「その…さっきはああいう態度をしておいてなんなんだが…。…実は私達はもう、金が一銭もなくてだな…。」「ワヘイ王国から遥々来たのですから、無理もありません。…そもそも、その理由の一端を担ったのは私たちでもありますから…。金銭や食事のことは気にしないでください。私達が出します。馬も貸しましょう。」「!…お前ら良い奴だな…。」「良い奴の基準低くね?」「何言ってるんだ!金は大事だろ!」今後の方針について一先ず合意した後、夜を過ごすために、ヴィマラ達は貸家に、ブローニャ達は宿に泊まることになった。翌日の集合場所と時間を確認した後、それぞれ別れる。「…ブローニャ、」「ん?」ディーンにお休みの挨拶をしたチェリが、ブローニャの元へ近寄る。「…ごめんね、勝手なことして…。」「…何言ってるんだ。」そう言ってブローニャはいつもの優しい微笑みを浮かべる。「ありがとな。実は私もどうすべきか迷ってたんだ。お前の率直な意見が聞けて良かった。…助かった。」「!」「あいつらの真意がわからない以上、話を鵜呑みにすべきかあの状況では判断ができなかった。だからわざとああいう態度をとって、相手の出方を窺ってみたんだが…。」「そんなことだろうと思った。」ブローニャの言葉にデジャが呟く。「そ、そういうこと!?」「勿論、発言した内容はすべて本心だけどな。」「まぁでも確かに…。あたし達を引き留めるにしても、もう少し上手い話考えてもよさそうだもんな。作り話にしちゃあ突飛すぎるぜ。」「う~ん、それもそっかぁ…。」皆の見解に、デジャが自身の考えを述べる。「…まぁ、他の3人は知らないが、あのヴィマラとかいう女は信用してもいいかもな。私の目にも、嘘をついてるようには見えなかった。」「!」「…でもよ、あの話を信じるってことは、『神』の存在と、あいつらが『神の遣い』だって信じるってことだぜ!?」「…まぁそれに関しては…あくまで『神』としているだけの別の何かだっていう可能性もあるからな。今のところはなんとも言えんな。」「っていうと?」「あぁ…自然現象をお化けだなんだと勘違いした、なんてのは昔からよくある話だしな。」「そうだ。それに、星が降ってくるって話もあるだろう。」「あぁ!極まれに星が地上に落ちてくるってことがあるみたいよね!授業で習った!」「その星の欠片ってことか…?」「天からの落下物ってだけで、もしかしたら相当な価値があるのかもしれないな。それか、よっぽど希少な星の欠片なのか…。古物商からしたらよだれが出るほど欲しいものなのかもしれないぞ。」「扉だ鍵だなんてのは、後から尾ひれがついた話かもしれないな。」「…でもさぁ、『神の力』に関しては、どう説明つけるんだよ?」「…うーん…それに関しては私も何とも言えないな…。」「例の研究資料でも結論は出てなかったんだろ?」「あぁ…。」町に辿り着き、静かな灯に4人は照らされる。「…まぁなんにせよ、全部これから確かめていけばいいさ。デジャとヘザーの用事を果たすついでだと思えばいい。」「!」そしてブローニャは、得意げに欠片が入ったカバンを掲げる。「王国の宝はこうして、私達の手元に戻ったんだからな。」そこで4人にようやく実感が湧いてきた。長い長い、数か月にも及ぶ旅路の中―――仲間達と協力し、共に苦難を乗り越えながら歩んできたその道のりで、一番の目的を果たしたのだと。だが感慨深げに思っていたのも束の間、デジャの一言で皆途端に冷静になる。「まぁ取り返したのはヴィマラ達だけどな。」「ぐっ…!」「どうせなら自分たちの手で取り返したかったわね~。」「なんか拍子抜けだよな。」そう言いつつも皆で笑い合った。「まぁ贅沢は言うなってことだ。寧ろ金は出してもらえるんだからありがたいことだろ。」「確かに!それはでかい!」「ま!あいつらがたとえ敵だとしても大丈夫だろ!あたし達ならさ!」「慢心はするなよ。」「わかってるって!」そうして、これまでと変わらぬいつもの調子で、4人揃って宿の中へと入っていくのだった。
――――その日の夜。3人が寝静まった後、ブローニャは1人机に向かい、王国宛ての手紙を書いていた。万が一手紙が紛失してしまった場合に備えて、ぼかしつつも、内容が伝わるよう配慮しながら、ありのままの真実を丁寧に記していく。終盤まで書き進めたブローニャは、ふとペンをあごの近くまで上げ、頭を悩ませた。「…流石の大親様も心配するか…?」そう思い、書きかけの文章を書き直した。「…『こちらで協力者ができたので、心配いらない』――…とでも書いておくか。」それが実現するかしないかにかかわらず、一先ず大親様を安心させた方がいいだろうという子心であった。ざっと見返して満足すると、手紙を封に入れて床につく。3人がくるまる布団を見ながら、先ほどの出来事を思い出した。チェリの啖呵が脳裏によぎり、「(…すっかり頼もしくなったもんだ。)」と笑みをこぼすと、そのまま目を閉じて眠りにつくのだった。
翌朝、ブローニャ達はヴィマラ達が泊まった貸家へと向かった。ディーンやほかの馬達に挨拶をして中に入る。そこには、装束を身にまとい、頭巾を被って、既に支度を整えたヴィマラ達の姿があった。「こちらへ。」案内されるまま、地下へと向かう。重い扉を開けると、そこには―――「!」ブローニャ達が追い続けてきた盗人達がいた。3人の男は目隠しをされ、後ろ手に縄で縛られた状態で座り込んでいる。その近くにいた、ヴィマラの仲間の頭巾の男が、盗人達に告げた。「…おい、もう一度詳細を教えろ。」盗人達は衰弱した様子で答えた。「…だから、俺達はただ頼まれて運んだだけだって!!テキン町の酒場の親父に渡してくれってよ!!」「おい…!馬鹿がッ!!」隣の男が、情報を漏らした男の足を蹴る。だが、我慢の限界が来ていたようだ。「だーーーーッ!!もういいだろ!!あんなわけわかんねぇもん長距離運ばされて!!盗られて捕まって飯抜きにされて!!もう限界だ!!」「つったってそんなあっさり口割る奴があるか!?せっかくの報酬が…!!アレを無事届けたらいくら貰えたと思ってんだよ!!」「そうだ!!ここに来るまで何か月かかったと思ってんだよ!!!全部水の泡じゃねぇか!!」「そもそもお前が地図落としたのが悪いんだろうが!!」