「わわわっ!!」木製のナイフがはじかれ、チェリが尻もちをつく。「先読みと踏ん張りが足りないぞ。」そう言ってブローニャは木製の剣を下ろし、姿勢を正した。「いたたた…。…ていうかブローニャ動き早すぎ…力強すぎ!!」「何言ってんだ。本気で襲い掛かってくる奴はこれよりもっとだぞ。屈強な男なら猶更だ。」そう言ってチェリに手を差し伸べる。チェリはその手を取り、ブローニャの力を借りながら立ち上がった。「ていうか準備良すぎない?こんなものまで持ってきてたなんて…。」そう言って自分が手にする模擬戦闘用の武器をまじまじと見つめる。「入用だと思ったからな。」―――盗人を追う旅の道中。草原では、ブローニャとデジャが先生となり、チェリとヘザーの戦闘の訓練を行っていた。ヘザーが木製のナイフを構え、デジャに対峙する。デジャは余裕そうに、上着のポケットに手を突っ込んで棒立ちしている。そんなデジャに向かって、ヘザーが突きの攻撃を仕掛けるが、軽々と躱される。二度、三度、と方向や軌道を変えて攻め込むが、いずれも掠りもしない。そして、何度目になるかわからない攻撃を繰り出したその時、ヘザーの手の甲がデジャに掴まれた。「へ、」勢いそのままに足を払われ、引き倒される。続けて、後ろ手に腕を捻り上げられた。「いててててッ!!!ギブ!!ギブ!!!!」ヘザーがぱんぱんと叩くと、デジャはようやくその手を解放してくれた。「…ッはーーーー…。」ヘザーは仰向けに寝ころび、空を見上げる。「師匠とはまた全然ちげー…。」「悪くない動きだったけどな。」「どの口が!」「デジャの言うことは本当だ。良い師匠に巡り合ったんだな。」「…」その言葉を聞きながら、ぼうっと青空を眺めていると、鳥が円を描きながら滑空しているのが見えた。すると、視界の端にどかりと座り込むチェリの姿が映る。「ていうかさー、あんた狩猟とかサバイバルの訓練してたとか言ってたわよね。そんな対人格闘の訓練もしてたわけ?」「…あー…」チェリの問いかけにヘザーは何故か口ごもる。「…この前みたいな輩に遭遇した時に、自衛できるよう訓練してたんだよ。山奥で1人、人気のない場所にいると、悪党とかの輩に遭遇する場面なんかもあるからさ。兵士にも頼れない環境だろ?」「あー確かに!なるほどね~。山暮らしも楽じゃないのね。」「それに野生動物もいっぱいいるしな。熊とか。」「く、熊かぁ…。」話す2人の元に近づくブローニャ。「チェリにヘザー。お前らの動きを見ていて思ったが、何も真正面切って正々堂々とやらなくてもいいんだぞ。」「へ?」「お前達の戦い方は優等生すぎる。もっと卑怯な手も、姑息な手段も使え。」「…指導者がそういうこと言っていいわけ?」「そりゃあ学校の先生ならこんなこと言わないさ。無法の地で生き延びる術を教えてるんだからな。生死をかけた戦いに、綺麗事なんて言ってられないぞ。」「…!」「ましてや私達はか弱い乙女だ。そうでもしないと屈強な男共には勝てない。相手の隙をつかなければ、いつまで経っても勝てないぞ。」「か弱い乙女…?」「何だ。文句でも言いたげだな、ヘザー。」ブローニャがヘザーをじとっと見つめている間に、デジャがチェリに告げる。「不意打ちや背後から、なんてのは常識だぞチェリ。急所を狙うとか弱点を責めるとかもな。」「ずるっ!!」「ずるかろうがやったもん勝ちだ。」「じゃあ男の股間蹴り上げても良いってこと?」「当たり前だろ。」「当たり前って…。」
