戦闘を終えた仲間達が、続々と講堂に集結していた。護衛についていた兵士や避難していた村人達が総出で、敵味方全員の治療に当たる。こうなる場合に備えて、ローザは近場に住むという凄腕の医者を手配し、近くの町の兵士達の応援も呼んでいた。バシリア達兵士やその仲間は講堂で、敵組織のメンバーは別の場所で手当てを受けている。一足先に講堂に到着したヘザーは、手先が器用だという村人の女性に手当てをしてもらっていた。そこへ、ふらりと何者かが近づいてくる。「!チェリ…!」そこには、へとへとになったチェリの姿があった。その体は傷だらけだ。「もうあちこち痛い~~~~!!疲れたぁ!!頭痛い~~!!!」わんわん喚きながらヘザーの前に佇む。「……大丈夫そうだな…。」いつもと同じ調子でほっとしたヘザーに対し、「全然大丈夫じゃないわよ!!」とチェリが怒鳴る。「見てよこれ!!ナイフぶすり!!めちゃくちゃ痛い!!!しかもすごい頭痛するの!!!」「わかったわかった。」見かねた兵士がチェリの治療にあたる。―――大人しく治療を受けながら、隣に座るヘザーの怪我の具合を見るチェリ。「……あんたもやられたのね…。」「あ?あぁ、これ?んな大したことねぇよ。軽い切り傷だ。」「そう…。なら良かったけど。」「…で?その傷を負わせた相手は?」「別の兵士に引き渡したわよ。……あの女の子達2人。」「あぁ、お前と似た力の。」「そう。……やっぱり、悪党側にいる子と言えど、ああいう子を怪我させるのは―――…ちょっとクるわね…。」「…あぁ…。」「あんたは?」「あたしは―――…なんか、お前に似た女とやり合った。」「ふーん…。私と似た女…?」「結構やる奴だったぜ。」「その割には軽傷ぽいわね。」「まぁな。力の相性があたしに都合が良かったってだけだ。」「そうなんだ、ラッキーじゃない。」「だな。」「…そういえば、他の皆は?」チェリはあたりを見回すが、兵士とヘザー以外、見知った顔を見かけないことに不安を感じていた。その問いかけに、ヘザーの顔に少し陰りが帯びる。「…ローザは治療を受けたらさっさとどこかに行っちまった。…バシリアは…結構重症だったっぽいから、医務室でちゃんとした治療を受けてるらしい。」「!……そっか…。そうよね…。」あの時の光景が、チェリの脳裏を過る。あれだけの怪我を負っているのだ、当然だろう。「大丈夫だって。命に別状はないらしいからさ。―――…お前のせいじゃねぇよ。」「!……」チェリの表情を見て、その心情を察したヘザーが優しく告げる。―――その時の光景は見ていなかったものの、チェリはバシリアの援護をしていた筈だ。そのバシリアが大怪我を負ったということは、作戦が失敗に終わったということを示していた。「………正直、私は私のベストを尽くしたと思う。」「!」「…でも、それでも足りなかった。…ってことは、私の実力が足りなかったってこと。…バシリアが死ななくて良かったけど、デジャが乱入してくれなければ―――…相手が違えば、もしかしたら、ってこともありえたかもしれない…。」「…」「…私、もっともっと…強くならないと……。」もう誰も、傷つかないように。そう思いながら、真剣な表情で拳を握り締めるチェリ。そんなチェリを見て、ヘザーの瞳が揺らぐ。「(…お前…なんだよ…。…かっこいいじゃん…。)」チェリの年上らしさを見たヘザー。いつか見ていた幼げなチェリは、いつの間にか年相応に成長していた。いや、もしかしたらそれ以上に―――…。感慨にふけるヘザーを、決意がまとまったチェリが見る。「…他の皆は、まだってこと?」チェリの言葉に、ヘザーは再び不安げな表情を浮かべる。「……あぁ。」その言葉に、チェリの中で不安が膨らむ。何より、ライリと1対1でやり合ったというデジャの身が心配だった。あの強さに、旧友という立場もあり、尚更やりにくいのではないかと。ブローニャやジタ、オレリア達の姿が見えないのも気がかりだ。「!」その時、ヘザーが講堂の入り口を見て何かに気づく。チェリもつられてそちらを見る。「!――…デジャ…!」いつもの上着を手に持ちながら、こちらに歩いてくるデジャの姿が見えた。「!ヘザー、チェリ…!」2人の姿を見つけたデジャが駆け寄ってくる。ぱっと見、体にはいくつかの切り傷が見えるが、その様子は元気そうだ。「…良かった、無事で…。」心底ほっとしたような表情でデジャが呟く。2人も咄嗟に立ち上がって叫ぶ。「こっちの台詞だぜ!!心配したんだぞ!!」「ほんとよ!!大丈夫だったの!?」「あぁ。私は大したことない。」
