戦闘を終えた仲間達が続々と講堂に集結していた。一先ず護衛についていた兵士や村人も総出で、敵味方全員治療に当たる。こうなる場合に備えて、ローザは近場に住むという凄腕の医者を手配したり、近くの町の兵士達にも応援を呼んでいた。敵組織のメンバーは別の場所で手当てを受ける中、講堂で、手先が器用だという村人の女性に手当てをしてもらっていたヘザーの元へ、何者かが近づいてくる。「!チェリ…!」そこには、へとへとになりふらふらと歩くチェリの姿が。その体は傷だらけだ。「もうあちこち痛い~~~~!!疲れたぁ!!頭痛い~~!!!」わんわん喚きながらヘザーの前で佇む。「……大丈夫そうだな…。」いつもの様子にほっとしたヘザーに対し、「全然大丈夫じゃないわよ!!」と怒鳴るチェリ。「見てよこれ!!ナイフぶすり!!めちゃくちゃ痛い!!!しかもめちゃくちゃ頭痛するの!!!」「わかったわかった。」見かねた兵士がチェリの治療にあたる。「……あんたもやられたのね…。」「あ?あぁ、これ?んな大したことねぇよ。軽い切り傷だ。」「そう…。なら良かったけど。」「…で?その傷を負わせた相手は?」「別の兵士に引き渡したわよ。……あの女の子達二人。」「あぁ、お前と似た力の。」「そう。……やっぱり、悪党側にいる子と言えど、ああいう子を怪我させるのは…―――…ちょっとクるわね…。」「…あぁ…。」「あんたは?」「あたしは――――…なんか、お前に似た女とやり合った。」「ふーん…。私と似た女…?」「結構やる奴だったぜ。」「その割には軽傷ぽいわね。」「まぁな。力の相性があたしに都合が良かったってだけだ。」「そうなんだ、ラッキーじゃない。」「だな。」「…そういえば、他の皆は?」チェリはあたりを見回すが、兵士とヘザー以外見知った顔を見かけないことに若干の不安を感じていた。その問いかけに、ヘザーの顔に少し陰りが帯びる。「…ローザは治療を受けたらさっさとどこかに行っちまった。…バシリアは…結構重症だったっぽいから、医務室でちゃんとした治療を受けてるらしい。」「!……そっか…。そうよね…。」あの時の光景がチェリの脳裏を過る。あれだけの怪我を負っているのだ、当然だろう。「大丈夫だって。命に別状はないらしいからさ。―――…お前のせいじゃねぇよ。」「!……」チェリの表情を見てその心情を察したヘザーが優しく告げる。その場の光景は見ていなかったものの、バシリアの援護をしていた筈のチェリだ、そのバシリアが大怪我を負ったということは、作戦が失敗に終わったということを示唆していた。「………正直、私は私のベストを尽くしたと思う。」「!」「…でも、それでも足りなかった。…ってことは、私の実力が足りなかったってこと。…バシリアが死ななくて良かったけど、デジャが乱入してくれなければ―――…相手が違えば。もしかしたら、ってこともありえたかもしれない…。」「…」「…私、もっともっと…強くならないと……。」もう誰も、傷つかないように。そう思いながら真剣な表情で拳を握り締めるチェリ。そんなチェリを見て瞳が揺らぐヘザー。「(…お前…なんだよ…。…かっこいいじゃん…。)」チェリの年上らしさを見たヘザー。いつか見ていた幼げなチェリは、いつの間にか年相応に成長していた。感慨にふけっていたヘザーを、決意がまとまったチェリが見る。「…他の皆は、まだってこと?」チェリの言葉に、ヘザーは再び不安げな表情を浮かべる。「……あぁ。」その言葉にチェリの中で一抹の不安が過る。何より、ライリと1対1でやり合ったというデジャの身が心配だった。旧友という立場もあり、やりにくいのではないかと。ブローニャやジタ、オレリア達の姿が見えないのも心配だ。「!」その時、ヘザーが講堂の入り口を見て何かに気づく。チェリもつられてそちらを見る。「!――…デジャ…!」いつもの上着を手に持ちながらこちらに歩いてくるデジャの姿が見えた。「!ヘザー、チェリ…!」二人の姿が見えたデジャが駆け寄ってくる。パッと見体にはいくつかの切り傷が見えるが、その様子は元気そうだ。「…良かった、無事で…。」心底ほっとしたような表情でデジャが呟く。「こっちの台詞だぜ!!心配したんだぞ!!」「ほんとよ!!大丈夫だったの!?」「あぁ。私は大したことない。」「……ライリとは、どうだったの…?」チェリが問いかけると、ヘザーがやはりそうか、という顔で見る。あの場にライリがいて、デジャが相対しないわけがない。その問いかけにデジャはふっと笑った。「…取り敢えず、ケリはついた。」「!」その顔はどこか、すっきりとしたような顔をしていた。何か枷が一つ、外れたような。