――――「つーかよ、こんなのんびりしてていいのかよ?」暫く訓練した後、皆で草原に座ったり寝転んだりして休憩をしていた頃、ヘザーが訊ねた。「まぁいいだろ。宝なんて、最悪取り返せなくてもいいんだからな。」ブローニャのなんでもないように放った言葉に、仰向けに寝転がっていたチェリががばりと起きる。そして、隣に座るヘザーと共に身を乗り出した。「はあッ!?」「何よそれ!?聞いてないんだけど!?」2人の様子を冷静に見ながら、ブローニャは言葉を続けた。「王様や王国の立場としては、『取り返す意志』だけ国民に見せておけばいい。"あんなガラクタ"―――…なんて思いは、誰も彼も同じだ。本音では、取り返すほどの価値は無いと思われてる。」「あぁ。だから…。」「私達が選ばれたってわけ…?」ということは端から期待されてないってことじゃないか。女4人、なんで王国の許可が下りたのかと思ってはいたが…。ブローニャは、若干ショックを受けている2人を尻目に、チェリの奥に寝ころぶデジャの様子を伺う。だが、デジャに動じる様子はない。元々知っていたか、それともその点については大して重視していないということか。依然として、彼女が何を目的としているかは不明だが、宝が欲しかろうが金が欲しかろうが、先を急ぎたがる様子はなかった。未だにショックから抜け出せずにいるチェリとヘザーに視線を戻す。「まぁ、だから気楽にやれ。王国の金を使って、外の世界を見る良い機会くらいに思っておけばいい。」ブローニャの言葉に、それもそうか、と思い直すチェリ。そう言えば元々そのつもりで志願したんだった。確かに、この目の前に広がる草原や森、高山の連なりなどの雄大な景色も、今回のことが無ければ見られなかったものだと思うと、なかなか感慨深い。「…皆、それぞれ別に目的があるだろうしな。」ブローニャの言葉に、ヘザーとデジャの視線が寄せられる。「…」何か言いたげだが、2人とも何も言わなかった。「別に目的って?」チェリが皆を見回しながら無邪気に聞き返す。「…お前と同じだろう。」"強くなりたい"―――それに関しては、皆共通の筈だ。その先にある何かが違うとしても。ブローニャはそう言ってはぐらかした。「あぁ、そういうこと。」納得したように、チェリは再び仰向けに寝転がった。だがその時、ブローニャがふいに何者かの気配を察知する。「誰だ。」そう呼びかけた後、ブローニャは瞬時にナイフを投げた。木々が生い茂る中へ投げられたそれは、その先にそびえる木の幹に刺さる筈だった。しかし、チェリは見た。ブローニャの投げたナイフは、まっすぐ飛んだかと思えば―――そのまま、幹に吸い込まれて消えていったのだ。直後、男の情けない悲鳴が林の中に響き渡る。チェリが自分の目を疑っている間に、ブローニャとデジャが、急ぎその場所へ向かっていた。それに気づいたチェリとヘザーも慌てて後を追う。すると、ナイフが吸い込まれた幹の裏で、男が肩にナイフを刺し、へたり込んでいた。「!?え、あれ!?」思わずチェリが声をあげる。おかしいな、ブローニャが投げた場所は、この人から見て、木を挟んだ直線上の位置だった筈なのに。「―――…」デジャもまた、目の前の光景に違和感を抱いていた。「(何が起きた?)」だが、今は男が何者であるかを確認するのが先決だ。そう思い、男に問いかける。「おい、お前何者だ。」「…くっ…!」男は怪しい装束にすっぽりと体を覆われていた。頭に頭巾を被り、目以外、顔の大半を隠している。男は答えたくないとばかりに、肩口の傷を抑えながら目を反らした。その時、はっとブローニャに嫌な予感がよぎる。「お前ら馬車に乗り込めッ!!」振り返ったブローニャの視線を追うと、道の向こうから、男と同じ怪しげな装束を身につけた集団が、馬に乗ってこちらに駆けてくるのが見えた。「えっ!?えっ!?何!?