「それを言うならこいつらにさっさと捕まったお前らだってなァ!!!」どうやら空腹の苛立ちから、仲間割れを起こしているらしい。3人で互いにぐちぐちと言い合っている。「…あたしらはこんな奴らのために数か月も…。」「てっきり有能な奴らかと思ったがな。」「報酬だって、本当に希望の額貰えるかもわからねぇのによくもやったもんだ。」「あ…そっか…。悪党だもんね。約束守るかもわからないもんね…。」その様子を冷静に見ているブローニャ達と、ため息をつくヴィマラ。「…彼らに食料を与えてあげてください。」「!いいのですか?」「これ以上、彼らから聞けることはないでしょう。…届け先がわかっただけでも良しとしましょう。」そしてヴィマラはブローニャに振り返る。「…彼らをどうするか、お考えはありますか?」"ワヘイ王国の宝を盗んだ者"という前提がある以上、最終的な判断はブローニャ達に委ねるべきだと、ヴィマラは判断した。「…特にない。こんなところからワヘイ王国まで連れ帰るわけにもいかないしな。それに、"宝"が無事手に入った今となっては、もう用無しだ。」「…わかりました。」ヴィマラはそれを聞いて、盗人達を見張っていた頭巾の方へと向き直る。「…では、私達が出立して、しばらくしてから彼らを解放してあげてください。欠片が手元にない以上、どの道彼らには、テキンへ行く理由も、依頼元に会う理由もありませんから。…私達が追う中で、彼らはワヘイ王国での窃盗以外、特に悪事を働いたような様子は見受けられませんでした。ブローニャがこう言っている以上、警備兵に引き渡す必要もないでしょう。」そう言うとヴィマラは、ブローニャ達を連れて再び上階へ戻った。ヴィマラとブローニャが対面に立ち、それぞれの後ろを仲間たちが固め、昨日の焼き直しのような状態となった。「…それでは、昨日お話した通りでよろしいですね?」ヴィマラとブローニャ達は協力を合意した後、今後の方針を決めていた。―――それは、テキン町へ行き、彼らの届け先である酒場のマスターに話を聞くというものだ。「…あぁ。」ブローニャが決意のこもった目で短く返すと、ヴィマラも応えた。「では、すぐにでも参りましょう。」そして装束を翻すと、扉の外へと歩き出した。
テキン町に向けて、荒野を進む一行。前方にヴィマラ達、そして後方にブローニャ達と、縦に並んで進む。ブローニャ達はディーンの他に馬を1頭借りて、ブローニャとチェリ、デジャとヘザーがそれぞれ同乗して進んでいた。数時間道を進んだ後、大岩が散乱する地帯に辿り着いたところで、ヴィマラが「そろそろ休憩にしましょう。」と声をかけた。
――――ブローニャとヴィマラが地図を広げ、この先の進む方向とその後について話し合っている間、他の仲間達は入り交じりながら次々と岩に腰掛けていく。その時、ヴィマラと同じ馬に乗っていた頭巾の人物が、どさっと大岩に座り込むと、自らの頭巾に手をかけた。「はあっ…、これ暑苦しいんだよな~。」そして、顔を隠していたそれを、あっさりと外した。「!」現れた顔を見て、チェリとヘザーは驚愕する。「…お前、そうやってすぐに素顔を晒すんじゃない。」大柄の頭巾の男が、呆れたような口調で注意する。「あぁ?別にいいだろ?ほら、周り見てみろよ。どうせこいつら以外誰もいないんだしさ。」「…」男は言われた通りに辺りを見渡す。「…」「お前も取っちまえよ、サイ。息苦しいだろ?」「…」そしてサイと呼ばれた男も、こっそりと頭巾を取るのだった。「お前ら…。まぁいいか。」やがて、もう一人の男も頭巾を取った。「はっ、お前も外したかったんじゃねぇかよ、ムダル。」「…これを好き好んで身に着けてる奴なんかいないだろ。」「そりゃそうだ。」「お前らそんな顔してたのか…。」3人の素顔を見て、思わずデジャがこぼした。「おうよ。悪かったな、顔も出さずに。"伝統的な民族衣装"ってヤツでさ。外の奴に顔を晒すなって言われてるんだが…。まぁ、古い伝統なんて私らにとっちゃ割とどうでもいいからさ。」「適当だな。」「あっはは!昨日はああやってかしこまってたけど、いっつもこんな感じで、もっと適当だぜ?」その時、チェリが立ち上がって指を差した。「女の人じゃん!」「今更か?」デジャが冷静に突っ込む。指を差された女も動じることなく、にやりと口角を上げ、飄々と返した。「そうだよ、女の人だよ。オレリア"姉さん"って呼びな、ガキども。」そんな、どこかとっつきやすく軽い調子のオレリアに、ヘザーも話しかける。「オレリア姉さんはいくつなんだよ?」「24だよ。」「へ~ブローニャより下かと思った。」「どういう意味だよ!?…そもそもアイツはいくつなんだ?」「21。」「えっ、マジか…。」「はは、確かにあの子はしっかりしてるもんな。お前の方がガキっぽいぞ。」「あぁ!?」ブローニャとヴィマラを見ながらオレリアが呟く。「…しっかし、私より歳下だろうに、どいつもこいつもしっかりしてんな…。」「大概の女性はお前よりはしっかりしてるだろうよ。」「このッ…!一々余計なんだよ!」サイのいじりに噛みつくオレリアは、今度はチェリ達の方を見た。「お前らも、ワヘイ王国からよく頑張って来たよ。その若さでさ。一筋縄じゃいかない場所や、状況ばっかりだったろ。すげぇことだと思うぜ。」「!」「…それを言うならお前たちだって、私達の倍は同じ道を辿ってるだろ。」「お姉さん達は大人な上、経験豊富だからいいんだよ!…それに、私達には明確な目的があるからな。」「!」昨日の話を思い出すデジャ達。そんな3人の表情を見てか、オレリアが苦笑いする。「…あの話、信じられない気持ちも正直わかるけどな。私が逆の立場だったらきっと信じねぇよ。」「!」こちらの考えに一定の理解を示すようなその言葉に、3人は驚きを隠せなかった。サイとムダルも、オレリアと同じ想いのようだった。これほどまでに気さくな彼女達は、"古い伝統なんて"、"適当やってる"、と言いつつも、昨日の話の内容だけは否定する様子がない。長い旅路の中、危険を冒してまで欠片を集めるその理由―――…それはやはり、あの話が真実だからなのだろうか。デジャ達の心が揺らいだ。「…ただ、私らの"姫"も、若いながらに苦労しててさ。古い過去から蓄積されてきた、民族としての重責を一身に担ってるんだよ。