2人でデジャの体をじろじろと見て、嘘でないことを確認すると、ようやく安堵するのだった。「……ライリとは、どうだったの…?」チェリが問いかけると、ヘザーがやはりそうか、という顔で見る。あの場にライリがいて、デジャが相対しないわけがなかった。その問いかけに、デジャはふっと笑った。「…取り敢えず、ケリはついた。」「!」その顔はどこか、すっきりとしたような顔をしていた。何か枷が一つ、外れたような。「……会えて…話せてよかった。次会う時はきっと、対等に話ができる。」そのデジャの言葉に、ヘザーもチェリもゆっくりと微笑んだ。デジャの中で、何か区切りをつけられたのだと悟った。「…そっか。」「なら、良かったな。」友人としてそれを嬉しく思う2人。そんな2人の表情を見て、デジャもまた表情を和らげるのだった。「おっ、いたいた。」声がした方を見ると、ジタとサイ、ムダルが、入り口から入ってこちらに歩いてくるのが見えた。「ジタ!サイ、ムダル!」チェリ達3人の表情が更に明るくなる。サイ達も、3人の姿を見つけて安堵したような表情を浮かべた。「お前ら…無事で何よりだ。」「あははっ!お前らもな!大丈夫だったのか?」「危うく村を焼け野原にするところだったが、まぁなんとかなった。」「何してんの!?」そう言って笑った後だった。「そういえば、オレリアは?」ヘザーの問いに、サイ達の表情が僅かに暗くなる。「オレリアは…無事ではあるんだが、そこそこ深手を負っててな。今、治療を受けてる。」「!そうか…。」「でも大丈夫だ。あいつは殺しても死なない奴だからな。…安心しろ。」ムダルがフォローするものの、不安を拭えないチェリ達。そしてふと気づいた。「…ねぇ、ブローニャは…?」仲間達が集結し、それぞれの安否も分かった中、ブローニャだけが所在が不明だった。それを聞いたジタの顔が曇る。その様子にチェリ達が気づく。「ねぇ、ブローニャどうしたの…!?」チェリ、ヘザー、デジャの不安げな顔を見て、ジタが重い口を開いた。「…ブローニャは――――」
――――村の一室を借りて、ベッドで横になるブローニャの元へ、ローザが現れる。「…具合は……――あまり良くないみたいだな。」「…大したことはない。」顔が上気し、汗をかいてだるそうなブローニャが、体を横たえたまま首だけローザの方を向いて答える。「…そんな時に悪いが、少しだけ話をしてもいいか。…いずれ準備が整い次第、奴らを輸送しに出る。今しか時間が取れないもんでな。」「…大丈夫だ。」ブローニャの返答を聞いて、ベッド脇の椅子に腰をかけるローザ。「…まずは、これまでのお前たちへの非礼を詫びよう。」「!」「…"慎重に対処していた"…と言えば聞こえはいいが、私は億病になり過ぎていただけだ。」「…」「ここ数日のお前達の様子を見ていて、考えを改めた。……折角の貴重な協力者を―――そして戦力を、みすみす逃すところだったと。」ローザの素直な吐露に、ブローニャが力無く答える。「…いや…無理もない…。…私も、あなたと似たところがあるから…よくわかる…。」「!」「……私だって、最初の暫くは…ヴィマラ達を信用できなかった…。…それも…チェリ達が大切が故だった…。――…あなたにとってのそれが…兵士や民達なんだろう…。…だから、気持ちはとてもわかる…。」「…」そしてふっとブローニャは微笑んだ。「…でも、あなたがそう思ってくれるようになったのは……ありがたい。…素直に、嬉しく思う。」そんなブローニャの笑みを見たローザは、暫くして微笑み返した。「…バシリアのおかげだな…。」「…あぁ。まっすぐで熱いのが、あいつの良いところだ。」「……そういえば、バシリアは…。」「…大丈夫だ。今は少し眠っているが、治療は上手くいった。」「…そうか…、良かった…。」ほっとしたような表情を浮かべるブローニャを見て、ローザは顔を引き締める。「…今日のことは、感謝する。」「!」ブローニャはそれが、戦いを代わってくれたことに対する礼だとすぐに理解した。そしてローザは、まっすぐな眼差しで言葉を続ける。「…お前は、立派な兵士だ。」「……!」ローザのその表情と言葉に、ブローニャは胸の奥からこみ上げてくるものを感じた。実力と行いを認められるということが、これほど喜ばしいことなのかと。まさに、兵士冥利に尽きる、と思わせた。「…あぁ。」そうしてブローニャも、口元を綻ばせるのだった。―――その時だった。「ブローニャッ!!!」ブローニャ達のいる病室にチェリ達が駆け込んできた。チェリは部屋の中の光景を見て、思わず手で口を押さえながら、息を呑む。まさかブローニャのところにローザが来ているとは思うまい。「おい。病室では静かにしろ。」「ごっ…、ごめんなさい…。」隊長らしく叱責するが、ふっと顔を緩めると、ローザはその場を立ち上がった。「話は済んだ。…大事にしろ。」「……ありがとう…。」そして、きびきびとした動きでブローニャの元を立ち去るローザ。やがて、チェリとヘザー、デジャの目の前まで来ると、ぴたりと立ち止まった。まさかの行動に、チェリ達がびくりと肩を跳ねさせる。ローザは相変わらずの鋭い眼光で3人を見定める。そして―――「お前達も、よくやった。」「へ…?」