「……会えて…話せてよかった。次会う時はきっと、対等に話ができる。」そのデジャの言葉に、ヘザーもチェリもゆっくりと微笑んだ。デジャの中で何か区切りをつけられたのだと悟った。「…そっか。」「なら、良かったな。」友人としてそれを嬉しく思う二人。そんな二人の表情を見て、デジャもまた笑うのだった。「おっ、いたいた。」声がした方を見ると、ジタとサイ、ムダルが入り口から入ってこちらに歩いてくるのが見えた。「ジタ!サイ、ムダル!」チェリ達3人の表情が更に明るくなる。サイ達も3人の姿を見つけて安堵したような表情を浮かべた。「お前ら…無事で何よりだ。」「あははっ!お前らもな!大丈夫だったのか?」「危うく村を焼け野原にするところだったが、まぁなんとかなった。」「何してんの!?」そう言って笑った後だった。「そういえば、オレリアは?」ヘザーの問いに、サイ達の表情が僅かに暗くなる。「オレリアは…無事ではあるんだが、そこそこ深手を負っててな。今、治療を受けてる。」「!そうか…。」「でも大丈夫だ。あいつは殺しても死なない奴だからな。…安心しろ。」ムダルがフォローするものの、不安は拭えないチェリ達。そしてふと気づいた。「…ねぇ、ブローニャは…?」仲間達が集結し、それぞれの安否も分かった中、ブローニャだけが所在が不明だった。それを聞いたジタの顔が翳る。その様子にチェリ達は気づく。「ねぇ、ブローニャどうしたの…!?」チェリ、ヘザー、デジャの不安げな顔を見てジタが重い口を開いた。「…ブローニャは――――」
――――村の一室を借り、ベッドで横になるブローニャの元へ、ローザが現れる。「…具合は……――あまり良くないみたいだな。」「…大したことはない。」顔が上気し、汗をかいてだるそうなブローニャが、体を横たえたまま首だけローザの方を向きながら答える。「…そんな時に悪いが、少しだけ話をしてもいいか。…いずれ準備が整い次第、奴らを輸送しに出る。今しか時間が取れないもんでな。」「…大丈夫だ。」ブローニャの返答を聞いて、ベッド脇の椅子に腰をかけるローザ。「…まずは、これまでのお前たちへの非礼を詫びよう。」「!」「―――…“慎重に対処していた”…と言えば聞こえはいいが、私は億病になり過ぎていただけだ。」「…」「ここ数日のお前達の様子を見ていて、考えを改めた。……折角の貴重な協力者を――…そして戦力を、みすみす逃すところだったと。」ローザの素直な吐露に、ブローニャが力無く答える。「…いや…無理もない…。…私も、あなたと似たところがあるから…よくわかる…。」「!」「……私だって、最初の暫くは…ヴィマラ達を信用できなかった…。…それも…チェリ達が大切が故だった…。―――…あなたにとってのそれが…兵士達や民達なんだろう…。…だから、気持ちはとてもわかる…。」「…」そしてふっとブローニャは微笑んだ。「…でも、あなたがそう思ってくれるようになったのは……ありがたい。…素直に、嬉しく思う。」そんなブローニャの笑みを見たローザは、暫くしてふっと微笑み返した。「…バシリアのおかげだな…。」「…あぁ。まっすぐで熱いのが、あいつの良いところだ。」「……そういえば、バシリアは…。」「…大丈夫だ。今は少し眠っているが、治療は上手くいった。」「…そうか…、良かった…。」ほっとしたような表情を浮かべるブローニャを見て、ローザは顔を引き締める。「…今日のことは、感謝する。」「!」戦いを代わってくれたことに対してだとすぐに理解した。そして、ローザはふっと笑った。「…お前は、立派な兵士だ。」「……!」ローザのその表情と言葉に、胸の奥でこみ上げてくるものがあるブローニャ。実力と行いを認められるということが、これほど喜ばしいことなのかと、まさに、兵士冥利に尽きる、と思わせた。「…あぁ。」そうしてブローニャも、優しく微笑むのだった。その時だった。「ブローニャッ!!!」チェリ達が慌てて駆け込んできた。部屋の中を見て、思わず口を手で押さえながら息を呑むチェリ。まさかブローニャのところにローザが来ているとは思うまい。「おい。病室では静かにしろ。」「ごっ…、ごめんなさい…。」隊長らしく叱責するが、ふっと顔を緩めるとその場を立ち上がったローザ。「話は済んだ。…大事にしろ。」「……ありがとう…。」そしてきびきびとした動きでブローニャの元を立ち去るローザ。チェリとヘザー、デジャの間を通り抜けて部屋を出て行った。それを見送った後、ブローニャの元へ駆け寄る3人。「面会していいって聞いて…!!」3人共心配そうにブローニャの顔を覗き込む。それを見て思わず笑うブローニャ。「…なんだ、大げさだな…。」「大げさにもなるだろ…!!…結構な怪我して、高熱も出てるって聞いたし…!!」「……大丈夫なのか…?」3人の不安そうな顔を見て微笑むブローニャ。「…多分…疲労が溜まってたんだろう…。……それより…、」一番近くにいたチェリの頬に手で触れる。その体温を感じて安心するブローニャ。「チェリ…ヘザー…デジャ…。…無事で本当に良かった……。」心から嬉しそうなその顔に、皆何も言えなかった。チェリは泣きそうな顔でその手に触れた。
