5月下旬


とんでもないことに、気づいてしまったかもしれない。他の記事の片手間に、私は未だ、例の町で頻発する事件・事故について調べていた。5月ももう半ば、という今もそれは続いている。…ように、私は思っている。世間はもう、陰謀だとかなんだとか唱える人はほとんどいなくなっていた。”ただ例年より多いくらいで何を騒いでいるのか”とか、”そういう噂に悪乗りした奴もいるんじゃないの”と言った風潮に変わってきている。要するに、皆飽きてきたのだ。何故なら、それぞれに関連性が、やはり何も見つからなかったからだ。リアリストの多いこの現代で、他の可能性を考える人も少ない。それでも私は気になる。一度調べ始めたのにすぐ放り出してしまうのも嫌だった。何より、瑞穂ちゃんの身が心配だった。何か理由があれば突き止めて、どうにか彼女の安全を確保してあげたい。そう思い、私は調べ続けた。居合わせた人の証言やら、噂など、どうでもいいようなことを拾っては検証してみた。すると、あることがひっかかる。現場に居合わせた人の何人かが、口をそろえて言った事実。――――…『金髪の女子高生が』…―――――。特徴的な身なりのせいだろうか。その子は、現場で何度か目撃されている。同じ町で起こったことだ。ただの偶然、居合わせただけかもしれない。だがその子は、自身さえも巻き込まれそうになったことがあるようだ。どれも同一人物だという確証はない。あの子だと決めつけられる証拠もない。だけど、その証言をした数人の中に、その金髪の女子高生が、黒い変な服を着た女と一緒にいたのを見た、と言った人がいた。そこで確信した、瑞穂ちゃんと大和さんだ、と。私と再会した時、何故何も言ってくれなかったの、とは正直思う。そんなに私って頼りない?それとも、本当にただの偶然ならいいのだけど。私の考えは悪い方へと転がる。瑞穂ちゃんを疑うわけじゃない。ただ、疑問だけが湧き上がる。
私はいてもたってもいられず、あの町へ向かった。そして、こっそりと、瑞穂ちゃんの友人に話を聞きに行った。その友人は、私も顔見知りで、名を陽葉ちゃん、といった。「瑞穂ちゃん、最近何か変わったことはない?」私の質問に、どこか迷っているかのような表情が窺えた。「なんでもいいの。」 そして、いくらか視線を彷徨わせた後、まっすぐ私を見つめ、口を開いてくれた。そこで私は知る。瑞穂ちゃんが、今年に入ってから不運な目に遭っていること。そして、町で起こる事件・事故の本当の被害者は―――全て…とは言えないが、瑞穂ちゃんなのかもしれない、ということを。それらの出来事に関連性はない。それぞれの動機も、人物も、個々で別だ。だから本来そう思うのはとても不自然なこと。ならば厄年?霊でも取り付いている?超能力の類?超次元的な話はよくわからない。でも、なぜだか私はそう感じた。更に、彼女は教えてくれた。瑞穂ちゃんを本当に大切に思っている彼女だからこその申告。大和さん、彼女の存在の、謎を。

「そろそろ球技大会かぁー。雨降ると普通に授業になっちゃうんだよね。晴れないかなー。」「理由が不純だな。」「だって球技大会自体はだるいし。本当は家でごろごろしてたいし。」「まだ若いのに何言ってるんだ。だったら、晴れるようにてるてる坊主でも作ればいいだろ。」「いやいや、小学生じゃないんだから…――あっ!でも晴れは駄目だ!まだ5月なのに日焼けしちゃうじゃん!どうせなら曇りがいいや。」「…わがままな奴だな…。」「お願いします…球技大会当日は曇りにしてください…神様…!」「神頼みするほどか…?そもそもお前、神とか信じるタイプだったか?」「え、信じてないけど。」「…今、お願いします神様、って言ったよな。」「おまじないみたいなもんでしょ。」「神社にまでお参りしておきながら…、なんて罰当たりな奴だ。」「うっ…うるさいっ!」「…なんで、いないと思うんだ。」「だってさぁ、いたら…そうだなぁ…、もっとさぁ、頑張ってる人はちゃんと報われてー、悪いことしたに人はちゃんと罰が当たってー…ってなるんじゃない?