何なの!?」「いいから早く乗れッ!!」「おいおいマジかよ…!!」慌てて馬車に乗り込んでいく一行。ブローニャが手綱を引き、集団とは反対方向へ駆け出した。「ねっ…ねぇブローニャ!!あいつら何!?」「おそらく野盗だろう。」「野盗!?」「人気のない場所を狙って、旅人やら貿易商やら、身ぐるみを剝がして回ってんだろ。」デジャが代わりに答える。「チェリ、何人追って来てる?」「えーっと…、2、3、4…5人!」「まずいな…、荷馬車じゃ速度が出ない。直に追いつかれるぞ。」「…!」その時、ヘザーが荷台で何やらごそごそとしているのが見えた。そこから弓矢を取り出して、集団に向けて構える。「…ッのやろ…!」ヘザーの放った矢は、一頭の馬の足に当たって倒れた。「やるじゃない!」「この動いてる中でよく当てるもんだな。」珍しくデジャがヘザーを褒める。「へへっ!この勢いで…――――!!」だが、二射目を放とうとした時だった。追手の集団も同じく、弓矢を構えだした。「!?」それを見た荷台の3人は慌ててしゃがみ込む。「ブローニャ!奴らも弓矢を使う!!」「!」背後の状況を把握出来ていないブローニャにデジャが警告をすると、ブローニャは手綱を操り、馬の進路を逸らした。すると、追手の放った矢が荷台の横をかすめて通り過ぎた。それを見たチェリはヒイッと血の気が引く。「おいおいヤバいぞ…!」荷台から若干顔を出しつつ、ヘザーが後ろの様子をうかがう。が、「うわっ!!」二射目、三射目、と次々と矢が放たれる。その間にも、追手は着実に距離を詰めてきていた。その時、チェリは意を決したように動き出すと、荷台の箱の中をごそごそと探り、ナイフを数本取り出した。「お前何する気だ…!?」ヘザーの問いかけに、緊張で顔が引き攣りながらも、口角を上げたチェリが答える。「私にも、私に出来ることをすんのよっ!!」そしてばっと立ち上がる。「馬鹿!!おまッ…!」ヘザーが手を伸ばそうとした瞬間、チェリの手元からバラバラとナイフがこぼれ落ちた。―――が、それらは地面に落ちることなく、宙に浮いた。「…!?」そして次の瞬間、風を切って滑空し、追ってくる集団へと飛び出していった。「はあッ!?」「…!!」ヘザーだけではなくデジャも目を丸くし、その軌道を追う。ナイフが飛んできていることに気づいた追手が、避けようと進路を変える。「このッ…!」チェリが手をかざして力を込めると、ナイフはそれに呼応するように弧を描き、旋回しながら向きを変えた。すると、ナイフはそのまま、追手が乗る馬の体を突き刺した。「出来た…ッ!!」馬は前足を高く上げて嘶くと、乗っていた人物を振り落とした。それを見たチェリは、「次…ッ!」と、飛ばした他のナイフに意識を向ける。そちらも同じように、追手に躱されていた。「~~~当たれッ!!」標的を定めてナイフを制御するものの、なかなかどうして当たらない。複数本同時に操作しているのもあってか、思うように飛ばせないらしく、苦戦していた。ナイフは行ったり来たりを繰り返すばかりで、敵に接触することはない。だがその時、チェリの傍らからびゅんと矢が飛んでいくと、ナイフを避けた馬の胴を突き刺した。馬は痛みでどんどんと失速していく。「ヘザー…!」隣を見ると、ヘザーが次の矢を放つ準備をしていた。「お前はそっちに集中してろ!!」追手達は奇妙なナイフの動きを追うのに必死で、こちらへの注意が疎かになっていた。その隙をついた攻撃だった。心強さを感じながら、チェリは再び集中する。「…ッ任せなさいっての…!!」浮遊させていたナイフの一つを、ここだ、と定めて加速させる。