…あんなおとぎ話みたいな内容に、人生振り回されて…苦労して…。――…辛い思いをしてきたのも、私達はずっと近くで見てきて、知ってる。」「!」「すぐには信じられないと思う。…でも、そのことだけは、わかってやってほしい。」そのどこか切なさの感じる表情と言葉に、オレリアがヴィマラの"姉"のような存在であることが窺えた。他の2人も同様に、ヴィマラにとって"兄"のような存在なのだろう。「…」チェリは、昨日のヴィマラの必死な様子と、ある言葉を思い出していた。―――『私には、『神の力』を"感知する力"があります。民族の中でも、ただ一人に与えられし力です。…故に私は、民族の中では『巫女』として扱われています。』―――チェリ達が考えを巡らせていると、オレリアが重い空気を断ち切るように、明るい口調で言葉を続けた。「まぁ、そういう理由がある私達はともかくとして、だ。お前らはなんでそこまでして、あんなもの取り返しに来たんだ?自分たちでも"ガラクタ"だって言ってただろ?」その問いに、ヘザーが口を開こうとしたときだった。ブローニャとヴィマラが近づいてくると、皆に告げた。「そろそろ、先に進みましょう。」「はあッ!?もう!?」「あと少しなんだから我慢しなさい、オレリア。」「ちぇーっ。」オレリアが先に抗議したことで、チェリが文句を言い損ねてしまった。開きかけた口を閉じるチェリの様子を見て、デジャとヘザー、そしてブローニャがほくそ笑む。それを睨みつけながら、皆に倣って馬に向かうチェリだった。
――――そして再び道を進める一行。しばらく進んで、チェリが空腹に音を上げそうになった頃、昼飯を取ることになった。「わぁ…!!」目を輝かせるチェリとヘザーの目の前には、彩りの良いサンドイッチがいくつも並べられていた。「昨日ムダルが拵えてくれました。彼はこういうのが得意なんですよ。」「…本当に簡単なものだぞ。特に今日は人数が多かったからな。」「…こんなものまで…。悪かったな。助かる。」「気にするな。」ブローニャが罪悪感を覚え始めている様子を見ながら、チェリとヘザーが苦笑いをする。おいしいおいしいと嬉しそうに頬張るブローニャ達を見て、どこか嬉しそうな様子を見せるムダルと、それを微笑ましそうに見つめるヴィマラ達の姿があった。「でも、そろそろデジャのご飯が恋しくなってきたわね…。」「…いいだろ、私の飯なんて。」「そんなことねぇよ!お前の腕は確かだ!もっと自信持てよ!」「その熱量恥ずかしいからやめろ!」「ほう…そんなに上手なのか。」「それなら次はデジャにお任せしましょうか。」「そうだな。材料だけは拵えてやる。」「勘弁してくれ…。」そんなデジャを見て、皆で笑うのだった。―――「ところでお前たちの民族は、これまでに一体いくつ欠片を集めたんだ。」デジャの問いかけに、オレリアは宙を見つめ、先日のヴィマラの言葉に従って正直に答えた。「そうだな…。元々民族の中で継承された欠片が1つだろ?あとは噂を聞いて、山奥で見つけたのが1つ。砂漠地帯の渓谷の神殿の中で見つけたのが1つで…。んで、昨日の二つだ。」「5つか。」「たったの!?」「確か全部で十数個はあるんだろ?…全然じゃん。」チェリとヘザーの素直なリアクションに、ヴィマラ達も気まずそうに視線を落とす。「…こちらも、あらゆる情報網を使って探してはいるのですが…。」「結局、噂を聞いて現地に探しに行っても、本当にただのガラクタだったり、何にもなかったり…って、ハズレも多いんだよ。ヴィマラがいりゃあすぐにでも見つけられるが、なかなか噂のある全個所に連れて行くわけにもいかねぇしさぁ。」「まぁ、そりゃそうよね…。」「そういや保管はどうしてるんだよ?」「秘密の場所に隠してある。見つける度に、仲間があちこちに隠しに行ってな。その場所は、民族の中でも信頼できる、一部の人間しか知りえないようにしてるんだ。念のため担当者を見張りにつかせたり…あとは、他にダミーなんてのも用意してある。」「へぇ…。徹底してるんだな。」「あぁ。あっちに密偵が入り込めるなら、こっちにだって入ってもおかしくねぇからな。最悪一つだけでも確保できるように、って仕組みだよ。」「そういえば密偵を潜り込ませてるって話だったな。悪党達側は欠片をどのくらい集めてるのか把握してるのか?」「…今、仲間が幹部側まで食い込めてるんだが…。そいつの情報だと6は集めてそうだな…。」「そんなに!?」「えっ…、もう大分集めてるじゃん!」「だから危機感持ってるんだよ。…こっちもなりふり構ってられねえんだ。」「…」ブローニャ達は昨日のやり取りを思い出す。「じゃあ残りは―――…」「最大で総数が20近くだとしたら、10にも満たないってことか。」「下手すると2、3個だってあり得る。」「ひえ~~~…。」「そう考えるとあとちょっとじゃん…。」その時、デジャ、チェリ、ヘザーの目線がブローニャの持つカバンに集まる。「ブローニャ、無くさないでよ…!」「…」そう言われて、若干青い顔をしながら、緊張した面持ちでぎゅっとカバンを握り締めるブローニャ。「…勿論だ。」その後、食事を終えた一行は、テキン町に向かって再び歩き出した。
そこからまた暫く進み、ようやくテキン町に到着した。ここがあのテキン町かと、ブローニャ達が感慨深げに眺めている中、ヴィマラが淡々と告げた。「彼らの届け先は、『酒場』であることしかわかりません。一先ず、手分けして酒場を探しましょう。」そうして皆、それぞれ分かれて町中を探しに出かけるのだった。