とか思うんだけど…。」「…人間に良いように動くばかりが、神じゃないだろ。」「あ、そう言われてみれば確かに。」「瑞穂ちゃん。」私達がそうやって、いつものように雑談を繰り広げていた時だった。突然、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。「あれ、名村さん。また来てたんだ。」振り返るとそこには、いつものような優しい笑顔はなかった。何かを疑っているような、そんな顔。彼女は、大和を見ていた。それに気づくと大和も、あの時みたいに警戒の態勢をとる。異様な雰囲気に私はどうすればいいのかわからない。「少し、話したいことがあるの。」
――――私達は、近くにあったカフェに入った。そしてその奥、人に話が聞かれないであろう場所に座った。深刻そうな顔で、名村さんが話を切り出す。「…つい昨日、聞いたわ。瑞穂ちゃん、先日命を狙われたそうね。」ごくりと唾を飲み込んだ。「お兄さんに、聞いたの?」「えぇ。」「…ごめんなさい、何も言わずに…。」「…」空気が重い。もしかして、そんな重大なことを彼女に何も話さなかったことを怒ってるのだろうか。なんといってよいかわからず、沈黙が空間を支配する。どことなく目も合わせられない。「あんたが言いたいのは、そんなことじゃないだろ。」それを破ったのは、意外にも大和だった。思わず大和の顔を見る。「私に用があるんじゃないのか。」その目は、やけに挑戦的だった。名村さんの方を見ると、彼女も同じような目をしていることに気づく。彼女は心を決めたように、一呼吸おいてから大和に向き直る。「じゃあ…単刀直入に聞かせてもらうわ。…あなたは、何者なの?」これは、「前に言ったじゃない、私の友人だよ」と言っても全く意味はなさない様子だ。名村さん、何か感づいてる…?その私の予感は、当たることになる。「私、もう知ってるのよ。あなた達が、この町で起こってる事件・事故に遭遇してること。…いえ、貴方たちがそれらの本当の被害者だってこと。」「!!」「私ね、あの後も独自に調べてたのよ。それで気づいたの。寧ろ、遅かったくらい。それほどまでに、貴方たち二人は、高い頻度で現場に現れていたんだもの。…こんなの、いくら同じ地域だからって、そうそう起こることじゃないわ。」「…名村さん、あの、」 私がどうにか弁解しようと口を開く。が―――言葉が出なかった。大和を見る名村さんの目には、しっかりと敵意が含まれていたからだ。「それも…大和さん、あなたが瑞穂ちゃんの元に現れてから、だそうね。」「…」大和は何も言わない。それを良いことに、名村さんは更に言葉を重ねる。「あなた…一切の正体不明だそうね。本名も、住居も、職業も不明。…戸籍もないんじゃない?どこから現れたのかも、なんのためにここにいるのかも言わない。――あなたが瑞穂ちゃんの後をつけるようになってから、傍にいるようになってから、瑞穂ちゃんは危ない目に遭うようになった。でも、あなたに理由を聞いても、『言えない』の一点張り。…これで疑うな、って言っても無理な話よ。だって、瑞穂ちゃんには、命を狙われる理由なんてないんだもの。髪が特殊なだけの、ただの女子高生よ?これまでだって、そんな目に遭うことはなかった。…あなたが、原因なんじゃないの?あなたが来たから、瑞穂ちゃんは事件・事故に巻き込まれるようになったんじゃないの?――…ッ瑞穂ちゃんが狙われてるのは、あなたのせいじゃないの!?」「違う!!」 大きくなってきた名村さんの声をかき消すように、私は声を張って否定の言葉を発した。それには、名村さんよりも、隣に座る大和の方が驚いていた。「大和はずっと、私を守ってきてくれたの。だから、違う。名村さんの言ってることは、間違ってる。」「…それもカモフラージュだとしたら?」「…私も、正直なところ、よくわからない。上手く説明もできないんだけど、大和じゃない。大和が悪いわけじゃないの。」「…でもそう言う、ってことは、やっぱり本当なのね。瑞穂ちゃんが何かに狙われてる、ってことと、大和さんが正体不明だってこと。」「それは、」「――そうでなくとも!大和さんのせいじゃないとしても、理由はちゃんと話すべきよ!…そうでしょ?瑞穂ちゃんの身の安全に関わることなのよ!?――…なんなの?あなたの、正体は…目的は、なんなの…?」「大和にも、何か言えない訳があるのよ。だから、」