ナイフはまっすぐ飛ぶと、騎乗していた人物の腕に突き刺さった。「…!」痛みに耐えきれず、騎手の動きが徐々に鈍っていく。それを見て動揺した他の追手に対し、ヘザーの矢が次々に襲い掛かる。避けようとした者がバランスを崩し、馬から投げ出された。追手たちは、2人の連携に完全にリズムを乱されていた。最後の1人は、このまま追っても無駄だと判断したのか、徐々に減速し、やがて向きを翻して仲間のもとへと駆けていった。その背が遠ざかり、小さくなっていくのを、ヘザーとチェリはしばらく見つめていた。やがてそれが見えなくなると、チェリが一気にぶはっと息を吐き出した。「…ッは~~~~っ!!!緊張したあ!!神経使う!!!疲れた!!頭痛い!!」汗をかきながら深呼吸を繰り返すチェリ。その様子に呆然としていたヘザーだったが、はっと我に返ると、満面の笑みを浮かべ、勢いよくチェリの肩に腕を回した。「なんだよ!!すげえな!!やるじゃんチェリ!あんな技持ってたのかよ!?」「へ…へへっ…!秘密兵器よ…!!」そう言ってVサインをするチェリ。「あんたこそサポートよかったわよ!!めちゃくちゃ助かった!!」「あっはは!!あたしら結構良いコンビネーションだったんじゃねえの!?」そう言って2人は笑い合うと、いえーい!とハイタッチをする。はしゃいでお互いを称え合う2人を見ながら、デジャはほっと胸を撫でおろした。「ははっ、すごいな!」背後から安心したような笑い声が聞こえて、デジャが応えるように呟いた。「…あいつらも結構やるな。」「あぁ。私の目に狂いはなかったな。」「それに関しては否定しないでおいてやる。」ブローニャとデジャも、2人で笑い合った。「…お前、知ってたんだな。」チェリの能力を目の当たりにした時、ブローニャが驚く素振りを見せなかったことに、デジャは気づいていた。デジャの問いかけにブローニャは淡々と答える。「まぁ、そりゃな。今回の人員選出に当たって、私は王国民台帳を確認している。というかそもそも―――」そう言いつつ、笑うチェリに振り返った。「…いや、」そして言葉を飲み込むと、ふっと微笑んだ。「…だがしかし、あれほどまでに精密な動きをさせられるなんてな。…努力したんだろう。」ブローニャはどこか感慨深げな表情を浮かべていた。「…」それに倣うように、デジャも2人を眺めた。
――――走り去る馬車を見つめながら、追手の1人が呟く。「『神の力』―――…。」
――――「で、だ。」一行はその後、近くの町に辿り着くと、昼食にありついていた。食事の最中、ヘザーが話題を切り出す。「さっきのブローニャといいチェリといい、アレって一体なんなんだよ?」前の席に座ったブローニャとチェリは、口に目一杯料理を頬張りながら、きょとんとした顔をしていた。「『神の力』、だろ。」代わりに、ヘザーの隣に座るデジャが答えた。「は?」聞き覚えのない単語に、今度はヘザーがきょとんとする。「え、何?あんた知らないの?」「え?何その反応…。もしかして一般常識?」「まぁ、田舎や山奥に住んでいたというし…。その上、学校にも通っていなかったのなら無理はないな。」「歴史の授業で習わなかった?」「習ってない…。え、つーかマジで知らないんだけど。さっきの言葉も初めて聞いたし。何なんだよ?」「まぁ、なんだ。簡単に言うと…数千年前に人間が神様から授かった"人智を超えた力"、だな。」「神様ぁ!?」「馬鹿!お前…ッ声が大きいッ!!」ブローニャが身を乗り出し、慌ててヘザーの口を塞ぐ。「この話デリケートな内容なんだから!あんまり大きい声で言わない!」「えっ!?なんで?」ヘザーから手を離しつつ、真剣な顔をしたブローニャが小声で言う。