それだけ言うと再び歩き出し、3人の間を通り抜け、部屋を出て行った。その去った後を、呆けたようにしばしぽかんと見ていた3人だったが、はっとブローニャのことを思い出すと、慌てて駆け寄っていった。「面会していいって聞いて…!!」3人共心配そうにブローニャの顔を覗き込む。それを見て思わず笑うブローニャ。「…なんだ、大げさだな…。」「大げさにもなるだろ…!!…結構な怪我して、高熱も出てるって聞いたし…!!」「……大丈夫なのか…?」3人の不安そうな顔を見て、ブローニャは微笑む。「…多分…疲労が溜まってたんだろう…。……それより…、」一番近くにいたチェリの頬に手で触れる。その体温を感じて安心するブローニャ。「チェリ…ヘザー…デジャ…。…無事で本当に良かった……。」心から嬉しそうなその顔に、皆何も言えなかった。チェリは泣きそうな顔で、その手に触れた。
次の日。「…お前、もう動いて大丈夫なのか。」デジャは、傍らに立つバシリアに問いかける。2人の目の前では、兵士達に拘束された敵組織の面々が、荷馬車に向かって連れられていた。「私にとってみれば、この程度なんてことはな―――…ッ…!!」元気だとばかりに大声でアピールするバシリアだったが、それが傷口に響き、痛みに悶えた。「…言わんこっちゃない…。」呆れたようにその様子を見るデジャ。「あはは…。…まぁ、あとは移動だけだしな。ローザもイアンもいるし、何とかなるだろう。」「そのイアンも…、まだ本調子じゃないだろう。」「まぁな。…だが、一刻も早く輸送したい。悪党達がここを襲撃してくる可能性もゼロじゃないからな。さっさと本部に連れて行って、保護の上、話を聞き出したいのもある。」「……あいつらはどうなるんだ?」デジャの問いかけに、バシリアは真面目な表情で答える。「…聴収した後は、王国の刑務所へ収監だろうな。」「…」デジャの心配そうな表情を見て、バシリアは口元を緩めた。「…なに。心配するな。彼女達の場合、年齢と境遇を考慮すれば、情状酌量の余地有りだ。ゆくゆくは保護観察になる筈だ。」「!……そうか…。」「ある程度整理がつけば、面会も出来る。…会いに行ってやるといい。」「…」その言葉に応えずにいると、やがてライリが現れた。髪を下ろしたライリは、どこかしおらしげだった。バシリアとデジャの姿を見かけると、引率する兵士の了解を得て、近づいてくる。そして、2人の目の前まで来ると、ライリはバシリアに頭を下げた。「………ごめんなさい…。」「…」「…兵士さん達と、…あなたと…副隊長さんと…。…それから、いろいろ…。」今までの行いを詫びるライリ。当然、そんな謝罪如きで許されるはずもない。だが、俯くその表情からは、これまで見ないようにと避けてきた己の罪に真っ向から向き合い、どっと押し寄せる罪悪感と呵責に押し潰されそうになっている様が伺えた。そんな彼女が謝罪の言葉を口にするだけでも、大きな一歩であった。その想いを、真正面から受け止めてやるバシリア。「…その反省を忘れないことだ。そして…これまでの罪を、これからきっちりと清算することだ。」「…はい…。」俯きながら答えるライリに、デジャが呼びかける。「ライリ。」「!」顔が見れなかったのだろう、呼びかけられても尚、デジャの方を見ようとはしないライリ。そんなライリの気持ちを察したのか、デジャは構わず続けた。「…必ず、会いに行く。」「…!」それを聞いた途端、目を見開き、泣きそうになるライリ。そしてその顔を見られたくないとばかりに、2人に背を向けた。そして小さな、震える声でぽつりと呟く。「……私……いつか―――デジャの隣を歩きたいの…。」「!……うん。」「……こんな私じゃ……、…もうダメかもしれないけど……。」「…そんなことない。」デジャの言葉に、ライリがはっとする。「……待ってる、お前のこと。」「………!!」涙をこぼしながら、ライリはデジャに振り返る。そこには、優しい微笑みを浮かべるデジャの姿があった。そして、デジャがライリに告げる。「……今度は一緒に……もっと普通のことをしよう。―――…友達として。」その言葉に、ライリは涙が溢れて止まらなくなった。「……うんっ……。」そんな2人を見つめながら、バシリアが微笑んでいた。