「私の目的は、瑞穂を守ることだ。それ以上でも、以下でもない。」落ち着いた大和の声が、興奮気味になっていた私達二人に届く。二人して、彼女の方を見る。大和はすっかり、警戒を解いていた。「…すまない。今は、それしか言えない。あなたが、瑞穂のことを本気で思っていることはわかっている。だがこれは…簡単に口に出してはならない事柄なんだ。…これだけは誓って言える。私は、瑞穂にも、周りの人間達にも、危害を加えることはないし、加えさせるつもりもない。」大和は、どこか強い意志をもって述べる。一転して、場は静寂を取り戻していた。加勢するように、私も言葉を続ける。ありのままの事実を、彼女には知ってもらう必要があった。「大和が来た頃から、私が不幸に遭遇するようになったっていうのは本当。大和がそれらから私を守ってきてくれたってことも、本当。でも、私が狙われてる原因は、大和じゃない。」はっきりとした理由もないのに、確信をもってそう言う私に、名村さんは問いかける。「…どうして、そう言えるの。」 怪訝な顔を浮かべた名村さんに、ゆるく笑いながら答えた。「私達、もう5か月も一緒にいるんだよ。…わかるよ。」「…!」私の答えに、名村さんはおとなしく腰を下ろした。―――「…わかったわ。瑞穂ちゃんがそこまで言うんだもの。取り敢えずはそれで、納得しておく。…大和さんが、人間じゃないかもしれない、ってことも、ね。」「…」「勿論、このことは誰にも言わないわ。」「ありがとう。」「…兄とは、情報を共有しておいた方が良い。」大和の発言に、じっと見つめてくる名村さん。「…わかった。そうするわ。それはそうと、大和さん、いろいろと酷いことを言っちゃったようでごめんなさい。」「それは…私の正体がわかってから言ってくれ。」「!――…ふふ、変わった子ね。確かにその通りだわ。――…それから二人とも、嗅ぎまわるような真似してごめんなさい。…実は、大和さんのこと聞いたの、陽葉ちゃんからなの。」「え…?」「あ、でも勘違いしないで!陽葉ちゃんは、悪く言ったわけじゃないのよ!」――――『あの…大和自体が悪い、って言ってる訳じゃないんです。瑞穂から話を聞いて、いくらか一緒にいてみて…悪い人じゃないってことがわかったから。寧ろ良い人だと思ってますし。結構普通の女性なんです。ただ、彼女も被害者だとしたら…いや、そうじゃないな…彼女も、何かに巻き込まれている一人だとしたら…?あぁ、いえ。…とにかくこの先、もしもの時のために、…これから何か、起こるかもしれないって時に、彼女の存在っていうのは、彼女のことは、もっといろんな人に知ってもらっていた方がいいのかなって思って。…特に、信頼できる大人には。』――――「陽葉が…。」「…」大和も陽葉の思いやりの気持ちを感じていた。「…ごめんね。私は大和さんにたった数回しか会ったことないし…よく知らなかったから。私は大和さんのこと、疑わずにはいられなかったの。あなた達より大人ってこともあるしね。私がどうにかしなきゃ、って勝手に思っちゃったのよ。」「ううん。その気持ちは、本当に嬉しい。ありがとう。…ごめんね、心配かけて。」「いいのよ。…でも、瑞穂ちゃんにあそこまで言わせるってことは…本当に大丈夫なのよね。」「えぇ…またそれぇ?なんで皆そうなの?」「そう、って?」「私が…大和は大丈夫―とか言うなら大丈夫なんだろ、って…。」「だって瑞穂ちゃん、私と初めて会った時も、不信感丸出しだったわよ?」「そうだったっけ?」「そうよ!最初全然打ち解けてくれなかったじゃない!」いつもの調子に戻ったことにほっとして、その後はまたいつものように近況の報告をしあった。