「…世の中には、"神様"という存在を信じている人間達もいるんだ。中には強い信仰心を持つ信徒もいる。色んな宗派があって、皆それぞれに自分の中の『神様像』がある。…この"おとぎ話"を本気で信じている奴もいるだろう。下手なことを言うと、後ろから刺されるぞ。」「…な、なるほど…。」理解した様子のヘザーを見て、ブローニャとチェリが座り直した。「…まぁ、正直私も神様が何だなんてのは信じてない。…が、実際に自分がこの不思議な力を持っているのがなんともな。」「…それで?"おとぎ話"ってのはなんなんだよ?」「んー…とね、私もうろ覚えなんだけど…。」
―――――神は人を造った。神は人に知能を与えた。神は人に技術を与えた。神は人を増やせるようにした。人は多種多様に増えた。やがて人は力を持つ者と、持たざる者に分かれた。力を持たない者は、力を持つ者に虐げられる日々を送っていた。土地を奪われ、金を巻き上げられ、奴隷のように働かされた。理不尽な目にも数多くあった。やがて耐え切れなくなった彼らは神に頼み込んだ。『奴等に対抗できる力が欲しい』と。神は人に『力』を与えた。―――――
「それがこの力とされている。」「へー。」「そして、『神の力』を授かった者達は、その力を以て強者へと対抗し、自分達の生活を守れるようになって幸せに暮らしましたとさ、…とか、そんな感じだった気がする。」「なんだよ、急に適当だな。」「あんまよく覚えてないのよね。」「今や伝承でしか伝わっていないからな。その物語がはっきりと記された古文書もあったようだが…。かつて『神の力』が"悪しきもの"として迫害されていた時代に、破棄されてしまったそうだ。」「そんな大事なもんを!?」「ほんとだよな…。」「そもそも今は力を持ってる人の数が少なすぎて、そんなおとぎ話!…って、存在自体信じる人が少ないのよね。だから私も周りにはあんまり言いふらさなかった。」「へぇ…。にしても、すげぇな。それってどうやって使えるようになんの?」「さぁ…物心ついた時には使えてたからなー。」「ちなみに遺伝で受け継がれる、というものではないらしい。突然、力を備えた者が現れるようだ。親がこの力を持っているからといって、子供にも発現するわけじゃない。逆に、親が力を持ってなくとも、子供が突然発現することもあるみたいだな。」「ふーん。じゃあ能力持ってたら当たりだな。」「どうだかな…。」「ちなみに制約とかはあるのか?」「制約…と言えば制約か?この力は、"武器にまつわるもの"に限られるようだ。」「というと?」「例えば私の力は『生命体以外の物体をすり抜ける』――というもののようだが、それが出来るのは剣やナイフ等、武器を使う時だけだ。」「!だからさっき、ブローニャの投げたナイフが木の幹をすり抜けて、人にだけ当たったってこと!?」「あぁ。だからこんなことが出来る。」そう言ってブローニャは短刀を取り出すと、テーブルに突き刺した。「いたっ」「今チェリの太ももに刃先が刺さってる。」「ちょっと!!」ヘザーとデジャがテーブルの下を見ると、確かに刃先はチェリの太ももに当たっていた。ブローニャはその刃を引き抜く。短刀が刺さった筈の箇所を確認し、触ってみても、テーブルはなんともない。「確かに不思議なもんだな。」「…なんか、使い方難しそうだな…。」「だろ?」「ねぇ!ちょっと血ぃ出てるじゃん!!」「すまんすまん。今これしか持ってなかった。」「も~~~!」自分の太ももを凝視するチェリにヘザーが呼びかける。「チェリのは『武器を自由に操作できる』、って感じなのか?」「ん~~?…まぁ、そうねー。