――――ブローニャは通りすぎざまに建物の看板や窓の中を確認していく。「(…広い町だな…。)」あれだけの人数がいるものの、これは探すのに手間がかかるな、と思い始めていた。町の人間に聞くことも考えたが、悪党の仲間の耳に入る危険性があるため、避けることにしたのだ。そのため、自力でしらみつぶしに探すしかなかった。「(看板があったり店構えでわかればいいが…。隠れ家的店だったらなかなか難しいな。)」そんな風に考えながら歩みを進めていた時だ。よそ見をしていたせいで、ブローニャは曲がり角から現れた人物に軽くぶつかってしまった。「あぁ、悪いね。」ぶつかった相手は、赤い髪を一つに束ねた長身の女性だった。「いや、こちらこそ周りをよく見ていなかった。すまない。」ブローニャが謝罪すると、女性は気にする様子もなく、笑みを浮かべて軽く手を振り、その場を立ち去った。「(しまった…。迷惑をかけないようにしないと…。)」周囲に気を配りながら歩き出すブローニャ。その背後では、赤髪の女が立ち止まり、ブローニャの後姿を見ていた。「どうしたんですか?ヒルデ。」そこに白髪の女が現れ、話しかける。「…いや、綺麗な子がいたもんでさ。」「そうですか。」冗談とも取れる発言を、白髪の女は無表情で流す。「おいおい冷たいな、スーシャ。突っ込むところじゃねぇの?」「あなたの発言に一々構っていたらキリがありませんから。」「あぁそう。」「さっさと行きますよ。あちらです。」そして2人は歩き出す。しばらく進んだ先で、2人はとあるバーに入った。カウンターの奥では、気の弱そうな老人が準備をしている。ヒルデと呼ばれた赤髪の女は、カウンター席から身を乗り出すようにして声をかけた。「よう。あんたか?"受取人"ってのは。」「!は、はい…?」突然、見たこともない長身の女2人に威圧され、見るからに脅えるマスター。「黒い塊みたいなオブジェを2つ、受け取るように指示されてたろ?もう届いてるか?」「!…え…えっと…、」目をきょろきょろとさせて戸惑うマスターの反応を見て、ヒルデは察する。「…あぁ、忘れてたな。用心深いのは助かるぜ、マスター。」そう言って手元のメモをちぎり、ペンを取り出して何かを記すと、その紙を掲げた。「これでいいか?」それは、盗人達やヘザーの姉を襲った者の地図にも描かれていた、あの印と同じだった。「は、はい…!―――…そ、それが…まだ、到着していません…。」その言葉にきょとんとする2人。そして顔を見合わせる。「予定ではもう到着してる筈なんだよな?」「その筈ですね…。遅れているのかもしれません。」「…なんだよ、ついでだってわざわざ取りに来たのに…。」「もう少し待ってみますか?」「そうだな…。私らが直接回収した方が手っ取り早いし…。」そう言って視線を移した時だ。「!」ヒルデは窓の外に何かを見つけた。「…あー…まずいな。」「?」その言葉にスーシャも振り返った。「特殊兵士部隊だ。」「!」窓の外には、武装し、白いマントに身を包んだ兵士が何かを探しながら歩いていた。「しかもありゃあ…バシリアのとこの隊の奴だな。」「…まずいですね。」「なんでよりによってこんなところに…。」「バシリア隊となると我々は面が割れています。早急に撤退すべきかと。本来の別の任務もあることですし。」「…そうだな。」そう言ってヒルデは立ち上がった。「仕方ねぇな。オブジェに関しては予定通りのルートで運んでもらおう。―――マスター。」「は、はいっ!!」「オブジェが届いたら、約束通り明日以降に到着する別の運び人に渡せ。くれぐれも内密にな。」「は、はい…!」そしてマスターに迫りながら、親指で後方の特殊兵士部隊を指す。「うっかり奴らにバレでもしたら、お前のその首だけじゃなく、息子夫婦の分も飛ばしに来るからな。」「!!!…ッは、はい…!!気を付けます…!!」「よし。」マスターの返事に納得し姿勢を正すと、再び窓の外に視線を向けた。「…マスター、裏口はどこだ?」「こ、こちらですッ…!!」マスターは2人を裏口へと誘導する。「行くぞ、スーシャ。」「えぇ。」そして2人はそのバーから立ち去って行ったのだった。
――――「えーーーーっ!!もうどこ!?全然見つからないんだけど!?」「どこだかさっぱりだな…。」「やっぱ地道はキツイって…。」「うーん…。」しばらく探し回ったが、それらしき店は見つからなかった。酒場はあっても、そこの店主に尋ねたところできょとんとするばかりで、全く話が通じなかった。近辺を探し回っていたブローニャ達4人だけで、一先ず合流したところだ。「一旦ヴィマラ達とも合流するか?」「そうだな…。もしかしたらあっちは手掛かりを見つけてるかもしれないし…。」そうして約束の集合場所へ向かおうとした時だった。背後から、何者かの女性の声が聞こえてきた。「女4人組…、長身で金髪の三つ編み、ロングスカート…。茶髪におさげの短パン少女…。黒髪を二回結っているまつ毛の長い少女に、そして…帽子と服で顔を隠す少女……!!」「…?」明らかに自分たちの特徴を唱えるその声に、訝しげに振り返る4人。「!」そこには、白マントに身を包んだ長身の女性が、仁王立ちで立っていた。「君たちがクレア王女の言っていた旅人か!!ようやく会えたな!!」「!?」クレアの名が聞こえ、4人は警戒を少し緩める。それを見た女が快活に笑う。「あっはは!!すまんすまん!そう警戒するな!突然すまなかったな!私はバシリア!このリテン王国における『特殊兵士部隊』の隊長を務めさせてもらっている者だ!!」「…!」一国の特殊部隊長が、自分達になんの用があって―――と疑問が湧き、戸惑うブローニャ達。そんな中、バシリアの部下であろう陰気そうな男がぼそりと呟く。「隊長…。声が大きいです。」その指摘に、慌てて口を抑えるバシリア。「おっと。すまんすまん。ついいつもの癖で…。」そしてこほんと一つ咳をすると、気を取り直してブローニャ達に向き直った。「…そうだな。ここではなんだ。少し場所を変えて話をしよう。」
