら、静かに呟いた。バシリアの言葉に、ライリは口角を上げる。「…ほんとかなぁ。」「…」
――――緊張感のあるやり取りを、チェリは家屋の陰から見守っていた。別の場所にもブローニャ達や、オレリア、サイ、ムダルが隠れている。ヴィマラは安全のため、シェルターへ避難させた。村人達とヴィマラ達の警護には兵士達をつかせている。数日前に実施した、作戦会議の内容を思い出す。
――――兵士達に見張りを任せ、村の講堂に集められたブローニャとヴィマラ達。バシリアがテーブルの上に村の地図を広げて説明する。「襲撃してくる人員が、ただの力を持たない一般人であれば対処も容易だろうが…。おそらく敵は、『神の力』を持つ人間を中心に構成員を集める筈だ。…もしかしたら、ライリもそこに参加してくる可能性が高い。」「…」ブローニャ達はデジャを見るが、デジャは地図に目線を落としたまま黙っている。「ライリはともかくとして、誰が、どういった『神の力』を持っているか皆目見当がつかない。敵と対峙した際は、まずそこを見極める必要がある。敵前に全員現れて、一網打尽にされては仕方がないからな。最初は私達特殊兵士部隊が前に出る。お前たちは物陰に隠れていろ。」「えっ!?あ、危ないんじゃないの…!?」「おいおい、大丈夫かよ…。」チェリとジタが心配そうな表情を見て、困ったように笑うバシリア。「私達は"対悪党組織"の"特殊部隊"の兵士だぞ。侮ってもらっては困るな。」そして再び真剣な表情に切り替わる。「私達が姿を現せば、奴らも事態を察するだろう。…それに、悪党組織に所属して、私達のことを知らない奴はいない。いくらか牽制にはなる筈だ。…それから、ヒルデとスーシャがどれほど情報を下ろしているかは知らないが、敵はお前たちの存在をまだ知らない可能性もある。そこを利用したい。」それを聞いて、オレリアがローザに問いかける。「あんたはいいのかよ?」ローザは、腕を組んで目を瞑り、黙ってバシリアの説明を聞いていた。目を開くと、睨み付けるようにしてオレリアを見た。「何を言っている?寧ろ当然の策だ。特殊部隊の私達が前線に出るのは当たり前だろう。お前達が背後から襲撃しなければ、何も問題は無い筈だが?」「!」ブローニャやヴィマラ達が裏切る予定なら、敵と挟み撃ちにして兵士部隊を襲うだろう。そんな可能性がある中でこの策に同意したということは、いくらかブローニャ達を信用しつつあるということだろうか。「…はッ、なんだよ。素直じゃねえな。」「勘違いするな。別にお前たちのことを信用したわけじゃない。勿論、全員前線に出すわけではないからな。」「あーあー、言ってろよ。」そんな2人のやり取りを、チェリが横目で見ていた。ローザの意思を再度確認した上で、バシリアは皆の方を向いた。「申し訳ないが、今回は命のやり取りになるだろう。油断はするな。容赦もするな。卑怯な手を使っても構わん。とにかく、自分の身と、仲間の身、そして村を死守することを優先しろ。出来れば生きたままの捕獲が望ましいが、それが困難だったり、危険性が高いようであれば、その時は殺せ。」「…!」―――その言葉を思い出し、ぶるっと身震いするチェリ。「(もしもの時は、やるしか―――…)」少し汗をかいている拳をぐっと握り締めると、二~三度深呼吸をする。そして目の前の光景に集中する。「(…それにしても…、あの子がライリ…。)」デジャの因縁の相手。「(…ただの女の子なのに…。)」そしてそれは他の子達にも言えた。白髪や金髪の少女なんて、どこにでもいるようなおとなしそうな子だ。「…」デジャの過去の話の時も思ったが、もしかしたら場所と状況が違えば自分があちら側にいた、なんてこともありえたかもしれない。そう考えると、彼女達に同情の気持ちが湧かないことも無かった。「(…でも今は、そんなこと考えてる場合じゃない…!!)」自分自身を奮い立たせて、チェリは再び集中に入った。「(私が躊躇したら、仲間がやられるかもしれない!!それは絶対に嫌!!!だったらもう、やるしかないんだから…!!)」
――――「…それでどうする。今すぐ武器を捨てて投降すれば、悪いようには――――」「…ッははは…」「!」俯いた男から聞こえた渇いた笑い声に、兵士達に緊張が走る。「随分と舐められたものだ。」そして男はゆっくりと顔を上げた。「ここにいるのは、我々のエースでな。」「!!」バシリア達は警戒を強め、陰で見守るブローニャ達も息を呑む。男の挑発にライリが続く。「面倒だから、さっさと終わらせよう。」その発言を契機に、バシリア達兵士は攻撃の態勢を整えるべく、自身の持つ剣や弓等の武器に手をかけた。だが、次の瞬間だった。「!?」「なんだ、これは…!」ローザが驚愕に目を見開く。剣を鞘から抜こうとするが、びくともしない。まるで空間に固定されたかのように、その場にがっちりと固められ動かない。バシリアはじめ、他の兵士達も同様だった。突然発生した事象に兵士達が困惑する中。茶髪の女が、後方にいる白髪と金髪の少女2人へと指示を出す。「フィリス、エスター。」「うんっ!!」それを合図に、金髪の少女が懐から一つのナイフを取り出し、地面に置いた。そのナイフに手を添えた状態で、横へスライドさせると、まるで手品のように、沢山の同じ形、同じ大きさの武器が出現した。「…!」