――――次の日。「…お前、もう動いて大丈夫なのか。」デジャは傍らに立つバシリアに問いかける。2人の目の前では、兵士達に拘束された敵組織の面々が、荷馬車に向かって連れられていた。「私にとってみれば、この程度なんてことはな――――…ッ…!!」元気だと言わんばかりに大声でアピールするが、それが傷口に響くバシリア。「…言わんこっちゃない…。」呆れたようにその様子を見るデジャ。「あはは…。…まぁ、あとは移動だけだしな。ローザもイアンもいるし、何とかなるだろう。」「そのイアンも…、まだ本調子じゃないだろう。」「まぁな。…だが、一刻も早く輸送したい。悪党達がここを襲撃してくる可能性もゼロじゃないからな。さっさと本部に連れて行って、保護の上、話を聞き出したいのもある。」「……あいつらはどうなるんだ?」デジャの問いかけに、バシリアは真面目な表情で答える。「…聴収した後は、王国の刑務所へ収監だろうな。」「…」デジャの気がかりだ、とでも言わんばかりな表情を見て、バシリアは微笑んだ。「…なに。心配するな。年齢と境遇を考慮すると、情状酌量の余地有りだ。ゆくゆくは保護観察になる筈だ。」「!……そうか…。」「ある程度整理がつけば、面会も出来る。…会いに行ってやるといい。」「…」その言葉に応えずにいると、やがてライリが現れた。髪を下ろしたライリは、どこかしおらしげで。バシリアとデジャの姿を見かけて、引率する兵士の了解を得て、二人の元へと近づいてくる。まずはバシリアに軽く頭を下げるライリ。「………ごめんなさい…。」「…」「…兵士さん達と、…あなたと…。」今までの行いを詫びるライリ。当然、そんな謝罪如きで許されることではないのは明らかだった。だが、俯くその表情からは、これまで見ないようにと避けてきた己の罪と過去に真正面から向き合い、どっと押し寄せる罪悪感と呵責に押しつぶされそうになっている様子が伺えた。そんな彼女が謝罪の言葉を口にするだけでも、彼女にとっては大きな一歩であった。そんな想いを真正面から受け止めてやるバシリア。「…その反省を忘れないことだ。そして…これまでの罪を、これからきっちり清算することだ。」「…はい…。」俯きながら答えるライリに、デジャが呼びかける。「ライリ。」「!」顔が見れなかったのだろう、呼びかけられても尚、デジャの方を見ようとはしないライリ。そんなライリの気持ちを察したのか、デジャは構わず続けた。「…必ず、会いに行く。」「…!」それを聞いた途端、目を見開き、泣きそうになるライリ。そしてその顔を見られたくないとばかりに、二人に背を向けた。そして小さな、震える声でぽつりと呟く。「……私……いつか…―――…デジャの隣を歩きたいの…。」「!……うん。」「……こんな私じゃ……、…もうダメかもしれないけど……。」「…そんなことない。」はっとするライリ。「……待ってる、お前のこと。」「………!!」涙をこぼしながら、デジャに振り返るライリ。そこには、優しい微笑みを浮かべるデジャの姿があった。「……今度は一緒に……もっと普通のことをしよう。――――…友達として。」その言葉で泣き出してしまうライリ。「……うんっ……。」そんな二人を見て微笑むバシリアだった。
――――デジャが建物の中に入ると、休憩室には椅子に座って窓の外をぼうっと眺めているヘザーが座っていた。「…あぁ、デジャ。」どこか元気のない様子のヘザーが振り返る。「どうだった?」ヘザーの隣の椅子に座ろうとするデジャに問いかける。「…ちゃんと見送れた。」「そうか。」「…あいつは今、ちゃんと自分の罪と向き合ってる。」「…そうか…。」それが彼女にとって幸なのか不幸なのか。でもきっと、デジャがいてくれる彼女は、幸で間違いないのだろう。「あ。…そうだ。オレリアが目を覚ましたらしいぞ。」「!本当か?」「あぁ。起きるなり、『痛い』だ『畜生』だなんだの、早速文句を垂れてたらしい。」「…ははっ、元気そうで何よりだな。」「あぁ。今ヴィマラがついてやってる。」「…そうか…。」「…ブローニャは?」「…」ヘザーの様子がおかしいことに気づいた。先ほどからどこか空元気なふるまいをしている。