大和と出会ってもう少しで3か月が経とうとしてた。私もそれなりに気を付けてるつもりだけど、やはり危ない目に遭い続けていた。「―――っ……」今日も今日とて、私は居眠り運転をしていた車に轢かれそうになった。間一髪で大和が助けてくれたものの、着地の瞬間、大和の体が大きくぐらついた。手を離してもらってから彼女を見ると、何やら側頭部を押さえている。…最近、頭痛があるようだ。「…大丈夫?」「…問題ない。」「そうは見えないんだけど…。」しばらくすると、痛みは治まるようで、すました顔で、頭乗せていた手を下ろした。でも、その顔には少し疲れが見える。「もしかして、私のせい?」「…違う。」「私が、性懲りもなく事故に遭ってばっかりだからじゃないの?」「…関係ない。お前のそれは、回避できるものじゃない。」「……。でもさ、ちゃんと休んでんの?寝てるとこなんてみたことないけど。」そういえば。この前豊里が言っていたことを思い出した。確かコイツ、夜にも家の前で見張りしてるだかなんとか。それが毎日なのかどうかはわからないけど、それでも一日中毎日張り付いてるようなものだ。相当疲労も溜まるだろう。「…わかってるだろ。私はお前とは違う。お前の常識に当てはめて考えるな。」苛ついたようにそう言って、いつものように何処かへ行ってしまった。
――――今度の休日は、何やらイベントがあるとかで、以前から陽葉と清香の二人と出かける約束をしていた。…正直、大和があんな状態で、私が外出なんてしていいものかと思ったけど、久々に被った3人での休日。折角の約束を破るわけにもいかず。あの後、再び会った時に、大和本人に行っていいか聞いたところ、「私にお前の行動を制限する権利はない。」という答えが返ってきた。何故そんな言い方をするのか疑問もあったけど、自分のせいで私の予定が狂うのも嫌な様子だったから、私はおとなしく行くことにした。
イベント当日―――「「うわぁーーー…」」流石都心。人の多さが半端じゃない。交差点付近の人ごみを見て、今からここを通るのかと思うと心底げんなりした。…大和いるのかな…。きょろきょろと辺りを見渡すものの、目的の人物の姿は見えない。二人の呼ぶ声。それに付いていくように、いざ人ごみの中へ足を踏み入れた。前から来る、人、人、人―――春も近づく季節でこの人ごみはそろそろ暑苦しい。と、肩に懐かしい感触。触れられた瞬間、びくりとしてしまったものの、その感じが初詣の時のそれと似ていたものだから、安心して振り返った。「大和!あんたなんでここに――」「いいから…ちょっとこっちに来い。」顔を見る間もなく、突然現れた大和はそのままの体勢で、私の背中を体で押しながらぐんぐんと人ごみの中を掻き分けて進んでいく。「え、ちょっ…」何かあったのか。その足取りは何かに追われるようで…。あっという間に前方にいた二人を追い越した。私は、戸惑う二人に声をかけながらも歩みを止めることはなかった。ようやく人ごみを抜けて裏路地に入った直後。大和の体が、前のめりに傾いた。突然のことで訳がわからなくて、大和が地面に突っ伏して、その体から赤い液体を滲ませるまで、私は身動きが取れなかった。後に続いてきた二人もそれに気づいたのか、私の背後で清香が短く悲鳴を上げる。こんなこと、初めてだ。大和が倒れるなんて。大和は動きもせず、ただただ苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。思わぬ事態に混乱した私達は、どうすればいいかもわからずに硬直してしまった。その時、「ぁ―――、きゅ、救急車…!救急車、呼ぼう!」いち早く正常な思考を取り戻した陽葉が、そう言って携帯を取り出す。それを合図に、私もようやく体を動かすことが出来た。大和の傍に座り、一先ず血を止めなきゃと鞄からタオルを取り出し、その出所を探る。と、大和が何かしら伝えようと口を動かしているのに気づいた。それを見て、ビル火災の時のこと、そして、これまでの発言の数々を思い出す。…大和は、人間じゃない。人間の常識を、当てはめられない。「―――陽葉、待って!」「え?」「救急車はやめて。」「え…っ、でも、」「…ごめん…お願い。」懇願しながら、縋るような目をする私に、陽葉は何かを感じ取ったのか、発信ボタンを押す手を止めてくれた。すると、今度は清香が携帯を取り出して操作し出す。「それじゃあ、私の親戚のお医者さん呼ぶよ。車もきっと用意してくれる。大丈夫、信用できる人だよ。」