――――デジャが建物の中に入ると、休憩室で椅子に座り、窓の外をぼうっと眺めるヘザーが座っていた。「…あぁ、デジャ。」どこか元気のない様子のヘザーが振り返る。「どうだった?」ヘザーは、隣の椅子に腰かけようとするデジャに問いかけた。「…ちゃんと見送れた。」「…そうか。」「…あいつは今、ちゃんと自分の罪と向き合ってる。」それが彼女にとって幸なのか不幸なのか。でもきっと、デジャがいてくれる彼女は、幸で間違いないのだろう。ヘザーが、ライリ初め、昨日出会った彼女達の顔を思い浮かべながら呟く。「…それで良かったんだよ…。ライリにとっても、…あいつらにとっても…。」「…あぁ。」「…きっと、大丈夫だ。」「…あぁ。…バシリアもそう言ってくれた。」「…そっか。良かったな。」「…ありがとな。」「…あたしはなんもしてねぇよ。」その時ふと、デジャが何かを思い出した。「あ。…そうだ。オレリアが目を覚ましたらしいぞ。」「!…本当か?」「あぁ。起きるなり、『痛い』だ『畜生』だなんだの、早速文句を垂れてたらしい。」「…ははっ、元気そうで何よりだな。」「あぁ。今ヴィマラ達がついてやってる。」「…後で見舞い行ってやらないとな。」「あぁ。――…それで、ブローニャは?」「…」デジャは、先ほどからヘザーの様子がおかしいことに気づいていた。反応を見て、どこか空元気なふるまいをしているのはそのせいかと悟る。「…まだ、熱が下がらないみたいだ。」「…そうか…。…夜も、チェリが付きっ切りだったんだろ。」「あぁ。なかなか良くならないから、チェリも不安になってる。…朝、あたしも会いに行ったんだけどさ…。」――――『大丈夫かよ、ブローニャ…。』『…ん。大丈夫だ。』『…』『……そんな顔するな。…私はお前が無事で、本当に良かった…。』ヘザーの顔を撫でながら微笑むブローニャは、虚ろで、とても儚げで。ヘザーは無性に不安が掻き立てられた。『…っ何言ってんだよ…!お前が良くならなきゃ、意味ねぇだろ…!』『…!』泣きそうな顔で言うヘザーに、少し驚いたような顔をすると、ブローニャは再び微笑んだ。『…大丈夫だ…。大丈夫…。』それはどこか、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。――――「…あんなにしおらしいブローニャ、…初めて見た。」「…」それを聞いたデジャは立ち上がる。「…私も、ブローニャのところに行ってくる。」それを見たヘザーは、少し考えた後に呟いた。「…あたしはちょっと、オレリアのところに顔出してくるよ。」その様子は、少し気を紛らわせたい、とでも言うようだった。「…あぁ。」そうして2人はそれぞれ、別方向に向かって歩き出すのだった。
――――「元気そうで良かったよ。」「なーにが元気だ!痛くてしょうがねぇってんだよ!あの野郎…手加減なしにざっくりやりやがって!!こんな良い女相手にやるか普通!?」「これずっと言ってるんだ。」オレリアのところに向かうと、本人はベッドで横になったままで、ヴィマラ、サイ、ムダルが集まっていた。何度目かもわからないオレリアの愚痴に、皆が笑う。「それだけ叫ぶ元気がありゃ大丈夫だ。」だが、どこか元気のない様子のヘザーを見て、ヴィマラはその真意を察する。「……ブローニャは、まだ熱が下がってないって聞いたけど…。」「…あぁ…。」その言葉で、他の3人も表情が曇った。「…昨日会った時も、具合が悪そうだったわね…。」「…そうなのか…。」「…なんでなんだろうな…。腕の良い医者だったんだろ?バシリアも良くなったって聞いたし…。」「…やっぱり、感染症か何かか…?」「…」俯くヘザーの顔を見て、いたたまれない気持ちになるオレリア。「…長引かないと良いけどな…。」「……うん…。」そしてヴィマラがヘザーの肩に手を置く。「私達も、後でまたお見舞いに行くわね。」「……うん。ブローニャも、喜ぶと思う。」ヘザーは、その時の精一杯の笑顔で返した。
――――眠っていたブローニャがふと目を覚ますと、ベッドの脇に伏せながら眠るチェリの姿があった。それを見て微笑むブローニャ。その頭を優しく撫でながら、チェリとの会話を思い出す。―――泣きそうな顔で、ブローニャに頬を撫でられながら話をするチェリ。『…バシリアから、頑張ったって聞いたぞ…。』『…うん。』『…お前のおかげで…皆命が助かったって、言ってた…。…デジャも、お前の頑張りのおかげで…ライリを傷つけずに済んだって…。』『…うん…。』『…しかも、あんな力を持った子達を…2人も相手にして、勝てるなんて…。…すごいことだ。』『……うん…。』『……本当に、成長したな…。』大層嬉しそうに笑うブローニャに、チェリは何故かベッドに顔を伏せてしまう。くぐもった涙声で、チェリは呼びかける。『……私……頑張るから……。…もっともっと、強くなって……。ブローニャのこと、守れるくらい強くなる…っ…。…だから…ブローニャ…っ、良くなってよ……っ…。』――――「―――…」熱っぽい頭でチェリを見つめていると、次第に目が潤んできた。熱のせいか、と思っていた時だ。新たな訪問者がブローニャの元に現れる。「…デジャ…。」すると、チェリがようやく目を覚ました。「やば…寝ちゃった…。」「おはよう、チェリ。」「…っ…」ブローニャの顔を見て、未だ具合が良くなっていないことにチェリは傷ついた。「チェリ、」「!」振り返って初めて、デジャがいることに気づく。「悪いが、席を外してもらってもいいか?」「!