――――その光景を見て、チェリが思い出す。「(あれは…確か、前にバシリアが話してた…!)」"武器を増殖させる力"を持つ人間がいるとの話があったが、彼女のことだったのか。そう思ったのも束の間、その出現した無数の武器が宙に浮いた。「…!?」チェリはそれを見て目を見開く。「あれってまさか…、」そしてその浮いたナイフは、高速でバシリア達の方へ向かって飛んで行った。「(―――私と同じ力…!?)」しゃがんでいた体を咄嗟に立ち上がらせる。どうにかしないと、とは思うものの、今からナイフを飛ばしたところで、どの道間に合わない。
――――「――ッ武器は捨てて避けろッ!!」バシリアが振り返りながら叫ぶ。武器が動かない以上、弾くことは叶わない。それどころか、その武器自体が体を縛り付けて離さない状態だ。咄嗟に皆、武器や武器の納められた鞘、武器の入ったカバン等を体から外す。そして、高速で飛んでくるナイフを次々に避けていった。武装を外すのに手間取り、軌道を読み誤った兵士2人が負傷した。バシリア達も直撃こそ免れたが、あまりの武器の多さに避けきれず、いくつか体をかすめた。人や壁に当たらなかったナイフは、兵士達後方の家や木の幹へと突き刺さり、弾かれて落ちたものはその場で動きを止めた。避難したバシリア達は、先ほどまで自分達が立っていた場所を見て驚愕した。「…!」武器そのものや、武器が収められた入れ物が宙に浮いたまま停止している。異様な光景が広がっていた。だが、その光景に目を奪われるほどの猶予すら、敵は与えない。「――!!」残りの兵士を自ら仕留めようと、ライリが剣を片手にバシリア達の方へ向かって走ってきていた。空間に固められたままでは武器を回収することはできない。バシリア達は丸腰の状態だ。万事休す、と思われる状況だった。―――だが。「!!」走るライリを取り囲むようにして、四方八方からいくつものナイフや矢が飛んできていた。「…!?」それを見て、ライリだけでなく、茶髪の女始め、敵組織側の人間たちも目を丸くする。茶髪の女は咄嗟に、矢の飛んできた方向へと目を向けた。すると、屋根上で次の矢の準備をする兵士がいた。「…」
――――「…ッ…」その光景を見ながら、バシリアがデジャの言葉を思い出す。―――『ライリが一度に"固定できる"武器の数には、限度がある。ただそれが何本なのかは、私にもわからない。…あとは戦闘に入れば、目の前の相手へいくらか集中力が割かれるから、その分扱える数も減る筈だ。状況によって、数が増減すると考えていいだろう。』
――――そして物陰に隠れているチェリも、ナイフの操作に全力で集中する。「(もっと早くに動けていれば、負傷者を出さずに済んだのに…!)」ライリの力はデジャから聞いていたが、金髪と白髪の少女の力は計算外だった。だが、過ぎてしまったことは仕方がない。「(これ以上、負傷者は出させない……ッ!!)」
――――ライリの正面目掛けて飛んできたナイフが、もう少しで届く―――というところで、ライリは突如急停止した。その瞬間、ライリ目掛けて飛んできたナイフや矢が全て、その手前でぴたりと止まり、宙に固まった。同時に、バシリア達の武器が効力を失ったかのように、ガシャガシャと音を立てて地面に落ちる。それを狙っていたのだろう、バシリア達は即座に武器を拾い上げ、走り出す。―――顔から笑みを消したライリが、剣で周囲のナイフや矢を弾き飛ばし、力を解除した時だ。「!!」気づけば、バシリアが目の前で剣を振るっていた。咄嗟にバシリアの剣を宙に固定するが、「!!」またしてもナイフと矢が数本、ライリに向かって襲い掛かる。ライリはバシリアの剣の固定を解除しつつ、飛んできたそれを固める。そして、自分に直撃しそうなものだけを弾き飛ばして移動すると、バシリアの方向へ向かうものについては、固定を解除した。だが、そのナイフはバシリアをすれすれで避けて、そのまま宙を舞っていった。「(避けた…)―――!」視界の端から副隊長が斬りかかって来るのが見えたため、咄嗟に自分の剣で受け止める。そして、再び戻って来たナイフを宙に固めて、避けて跳ね飛ばした。