「…っ」意識がなくなった大和に何もしないのも不安だったから、そこは甘えさせてもらうことにした。「…それじゃあ、私の家までお願いしてもいい?」「任せて!」傷口から溢れる血の量が、私を不安にさせる。清香の親戚が来るまで、私はそこを必死な思いで圧迫し続けた。頼んだ通り、近くに住むという清香の親戚の人に車で送ってもらった。そして、2階にある私の部屋のベッドで診察してもらうことになった。家族が誰もいないのは好都合だった。陽葉と清香には1階にいてもらって、私は先生と一緒に大和の傍にいた。「―――…、」 大和を診察している最中の先生の反応で、疑惑が確信に変わった。大和はやっぱり、人間じゃなかった。「…この子は、何者なんだい…?」 おぞましいものを見たような目で、私に問いかける先生。「…正直、私にもわかりません。でも、助けてやってください。」「…っ、私も長年医者をやっているからね…患者は誰であっても助けたいと思っているよ。ましてや、姪の友達だ。…しかし…、」「…」「すまない。…私には、どうすればいいのか…。」「…」「この子が何者かわからないから…、熱は冷やせばいいのか、…傷に薬は効くのか、…どうしたら回復するのか、…それが、わからないんだ。人間に対する処置が、この子にとって正しいものなのか。…もしかしたら、逆の効果を発揮させてしまう可能性もあるからね。」人間じゃないものを診察しているというのに、冷静に分析し、的確な判断をする様は、流石プロといったところだろう。でも今は、とにかくどうにかして大和を助けてほしかった。「…取り敢えず出血は止まったようだけど、それ以上は無暗に処置しない方がいいのかもしれない。…研究すれば、何かわかるかもしれないけど…。」「…それは、」「そうだよね。…すまないね。」この人は話がわかる。頼って正解だったようだ。だけど、対処法はわからず終いとなってしまった。―――先生を見送ろうと部屋を出て、先生の後につく。「彼女のことは…」「…医者には守秘義務があるからね。大丈夫だよ。私はただ、姪の友達の友達を診察しただけだ。」察しの良い人だ。言わずとも、私の意図を理解してくれた。「ありがとうございます。」「二人は私が帰しておくよ。君は、彼女の傍にいてあげなさい。」そう言って微笑み、頭を優しく撫でてくれる。清香の言った通り、信頼できる人だった。「本当に、ありがとうございます…。」
――――「私、今日学校休む。」「…私も休もうか。」豊里が心配そうに言う。「いいよ。あんたは、行けるときに学校行っとかないと。それに、どうせずっと家の中いるんだから大丈夫よ。心配ご無用。」「…くれぐれも、外出ないようにね。」「わかってるって。居留守は得意だから。」あの時、私達が通った大通りで、通り魔事件があったそうだ。人混みを狙った、無差別的な犯行。多分、大和を傷つけたのはそいつだろう。例によって、その餌食になりそうになっていた私を、こいつが助けてくれたってことだ。…いつもなら、余裕で避けられるのに。そもそも、なんであんたがくらうのよ。盾になったってこと?馬鹿なんじゃないの。どうしてそこまでして、「…」よほど苦しいのか、大和の呼吸はかなり荒い。意識もないみたい。人間じゃないなら、これってどういう症状なのか。どう対処すればいいのかもわからない。なんでそういう大事なこと、ちゃんと教えてくれないのよ。今回のことだって、一人で勝手に片づけちゃうし。結局未だに、自分が何者かとか、何のためにここにいるとかも言ってくれないでいる。「…」言えない、ってことはわかるけど…。…でもせめて、自分のことくらいは教えなさいっての。ふと、階下から、明らかに何かを探るような物音がした。…いやいやいやいや、まさかそんな筈…。「…。」 ちらりと大和を見ると、変わらず、顔を真っ赤にして荒い呼吸を繰り返してる。私は、部屋の中に置いていた護身用のバットを手にし、なるべく物音を立てないように部屋を出た。