――――ブローニャ達はバシリア達に連れられ、町の兵営へと案内された。その中のひと際大きな建物の中、会議室と思われる部屋に通されると、向かい合わせに並んだ二つの長テーブルの、その片側の席に座るよう促された。4人は揃って、素直に腰を下ろす。その向かい側に座るや否や、バシリアはさっそく口を開いた。「まずは我々の自己紹介から始めようか。先ほども名乗った通り、私はバシリアという。彼らは私の部下だ。」そしてまず、バシリア達が所属する『特殊兵士部隊』についての説明がされた。―――『特殊兵士部隊』とは、リテン王国内で結成された、通常の兵士とは異なる役割を担う、戦闘に特化した特殊部隊だという。元々は王国各地を廻って、国民の警護や悪人の取り締まりを行う部隊だったが、近頃の悪党組織の横行により、その内の一部部隊を引き抜いて悪党組織特化型としたのだそうだ。『特殊兵士部隊』は全部で4つの部隊に分かれており、各隊は5〜6人で編成されている。基本的に部隊毎に独立して活動をしているが、悪党組織に関する情報は随時共有され、状況に応じて連携を取りながら任務を遂行しているという。そして、ブローニャ達が遭遇したのはその4部隊の内の1つである、目の前のバシリアが隊長を務める"バシリア隊"だった。「そんなに人数を割いて、城の方は手薄にならないのか?」「我が国は広いからな!人手もそれだけ多いんだよ。」それを聞いて、ワヘイとは違うな、と思うブローニャ達。続いてバシリアは、ブローニャ達の存在を知った経緯についても説明してくれた。「数週間前だろうか。クレア王女からうちのリテン王国国王へ手紙が届いたんだ。『ワヘイ王国から若い女4人組が訪れたら、手助けをしてやってほしい』という内容でな。」「!」「そしてそこには、『4人は信頼できる人物である』こと、『おそらく特殊兵士部隊と志は同じだろう』ということも記されていた。」「…!」「クレア…」「…私はクレア王女を知っているが、聡明なお方だ。あの方が信じる者達であれば、信用に値すると判断した。まして、悪党組織に関わる話であるなら、協力しない手立てはない。君たちが"必ずこの町を訪れる"だろうことが書いてあったので、私達もここまで来たというわけだ。」「そうだったのか…。」「…」デジャは、自分達の旅の目的を話した時のクレアの様子を思い出した。デジャ達のためを思い、彼女なりの根回しをしてくれたというわけだ。クレアの心遣いに感謝する一同。「…しかし、いくらクレアの頼みだからとはいえ、得体の知れない私達をそんな簡単に信用してくれていいのか…?」ブローニャの問いかけに一度きょとんとしたバシリアだったが、その後豪快に笑い出した。「私達を騙くらかそうなんて人間は、自分からそんなことは聞いてこないだろうさ!」その言葉にチェリとヘザーは安心したが、ブローニャはまだ納得がいっていない様子だ。デジャもそれを察していた。"信用する"とは言ってくれているものの、筋を通さねば真の信用は得られない。そう判断したブローニャは、カバンをごそごそと探し、何かを取り出す。「…一応、身分証明としては私のこれしかないが…。」「わっ!それ久々に見た!」「それは失くさなかったんだな。」ブローニャが兵士の身分証を手渡すと、バシリアはそれを受け取ってまじまじと見た。「こちらの挨拶が遅れたが、私はワヘイ王国の兵士で、ブローニャという。同じく、ワヘイ王国兵士のデジャ。そしてこっちはチェリ、ヘザーだ。この2人に関しては一般市民だ。…ワヘイ王国の城の地下倉庫に保管されていた宝が盗まれ、私はその回収部隊の長として任命された。私が彼女たちを部隊のメンバーとして選出し、ここまで同行してきてもらった。」身分証に視線を落としながら、ブローニャの説明に耳を傾けるバシリア。やがて身分証を返却し、ブローニャへ話しかける。「うん。確かにワヘイ王国の兵士の物だ。間違いない。」「…わかるのか?」「まぁな。私も若い頃は貿易関係に携わっていたものでな。当時のワヘイ王国兵士の知り合いが同じような物を持っていたよ。印もワヘイ王国のもので間違いない。」身分証を受け取り、その言葉に一先ず安心したブローニャだった。「…全く、若いのに随分としっかりした子だな。」「でしょ~~?ブローニャったら真面目すぎて心配になっちゃうくらいよ!」「おい!」「あっはは!年下の子に言われるとは余程だな!」恥ずかしがるブローニャだったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。「…協力してもらえるのはこちらとしても助かる。私達も、知らない土地と未知の情報ばかりで、この先どう動けばいいかわからず…不安な部分が大きかった。その上、女ばかりの少人数では出来ることも限られる。あなた方が味方になってくれるというのは、大変心強い。」「そう言ってもらえて何よりだよ。それに、君達が不安を抱えるのも無理はないさ。寧ろここまでよく来てくれたものだ。一先ずはお疲れ様だったな。」バシリアの人の良い、頼りになる笑顔を見て、ブローニャ達も顔を見合わせながら笑みを交わす。だがバシリアは次に、困ったような笑顔を浮かべた。「…だが、申し訳ないが、今回の話について詳細なところを聞かされていなくてな。ブローニャ、君がさっき教えてくれたような話は何となく聞いてはいるんだが…。なんでもクレア王女が『詳しくは彼女たちに聞いてくれ』としか書き記していなかったらしく…。もう少し詳細に話を聞いてもいいか?君達の目的と、悪党達がそれにどう関わってくるのかを。」4人は再び顔を見合わせた。「…それなんだが…。」
――――「お邪魔します…。」そろそろと扉を開けて会議室に入ってきたのは、ヴィマラ達一行だった。「あっ!来た来た!」「ヴィマラ!」不安そうな表情を浮かべていたヴィマラだったが、チェリとヘザーの呼びかけに、ぱぁっと顔をほころばせた。「ごめんね、急に。」「いえ…。突然『特殊兵士部隊』の方に囲まれた時はどうなることかと思いましたが…。」苦笑いを浮かべるヴィマラの後ろで、未だ警戒を解かないオレリア、サイ、ムダル。「…」その時、バシリアとブローニャが視線を合わせ、先ほどのやり取りを思い出した。―――ブローニャはバシリアに対して、自分たちが見聞きした情報をすべて伝えた上で、ヴィマラ達の存在や、彼女達の目的についても話していた。「正直なところ、私たちもまだ半信半疑だ。…だから、」「…わかった。奴らの話を"まだ"信用するなと言いたいんだろ?」「…!」「警戒は怠らない。一先ずは合わせるとするさ。」――――そんな2人を、チェリが心配そうに見る。そしてヴィマラ達が着席したのを確認すると、バシリアが声をかけた。「すまなかったな、ええと…ヴィマラ嬢、だったかな。」「!はい、ええと…、」戸惑うように視線を送ってきたヴィマラに対し、ブローニャが説明する。「彼女は『特殊兵士部隊』、部隊長のバシリアだ。」「!あなたが…!」ヴィマラは、心当たりがあるような反応を見せた。「お噂はかねがね聞いています。悪党組織特化型の部隊だとか…。」「流石よくご存知だ。おかげで話が早くて助かる。」「ヴィマラ。