…あ…、ごめん。」「謝ることなんてない。」「…ありがとうな、チェリ。」「ん。」いそいそと髪と服を整えると、チェリはその場を立ち去った。―――ブローニャの隣に腰をかけて、話を始めるデジャ。「……どうだ、具合は。」それを聞いてブローニャが笑う。「…皆、一言目がそれだな…。…大丈夫だ。」「…」とてもそうは見えないが、本人がそう言っている以上、そこを追及しても仕方がないと押し黙る。そんなデジャを見ながら、数日前のやり取りを思い出すブローニャ。―――『デジャ。』『ん?』この村に着く前の道中で、休憩をしていた時のこと。岩に腰掛けるデジャの隣に、ブローニャも腰を下ろす。『……もし、襲撃してくる集団の中にライリがいるとしたら…。…私が相手してもいいんだぞ。』『!』それは、ブローニャなりの気遣いであった。旧友の、しかも罪悪感を抱えている相手だ。デジャの本領が発揮できないのでは、と心配した上での発言だった。それを受け取ったデジャは、その申し出を断る。『いいんだ。私がケジメをつけなきゃならない。』『!…そうか…。……そうだよな。』『あぁ。…バシリアの作戦が通じなかった時は…私に任せてほしい。』『…あぁ。』『私を信じろ。』『!』デジャの強い意志をこもった瞳を見て、ブローニャも決意する。『…わかった。』――――昨日も少し話はしたが、深いところまでは聞くことが出来なかった。「…ケジメは付けられたのか?」ブローニャの問いに、デジャが答える。「…あぁ…。お陰様でな。」「…そうか…。」ふっと笑うブローニャ。そして、ブローニャの前だからか、デジャは思わず本音を零す。まるで懺悔するかのように、心情を吐露し始めた。「…ライリは昔…生まれ育った村で、迫害されてたんだ。」「!」「力のせいか、痣のせいかはわからない。…でも、"忌み子"として…村中の人から酷い扱いを受けてきたみたいだ。…村を歩けば暴言を吐かれ、何かしようものなら暴力を受け…。…罰として、…折檻されたり、飯を抜きにされたり…とにかく、幼子にやるようなことじゃないことを…沢山受けてきたらしい。」「……っ…」「…味方なんて誰もいなくて…良いことをしようとしても怒られて、殴られて…。どうしようもなくなって…。…そうやって、先が真っ暗で絶望したところに、悪党達がやって来た。――…ライリにとっては、奴らが救世主だったってわけだ。」「……そう…だったのか…。」「…ライリが入ったところは、悪党組織の中でもましな連中がいたところでな。…飯は与えてくれたし、村人たちほど酷い扱いはしてこなかった。…成果を上げれば、それだけ褒めて、報酬もくれたしな。…でも、悪党は悪党だ。純粋なライリを洗脳して、良いように利用した。閉じた世界で"教育"を施して、思想も価値観も植え付けて…。自分達が正しい、自分達以外の人間は信用しちゃいけないって、刷り込んで、服従させた。……だからきっと、認知が歪んだ。」「……」「――…そういう話を、…昨日初めて聞いたんだ。」「!」「……知らなかった。昔いた村の人に嫌われていた、とは聞いていたが…そこまでだったなんて…。」そして膝に肘を乗せ、俯くデジャ。「……もっと、話をすれば良かったんだ…。……あいつはずっと…私と話をしたがってた……仲良くなりたがってた…。…助けを、求めてた…。…きっと本当は、あいつもずっと…『普通』になりたかったんだ……。……もしかしたら、…私が、あいつに向き合ってたら…もっと早く…どうにか出来たかもしれないのに……。」そして後悔するように、眉間に皺を寄せるデジャ。「……あいつが罪を重ねたのは……私の責任でもある…。……せめて逃げる時に、ライリを一緒に連れていけば…――――」そんなデジャの手に自分の手を重ねるブローニャ。「!」「お前のそういう優しさを、きっとライリはわかってる。」「…!」「…お前もお前で、精一杯だったんだ。…故郷を奪われ、親や仲間を奪われ…。突然変わった環境と、先の見えない人生に…お前はそれだけで、いっぱいいっぱいだったんだろう…。…仕方ないさ。」「…っ…」「皆誰だって、いくつもの迷いや葛藤を抱えて生きてる。それに頭を支配される中で、望む全てを上手くこなすことなんて…出来るわけがない。特にお前達がいたのは、特殊な環境下だ。年齢も経験も浅い、ただの子供が―――…寧ろ、よく頑張ったな…。」そう言ってデジャの頬を撫でてやる。「……っ…、」泣きそうなデジャに、ふっと笑いかけるブローニャ。「…気づけて良かったじゃないか…。…それを知ることができて、良かった。……ライリもお前も、まだ生きてる。…これから先、どうとでもなるさ。過去は戻らない。でも、未来を変えることは出来る。……罪は罪として償って…その先に進めばいいだけだ。…私達は、前に進むしかないんだからな。」そしてデジャの頬を一筋の涙が伝った。「……うん…、」ブローニャは微笑んで、その涙を指先で拭ってやった。