――――「(…ッなんて器用なの…!?)」あれだけの数の武器を、1本1本瞬時に判断して対応するだなんて。なんとかバシリアに当たらないように操作出来たものの、次も上手くいくかは怪しい。「(味方に当たらないように、って難しい…!)」チェリがナイフを操作し攪乱する中でも、ライリは集中力を崩さない。必要に応じてバシリアや副隊長から距離を取りながら、剣を避けて、受けて、固めてと対応していく。「(な…ッ、なんなの、あの動きと頭の回転…!?)」
――――「(なんという適応力…!)」バシリアはライリの脳の処理速度と、体の反応、そしてその柔軟さに驚愕していた。「(これで19か……末恐ろしいな……!)」これが、たった19年しか生きていない少女だというから驚きだ。「(ともかく、早いところケリをつけないと―――…!)」

バシリアが動き出したタイミングで、物陰に隠れていたブローニャやオレリア達も一斉に姿を現し、敵に攻撃を仕掛けていった。突然の急襲に驚きつつも、さすが精鋭揃いといった対応力を見せる敵たち。敵味方が入り混じる中、ムダルが敵のリーダー格と思しき男と剣を交えて戦う。「なんだぁ?お前ら。見たことねぇ顔だが…。」どう見ても兵士ではないムダル達に、違和感を覚える男。村人か?とも思ったが、どう見ても戦い慣れしている様子だ。「さあな。通りすがりの一般人だ。」「…言ってろよ。」
――――「……っ…えっと…、ど、どうしよう、エスター…、手伝った方がいいのかな…。」「…で、でも、フィリス…これだと仲間の人に当たっちゃうかも…。」白髪の少女――フィリスと、金髪の少女――エスターが、周囲で巻き起こる戦闘に戸惑っていた。仲間たちが先行して敵と交戦し始めたため、今のところは攻撃を受けずに済んでいる。だが、援護しようにも、この混沌とした状況の中では仲間に当たるリスクが大きすぎた。そんな中、2人を守るように佇んでいた茶髪の女が、どこかを気にする素振りを見せた。「どうするの?ヘル…。」判断を仰ぐため、フィリスは茶髪の女―――ヘルに問いかける。「フィリス、あそこだ。」「!うんっ!」フィリスはヘルの視線の先を見て、指示されるまま、躊躇なくナイフを飛ばした。ナイフは屋根上に向かって勢いよく突き進む。「ッ!!」そこには、弓矢を手にした兵士が潜んでいた。飛んできたナイフに気づくと、兵士は咄嗟にその場から逃げ出した。―――その直前に、反対側の屋根上にいたヘザーが、フィリスに狙いを定め、弓を引き絞っていた。「(あの厄介な女を早めにどうにかしねぇと…ッ!!)」チェリと似た力を持つ少女の存在を脅威と見なしたヘザーは、彼女達が向かいの兵士に気を取られている隙を狙って、矢を放った。だが、少女たちに届く直前、ヘルが瞬時に反応し、手にした短剣でそれを弾き飛ばした。「なッ…!?」居場所を悟られないよう注意しながら隠密に事を運んでいた。しかも、逆方向を警戒していた女は、こちらを見てすらいなかった。本来なら、反応できる筈がない。あの動きはまるで――――「!!」その時、ヘルが再びフィリスに指示を出すのが見えた。「やべッ…!!」ヘザーは先ほどの兵士と同様に、乗り出していた体を咄嗟に引っ込めると、屋根伝いに滑り下りながらその場から逃げ出そうとする。フィリスの放ったナイフは、ヘザーが先ほどまでいた場所へ、斜め上方向に向かいながら一直線に飛んで行った。ヘザーが梯子に手をかけて下りていく途中、頭上天高くに、3本のナイフが飛んでいくのが見えた。そのまま遥か先まで飛んでいくのかと思ったが―――「…!!」ナイフは上空で弧を描くと、ヘザーに向けて下降し始めた。「なッ…!」まっすぐ飛ぶだけではなかったのかと、慌てて逃げ足を早める。梯子を飛び降りて地面に着地すると、家の間を縫うようにして走り出した。―――だが、「…!?」ナイフは地面に近づくにつれて緩いカーブを描くと、その刃先をヘザーに向けて、更に追いかけてきた。「どういうことだよ…ッ!?」てっきりチェリと同じような能力だと思っていたが、これはどう考えても違う。あの少女の視界からはとっくに外れているというのに、依然としてナイフはヘザーを追ってきている。しかもその速度は、ヘザーの走るそれよりも早い。すぐにでも追いつかれそうだ。「クソッ…!!」家の間の狭い一本道。横道は無い。その時、ヘザーの脳裏に、先ほどのバシリア達の光景が思い出された。「だったら…ッ!!」ヘザーは飛び込むように地面にスライドすると、咄嗟に体を伏せた。ナイフはすれすれでヘザーの頭上を通り抜け、家と家の間の奥にある木の幹にぶつかり、止まった。地面に伏せながら、ぜーぜーと息を切らすヘザー。「クソッ…チェリに追われた敵ってこんな気持ちなのか…!」背筋がぞっとするような思いを味わったヘザーだった。