勝手ですまないが、彼女にはすべてを話した。」「!」「実はここに来るまでの道中で、私達はダイア王国の王女クレアと知り合ってな。彼女にこの欠片の話をしたところ、リテン王国の国王を通して、バシリアに協力を要請してくれていたみたいなんだ。」「本当ですか…!!」ブローニャの言葉を聞いて、期待に目を輝かせるヴィマラと、驚いたような目をするオレリア達。ヴィマラ達がバシリアを見ると、その視線に応えるようにバシリアが話し出した。「実際の"欠片"についても見させてもらったよ。…そうだな、まずはその話を聞いた、私の見解を述べさせてもらおうか。」バシリアが机の上で両手を合わせ、真剣な表情になると、ヴィマラ達は緊張したような面持ちになる。「国民の中では『神』を信じる者も数多くいる。…だがすまないが、私は生憎それとは違っていてな。とてもじゃないが、今すぐに信じられるような内容ではない、…というのが本音だ。」「…わかっています。」ヴィマラはバシリアの回答を予想していたかのように、眉を下げ俯いた。オレリア達も視線を落とす。「…ただ、このリテン王国は『神の力』発祥の地だと言われているのは確かだ。『神の力』を持つ者の割合が他の国より比較的多いのもそのせいだと言われている。」「えっ、そうなの?」思わずチェリが突っ込むと、ヴィマラが補足する。「…すみません、お伝えしていなかったかもしれませんが…。あの伝承は、リテン王国で起こった出来事として伝えられています。私達の民族も、ここリテン王国の出身です。」「そうだったのか…。」ヴィマラ達の会話に区切りがついたのを確認すると、バシリアが言葉を続ける。「そして悪党達の活動が活発になってきたのはここ数年のことで、その大半はこのリテン王国内で行われている…。ヴィマラ嬢の持つ古い本に描かれているというその伝承…。欠片が各地へ飛び散り、目視できる範囲へと落下した、ということであれば、その大半はこの王国内にある筈だな。それを探しての行動だとすれば…ふむ、一応辻褄は合う。」「…何千年と昔の話になりますから…国外へ持ち出されていなければ、…という前提ではありますが…。」「…」その言葉に、デジャとヘザーはそれぞれ考える。デジャの集落にあったという欠片と、ヘザーの姉が発掘したという欠片。あれは自然と落下して辿り着いたものなのか、それともこの数千年の間に、何者かが持ち込んだ物なのか。「ただ確かに、私達や悪党達が見つけた欠片の在処は、殆どがリテン王国内でした。」その時、ふとチェリが気づく。「あれ?そういえば、扉の場所ってどこなの?」その問いにヘザーも続く。「今の話だと、この国のどこかにあるのは間違いないんだろうけどさ…。そもそも悪党共は扉の位置を理解してるのかよ?鍵を集めたところで、扉の場所がわからなきゃ意味ねぇだろ。」ヴィマラが言いにくそうに重い口を開く。「…正直なところ、彼らがどこまで把握しているか、現時点ではわかっていません。…そして、私達自身も在処を特定できていない状況です。扉に関する情報は、『極秘扱い』として幹部の人間の中でしか出回っていないと思われますが…こちらの密偵にはそれがつかめていないのが現状です。」一時沈黙が落ちた時、バシリアが再び口を開いた。「…ちなみに、悪党組織におけるここ数年の"強奪"や"盗難"の動向についてだがな。数年前、彼らの活動が始まった当初は、古物や宝などを手当たり次第に奪い去っていたようだが、最近は選り好みしているように見える。代物を差し出させ、目的の物でなければその場で捨て去る、という光景も目撃されている。」「…それはおそらく、欠片についての情報が悪党組織の中で知れ渡ったからでしょう。一つ一つ形状は違えど、材質と、色や大きさも似ていますから…。」「今の話を聞くとそうなるのかもな。…君たちが回収したそれといい、理由はどうあれ、奴らがこの"欠片"とやらを欲しているのは間違いないようだ。…そして、それを手に入れるためには手段を選んでいない、ということも。」「…」デジャとヘザーがその言葉に眉を顰める。「悪党組織の悪事を止めたい。それが私達の第一目標だ。…もし、欠片を回収することでその目標を果たすことができて、その上君達も得をするというなら、それは私達にとって願ってもないことだ。私達と君達、利害は一致すると思っている。」「!」バシリアのその言葉に、ヴィマラ達の表情が明るくなった。「それでは…!」「だが、一つだけ確認したいことがある。―――ヴィマラ嬢。」「!はい!」「『欠片の気配を感じ取れる』…というのを、今ここで証明できるか?」「!」その発言にはブローニャ達も驚きの表情を浮かべた。そしてバシリアはその場で立ち上がる。「この建物の中に、その"欠片"を隠す。それを指定時間内に君が見つけることができれば、私は君の力を信用しよう。」「…!」「試すような真似をして申し訳ないが、私も特殊部隊の長を任せられる身だ。信憑性の低い話に対して、隊を動かすことは出来ないのでな。」バシリアの真剣な眼差しに、ヴィマラも顔を引き締め応える。「…わかりました。私達としても、それで信用していただけるのであれば…。そのお話、受けましょう。」他の3人も同様の表情を浮かべていた。
――――ヴィマラ、オレリア、サイ、ムダルを、目と耳を塞いだ状態で座らせ、ブローニャ達とバシリアがその様子を監視する。その間に、バシリアの部下が欠片を隠しに部屋を出ていった。バシリアがブローニャに耳打ちをする。「…この建物内は部外者が立ち入ることはできない。内部構造だけではなく、家具や棚の配置についても、彼女達に知る術はない。」「…なるほどな。」そして4人に視線を落とす。4人は黙ったまま、静かにおとなしくしている。そこからは、不正をしようという気配は微塵も感じられなかった。「…」この件に関しては、ブローニャ達も一度確認をしたいと思っていたところだった。だが、これまでそういったタイミングがなかったことから、バシリアからの提案は御の字だった。暫くして、欠片を隠しに行った部下が戻ってきた。「隠しました。」その言葉にバシリアは、「よし。」と呟き、続けてその部下に、「お前は別部屋で待機だ。」と指示を出した。表情や反応等で悟られないようにするためだ。部下はそれに従い、再び部屋を出て行った。バシリアはそれを確認すると、ヴィマラの元まで歩いて行き、彼女の目隠しを外した。ヴィマラは幾度か目を瞬かせた後に、バシリアを見る。「すまないが君達3人はそのままでいてくれ。―――ではヴィマラ嬢。10分以内に欠片を見つけ出してくれ。」10分という短い時間にも関わらず、ヴィマラは動揺することなく頭を縦に振った。「わかりました。既に、ある程度の方向はわかっています。」「!」「気配は2つ。…あちらと、あちらの方角に感じます。」「…」バシリアとブローニャ達は隠し場所を知らない。そのため、現時点ではそれが合っているか判断ができなかった。「向かいます。」ヴィマラが歩みを進めると、皆ぞろぞろとその後をついていった。