その日の夜中だった。ブローニャは熱と、傷の痛みにうなされていた。「……っ………、」息を荒くしながら目を覚ます。真っ暗な視界を、窓から差し込んだ月明かりだけが煌々と照らしていた。手を手繰り寄せても何も当たらなかったため、周りを見回すが、チェリも、誰もいなかった。「………」たった1人の部屋。物音一つ聞こえない。痛みと熱に浮かされ、まるで世界に自分1人だけが取り残されてしまったような気持ちになる。「……っ……」不安に蝕まれ始めた、その時だった。「おっ、起きてる。」「…!」開け放たれた扉の向こうから、ジタがひょっこりと顔を覗かせているのが見えた。「……ジタ…、」そう呟いた声がどこか泣きそうなものに聞こえて、ジタはすぐさまブローニャの元へ近寄った。その手には、タオルと水差しがあった。「…悪い。1人にさせちまったな。」そう言ってベッド傍らにそれらを置くと、ブローニャの様子を見る。潤んだ瞳が揺れ、どこか不安そうにしていることに気づき、ジタはその手を握ってやる。そしてもう片方の手を、ブローニャの額に当てた。やはりまだ、熱は下がっていない。手をどけると、ブローニャの目を見て、何を気がかりにしているかすぐに察した。「…チェリも休ませねえとと思って、代わったんだよ。ヘザーとデジャも心配してたけど、追い返して休ませた。」それを聞いて納得したのか、ブローニャは、ふうと力が抜けたように、頭を枕に沈み込ませる。「ヴィマラ達もお見舞いに来たけど、お前が寝てたから帰ったよ。」「……そうか…。悪いことをしたな…。」そう答えるものの、熱に浮かされているせいか、どこか上の空な様子のブローニャに、ジタが心配そうに顔を近づける。「……傷、痛むか?」「……少し…。」「…医者、呼んでくるか?」「ん…そこまでじゃない……。」「…熱は?体の調子はどうだ?」「……大丈夫…。」どう見ても大丈夫そうではなかったが、それ以上何も聞けなかった。「…取り敢えず、起きたら薬飲ませていいって許可貰ってるからよ。飲むか。」「ん…。」そうしてブローニャは、ジタの援助を受けながら身体を起こす。いつもだったら冗談を言ったり、「大丈夫だ」と言って自分でどうにかしようとするものを、そんな余裕さえないようだった。それがまたジタは心配になる。ジタの力を借りながら、薬と水を飲む。その後も、ジタにされるがまま、タオルで汗を拭われていた。「……欲しいものとか、何かあれば遠慮なく言えよ。」「…ん…。」そうして暫く黙っていたブローニャだったが、ぽつりと言葉を漏らした。「…ジタ…。」「ん?」「……また…情けない話を……してもいいか?」その言葉に、ジタは椅子に座り直し、真剣な表情でブローニャを見つめた。熱でぼーっとしたような様子のブローニャは、ふわふわとしながら宙を見ていた。「…なんだ?」それを確認したブローニャは、視線を落としながら、苦しそうに話だした。「……私…、これまでにこんな…大怪我をしたことなんて…なかったんだ…。」「…そうなのか。」兵士を務めている以上、そんな経験もあるのかと思っていたが、そうではなかったようだ。「うん…。……腹を刺されて……血が沢山出た時……、ふと思ったんだ…。……このまま…死ぬんじゃないかって……。」「…」「……まだ…皆の無事も確認できてないのに……。…このままここで死んじゃったら……チェリやヘザー…デジャ達と…、…もう……二度と会えなくなるんだと思って……。」「…」「………もう、皆で一緒にいられない……。…楽しく旅なんて…もう…出来ないのかって……あの日々を思い出しながら……もう戻れないのかもしれない…って…思ったら……、……死ぬのが凄く…怖くなって…。―――…死にたくないって、思った…。」傷と高熱で不安になっているのだろう、涙をぽろぽろ溢し始めるブローニャ。「…」ジタは黙って言葉の続きを待つ。「……お前やヴィマラ達…バシリア達とも出会えたのに……。……大親様にも…兄さん達にも……会いたいのに…。………世界の命運がとか……私は…それよりも……、…皆に会えなくなることが、怖くて………。」ひく、と喉を震わせると涙に濡れた顔で、ジタを見つめた。「……どんなに…誰かと一緒にいたって…、…死ぬときは独りなんだって…思った……。………離れたくない…、……独りに、なりたくない………。……まだ…皆と一緒にいたい……っ…。」こんなに気弱になったブローニャは初めて見た。手も震えている。怖いのだろう、不安なのだろう。皆に心配されて「大丈夫だ」とは言いつつも、引かない熱と体の痛みに、ブローニャの心は蝕まれていた。自分の体の具合に一番不安になっていたのは、ブローニャの方だった。「―――…」そんなブローニャの熱く火照った顔に片手を添えて、涙を拭ってやるジタ。「……情けなくなんてねぇよ。……皆、そんなお前だから好きなんだ。」