――――「(…フィリスと似た力を持った奴はどこだ…?)」ヘルはヘザーへの対処を済ませると、バシリア達と戦っているライリへと意識を向けた。想定外の攻撃になんとか対処しているものの、その傷は次第に数を増やしている。「(早いところどうにかしないと、流石のライリも―――…)」そうしてヘル達がライリや他の戦闘に気を取られている、その時だった。ローザが周囲の喧騒に紛れ、死角から距離を詰めていた。狙いはフィリスだ。子供だからと容赦はない。人影を利用し、できるだけ低い姿勢から剣を振るう。フィリスまであとほんの数M、というところだった。―――しかし、いつの間にか目の前に現れたヘルが立ち塞がり、ローザの剣を自らの短剣で受け止めた。ギリギリと刃が交差する。「…ガキを狙うなんて、どっちが悪党だかな。」どこか怒りを滲ませるヘルに対し、ローザは冷徹に返した。「すまないが、合理的な性格をしているものでな。」

隊長と副隊長、歴戦の兵士2人を相手に、ライリは一歩も譲らなかった。バシリア達は隙を狙って攻撃を仕掛けるものの、ライリの恐るべき処理速度と対応力の前に、深手を与えられずにいた。攻撃を繰り出しては止められ、避けられ、弾かれる。バシリアと副隊長が慣れない戦闘に苦慮している中、チェリも、何本ものナイフを操作しながら援護を続ける。武器を飛ばしてライリの注意を引き付け、2人の武器が固められれば武器を送る。だがそんなチェリも、敵味方が入り混じる中での武器の操作に苦戦し、連続した集中力を必要とされたことで疲労が蓄積しつつあった。そんな中、ナイフをあちこちに飛ばしたせいか、力の届く範囲内にある武器の数が少なくなる。そのため、手元の鞄を開いて追加の武器を取り出した。
――――「―――」ローザと交戦していたヘルが、何かに気づいた。「フィリス!」そしてローザとの戦闘の最中に、再びフィリスの名を呼ぶ。ヘルはフィリスの視線が自分に向いたのを確認してから、とある1点を指差した。「あの家の物陰だ、追え。」「…!」戦闘の最中、ヘルはその方向を一切見ていなかったことに、ローザは気づいていた。「わかった!」そしてフィリスは、金髪の少女を連れて走り出す。ローザが2人を阻止しようと動き出すが、ヘルがその行く手を阻んだ。「さて…さっさと終わらせるぞ。」「…舐めたことを…。」
――――「(敵も、体力と集中力を消耗している筈だ、今ここで叩かなければ―――)」そう思いバシリアがライリに向かって攻撃を仕掛けに行った時だった。ライリは笑みを深くして、「…慣れてきちゃった。」とぽつりと呟くと、咄嗟に体を横にずらす。「……!!」そこには、チェリが何手か前に放ち、宙に固められたままだった2本のナイフが。「!!」それを見て目を丸くするバシリアとチェリ。いつからそこにあった?まさか、ずっとタイミングを狙って、固めてあったということか?そんなことを考える暇もなく、力を解かれたナイフが高速で動き出す。その時、バシリアの脳裏に再びデジャの言葉が過った。―――『ライリの力は、ただ空間に武器を固めるだけじゃない。空間に固められる直前の、武器の動きも残るんだ。武器に対してかけられていた負荷や運動といった"エネルギー"が、そのまま残るといってもいい。つまり―――』―――「(チェリが動かそうとしていた軌跡も残る…!)」これまでの戦闘の記憶が一瞬で甦る。ライリは幾度もそれを利用しようとしていた。攻撃を、逆手に取られたのだ。スローモーションになる視界の中、ナイフがバシリアの元へと迫っていた。チェリもそれを制御しようとするものの、動く物体に対してのそれはすぐには効かない。あと1M、というところだった。バシリアの前に副隊長が現れ、庇うようにして、背中にナイフが刺さった。その場に崩れ落ちる副隊長を、バシリアが咄嗟に受け止める。「イアンッ…!!!」「……ッ…!」背中のマントに血が染み出ていくのを見て、青ざめるチェリ。「う…っ、嘘っ…!ちょっと待っ…ッ!!」このままでは2人とも危ないと、咄嗟にナイフでライリを食い止めようとした時だ。ハッと何かに気づく。「!!」同時に、バシリアもライリの目線に気づいた。「(まさか―――)」次の瞬間、バシリアの背後からその肩口に、ナイフが突き刺さった。後方にも、同じ仕掛けがしてあったのだ。「……ッ…!!」「バシリアッッ!!!」直後、バシリアの目の前にライリが迫っていた。バシリアは咄嗟に、副隊長を庇うように身を乗り出し、肩口の痛みを抑えながら剣を振りかぶる。―――が、当然剣はその場で固められた。そして―――ライリの剣は、バシリアの胸元を斜めに切り裂いた。チェリの放った数本のナイフは、ライリのすぐ横で全て止められていた。バシリアは宙に固まった剣を手放すと、その場でどさりと膝立ちになる。「………ッッ…!!」目の前の惨状を見て、チェリは喉がつかえたように、声にならない悲鳴を上げる。同時に、体温が急速に冷える感覚を覚えた。―――とにかく数を、とにかくバシリア達へ攻撃の隙をとナイフの操作に必死になって、固められた方に対する意識が疎かになっていた。「(自分に当たるリスクがあったから、最初の内はナイフを弾いてたんだ。)」