――――ヴィマラは真っ先に、自分が指し示した方向へ進んでいく。そのすぐ後ろを歩くチェリが、ヴィマラに声をかけた。「そういえば、ヴィマラってどのくらいの距離まで察知できるの?」「そうですね…正確に測ったことはありませんが、100Mほどでしょうか…。」「へぇ~!」「おいチェリ、邪魔するな。」「大丈夫ですよ。私の場合は集中力が必要なものではありませんから。」「…というと?」「例えばにおいを嗅ぐように、例えば音が聞こえるように。五感と同じく、自然と感知できるのです。」「…なるほど…。第6の感覚、といったところか。」「えぇ。―――すみません、」「!」ヴィマラは突然、廊下に立つ兵士に話しかけた。「?はい。」そしてじろじろとその様子を見る。「…見たところ、欠片を持っている様子はありませんね…。もしかして、『神の力』をお持ちでしょうか…?」「!」「…は、欠片…?確かに私には『神の力』がありますが…。」「…!!」バシリアとブローニャ達は目を丸くした。どうやら、ブローニャ達の『神の力』の有無を見破った、というのは事実であるようだ。「…失礼しました。」兵士が欠片を持っていないことを確認すると、再びそそくさと歩き始めた。同じように後をついていくバシリアとブローニャ達。ヴィマラは足早に上階への階段を昇っていく。上がりきったところで廊下を右に左に進み、奥の方へと歩いていくと、やがてある部屋の前で立ち止まった。「…失礼します。」礼儀正しくノックをしてから中に入る。入り口から10歩ほど歩いたところで立ち止まって、天井を見上げた。そしてバシリア達に振り返ると、腕を上げてそこを指差した。「…欠片は、この天井裏にあります。」「!!」
――――全員で最初の会議室に戻っていた。オレリア達も目隠しを外されていた。「よくわかったものだ。」あの後、梯子を用意して天井裏に登ると、確かにそこに欠片が置かれていた。「…そもそもあんな埃っぽいところにこんな重要な物を…。」「す、すみません…見つかりにくい場所というのがなかなか思いつかなくて…。」苦い顔をしながら言うバシリアの指摘に、部下が陳謝する。バシリアはため息をついた後、少し困ったような笑みをヴィマラに向けた。「…目の前であんなものを見せられては、信じざるを得ないな。」「!」バシリアの言葉に、ヴィマラが口を開こうとした時だった。「隊長!」バシリアの部下らしき男が、その名を呼びながら部屋に入ってきた。それを見て、バシリアが皆に一言詫びる。「すまない、少し席を外す。」部下と共に部屋を出て行くバシリア。それを見送ったチェリとヘザーが、興奮気味にヴィマラに話しかけた。「ね!すごい!本当に『神の力』がわかるのね!?」「びっくりしたぜ!あんな離れたところでも察知できんのな!」2人が詰め寄りながらすごいすごいと褒める様子に、ヴィマラも思わず口元を緩めた。「!」それを見て、オレリアが少し驚いたような顔をする。ブローニャとデジャも、その様子を黙って眺めていた。そうしている内に、バシリアが戻ってきた。「すまないな。」「どうしたんだ?」ブローニャが問いかけると、真剣な表情でバシリアが答える。「実は、ブローニャ達に話を聞いた後、部下達に例の地図を持たせて、欠片の届け先の酒場を調査させたんだ。」「!」「場所は特定できた。そして、マスターにも話を聞けた。」その言葉に、皆が息を呑んだ。オレリア達も思わず立ち上がった。「気の弱そうなマスターで、自らの身と家族を人質に、手伝うよう脅されていたようだ。彼はただの一般人だった。マスターは盗人達からのガラクタの受け取りと、明日到着予定の配達人への引き渡しについて、指示を受けていたらしい。」バシリアはそこで一呼吸置くと、言葉を続けた。「…おそらくその配達屋も、また別の指定場所へ欠片を届けるんだろう。そしてそれをまた別の人物が受け取って…リレー方式でアジトへ運んでいくんだろうな。…奴らの常套手段だ。複数の人物、複数の経由地を用意することで、本拠地がばれないようにしている。」「…!」「後を追うにしても、足取りをつかむのは難しいということか?」「確かに、情けない話だが、これまで撒かれてしまったこともある。だが、やる。そこで提案なんだが、似た偽物を作ってそれを囮にルートを追えないだろうか。」「!」「おそらく配達人も、本物の"欠片"を知らないんじゃないかと思っているんだが…。」「そうだな…。」「それなら私達が用意できます。」「!」「敵を攪乱させるため、私達も偽物をいくつか用意しています。私が、本物と偽物を見分けられますから。」「!…それもそうか。」先ほどの出来事を見せられた後では説得力があった。「それならば是非借りたい。奴らの尾行と調査については、私の部下に任せよう。それでいいか?」「えぇ。偽物は明日までには用意させましょう。尾行については私達も素人なので、お願いしたいです。」「私達も同意見だ。」「わかった。―――…ヴィマラ嬢。君のその力は、なるべく秘匿にしておいた方がいいかもしれないな。敵に漏れるとまずい。」「…えぇ。重々承知しています。信頼のおける人物にしか話してはいないつもりです。」「!」その言葉にブローニャが反応する。「ところで、そのマスターって人は大丈夫なの?」チェリが心配そうにバシリアに問う。だがバシリアはその不安を払しょくするかのように、力強い笑みで答えた。「心配するな!マスターとその家族は、暫くの間我々が保護する。