「…まだ、熱が下がらないみたいだ。」「…そうか…。…夜も、チェリが付きっ切りだったんだろ。」「あぁ。なかなか良くならないから、チェリも不安になってる。…朝、あたしも会いに行ったんだけどさ…。」――――「大丈夫かよ、ブローニャ…。」「…ん。大丈夫だ。」「…」「……そんな顔するな…。…私はお前が無事で……本当に良かった…。」ヘザーの顔を撫でながら微笑むブローニャが虚ろで、とても儚げで。無性に不安が掻き立てられるヘザー。「…っ何言ってんだよ…!お前が良くならなきゃ、意味ねぇだろ…!」「…!」泣きそうな顔で言うヘザーに少し驚いたような顔をすると、再び微笑む。「…大丈夫だ…。大丈夫…。」それはどこか、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。――――「…あんなにしおらしいブローニャ、…初めて見た。」「…」それを聞いたデジャは立ち上がる。「…私も、ブローニャのところに行ってくる。」それを見たヘザーは少し考えた後に呟く。「…あたしはちょっと、オレリアのところに顔出してくるよ。」その様子は、少し気を紛らわせたい、とでも言うようだった。「…あぁ。」そうして二人はそれぞれ別方向に向かって歩いて行くのだった。
――――「元気そうで良かったよ。」「なーにが元気だ!痛くてしょうがねぇってんだよ!あの野郎…手加減なしにざっくりやりやがって!!こんな良い女相手にやるか普通!?」「これずっと言ってるんだ。」オレリアのところに向かうと、本人はベッドで横になったままで、ヴィマラ、サイ、ムダルも集まっていた。何度目かもわからないオレリアの愚痴に、皆が笑う。「それだけ叫ぶ元気がありゃ大丈夫だ。」だが、笑顔を浮かべてもどこか元気のない様子のヘザーを見て、ヴィマラはその真意を察する。「……ブローニャは、まだ熱が下がってないって聞いたけど…。」「…あぁ…。」その言葉で他の3人も表情が曇った。「…昨日会った時も、具合が悪そうだったわね…。」「…そうなのか…。」「…なんでなんだろうな…。腕の良い医者だったんだろ?バシリアも良くなったって聞いたし…。」「…やっぱり、感染症か何かか…?」「…」俯くヘザーの顔を見て、いたたまれない気持ちになるオレリア。「…長引かないと良いけどな…。」「……うん…。」そしてヴィマラがヘザーの肩に手を置く。「私達も、後でお見舞いに行くわね。」「……うん。ブローニャも、喜ぶと思う。」ヘザーは、その時の精一杯の笑顔で答えた。
――――眠っていたブローニャがふと目を覚ますと、ベッドの脇に伏せながら眠っているチェリの姿があった。それを見て微笑むブローニャ。思わずその頭を優しく撫でる。そして、チェリとの会話を思い出していた。―――泣きそうな顔でブローニャに撫でられながら話をするチェリ。「…バシリアから…頑張ったって…聞いたぞ。」「…うん。」「…お前のおかげで……皆命が助かった、って…言ってた……。…デジャも…お前の頑張りのおかげで……ライリを傷つけずに済んだって………。」「…うん…。」「……しかも…あんな力を持った子達相手に……二人も相手にして…勝てるなんて……。……すごいことだ…。」「……うん…。」「……本当に……成長したな……。」大層嬉しそうに笑うブローニャに、チェリは何故かベッドに顔を伏せてしまう。くぐもった涙声で、チェリは呼びかける。「……私……頑張るから……。…もっともっと、強くなって……。ブローニャのこと、守れるくらい強くなる……っ…。…だから……ブローニャ…っ、良くなってよ……っ…。―――…ずっと…一緒にいてよ……っ…!」――――「―――…」熱っぽい頭でチェリを見つめていると、次第に目が潤んできた。熱のせいか、と思っていた時だ。新たな訪問者がブローニャの元に現れる。「…デジャ……。」すると、チェリが目を覚ます。「やば…寝ちゃった…。」「おはよう、チェリ。」「…っ…」ブローニャの顔を見て、未だ具合が良くなっていないことに傷つくチェリ。「チェリ、」「!」振り返って初めて、デジャがいることに気づいた。「悪いが、席を外してもらってもいいか?」「!…あ…、ごめん。」「謝ることはない。」「…ありがとうな、チェリ。」「ん。」いそいそと髪と服を整えると、チェリはその場を立ち去った。―――ブローニャの隣に腰をかけて、話を始めるデジャ。「……どうだ、具合は。」それを聞いてブローニャが笑う。「……皆、一言目がそれだな…。……大丈夫だ。」「…」とてもそうは見えないが、本人がそう言っている以上、そこを追及しても仕方がないと押し黙るデジャ。