ナイフを宙に浮かす、フィリスと似た謎の『神の力』―――その正体がわからなかったライリは、迂闊に攻撃に転じるのではなく、まずは防御に注力しながらその本質を探っていた。やがてその性質や動き、操者の癖が読めてきたライリは、こっそりと一部のナイフを固めたままにし、この作戦に打って出た、というわけだ。最初に武器を弾いていたのも、全てはこの時のためのカモフラージュだった。「………ッ…!!」一手二手と先を取られていたことに絶望するチェリ。あれだけの対策を打ち、ここまでやっておきながら、その結果が隊長格の兵士2名の負傷。「(…こんな相手、勝てるわけ―――…)」その時だった。チェリは、自分がいる方向に向かって、白髪と金髪の少女2人が駆け寄ってくるのが見えた。そして、直後に数本のナイフが飛んできたのを確認する。「!!」それにバシリアも気づく。「――ッ逃げろ、チェリ!!」血を流し、息を切らしながら叫ぶバシリア。だが、こんな状況でバシリア達を置いては行ける筈がない。「バ…ッ!!」「早くッ!!!」「……ッ!!」躊躇するチェリの視界の端に、動くものが見えた。「…!!」それでもまだ迷うチェリだったが、やがて意を決すると、咄嗟に後方へ向かって走り出した。少女2人はその後を追いかけて行く。その背中を見届けたバシリアは、副隊長を抱えながらライリに向き直る。目の前では、笑みを深くしたライリが自分達を見下ろしていた。「…いなくなっちゃったね。」「………ッ…」…まさか、チェリをどうにかできるまで時間稼ぎをしていた…?タイミングを見計らって仕掛けるつもりだったのか?死角に隠したナイフといい、あれほど錯綜した戦いの中での計算し尽された行動に、バシリアの背筋がぞっとする。バシリアがその底知れなさに圧される中、ライリの手が動き出すのが見えた。だが、バシリアの腕はもう上がらない。そんなバシリアに対し、容赦なく攻撃を仕掛けようとしたその時だった。「!」背後に気配を感じたライリが咄嗟に振り返る。直後、背後から現れた人物が放った剣撃を、ライリが剣で受け止めた。ライリに向かって行ったのは―――「デジャだぁ…っ…!!」その顔を見た瞬間、ライリの表情がぱあっと明るくなった。それはそれは嬉しそうな顔でデジャを迎えるライリ。「……ッ…!!」ギリギリと容赦ない力で圧してくるライリに、デジャは眉間の皺を深める。チェリの邪魔になることを避けたかったこと、長年共に戦って来た隊長・副隊長の連携を邪魔しては逆効果かと思い、今の今まで手を出してこなかったデジャ。だが、他の敵を片付けた直後、仲間達の惨状を目にして、本能的に体が動いた。「……ライリ…ッ…!」バシリアとイアンの傷を見て怒りで熱くなるデジャに、ライリは興奮したように顔を近づけていく。久々に会えた嬉しさからか、そんなデジャの表情には気を留める様子もない。「デジャ、ずっとずっと会いたかったんだよ?どうしていなくなっちゃったの?どうしてこの人達と一緒にいるの?ずっとずっと――……私…寂しかったんだよ?」「…ッ…!」その時だった。ライリの背後から、1人の兵士が攻撃を仕掛けてきていた。負傷した仲間を避難させた兵士が戻ってきたのだ。到着してみれば、自分の隊長と副隊長がボロボロに負傷し、敵はデジャと交戦している。ライリはデジャに執心という事前情報もあった。デジャに夢中になり、自分に対し背を向けている敵に対して、自分が今、ここでやらなければ、と思った兵士は、自らの持つ剣を大きく振りかぶった。―――だが、男の剣は、ライリに当たる直前で宙に止まった。「!!やめ―――…ッ!」その後起こった出来事に、デジャは驚愕する。デジャの短剣は、ライリの剣の重みを受け続けている。にもかかわらず、その圧力が変わらないまま、ライリの剣は短剣から離れていった。その直後、ライリは素早い動きで兵士を切りつけた。それを見た瞬間、デジャは自分が手にしていた短剣を離すと、丸腰でライリに飛びかかっていった。「!」ライリは瞬発的に反応し、デジャの拳を受け止める。どこか嬉しそうな顔をするライリと、眉間に皺を寄せたデジャが再び対峙した。「(…ライリと直接やり合ったことが無かったからわからなかった…。…空間に固められる直前の動きが残るのは知っていたが、まさか受ける側もだなんて……!)」ライリの力を己で体感し、想定以上に厄介だと悟ったデジャ。そんなデジャに、拳を握ったまま再び顔を近づけるライリ。「…ふふ、どうしたの?デジャ。びっくりした?私もね、いろいろ頑張ったんだよ。さっきのもすごかったでしょ?」「…ッ…」得意げに話すライリに冷や汗が流れる。チェリが助太刀しても、バシリア達という歴戦の兵士が相手にしても、勝つことができなかった。流石のデジャも、ライリのその底知れぬ強さに慄いていた。そしてその感情は、ライリの側にも悟られていた。