――――「大和?」カフェを出て、名村さんと別れて歩き出そうとした時、大和がまた、何かを気にするような素振りを見せた。「…何?この前から。ストーカー?」「いや…珍しい鳥がいたもんでな。」「はぁ?」「なんか、街中の鳥というと鳩や雀、カラスばかりをイメージしていたが、ムクドリ、シジュウカラ、セキレイ…実はいろんな鳥がいるもんなんだなと。」「…なんかおばあちゃんみたい。」私の言葉にむすっとすると、大和は私の頬を抓ってきた。

授業中、ぼーっと先生の話を聞きながら、そんな数日前の出来事を思い出した。…なんか最近、やたらと大和を怪しむ発言が聞こえてくる気がするなぁ。今まで、私以外に大和の存在を疑う人物がいなかったからかもしれない。うちの両親はあんなだし、友達も、クラスの子も能天気な子が多いから。…最初あれだけ疑っていた私が言うのもなんだけど、大和がああやって訝しがられるのは…なんか、良い気がしない。チャイムが鳴って、起立の声がかかる。立ち上がりながらふと見た窓の外では、木が大きく傾いていた。窓もさっきからカタカタと音を立てている。今からこの強風の中を帰るだなんて、考えただけで憂欝で。私は礼をしながらため息をついた。
――――私は大和にしがみ付きながら、帰路を歩いていた。「もうーーーっ!!なんなのこれ!!風強すぎ!!」「すごいな。今なら空も飛べるんじゃないか。やってみるか?」「そのままお陀仏じゃん絶対!!」「―――!」大和が何かに気づいたように反応する。私の肩を掴んで、咄嗟に体を引いた。―――と、そこに、フロントガラスに新聞を張り付けたトラックが、街路樹にをかすり、建物の方へ突っ込んでいった。私が思わず目をつむった少しの間に、事態は目まぐるしく変化した。トラックが掠った街路樹は、強風とトラックの衝撃により幹が折れて倒木―――更にトラック後方の車数台がそれを避けようとして玉突き事故―――更にリフォーム中だったと思われる建物の足場が崩れ――――…。気づいた時には、トラック、木、車で四方が塞がれ、すぐにその場を逃げ出せるような状況ではなくなっていた。―――私でもわかった。逃げる暇なんて、ない。死を覚悟した時だった。足が引っかけられて、その場に引き倒される――ものの、大和が腕で支えてくれたおかげで地面にぶつかることなく、上を見上げる形で横になった。そこに大和が覆いかぶさってくる。その背後に見えたのは―――…すぐにでも降り注がんとする、金属の棒やら、破片やら。大和と瞬間、目が合う。大和は、優しい手つきで、私の体を自分の下に潜り込ませた。―――直後、激しい衝撃が私達を襲った。地面にたたきつけられた金属たちが、次々にけたたましい音を奏で、揺れを引き起こす。大和の体が揺れるのに合わせて、私の体も揺れた。―――やがて。金属音がやみ、辺りが静まり返ったところでゆっくりと目を開けた。倒れきれなかった足場が、ぐらぐらと不安定な動きを繰り返すのが見えた。そして、大和に視線を移す。大和は安全な場所を計算していたのだろう、直撃は免れたものの、その背中にはいくつもの瓦礫が乗っていた。ゆっくりとそれらをどかしながら、大和が起き上がる。周りにある程度のスペースを確保すると、私の体も抱き起し、安全圏まで誘導するとそこに座らせた。痛んでいる筈なのに、その動作には淀みがない。「大丈夫か。」向き合って、いつもと同じセリフを吐く大和。表情は平然としているけれど、体のあちこちは傷がついて、ボロボロだ。頭からは血も流れてきた。大丈夫か、じゃない。それ、あんたが言う台詞じゃない。見ての通り、あんたのおかげで私は無傷そのものだって。私なんかほっといて自分だけ逃げてれば、もしかして助かったんじゃないの?馬鹿じゃないの。「…悪かった。こんな天気の日だ。ルートを変えるべきだったな。」だがまさか、こんな不幸が重なることがあるなんてな…お前すごいぞ。なんて冗談を言う始末。…大和は、こんな状況でまで、私を責めるでもなく自分の非を反省する。大和が無敵すぎて、時々忘れてしまうけど…大和だって不死身ではないんだ。疲れるし、怪我もする。