そんなデジャを見ながら、数日前のやり取りを思い出すブローニャ。―――「デジャ。」「ん?」それはこの村に着く前の道のりの途中で、休憩をしていた時のこと。岩に腰掛けるデジャの隣に、ブローニャも座って話しかける。「……もし、襲撃してくる集団の中にライリがいるとしたら…。…私が相手してもいいんだぞ。」「!」それはブローニャなりの気遣いであった。旧友の、しかも罪悪感を抱えている相手だ。デジャの本領が発揮できないのでは、と心配した上での発言だった。それを受け取ったデジャは、その申し出を断る。「いいんだ。私がケジメをつけなきゃならない。」「!…そうか…。……そうだよな。」「あぁ。…バシリアの作戦が通じなかった時は…私に任せてほしい。」「…あぁ。」「私を信じろ。」「!」デジャの強い意志をこもった瞳を見て、ブローニャも決意する。「…わかった。」――――昨日も少し話はしたが、深いところまでは聞くことが出来なかった。「…ケジメは付けられたのか?」ブローニャの問いに、デジャが答える。「…あぁ…。お陰様でな。」「…そうか…。」ふっと笑うブローニャ。だが、ブローニャの前だからか、デジャは思わず本音が零れる。まるで懺悔するかのように心情を吐露する。「…ライリは昔…生まれ育った村で、迫害されてたんだ。」「!」「力のせいか、痣のせいかはわからない。…でも、“忌み子”として…村中の人から酷い扱いを受けてきたみたいだ。…村を歩けば暴言を吐かれ、何かしようものなら暴力を受け…。…罰として、…折檻されたり、飯を抜きにされたり…とにかく、幼子にやるようなことじゃないことを沢山受けてきたらしい。」「……っ…」「…味方なんて誰もいなくて…良いことをしようとしても怒られて、殴られて…。どうしようもなくなって…。…そうやって、先が真っ暗で絶望したところに、悪党達がやって来た。―――…ライリにとっては、奴らが救世主だったわけだ。」「……そう…だったのか…。」「…ライリが入ったところは、悪党組織の中でもましな連中がいたところでな。…飯は与えてくれたし、村人たちほど酷い扱いはしてこなかった。…成果を上げれば、それだけ褒めて、報酬もくれたしな。……だからきっと、認知が歪んだ。」「……」「――…っていう話を、…昨日初めて聞いたんだ。」「!」「……知らなかった。昔いた村の人に嫌われていた、とは聞いていたが…そこまでだったなんて…。」そして膝に肘を乗せ、俯くデジャ。「……もっと、話をすれば良かったんだ…。……あいつはずっと…私と話をしたがってた……仲良くなりたがってた…。…助けを、求めてた…。…きっと本当は、あいつもずっと…『普通』になりたかったんだ……。……もしかしたら、…私が、あいつに向き合ってたら…もっと早く…どうにか出来たかもしれないのに……。」そして後悔するように、眉間に皺を寄せるデジャ。「……あいつが罪を重ねたのは……私の責任でもある…。……せめて逃げる時に、ライリを一緒に連れていけば……――――」そんなデジャの手に自分の手を重ねるブローニャ。「!」「お前のそういう優しさを、きっとライリはわかってる。」「…!」「…お前もお前で、精一杯だったんだ。…故郷を奪われ、親や仲間を奪われ…。突然変わった環境と、先の見えない人生に…お前はそれだけで、いっぱいいっぱいだったんだろう…。…仕方ないさ。」「…っ…」「皆誰だって、いくつもの迷いや葛藤を抱えて生きてる。それに頭を支配される中で、望む全てを上手くこなすことなんて…出来るわけがない。特にお前達がいたのは、特殊な環境だ。年齢も経験も浅い、ただの子供が―――…寧ろ、よく頑張ったな…。」そう言ってデジャの頬を撫でてやる。「……っ…、」泣きそうなデジャに、ふっと笑いかけるブローニャ。「…気づけて良かったじゃないか…。…それを知ることができたことが、良かった。……ライリもお前も、まだ生きてる。…これから先、どうとでもなるさ。過去は戻らない。でも、未来を変えることは出来る。……罪は罪として償って…その先に進めばいいだけだ。…私達は、前に進むしかないんだからな。」そしてデジャの頬を一筋の涙が伝った。「……うん…、」ブローニャは微笑んで、その涙を指先で拭ってやった。