「焦ってる?―――……可愛い…。」うっとりとしたライリの表情に、背筋がぞっとする。だが次の瞬間、ライリは顔を俯かせると、その笑みを消した。「…ねぇ。どうしてあの人達と一緒にいるの?」「…ッ…」先ほどと同じ質問だ。そしてデジャが答えないでいると、ギリギリとその握る手の力を強くしていく。「……どうして、私のこと置いて行ったの…?」「……ッ…!」その言葉がナイフのようにデジャの心を刺す。その時だった。ライリは素早い動きでデジャの腕を取り、その体を引き倒した。「なッ……!!」そして自分の剣でデジャの服の脇部分を貫くと、地面に固定した。「…!!」そしてデジャに顔を近づけながら、優しく呟く。「ちょっと待っててね、デジャ。」「待ッ…!!」咄嗟に手を伸ばすが、ライリはその手をすり抜けて走り出した。剣をどかそうとするがびくともしない。ライリは、先ほど空間に固めた兵士の剣に触れて、力を解除すると自分のものとした。そして、向かってくる兵士に相対する。振り下ろされた相手の剣を止めて、斬りにかかる。兵士はそれを避けて後退すると、周囲に落ちたナイフを拾おうと屈んだ。が、「!」固まっていて動かすことができない。再びライリからの攻撃を避ける。対抗しようにも、剣の腕に長けたライリ相手では、丸腰の兵士にはどうすることもできなかった。何度も繰り出される剣撃を避けながら攻撃の隙を窺うが、ライリの剣の射程から近づくことは叶わない。散乱した足元の武器を拾おうとしても、手に取れるものはなかった。次第に兵士の動きは鈍り、ついにライリの剣が兵士を貫いた。「………!!」デジャは引っ張っていた服をようやく破り切ると、周囲に落ちていたナイフを手に取って走り出す。ライリは兵士に向かってとどめを刺そうとしていた。それを見たデジャは、腹の底から叫ぶ。「やめろ、ライリッ!!!」デジャの必死な声に、ライリは動きを止めると、再び顔から笑みを消した。そして振り上げた腕を下げると、ゆっくりとデジャに振り返った。「…ねぇ、どうして?」「…!」その時のライリの表情は、恨みとも怒りとも―――悲しみとも取れない様子だった。「私より、この人達の方が大切だから…?」「…ッ…!」そして拳を握りしめて、顔を俯かせる。「…ずるいよ。…デジャは、私の友達だったのに…私だけの………っ…、」その言葉にデジャは思わず立ち止まる。そしてごくりと唾を飲み込んだ。「(……私が、置いて行かなければ…)」老夫婦やブローニャ達と過ごした日々が過る。自分がそうであったように、もしかしたらライリにとっても違う道があったのかもしれない。ライリがここまで、手を血で染めることなどなかったかもしれない。ヘザーが仇を殺さずに済んだように、もしかしたら―――…。だがその思考は、ライリの低い声によって遮られた。「私の友達じゃないデジャなら、―――…殺しちゃおうかな。」「……ッ…!!」そして顔を上げたライリは、酷く疲れたような顔で笑っていた。「…デジャを殺して、私も死ぬ。そうすれば離れることもない…、ずっと一緒にいられる…!…そうだよね、デジャ……!」その様子に、やはり殺人鬼は殺人鬼だと、先ほどまでの考えを思い直した。「……ッイカれてんのか…!」だが、デジャのその言葉に、ライリは力が抜けたように笑う。「…ッふふ。…わかってるでしょ?」「…!!」そして目を伏せながら呟いた。「…イカれてなきゃ、…こんなところで、…こんなことしてないよ…。」「……ッ…、」その様子は、どこか寂しそうで、辛そうで。ライリの素が垣間見えた気がした。デジャは一層、目の前の少女がわからなくなっていた。…だが、ライリが自分に執着していることが確定した以上、すべきことはただ一つ。「……やるなら、2人きりでやろう。」「……へぇ…?」どこか探るような目つきのライリをまっすぐ見つめ、はっきりと告げた。「他の奴の邪魔が入らないところで、2人で。――…お前だって、その方がいいだろ。」デジャの性格を理解しているライリは、デジャのその提案が、味方に被害が及ばないようにという配慮の元にされたものであると見抜いていた。だが"2人きりで"、という魅惑的な言葉に惹かれたライリは、それを承諾した。「…しょうがないなぁ、デジャは。…いいよ。乗ってあげる。」デジャの提案に乗ると、冷たい目で笑うライリだった。