通り魔に刺された時や、ヤクザに銃で撃たれた時を思い出す。―――…今までは、未然に防いできたから大きな怪我もしないで済んできたけど、この前みたいに、能動的に人が襲ってくる場合や、不幸が重なって対応が追いつかなくなる場合だって、この先も沢山あるかもしれない。大和自身、命が、危険に晒される可能性だってある筈なのに。それにも関わらず。――――『…決めたんだ。ここに、お前に、宣言する。』『私は、秋津瑞穂を死なせはしない。必ず、お前を守る。』――――…いつだって、自分の身を顧みずに私を助けてくれる大和を、どうしてまた不信になんてなれるのか。「…何、泣いてるんだ。」「…っ、」 変な顔して覗き込んでくる大和を見たら、思いが溢れて、私はみっともなく泣き出してしまった。止まらない涙を隠すように両手で顔を覆い、体を前に傾かせると、大和の肩口に顔を埋めた。早くここを立ち去らなきゃ。大和の傷の具合を見なきゃ。わかってはいたけど、涙が止まらない。大和はそんな私を引きはがすことなく、壊れ物を扱うような手つきでそのまま私を抱え上げた。流石にそれはと思い、抗議するために顔を上げた。…が、大和は構わず歩き出す。抵抗し始めた私をものともせず、障害物を避けながら進んだ先には、タクシーが停車していた。乗客がいないことを確認して、勝手に乗り込む。そこでようやく下ろしてくれた。体勢を整え、慌てて顔を拭う。一部始終を見ていたのだろう、運転手が気を利かせる。「あっ…び、病院まででいいかい!?」「いや。家まで頼む。」その発言で、私が痛みで泣いている訳じゃないことがバレてるってわかった。病院に行くべきだと渋る運転手は、頑なに家の場所を説明する大和に折れ、暫くして車を出発させた。私はハッとして鞄からハンカチを取り出すと、大和の傷口に当てがおうと近づく。「どこ、怪我したのよ。」「大したことない。この程度なら一晩休めば治る。…それより、」大和は傷を見せようとはせずに、そう言って顔をこちらに向けて来た。「…どうした。怖かったか。…それとも、何かあったか。」そう聞く真意が知りたくて、大和の顔を見る。大和はただまっすぐに、私を見つめているだけだった。ただ、心配してくれているだけ。でも、いつもと違うのは、私の気持ちをも探ろうとするその聞き方。私と同じように、この数か月、大和も何かが変わり続けていた。そう思わずにはいられない。素直に理由を言うのは恥ずかしくて、誤魔化した。「…別に。」「…そうか。」大和の方も無理に追求するつもりはないのだろう、その一言で会話を終わらせた。私はハンカチを大和の膝に置くと、元の位置へと戻った。沈黙が車内を包む。気のせいか、運転手さんは少し気まずそうだ。黙る大和をミラー越しに見て、ふと思った。何か誤解があってはいけない。今の私の思いを、正確に伝えておかなければいけない。そう思った。「大和、」私の呼びかけに、大和が再びこちらを向く。「私、多分…、今後、あんたの何がわかろうと、……出会った頃みたいには、もう、ならないと思う。」「!」意を決してそういうと、大和が驚いたように目を丸くしていた。「…何よ。そんなに驚くこと?名村さんからも庇ってあげたのに。」「…そんなこと、考えてたのか。」「え?」ここであれ?と思う。「お前は結構さっぱりとした性格をしてるから、気にしないものだと思ってた。」「…何が。」これはしまったか?全て見透かされてしまったようで、むずむずして仕方がない。「だからって何も泣くことないだろ。」「!!!――あっ…あんたねぇ!!」誰のせいだと!!そう言って殴ってやろうとした時だった。大和はフッと口を結び、言った。「悪い。冗談だ。…ありがとう、瑞穂。大丈夫だ。お前が私を信用してくれていることは、十分わかってる。」その時大和が浮かべた笑顔は、今までにないくらい自然で、どうしようもないくらい、優しかった。「…!!」なんだかこっちが馬鹿みたいだ。今の私の顔はさぞ赤いことだろう。「照れるなよ。」「うるっさい!!照れてないから!!」そんなこんなで家に着く頃にはいつもの調子を取り戻してた。