――――その日の夜中だった。ブローニャは熱と、傷の痛みにうなされていた。「……っ………、」息を荒くしながら目を覚ます。真っ暗な視界に、窓から差し込んだ月明かりだけが煌々と照らしていた。手を手繰り寄せても何も当たらなかったため、周りを見回すが、チェリも、誰もいない。「………」たった一人の部屋。物音一つ聞こえない。痛みと熱に浮かされ、まるで世界に自分一人だけ取り残されてしまったかのような気持ちになるブローニャ。「……っ……」不安に蝕まれ始めた、その時だった。「おっ、起きてる。」「…!」開け放たれた扉の向こうから、ジタがひょっこりと顔を覗かせているのが見えた。「……ジタ…、」そう呟いたブローニャの声がどこか泣きそうなものに聞こえて、すぐさまブローニャの元へ向かうジタ。その手には、タオルと水差しがあった。「…悪い。一人にさせたな。」そう言ってベッド傍らにそれらを置くと、潤んだ瞳が揺れて、どこか不安そうにしているブローニャの手を握るジタ。もう片方の手で、ブローニャの額に手を当てる。やはりまだ、熱は下がっていない。手をどけると、ブローニャの目を見て、何を気がかりにしているかすぐに察した。「…チェリも休ませねえとと思って、代わったんだよ。ヘザーとデジャも心配してたけど、追い返して休ませた。」それを聞いて納得したのか、ふうと力が抜けたように枕に頭を沈み込ませるブローニャ。「ヴィマラ達もお見舞いに来たけど、お前が寝てたから帰ったよ。」「……そうか……悪いことをしたな…。」そう答えるものの、熱に浮かされているせいか、どこか上の空な様子のブローニャに、心配そうに顔を近づけるジタ。「……傷、痛むか?」「……少し…。」「…医者、呼んでくるか?」「ん…そこまでじゃない……。」「…熱は?体の調子はどうだ?」「……大丈夫…」どう見ても大丈夫そうではなかったが、それ以上何も聞けなかった。「…取り敢えず、起きたら薬飲ませていいって許可貰ってるからよ。飲むか。」「ん…。」そうしてジタの援助を受けながら身体を起こすブローニャ。いつもだったら冗談を言ったり、「大丈夫だ」と言って自分でどうにかする、という気を見せるものを、そんな余裕もないようだった。それがまたジタは心配になる。ジタの力を借りながら、薬と水を飲むブローニャ。その後も、ジタにされるがままタオルで汗を拭われる。「……欲しいものとか、何かあれば遠慮なく言えよ。」「…ん…。」そうして暫く黙っていたブローニャだったが、ぽつりと言葉を漏らした。「…ジタ…。」「ん?」「……また…情けない話を……してもいいか?」その言葉にジタは椅子に座り直し、真剣な表情でブローニャを見つめる。熱でぼーっとしたような様子のブローニャは、ふわふわとしながら宙を見ていた。「…なんだ?」それを確認したブローニャは、視線を落としながら、苦しそうに話だした。「……私…、これまでにこんな…大怪我をしたことなんて…なかったんだ…。」「…そうなのか。」兵士を務めている以上、そんな経験もあるのかと思っていたが、そうでもなかったようだ。「うん…。……腹を刺されて……血が沢山出た時……、ふと思ったんだ…。……このまま…死ぬんじゃないかって……。」「…」「……まだ…皆の無事も確認できてないのに……。…このままここで死んじゃったら……チェリやヘザー…デジャ達と…、…もう……二度と会えなくなるんだと思って……。」「…」「………もう、皆で一緒にいられない……。…楽しく旅なんて…もう…出来ないのかって……あの日々を思い出しながら……もう戻れないのかもしれない…って…思ったら……、……死ぬのが凄く…怖くなって…。――――…死にたくないって、思った…。」傷と高熱で不安になっているのだろう、涙をぽろぽろ溢し始めるブローニャ。「…」黙って言葉の続きを待つジタ。「……お前やヴィマラ達…バシリア達とも出会えたのに……。……大親様にも…兄さん達にも……会いたいのに…。………世界の命運がとか……私は…それよりも……、…皆に会えなくなることが、怖くて………。」ひく、と喉を震わせると涙にぬれた顔で、ジタを見つめた。「……どんなに…誰かと一緒にいたって…、…死ぬときは独りなんだって…思った……。………離れたくない…、……独りに、なりたくない………。……まだ…皆と一緒にいたい……っ…。」こんなに気弱になったブローニャは初めて見た。手も震えている。怖いのだろう、不安なのだろう。皆に心配されて「大丈夫だ」とは言いつつも、引かない熱と体の痛みに、ブローニャの心は蝕まれていた。自分の体の具合に一番不安になっていたのは、ブローニャの方だった。「―――…」そんなブローニャの熱く火照った顔に片手を添えて、涙を拭ってやるジタ。「……情けなくなんてねぇよ。……皆、そんなお前だから好きなんだ。」「…!」もう片方の手でブローニャの手を強く握りしめながら、力強く微笑んでやる。「…大丈夫だ。誰もお前を独りになんかしねぇよ。……ずっと一緒に決まってんだろ。」そしてブローニャの目をまっすぐ見ながら、今度は真剣な表情で見つめた。