それよりも少し前。ヘルと交戦するローザの姿があった。何度かヘルと剣を交える内に、ローザの中で疑惑が確信に変わろうとしていた。ローザが繰り出す剣撃は、全てヘルにいとも容易く防がれ、避けられる。その動きはまさに、ローザがそうすることを"予め見越している"ようだ。「(あの例の女が言っていた、『神の力を持つ"女が6人"』という言葉――――)」それは間違いなく、目の前の女もそこに含まれていることを示していた。「(全くこいつも厄介だ…。)」なんとか虚を突こうと、経験則で会得した技術や戦法を駆使し、手を変え品を変えて攻撃を試みる。だが、なかなかどうして決まらず、すべて容易く受け流されてしまう。『神の力』だけではない、女自身も相当の訓練を積んできたのだろう。隊長格であるローザに対し、隙の無い動きを見せてくる。「(くそ…!体力勝負に持ち越す前に、どうにか―――)」だが、その時だった。「!」ヘルが攻撃を仕掛けようとしてきたため、反撃しようとローザは構える。が、それを見越していたかのように、ヘルは咄嗟にその向きと角度を変え、不意を突くかのように、高速で繰り出してきた。「(フェイントか―――…!!)」斜め下から振り上げるような剣裁きに、ローザの脇腹が切り裂かれる。「……ッ…!!」即座に後退し、距離を取るローザ。息を切らしながら、切りつけられた脇腹を押さえ、ローザはヘルを睨み付け笑う。「…やはりお前…ッ…、"見えて"いるな…!!」対して、無傷でまだ余裕のあるヘルは冷静に返した。「…なんのことだ。」そして互いに相手の出方を伺う2人。「(…全く、情けない限りだ。)」抑えた手元をちらりと見ると、血で真っ赤に染まっていた。想定より出血がある。自分よりいくらか若く、経験の浅いだろう女に傷を負わされたことは、ローザのプライドが許さなかった。だが、今はそんなことよりも。「(バシリアが深手を負った今、私までこんなザマでは――――)」ちらりとヘルの背後を見ると、ライリとデジャが移動する背中と、バシリアが兵士達に担がれ一時避難する光景が目に入った。「―――…」バシリアと目が合う。「(…わかっている。)」お前自身が感じる悔しさも、不甲斐なさも、十分わかっている。特殊部隊の隊長として、部下達を引き連れてこの戦場に臨んだ以上、ここで勝たねば部下にも仲間達にも申し訳が立たない。何よりここで自分がやられては、誰がこの目の前の女を倒すというのか。「―――…」息を整え、剣を握り直すローザ。
――――「(…流石隊長格といったところか。)」ローザがすぐに動き出さないところを見て、想定したよりも刃が深く入ったと確信するヘル。反則紛いな『神の力』相手にも関わらず、それを上回るような、ローザの咄嗟の判断力と瞬発力に吃驚していた。他の兵士であれば、とっくに仕留めているところだ。「(だが、これでこちらの方が一枚上手になった。)」さっさとケリをつけようと、ヘルが再び剣を構えたその時だ。「!」2人の間に、ある人物が割り込んできた。「…お前…!!」「真剣勝負に割り入ってしまってすまない。だが、ローザ隊長。後は私に任せてくれないか。」ヘルに体を向けながら、顔だけローザに振り返り進言した人物、それは―――ブローニャだった。「何…ッ!?」案の定怒りを滲ませるローザに対し、ブローニャは冷静に告げる。「…私も兵士だからわかる。バシリアが負傷した今、あなたにもし万が一のことがあれば、仲間達の士気に関わる。」それはローザも十分に理解していた。だが、目の前の女からそれを言われたことが気に食わず、つい反論してしまう。「…お前…私がやられると…、」「思ってはいない。だが、奴が侮るべき相手ではないことも確かだ。」ブローニャも戦闘の合間に、ヘルとローザの戦いを気にしながら、その動きを見ていた。「…!」「ローザ隊長。私も奴と同じ、『神の力』を持っている。この場は私に預けてくれないか。」「…」その時ローザは、ブローニャが自分を隊長として立てつつも、場を引き継ごうと慎重に言葉を選んでいるのを理解した。そして周囲の戦況を確認する。敵味方共に、数名の負傷者がいるのが見えた。他の場へ移動し、戦闘を繰り広げている者達もいるのだろう。ローザは、再び自分の傷の具合を確かめた。「…」自分が『得体の知れない』とした目の前の女は、この状況を理解し、自ら厄介な敵の相手に名乗りを上げている。仲間のため、目的のため。ローザは、これ以上自分が反論するのは、見苦しいことだと悟った。ローザは剣を持つ腕の力を緩めると、それを下ろした。「……お前に指示されるのは癪だが、仕方ない。」「!」そしてブローニャの目をまっすぐと見て言い放つ。「……頼んだぞ。」ブローニャもそれに対し、真剣な表情で答えた。「…任せてくれ。」