「…!」もう片方の手でブローニャの手を強く握りしめながら、力強く微笑んでやる。「…大丈夫だ。誰もお前を独りになんかしねぇよ。……ずっと一緒に決まってんだろ。」そしてブローニャの目をまっすぐ見ながら、今度は真剣な表情で見つめた。「…あいつら皆、それぞれが自分の試練を乗り越えてきた。…今度はそれに、お前が続く番だ。…そうだろ。」「!」その言葉に、ブローニャはここ数日の出来事を思い出していた。ヘザー、デジャ、そしてチェリ。皆それぞれ困難を乗り越え、その先に到達したのだ。「…あいつらを信じるように、お前は…お前自身も信じてやれよ。」「…!」そしてジタは、今度は困ったように笑った。「…お前がそんなんでどうするんだよ。……それこそお前がいなくなったら…あいつらはどうしたらいいんだって。」ブローニャの脳裏に、3人の姿が浮かんだ。皆の、自分を心配して泣きそうになった顔が、頭を過った。「……っ……」「…お前がいなくなったら嫌なのは、あいつらも、俺も、同じだ。…だから、なんとか踏ん張ってくれよ。…お前が気合で負けてどうするんだよ。」そう言ってブローニャの垂れ下がった前髪をかきわけてやると、その頬を優しく両手で挟んだ。「……俺らがついてる。お前なら、絶対乗り越えられる。」そう、まるで、自分とブローニャに言い聞かせるようなジタの言葉と表情に、ブローニャは言葉を飲み込むと、こくんと頷いた。―――ブローニャが寝静まった後、ジタはブローニャの手を両手で握りこむと、赤らみながら寝息を立てるその顔を見つめた。握る手は、まるで祈るような形に見えた。2人以外誰もいない、静かな暗い部屋で、ジタはぽつりと溢す。「……こういう時に、人は『神様』に頼るんだろうな……。」呼吸をする口元と上下する胸を見て、一先ず安心するジタ。人の手ではどうしようもないこの状況に、思わず、これまであまり信じてもいなかった神に祈る。「……都合が良いもんだな…。」はっと軽く自嘲する。だが、すぐに真剣な表情へと戻り、祈った。「……頼むよ。」―――それと同時刻。それぞれの場所で、チェリ、ヘザー、デジャが、無意識に天に祈りを捧げていた。
次の日の朝。いつの間にかベッドに突っ伏していたジタが目を覚ます。「!!―――やべッ…!」ブローニャの顔を見ながら眠りこけていたらしい。慌てて体を起こした時だった。「おはよう、ジタ。」頭上からかかった声に、ジタは顔を上げる。するとそこには―――赤みが引いて、すっきりとした顔で笑みを浮かべるブローニャの姿があった。「……!!」
――――廊下をドタドタと走り、足音を響かせる。バンッと扉を勢いよく開けると、そこには何人もの人が集まっていた。「熱下がった!!!熱下がったって!!!?」「静かにしなさいッ!!」慌てて飛び込んできたチェリに、医者が怒鳴る。咄嗟に両手で口を抑えるチェリ。ベッドで座るブローニャの周りには、オレリア以外の皆が集まっていた。「全く…大げさだぞ。」大所帯に戸惑いつつも、ブローニャはいつもの調子を取り戻していた。「大げさなんてねぇよ!!」「そうだぞ、お前のそういうところが―――」「静かにしなさい!!」医者に怒鳴られ、今度はヘザーとデジャが口を抑えた。そして、ブローニャの状態を確認していた医者は、椅子に腰を下ろすと、結論を口にした。「もう大丈夫だろう。」「……!!」わっと喜ぶ面々に気恥ずかしさを感じるブローニャ。だが、皆のその気持ちが何よりも嬉しかった。医者がぽつりと見解を呟く。「…精神的なものもあったのかもしれないな。」「…」もしかすると昨夜、ずっと抱えていた不安を吐き出したのが良かったのか。そう思って、ブローニャはジタを見る。ブローニャの目線に気づき、ジタは表情を和らげた。そんなジタに微笑みながら、ブローニャは心の中で感謝の言葉を述べるのだった。「うぅっ……良かった…!良かったよぉ……っ!!」ぐすぐすと泣き始めるチェリに皆が笑う。「なんだよお前…この泣き虫!!」そう言いつつ、ヘザーの目にも涙が浮かんでいた。デジャもどこか目を潤ませているようだった。そしてもらい泣きをするヴィマラ。サイとムダルも、そんな皆を見てほっと安心したようだった。そしてブローニャも、大切な友人たちが泣いて喜ぶ様子を見て、微笑みながら目に涙を浮かべているのだった。