「…あいつら皆、それぞれが自分の試練を乗り越えてきた。…今度はそれに、お前が続く番だ。そうだろ。」「!」その言葉に、ここ数日の出来事を思い出すブローニャ。ヘザー、デジャ、そしてチェリ。皆それぞれ困難を乗り越え、その先に到達したのだ。「…あいつらを信じるように、お前は…お前自身も信じてやれよ。」「…!」そしてジタは、今度は困ったように笑った。「…お前がそんなんでどうするんだよ。……それこそお前がいなくなったら…あいつらはどうしたらいいんだって。」ジタの顔と言葉に、3人の姿が浮かぶブローニャ。皆の自分を心配して泣きそうになった顔が、頭を過った。「……っ……」「…お前がいなくなったら嫌なのは、あいつらも、俺も、同じだ。…だから、なんとか踏ん張ってくれよ。…お前が気合で負けてどうするんだよ。」そう言ってブローニャの垂れ下がった前髪をかきわけてやると、その頬を優しく両手で挟んだ。「……俺らがついてる。お前なら、絶対乗り越えられる。」そう、まるで自分とブローニャに言い聞かせるようなジタの言葉と表情に、ブローニャは言葉を飲み込むと、こくんと頷いた。―――ブローニャが寝静まった後、ジタはブローニャの手を両手で握りこむと、赤らみながら寝息を立てているその顔を見つめた。その握る手は、まるで祈るような形に見えた。二人以外誰もいない、静かな暗い部屋で、ジタはぽつりと溢す。「……こういう時に、人は『神様』に頼るんだろうな……。」呼吸をする口元と上下する胸を見て、一先ず安心するジタ。人の手ではどうしようもないこの状況に、思わず、これまであまり信じてもいなかった神に祈る。「……都合が良いもんだな…。」はっと軽く自嘲する。だが、すぐに真剣な表情へと戻り、祈った。「……頼むよ。」―――それと同時刻。それぞれの場所で、チェリ、ヘザー、デジャが、無意識に天に祈りを捧げていた。
――――次の日の朝。いつの間にかベッドに突っ伏していたジタが目を覚ます。「!!―――やべッ…!」ブローニャの顔を見ながら眠りこけていたらしい。慌てて体を起こした時だった。「おはよう、ジタ。」頭上からかかった声に、ジタは顔を上げる。すると、そこには顔から赤みが引いて、すっきりとした顔で笑みを浮かべているブローニャの姿があった。「……!!」―――――廊下をドタドタと走る足音が聞こえる。バンッと扉を勢いよく開けると、そこには複数人の人が集まっていた。「熱下がった!!!熱下がったって!!!?」「静かにしなさいッ!!」慌てて飛び込んできたチェリに、医者が怒鳴る。慌てて両手で口を抑えるチェリ。ベッドで座るブローニャの周りにはオレリア以外の皆が集まっていた。「全く…大げさだぞ。」大所帯に引け目を感じるブローニャは、いつもの調子を取り戻していた。「大げさなんてねぇよ!!」「そうだぞ、お前のそういうところが―――」「静かにしなさい!!」医者に怒鳴られ、今度はヘザーとデジャが口を抑えた。そして暫くブローニャの状態を確認していた医者が、椅子に座って落ち着けると結論づけた。「もう大丈夫だろう。」「……!!」わっと喜ぶ面々に気恥ずかしさを感じるブローニャ。だが、皆のその想いが嬉しかった。「…精神的なものもあったのかもしれないな。」「…」もしかすると昨夜、ずっと抱えていた不安を吐き出したのも良かったのか、とジタを見るブローニャ。ブローニャの目線に気づき、ふっと笑うジタ。そんなジタに微笑みながらブローニャは、心の中で感謝の言葉を述べた。「うぅっ……良かった…!良かったよぉ……っ!!」ぐすぐすと泣き始めるチェリに皆が笑う。「なんだよお前…この泣き虫!!」そう言いつつもヘザーの目にも涙が浮かんでいた。デジャもどこか目を潤ませている。そしてもらい泣きするヴィマラ。サイとムダルもそんな皆を見てほっと安心したようだった。そしてブローニャも、大切な友人たちが泣いて喜ぶ様子を見て、微笑みながら目に涙を浮かべているのだった。