――――その数分前。敵の男数名と交戦していたブローニャとオレリア達。デジャやローザの方を気にかけるブローニャの様子に、オレリアも気づいていた。目の前の男達を片付け、ようやく他の仲間達の加勢に行ける、といった時だった。森の奥から、新たに数人の男達が現れた。「なッ…!」ブローニャ達が驚いていると、そのリーダー格と思われる男が呟く。「おいおい…もうおっぱじめてやがるぜ。…俺達が到着するまで待ってろって言ったのによ…。」呆れたようにそれぞれが武器を取り出す。「…ッ…!」ブローニャ達も剣を構えたその時だった。背後から、剣を交える音が聞こえなくなったことに気づく。振り返ると、ヘルの攻撃を受けて負傷するローザの姿があった。「…!」それを見て迷うブローニャに対し、オレリアが呼びかける。「ブローニャ。」「!」「こっちはおねーさん達に任せな。」バッとオレリアを見ると、そこには頼もしい、強気な笑みを浮かべるオレリアの姿があった。「さっさとあのクソ女のところに行って来い。」「!――…だが、」最初は兵士とデジャがいたから対処できたものの、2人はバシリアの助太刀へ行ってしまった。ムダルがリーダー格の男と対峙し続けている今、自分が抜けては、ここにはオレリアとサイしか残らない。対して敵は5人ほど。だが、そんな不安を払拭するように、サイとオレリアは自信満々に告げる。「俺達は大丈夫だ。侮ってもらっちゃ困るな。」「私らはそう簡単にやられねぇよ。」「―――…」2人の笑みに、ブローニャも腹を括る。「…ありがとう。―――…任せた!」そう言ってブローニャは走り出した。「おいおい舐めてもらっちゃ困るぜ。」敵側の男が話し出したため、振り返る2人。「はっ、やるしかねぇだけだ。―――おら、かかってこいよ!!」男達に対し威勢よく啖呵を切るオレリアだった。

「うっっわ、やば~~…。あんなのに巻き込まれたら一溜りもないって…。」こげ茶の髪色をした少女が、焦った様子で家の合間を縫って走っていく。「(サンドラもいなくなってたし…。私も皆が戦ってくれてる間に、こっそり欠片探しに行くかだなー…。)」そう言って角を曲がった時だった。「あ?」「へ?」フィリスの剣から逃れ、戦場に戻ろうと移動していたヘザーと鉢合わせる。咄嗟に距離を取る女。「あんたさっき屋根上にいた…っ!」「…」自分を指差しながら叫ぶ女を、黙って観察するヘザー。「(…こいつ、どう見ても戦い向きじゃねぇな…。)」自分が言うのもなんだが、どこからどう見てもただの普通の少女だ。先ほども、戦闘に特化した集団の中に、この少女が紛れていることに違和感を覚えていた。こんなところで単独行動をしている様子を見ても、抜け出してきたに違いない。「…お前、名前は?」「はあっ…?…グレンダだけど…、」「そうか。あたしはヘザー。―――なぁおい。降参して投降すれば、何にもしないでやってもいいぜ。」その情けとも取れるヘザーの言葉に、グレンダはぴくりと眉を動かす。「はぁ?――…馬鹿にしてんの…?」明らかに不機嫌になった彼女に対して、ヘザーは敢えて追撃をする。「だってどう見てもお前、戦えそうにないだろ。ここまで来たのだって、逃げて来たんじゃねぇのか?」「ふ…ッ、ざけないでよッ!!単に皆が戦ってる間にできることやろうとしてただけだし!!あたしだってやればできるんだからッ!!」「へぇ~?ほんとかよ。」ヘザーが小ばかにしたように笑うと、グレンダの怒りのボルテージが上がる。「このッ…!!」だが、グレンダはふと冷静になる。人のことを言うが、ヘザーの方だって見た目からして戦えるようには見えない。それに気づくと、お返しとばかりに言い返してやった。「あんただってそんなナリで人のこと言えるわけ?現にあんたもここにいるし!あたし相手だからって舐めてかかってるみたいだけど、本当は怖くて逃げて来たんじゃないの~?」「あぁ!?」思った通りに反論してきた。「あたしのどこがそんな弱そうに見えるってんだよ!!」「え~~なんだろ~~そのダッサいファッションとかぁ~~?」「はあッ!?人のこと言えんのかよ!?そもそも旅にファッションなんて関係ねえだろうが!!」「うっわ!女としてありえないんだけど!そんなだからこんな口悪くて野蛮に育っちゃうわけ~~?」「はっ!戦うのに一々服だ見かけだ女らしさだそんなの気にするなんて馬鹿じゃねぇの!通りでお前頭悪そうなわけだな!」「はあッ!?ちょっとあんた!!今一線超えた!!!サイテーッ!!!絶対許さない!!言っとくけどあたし、絶対あんたより頭良いわよッ!!」「はっ!口でなら何とでも言えるけど、どうだかな!だったら見せてみろよ!!」「舐めたこと後悔させてやるわよ…ッ!!」そうして2人、武器を取り出し向かい合う。最終確認といった風に、グレンダが真剣な顔で静かに問いかける。「…悪いけど、本当に容赦しないからね。"欠片"さえ渡せば、見逃してやってもいいのよ。」その言葉に、ピクリと反応するヘザー。そしてさっきまでとは違う、怒りの感情を纏う。「……誰が渡すか……ッ…!!」「…!」姉が命を落としてまで守ろうとした欠片を、どうして悪党等に渡してやるものか。ヘザーの真意はわからないものの、確信をするグレンダ。「……やっぱり、あるんじゃない。」そうして2人は同時に駆け出していった。


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