――――私と大和しかいない筈の家の中から、別の者が鳴らしているであろう音が響いている。階段を下りていくにつれ、それは顕著になってきた。なるべく音を出さないように、足元と衣擦れ、そして呼吸に気を付けつつ、階段のすぐ下にある壁に張り付いて、物音のするリビングを覗き込んだ。「―――。」当たってほしくなかった予想は当たってしまった。そこには、目だし帽を被ったフード姿の男が。奴は、部屋の中を好き勝手荒らしまくっていた。このタイミングでまさかの空き巣かよっ!!っていうかなんて大胆な奴!!私の不幸ってのはここまでなのか…、と、我ながらちょっと呆れる。どうやら窓をくり抜いて、そこから入ってきたらしい。…どうする?自分でなんとかしてみる?…いや、相手はかなりの大柄で、がたいもいい。いくら軽く護身術をならったからって、女子高生のか弱い私が太刀打ちできるはずもない。しかも、今気づいたけど、手に刃物も持ってる。これは無理だ。おとなしく警察に電話しよう。目の前で家の中めちゃくちゃにされてすごいムカつくけど。私は諦めて、犯人に声が届かない階段の上部に移動し、携帯に110の数字を入力した。小声で警察へ通報する。「――はい、…はい、だから早く来てください。…え?手なんか出すわけないじゃないですか!いいから早く来てください!…はい、じゃあ。」警察はすぐに来てくれるとのこと。あとは彼らの到着を待つだけ…、そう僅かに安堵した時。「え。」 階段の先の曲がり角から、ぬっと黒い影が現れた。それは紛れもなく、さっきから私の機嫌を損ねる元凶そのもの。…ちょっと、油断してた。だって、通帳とか、金目の物なら一階に全部隠してあったはず。どうして上にくる必要があるのか。見つかんなかったのか!馬鹿なの!?それに、音には細心の注意を払ってた。なのに――…。犯人と目が合った。向こうは驚きもせず、ただじっと私を見つめた。目だし帽で顔が隠れているせいで、その感情は計り知れない。…とにかく今は、後悔してる場合じゃない。早く逃げないと――…。そこではたと気づく。無理だ。部屋には弱って寝込む大和がいる。こいつが危ない奴なら、バレた時真っ先にヤバい。だって、わざわざこっちに来たってことは、…まさか…?…いやいや、そんな…。ともかく、あいつの存在だけは、隠しておかなきゃならない。私はバットを振りかざし、たった今使用した携帯を見せつけるように突き出した。「今、警察に電話したから!捕まりたくないなら、さっさと逃げたら!」不敵な笑みを無理やり作って、余裕があるかのように振る舞った。金品が目的なら、わざわざ私に危害を加えるような真似をする筈はない。罪を重ねるなんてそんな、奴にとってマイナスにしか働かないことする?出ていくことを期待していた私の思いとは裏腹に、そいつの足はこちらへと向かって動いた。「はぁっ!?なんで来るの…っ!?」 なんて私は素直なのか。慌てて口を噤むが、後の祭り。焦ってることがバレバレだ。男は構わず、距離を縮めてくる。それに合わせて、私も後方へ下がる。が、自分の部屋の前にさしあたったところで、その動きを止めた。バットを握り直すものの、手汗がヤバくて滑る。…心臓が、ドクドクいってる。頭の中が熱いんだか冷たいんだか、なんか変な感じ。でも、頭を必死に巡らせる。大和はダウン。二人して逃げ切る方法も思いつかない。となれば…。――――…畜生。仕方ないけど、ここは私がどうにかするしかない。こういう相手に絡まれたことなんて、今までも沢山あった!大丈夫!…いや、ちょっと筋肉量が違うけど。刃物も持ってるけど。でも同じ状況で、陽葉や大和はきっと立ち向かうんだろう。私だってやればできる!イケる!!頼もしい武器もある!バットだけど!!私は心を決めて、携帯をポケットにしまうと、両手でバットを握った。ほどなくして、男は階段を上がり切り、私と同じ目線に立った。近くで見ると、男は思っていたよりずっと大きかった。自信を失わないように、自分を奮い立たせる。私はすぐ目の前だというのに、男は尚もゆっくりとした動きで近づいてきた。不審に思って、その意図を読み取るため、表情が唯一窺える目を見つめる。そこで、気づいた。気づいた瞬間、鳥肌がたった。――――こいつ、目が、笑ってる。私がおびえた様子を見ながら、楽しんでる…?警察が来るっていうのに、急く様子は全くない。こいつ、本格的にヤバい。何考えてるかわからなかったけど、男のその余裕が私を本能的に追い詰める。でも、引き下がるわけにはいかない。バットを握り直し、根を生やすように、私はもう一度しっかりと地に足をつけた。その直後、途端に男の動きが早くなった。一気に距離を詰めてくる。刃物は下ろしたまま。近づいてきたところで、私は思い切り顔面めがけてバットを振り下ろした。――が、なんと開いた方の手で掴まれてしまった。…嘘じゃん…普通の奴だったらそれで怯むのに。屈強な体格をしているだけある。バットを盗られたらそれこそ終わりだ。そう思って、手に力をこめ、なんとかとられないように粘る。