――――それから数日かけて、ブローニャの容態はどんどんと良くなっていった。動けるようになったオレリアも見舞いに来て、お互い佳境を乗り越えたと称え合った。そして――――「すっかり元気になった!!」見舞いに来たチェリ達3人の目の前で、もりもりとご飯を食べるブローニャ。「そりゃ何よりだな。」「ていうか大丈夫なの?そんなにがっついて…。」「また腹痛くなっても知らねぇぞ。」「もう大丈夫だ!医者からの許可も出てる!」「なぁ、あのおっさんってやっぱりすげぇの?」ヘザーの問いにデジャが答えた。「あぁ…。何やら、医療業界において"『神の力』を持つ男"と呼ばれていたとかなんとか。自称だがな。」「何それすごいじゃん!!」「かっけぇ…!!」「じゃあ腕は確かだったってことだな。」「やっぱりあの熱って精神的なものなの?」チェリの問いにぎくりと体を強張らせるブローニャ。まだ何も言ってないのに、慌てて反論する。「そっ…、そもそも!お前達が毎度毎度神妙そうな顔で来るのが悪いんだ!医者から何か聞いて、もしや重傷なのかと不安になったんだぞ!!」「え~~~!?だってブローニャがあんなに気弱なの初めて見たんだもん!!それに、これまでの旅の中でも、そんな大怪我とか熱出したりなんかしなかったし!」「雨に濡れようが寒い環境いようが、風邪も引かなかったしよ。まさに健康体、って感じだったもんな。」「ぐっ…、まぁ、そうだが…。」そう言われては何も言えまい、と言葉に詰まるブローニャに、デジャが呟く。「…感染症の、しかも重症かと思った。…いや、もしかしたら始めは実際にそうだったのかもしれないが…。」「…いや、ほんと良くなって良かったよ…。」「…」そして再び暗い顔になった3人を見て、ブローニャはかちゃんと皿とフォークをトレーの上に置くと、皆に向き直った。「……心配させて悪かったな…。」そんなブローニャの表情を見て、3人も慌てて取り繕う。「もういいって。」「そうよ!良くなったんだから!それが何よりよ!」「…もう怪我するなよ。」「…それはお互い様だな。」そう言ってブローニャが笑うと、皆も笑った。「……ありがとう。」そんなブローニャの心からの感謝の気持ちに、皆笑顔で答えた。「まぁ、ブローニャが私達のこと大好きだってこともわかったし!」「あ!おい馬鹿、チェリ!!」「?」「おい!馬鹿はお前だ!」「!―――…!?」3人のやり取りを見て察するブローニャ。「あっ…そっか、やべっ…!」慌てて口を塞ぐがもう遅い。特に違和感の無かったチェリの言葉が、ヘザーの突っ込みにより、“あること”を示唆していた。「………おい、まさか……。」ブローニャの表情を見て青ざめる3人。――――「ん?」村人の手伝いを終えて座って休憩していたジタの元へ、ブローニャがずんずんと歩いてきていた。「!おいお前、もう大丈夫なの、か――――…」だがこちらに近づいてくるにつれ、鬼の形相でジタを睨み付けていることがわかった。その顔を見てすぐにピンときたジタ。慌ててその場を立ち上がる。「あいつら…!!内緒だって言ったのに…ッ!!!」そんなジタの目の前にずんと顔を近づけて怒鳴る。「やっぱり言ったのか!?」「いっ…言ってない!!言ってないぞ!!」「嘘だろ!!『旅が楽しかった』だの、具体的なことまで知ってたぞ!!」「~~~~あいつら……!!」頭を抱えるジタ。だがこれ以上誤魔化せないとわかると、切り替えて弁明に入る。「…いや、俺はな?ブローニャ。お前の本音をちゃんと皆に伝えた方が良いんじゃねぇかと、良かれと思ってだな!」「そんなッ…――――~~~ッッ…!!」傷口に響いたようで、腹を押さえるブローニャ。そんなブローニャの体を心配そうに慌てて支えるジタ。「おいおい大丈夫かよ…、無理すんなって。」ブローニャの両肘を下から支えて顔を覗き込む。「……っ…大丈夫だ…。」「!」そこには依然として、不服そうにジタを睨み付ける目があった。それを見て思わず笑うジタ。「……やっぱり、…お前は元気な方がいいな。」その時の笑顔が爽やかで、心底嬉しそうで。「……!」それを見たブローニャは、思わずもう一度顔を伏せた。「…あ?どうした?」「……なんでもない。」「?」――――二人で並んで座り、景色を見ながら話をする。「…もう、大丈夫なのか?」ジタが気がかりな様子にしながら問いかける。「怪我は確実に良くなってると医者が言ってた。だからこうして――――」「そっちじゃなくて。」「!」ジタの目にその意図を察するブローニャ。「…あぁ。」いつもの調子を取り戻したブローニャは、それに躊躇いなく笑顔で答えた。「大丈夫だ。」そして、決意のこもった瞳で山の向こうを見つめながら宣言する。「私は、…これからも強くなる。仲間のためと、――――……自分のためにも。」それを聞いて、ふっと笑うジタ。「…そうか。」すると、遠くからへとへとになりながらブローニャを呼ぶ声が聞こえてきた。「ちょっとブローニャ~~~!先生がまだあんまり動くなって言ってたわよ~~!?」「お前…ッ!まだ傷口塞がってないんだから…無理するなよっ!」「あと…バシリア達が戻ってくるそうだって…。」探し回ったのだろう、ぜーぜーと疲労たっぷりの3人を見て、ジタと笑うブローニャ。「わかった。すぐ戻る!」そう答えた時のブローニャの笑顔は、とても晴れやかなものだった。