彼らのことは責任をもって必ず守るぞ。」その言葉を聞いて、ぱあとチェリの表情が明るくなった。「よかった、ありがとう!」「あぁ。」そしてバシリアは再び顔を引き締めた。「さて、今後の方針について整理させてもらおう。我々『特殊兵士部隊』としては、私から他の部隊長にも今日の件を共有しておく。進捗があり次第、随時情報を伝達するつもりだ。悪党達は"欠片"を所持している可能性が高い。特徴を伝えた上で、見つけ次第、必ず回収するよう伝えておく。それから、我々が過去に悪党達から押収した品の内、持ち主不明の物は本部に保管してあるんだが…。もしかしたらその中にも欠片が紛れているかもしれない。調べさせておこう。」どんどんと話が進み、ヴィマラ達もブローニャ達も戸惑う。「さて、他に何かあるか?」「いや…、」思わずヴィマラとブローニャが目を合わせた。「…いいのですか?」「何がだ?」「…あの話を他の隊の方にするなど…、」そんなことをして、バシリアの思考が疑われることはないのか、と危惧しているらしかった。「…」そんなヴィマラの様子をブローニャも見つめていた。だがバシリアはなんてことなく言ってのける。「我々は解決につながる糸口となるのなら、少しでも手掛かりが欲しいところなんだ。だから、得た情報については一先ず共有する。それでどうするかは彼らが判断することだ。そのための分隊だからな。」その言葉にどこか納得したような表情をする面々を見て、バシリアは続けた。「そういうわけで、私は暫く君達に同行ができない。もし人手が必要なら、いつでも申し出てくれ。人員を割こう。」「…わかった。」「さて、それで君達はどうする?」「…少し、考えがあります。」ヴィマラは窺うような視線をブローニャに投げかけた。それを受け止めると、ブローニャは頷いた。「後で話そう。」「はい。」「わかった。私の部下を2人残していこう。何かあれば使ってくれ。」バシリアが目線で指した先で、男性2人が軽く会釈をした。それにヴィマラとブローニャ達も返す。「よし!君達も長旅で疲れただろう。兵舎の部屋を貸そう。一先ず、作戦会議も兼ねて泊まっていくといい。」
――――ヴィマラ達が先に部屋を出ていくと、ブローニャがバシリアに話しかけた。「…本当に、ありがとう。バシリア。」「内容の真偽はともかくとしても、道が同じなら協力しない手立てはないからな。」そう言ってから、顔に影を落とすバシリア。「…権力を手にするために他者を犠牲にするなど、決して許してはならない行為だ。私は、悪党達に襲われ、人生を壊された人々を見てきた。彼らは安寧を崩され…平穏を奪われ、今も苦しんでいる。…兵士としてだけではない、私一個人として許せないんだ。奴らを野放しにしてはおけない。だから、どんな機会も逃したくはないんだ。」バシリアのまっすぐな想いを受け止めるブローニャ達。「…それは、ここにいるデジャとヘザーも同じだ。」「!」そしてブローニャは2人の経緯を話した。「…なるほど、合点がいった。君達がそうまでして欠片を求める理由、彼女達の話に乗る理由がわからなかったんだ。…苦労したな。」「…」「そうだな…2人に関する情報についても、こちらで調べてみよう。」「!」バシリアの言葉に、2人ははっと顔を上げた。「だが、あまり期待はしてくれるなよ。特にヘザー、君の姉の事件に関しては東の国で起きた出来事だからな。それでも、少しでも手掛かりがあれば共有させてもらう。」「…ッありがとう…、」ヘザーにとってはその気遣いだけでもありがたかった。「デジャ、君の故郷についても何かわかるといいんだが…。」「…洟から期待はしていない。だが…その心遣いは感謝する。」「あぁ。」そしてバシリアは再びブローニャの方へと向いた。「何かあればすぐに連絡してくれ。私は基本、本部にいるはずだ。本部の場所については地図に記しておく。それから言い忘れたが、資金についても援助しよう。武器も必要なら持っていくといい。」「すまないな、助かる。」「…くれぐれも、気をつけろ。」「あぁ。そっちも。」「!」ブローニャの言葉にバシリアは不意を突かれた顔をしたが、次の瞬間には、「あぁ。」と笑った。
――――「…それにしても、人が増えたら本当にできることが増えたわね。」久々に体を綺麗に洗い、兵士達から借りたワンピースのような寝間着に身を包んだ4人。兵士に案内された宿舎の一室で、珍しく4人全員が、ベッドにだらしなく寝転びながら会話をしていた。「つってもバシリアの権力あってこそだろ?なんかかっこよかったな~デキる女!って感じで!」「なるべくして隊長になった、って感じだな。」「あぁ。人も出来てるしな…。尊敬に値する。」「でも本当によかったわね!バシリア達が味方になってくれて!」「ほんとだよな!クレアに感謝しなきゃだな!な、デジャ!」「…なんで私に言うんだ。」「だってデジャのためみたいなもんでしょ?」「そんなことないだろ。」「え~~~そうかなぁ?ねぇ、ヘザー!」「あぁ。今度会ったら逆に奢ってやんなきゃかもな!」「一国の姫に何奢ったら満足するんだよ…。」「確かに…!食いたいもんは全制覇してそうだよな。」「だったらデジャの手料理とかは!?」「いやいやいや…そんなの不敬だろ。」「デジャの料理だったら大丈夫だって!」「お前ら私の料理を過大評価しすぎだ!!」きゃっきゃとおしゃぺりする中で、話題はヴィマラに移った。「それにしても、ヴィマラの力すごかったわね!本当に感知できるんだ、神の力!」「な!びっくりしたぜ!」「全く…お前らの反応がまさにガキのそれだったぞ。」「だって~~!」はしゃいでいたチェリだったが、1人考え込んでいるようなブローニャの様子が見えて、声をかけた。「…ね、ブローニャ。」「ん?」「そろそろ信じてあげてもいいんじゃない?」「…」「ヴィマラもそうだけど、オレリアとか、他の2人も良い人そうだし…、今日だって力を証明してくれたじゃない。」チェリの言葉に、ブローニャも今日のヴィマラ達の様子を思い出す。デジャもヘザーも、ブローニャの様子を窺っている。「…もう少し待ってくれ。」「…そう…。」そう言ってチェリとヘザーは顔を見合わせた。そして話題を変えて、またしばらく喋った後。4人は明日に備えて就寝したのだった。