掴みづらかったのだろう、思いきって引っ張ったら自由を取り戻した。なので、力任せにそのまま胸に打ち込む。それは見事当たったようで、痛みを感じる素振りを見せた。女子高生だからって、舐めてもらっちゃ困る。私だってそれなりに場数は踏んできた。それに、こっちだって生きるために必死だ。威力はそこそこなものの、まさかの反撃にプライドが傷つけられたのだろう、男は蹴りを繰り出してきた。身長が高い分、足も長い。奴の足は私の脇腹に直撃した。腕で少しガードしたものの、あまりの力強さに、斜め後ろに倒れ込んでしまった。更に、壁に頭を打ち付ける始末。「くっ…そ、こいつ…ッ!!」 頭と腹に抱えた痛みにこっちもムカついて、更なる反撃をしてやろうと振り返る。けど、男は既に、刃物を手にして振りかぶっていた。もう、遊ぶつもりはないようだ。ヤバい。刺される。そう思った時――――勢いよく、扉が開いた。そのすぐ隣にいた大男がそれにぶつかり、体をぐらつかせる。ノブを握った張本人はそのまま動かない。その隙に、男は体勢を立て直し、その人物――大和に襲い掛かった。止めようと、私も動こうとした。――――が。大和は、素早い動きで男の側頭に掌底を打ち込むと――あっという間に、のしてしまった。その間、僅か数秒。私が苦戦した相手を、やまとはたった一発で仕留めてしまったのだ。…今の私の頑張りは、一体…。そう思ってしまうほどの、あっけない幕切れ。なんか、無性に悔しかった。こいつ…弱ってるくせに。ぐらぐら、はあはあしながら、やまとは私の部屋から布をもってきて、横たわる大男の手首を後ろ手に縛った。念のためにもう一度体に蹴りを入れ、反応がないことを確認する。そこまでして疲れたのか、乱暴に壁に背中を預けて、そのままずるずると座り込んだ。その顔は赤いままだ。そのまま休んでればいいのに、顔をゆがめながら、四つん這いで私の傍に寄ってくる。「大丈夫か。」「…こっちの台詞なんですけど。なんで出てくる訳?」私に大事がないことを確認すると、今度は私の隣で壁にもたれかかる。「お前こそ、なんで逃げなかったんだ。」 気のせいか、少し…いや、相当怒ってる感じがする。「…あんたが死んで、私が生き残れるとでも思うの?」「私がこんな雑魚に殺されるとでも思ったのか。」 珍しくこいつが、人をけなすような言葉を言った。「…思った。」 それに何やらカチンときたようで、私の頬を抓ってきた。「いったぁーーーッ!!何すんのこのバカ!!」「別に。」「別に、じゃないわよ!どの分際で私のほっぺ抓ってんの!」「ほっぺ。」「うるさい!!いいから早く寝なさいよっ!」「お前の手当てが先だ。」「手当も何も、大したことないし!ふらふらなくせに!このやじろべえ!おとなしく寝てろ!!」「やじろべえはないだろ…」ぎゃーぎゃーわーわー言い合っている内に、パトカーのサイレンが近づいてきて、警察ががやってきた。私は痛む体を動かして、無理やり大和をベッドに連れて行くと、布団をかぶせてそこに隠した。上から押さえつけながら私は 「ちゃんとここにいるのよ。…それから、ありがとう。」 と、それだけ言うと、警察の出迎えをするべく、私は部屋を駆けて出て行った。実際、大和が来てくれなかったら、私はあそこで殺されてたかもしれない。また、助けられた。大和への感謝の念と、自分の情けなさを胸に、私は玄関の扉を開けた。
――――次の日になれば、やまとは回復してすっかり良くなっていた。私もかくして、学校に復帰だ。「大和さん、だっけ。あの人、大丈夫だったの?」「うん。もう元気も元気!…本当に、ごめんね。お出かけ台無しにしちゃった上に、心配までかけて。」「そんなことないよ!気にしないで。無事で良かったよ」「ありがとう、本当に助かったよ。あのお医者さんにもよろしく言っておいて。彼女は全快です、って。」「うんっ。」「アレってさ、またそうだったってことだよね。あんな人混みの中、瑞穂のこと見つけ出して、通り魔から助けてくれたんでしょ?」「まぁ、そう、なるね…。」「…確かに、良い人そうだった。私も、ちゃんと話てみたいな。」友人がそう言ってくれるのが、なんだかとてもうれしかった。「うん。…今度、二人にも紹介するね。」