――――それから数日かけて、ブローニャの容態はどんどんと良くなっていった。動けるようになったオレリアも見舞いに来て、お互い佳境を乗り越えたと称え合った。そして―――「すっかり元気になった!!」見舞いに来たチェリ達3人の目の前で、もりもりとご飯を食べるブローニャの姿があった。「そりゃ何よりだな。」「ていうか大丈夫なの?そんなにがっついて…。」「また腹痛くなっても知らねぇぞ。」「もう大丈夫だ!医者からの許可も出てる!」「なぁ、あのおっさんってやっぱりすげぇの?」ヘザーの問いにデジャが答えた。「あぁ…。何やら、医療業界において"『神の力』を持つ男"と呼ばれていたとかなんとか。自称だがな。」「何それすごいじゃん!!」「かっけぇ…!!」「じゃあ腕は確かだったってことだな。」「やっぱりあの熱って精神的なものなの?」チェリの問いに、ブローニャがぎくりと体を強張らせる。まだ何も言ってないのに、慌てて反論する。「そっ…、そもそも!お前達が毎度毎度神妙そうな顔で来るのが悪いんだ!医者から何か聞いて、もしや重傷なのかと不安になったんだぞ!!」「え~~~!?だってブローニャがあんなに気弱なの初めて見たんだもん!!それに、これまでの旅の中でも、あんな大怪我とか熱出したりなんかしなかったし!」「雨に濡れようが寒い環境にいようが、風邪も引かなかったしよ。まさに健康体、って感じだもんな。怪我してもすぐ治ってたし。」「ぐっ…、まぁ、そうだが…。」そう言われては何も言えまい、と言葉に詰まるブローニャに、デジャが呟く。「…感染症の、しかも重症かと思った。…いや、もしかしたら始めは実際にそうだったのかもしれないが…。」「…いや、ほんと良くなって良かったよ…。」「…」そして再びしんみりとした3人を見て、ブローニャは、かちゃんと皿とフォークをトレーの上に置くと、皆に向き直った。「……心配させて悪かったな…。」そんなブローニャの表情を見て、3人も慌てて取り繕う。「もういいって。」「そうよ!良くなったんだから!それが何よりよ!」「…もう怪我するなよ。」「…それはお互い様だな。」そう言ってブローニャが笑うと、皆も笑った。「……ありがとう。」ブローニャの心からの感謝の気持ちに、皆笑顔で答えた。「まぁ、ブローニャが私達のこと大好きだってこともわかったし!」「あ!おい馬鹿、チェリ!!」「?」「おい!馬鹿はお前だ!」「!―――…!?」3人のやり取りを見て何かを察するブローニャ。「あっ…そっか、やべっ…!」慌てて口を塞ぐがもう遅い。特に違和感の無かったチェリの言葉が、ヘザーの突っ込みにより"あること"に繋がる。「………おい、まさか……。」ブローニャの表情を見て、青ざめる3人がそこにいた。
――――「ん?」村人の手伝いを終え、座って休憩していたジタの元へ、ブローニャがずんずんと歩いてきた。「!おいお前、もう大丈夫なの、か――――…」だがこちらに近づいてくるにつれ、鬼の形相でジタを睨み付けていることがわかった。その顔を見てすぐにピンときたジタ。慌ててその場を立ち上がる。「あいつら…!!内緒だって言ったのに…ッ!!!」そんなジタの目の前にずんと顔を近づけてブローニャが怒鳴る。「やっぱり言ったのか!?」「いっ…言ってない!!言ってないぞ!!」「嘘だろ!!『旅が楽しかった』だの、具体的なことまで知ってたぞ!!」「~~~~あいつら……!!」頭を抱えるジタ。だがこれ以上誤魔化せないとわかると、切り替えて弁明に入る。「…いや、俺はな?ブローニャ。お前の本音をちゃんと皆に伝えた方が良いんじゃねぇかと、良かれと思ってだな!」「そんなッ…―――~~~ッッ…!!」傷口に響いたのか、ブローニャが咄嗟に腹を押さえる。そんなブローニャの体を、ジタが心配そうな様子で慌てて支える。「おいおい大丈夫かよ…、無理すんなって。」ブローニャの両肘を下から支えて、顔を覗き込む。「……っ…大丈夫だ…。」「!」そこには依然として、不服そうにジタを睨み付ける目があった。それを見てジタが思わず笑う。「……やっぱり、…お前は元気な方がいいな。」その時の笑顔が爽やかで、心底嬉しそうで。「……!」それを見たブローニャは、思わずもう一度顔を伏せた。「…あ?どうした?」「……なんでもない。」「?」
――――2人で並んで座り、景色を見ながら話をする。「…もう、大丈夫なのか?」ジタが気がかりにしながら問いかける。「怪我は確実に良くなってると医者が言ってた。だからこうして―――」「そっちじゃなくて。」「!」ジタの眼差しに、その意図を察する。「…あぁ。」いつもの調子を取り戻したブローニャは、それに躊躇いなく笑顔で答えた。「大丈夫だ。」そして、決意のこもった瞳で、山の向こうを見つめながら宣言する。「私は、…これからも強くなる。あいつらのためと、仲間のためと、―――…自分のためにも。」それを聞いて、ジタはふっと笑った。「…そうか。」すると、遠くからへとへとになりながらブローニャを呼ぶ声が聞こえてきた。「ちょっとブローニャ~~~!先生がまだあんまり動くなって言ってたわよ~~!?」「お前…ッ!まだ傷口塞がってないんだから…無理するなよっ!」「あと…バシリア達が戻ってくるそうだって…。」探し回ったのだろう、ぜーぜーと疲労たっぷりの3人を見て、ブローニャがジタと笑い合う。「わかった。すぐ戻る!」そう答えた時のブローニャの笑顔は、とても晴れやかなものだった。