さっきみたいに、念じれば思う通りにあっちこっち飛ばせるわよ。確かに私も、ナイフとか剣とか、武器にしか使えないなぁ。」「へぇ…。」ヘザーの考え込むような様子を不思議に思い、ブローニャが問いかける。「どうした?何か気になることでもあるのか?」「今ちょっと思ったんだけど…。」「ん?」「もしかしてさぁ、あたしのこれもそうだったりする…?」「は?」ヘザーが木製のテーブルに手を触れると、テーブルから取り出されるようにして、木製のナイフが出現した。「…は?」「え!?」「…」3人とも目を丸くして、その様を凝視していた。「…なんか昔から出来たんだけどさ。物に触ってイメージすると、その材質の武器が取り出せるんだよな。」あははーなんて笑うヘザーを見て、チェリが咄嗟に立ち上がり、思い切り指を指した。「いやいやいや!!あんたも"力"持ってんじゃん!!どの口が『すげえなー』なんて言ってんのよ!?」「いや、だってお前らのとはまたちょっと違うだろ!!なんつーか、系統?が!!」「まぁそう!…だけど!!でも、へえッ!?こんなのもあんの!?」ギャーギャーと騒ぐチェリとヘザーを横目に、デジャがブローニャに問いかける。「これは流石のお前も知らなかったのか。」「だって記録に載ってなかったぞ!?」ブローニャが慌てて自分のメモを見返す。「そりゃ本人が自覚してなかったらそうでしょうよ!!」チェリが2人に怒鳴る。「え?てことはこの流れ…もしかしてデジャも…!?」ばっと3人の視線がデジャに集まる。が、「私は持っていない。」デジャは両手を挙げてひらひらとさせながら、あっけらかんと答えた。「ほんとに!?」「お前も自覚してなかった力とかあるんじゃないのか!?」そう言ってチェリとブローニャが詰め寄るが、デジャは鬱陶しそうに眉をひそめると、「私は本当に無い。この馬鹿と一緒にするな。」とヘザーを指差した。「あぁ!?誰が馬鹿だって!?」そんな風に4人で騒いでいると、「やかましい」と、店を追い出された。
――――「全く、お前らのせいで追い出されただろ。」「お前が余計なこと言うからだろ!!」デジャの言葉にヘザーが突っかかる。町を歩いている途中、再び口論になりかけたその時。ヘザーはふと何かを思い出したように、後ろを歩くチェリへと声をかけた。「つーかさ、あんな力あるなら、この前なんで小屋で使わなかったんだよ?」その問いかけに、若干気まずそうな表情を浮かべるチェリ。「あの時は…あんな狭い小屋で使ったら皆に当たりそうだったし…。ていうか何より、ビビッちゃって全然思いつかなかった。」てへ、と舌を出してウインクする。「あっ…そう。」呆れたように言うヘザーの隣で、デジャが続く。「…凄い力じゃないか。お前は"強くなりたい"と言っていたが、十分―――」「この力にだけ頼りたくないのっ!」怒鳴るようなチェリの言葉に、3人が見る。はっとしたチェリが慌てて、「ごめん」と謝罪する。そして気まずそうに俯きながら、思いを吐き出した。「…私は、ちゃんと自分の力で強くなりたいの。…それに、強くなるっていうのは体だけじゃない。…私は、心が弱いから…。」そう呟くチェリに対して、誰も何も言うことができなかった。―――その後、盗人の情報を集めるためにデジャとヘザーは町へ繰り出し、チェリとブローニャは馬車の番をしていた。「…お前はさっき、"自分の力で強くなりたい"と言ったが…、」ブローニャが突然話を切り出してきたため、思わずその顔を見るチェリ。ブローニャは空に浮かぶ雲を見つめていた。「それだって、立派なお前の力だ。―――同じ力を持つからわかる。あそこまで上手く操作できるってことは、それだけの練習をしてきたんだろう?」