――――「結局、あの熱はなんだったの?」私の部屋。大和は、どう見ても原因はわかっている素振りだ。それでも、何も言ってくれない。「…あのさ、原因があれば対処もできるってもんでしょ。またあんなことになりたくないなら、正直に言ってよ。…私も、出来ることがあるなら努力するからさ。」思いつめたような顔をして、答えを渋る大和。そんなに言いたくないことなのか。そういえば、頭痛の時も言うの拒否してたな。「お願いだから。」でも、私の引き下がらない気配を察したのか。大和の方が折れてくれた。「…私は、お前をいつも、離れたところから監視していた。お前にいつ、どこで不幸が降りかかってもすぐに対処できるように、常に集中力を全開にしていた。…それが、よくなかったのかもしれない。」「…と言うと?」「…前にお前は、『何故いつも事故とか回避できるのか』『予知能力とかあるのか』と聞いたことがあったな。」「うん。」「それと似たような力が確かに私には備わっている。私は集中力を高めることで、お前に降りかかる不幸を、事が起こる直前に、感覚的に知ることができるんだ。」「………」「…ほら、信じないだろ。だから嫌だったんだ。」「ごめんごめん!信じるから!ただちょっと…非現実的すぎて…すぐにはぴんと来ないっていうか…はい!どうぞ!続けて!!」大和はやや不機嫌そうな顔を崩すことはないものの、正直に話をつづけ…ようとした。「それで………、―――…いや、やっぱりやめよう。」「なんで!!?」「つまりさ、大和は常に瑞穂の傍にいたいんだって。」部屋の出入り口で扉によっかかり、無駄にかっこつけた豊里がそう言い放った。「…は?」「おい、その言い方だと語弊があるだろ。やめろ。」「あはは、ごめんごめん。だって瑞穂、あんまり察し悪いから。」その言い方にはカチンとくるものがあったが、続きが気になるので先を促す。「こういうことだよ。瑞穂と大和の間の距離が離れれば離れるほど、瑞穂に何かあった時、大和がその場に駆けつけるまでの距離が延びるでしょ?瑞穂を守る為には、より早めにそれを察知にして、間に合うように急いで出向かなきゃならなくなる。となると、瑞穂との距離が明いてるだけ、広い視野に対して気を配ってないとならないし、とにかく最速で察知するための集中力、そして、そこに到達するまでの移動量が必要になるよね。だから、余計に疲れてたんじゃないかな。」「…つまり、いつも遠くから、私を守る為に行動してたから、いろいろとかけなくてもいい余計な労力をかけてた…ってこと?」「そういうこと。」 詳しいことはよくわかんないけど、そんなに大変な思いをしてたのか。「でもね、ほら、瑞穂の近くにいれば、瑞穂の周辺にだけ感覚研ぎ澄ませてれば、大和自身が傍にいるし、何かあっても少ない気力と運動量ですぐに対処できるってわけよ。」「…何よそれ。そんなことなら早く言いなさいよ…。」私がじとっと大和を見つめると、大和の方もゆっくりと目を合わせて来た。「…今回は、正直悪かった。こんなことになるなんてな。」「で?それはOKってこと?」豊里の問いかけにやや沈黙した後、瑞穂が呟いた。「大和が、その服やめてくれるなら。」「それは無理だ。」 …ですよね。「冗談よ。わかった。…正直、わからないことだらけで、何を信じればいいのかもわかんないけど…。あんたのことはそれなりに信用してるからさ。」「!」今までの言動から察するに、おそらく、大和なりにも気を遣ってくれていたのかもしれない。「…でも、今後はそういうことは早く言ってよね。」呆れたように笑って見せる。「…わかった。」それに大和も素直に応じるのだった。
――――私は、嫌がる大和を無理やり連れて、階下に降りていった。「お母さん!あのね、こいつ…事情があって、今家に帰れないんだって。うちに、居候させてくれないかな。」「…っおい、」「あ!ご飯は勝手にとるし、お風呂とかもいらないって!住む場所だけ確保させてもらえればそれで十分だって言ってるし、駄目かな。」「大和人間じゃないから、そういうの必要ないんだって。だからそこ、気遣う必要ないよ。」「何言ってんの豊里!!!」「あらあら。瑞穂のお友達?」「あ…はい。あの、初めまして。その…大和と、言います。」その様子がなんだかおもしろいもので、豊里と二人で密かに笑っていたら、睨まれた。私のつけた名前を名乗っているところを見るのは、なんだかくすぐったい。「ふふ、全然いいわよ。住処だけと言わず、ご飯いくらでも作ってあげるわ。」「いえ、それは…」「あ、でも人間じゃないとしたら、必要ないのね。そうしたら何がいいのかしら。血、とか?」「お母さん、豊里の言ったこと真に受けないで。別に吸血鬼とかじゃないから。」かくして大和を正式にうちに住まわせることになった。