「!」そしてブローニャはチェリに視線を移した。「…チェリ。私はお前に言ってなかったことがある。」「え?」「私は、あの日、お前を勧誘するより前から、お前のことを知っていた。」「え…!?」昔を懐かしむようにブローニャは遠い目をする。「確か…6年前だったか。私が兵士として働くようになった頃…。私は、戦いにおいて兄貴達ほどうまく立ち回れなくて…この『神の力』も思うように使いこなせず、持て余していた。そんな自分に嫌気がさしていたんだ。」「…ブローニャにも、そんな時期があったのね。」「あぁ。…それで、むしゃくしゃして町の中をぶらついていた時に、お前を見かけた。」「!」「…まぁ、その…お前からしたら見て欲しくなかった光景だろうが…。…あの日勧誘した時のように、お前は学友に突っかかられていてな。」「!…見てたの…。」チェリの言うそれは、ブローニャと出会った時と6年前のことの、両方を指していた。「あぁ。酷い言われようだったのに加えて、お前は人気のないところへと歩いて行くもんだから…心配になって後をつけたんだ。…そうしたら、林の奥で、力の使い方を練習するお前を見かけた。」「…!」「その時に見たお前は、ナイフを真っ直ぐに飛ばすのも、思う通りの方向へ操るのにも苦戦していた。…だが、お前は何度も何度もナイフを飛ばしては、上手く操作できるようにと努力を続けていた。汗をかきながら、必死な顔でな。…それがどうだ。今日見たお前は、ナイフを華麗に操るどころか、複数本を同時に扱うまでになっていた。しかもその力で敵を倒し、私達の危機を救ってくれた。…正直、驚いた。そして私も思った。さっきデジャが言ったように―――『お前は十分凄い奴だ』、ってな。」「…」「それから、お前に突っかかっていたアレは…貴族の娘だろう。」「!」「歯向かえば、自分だけじゃなく一家共々疎外されかねないから、下手なことが出来なかったんだろ?」「…」「辛い境遇に耐え続けられるも、強い心があるからこそだと私は思う。」「辛いだなんて…。平凡な学生だった私の辛さなんて、きっとブローニャや皆に比べたら…。」「同じ物差しで測れるものじゃないさ。生まれた場所が違えば、境遇も、環境も違うんだからな。お前だってお前なりに頑張ってきたんだろう。」「…」その見解は、ブローニャの"優しさに起因するもの"だと思うチェリは、素直に肯定できなかった。チェリの想いを察したブローニャは、己の考えを吐露する。「…本当に弱い奴は、そもそもこの旅に付いてこようなんて思わないし、ここまで付いてくることもない。そもそも『強くなりたい』という確固たる意志を持つこともない。…と、私は思ってる。もしかしたら、あの2人も同じかもしれないな。」「…」「まぁ、だが。誰しも人にはわからない己だけの基準だったり、矜持や、信念がある。お前なりの『強さの基準』と目標があるのなら、人と比べずに、お前のペースで目指せばいいだけだ。…私は、―――私達は、それを支えてやる。」「ブローニャ…。」「大丈夫だ。お前は絶対に強くなれる。お前の成長を見た、この私が保証する。」自信満々、といった強気な笑顔を浮かべたブローニャに、思わずチェリは笑う。「…わかったわよ。見てなさいよね!私の成長を!」「あぁ、楽しみにしてるぞ。」そしてチェリはふぅー…と息を吐き出し、力を抜く。「…私、あんたと旅に出て良かった。」「…それは光栄だな。」「…にしても、色々見られてたのは恥ずかしいわね…。」「気にするな。ヘザーには言わない。」「マジでそこはお願いだからねっ!?」笑う2人の視界の先で、戻ってくるヘザーとデジャの姿が見えた。